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第二章 

安倍晴明と平安国

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「その安倍晴明とここって何か関係があるの?」

 未令にそれほど知識があるわけではなかったが安倍晴明が平安時代の陰陽師だったことは知っている。
 祥文帝の側近で自分の曽祖父でもある安倍晴澄と名乗る人物がいたことが気になっていた。

「安倍晴明がこの平安国を作ったといっても過言ではないかもな」

 父が焔将から聞いた話によると今から百二十年ほど前、安倍晴明と名乗る人物が平安国を訪れたらしい。
 
 平安国は当時まだ強国に囲まれた小さな国で、まだ平安国と名前もない小さな集団。
 絶えず隣国からの侵入におびえて暮らしていた。
 列強各国との難しい舵取りをしていた時の首長が陰陽道という見たことも聞いたこともない術を遣う異国からきた安倍晴明を歓待しもてなした。

 安倍晴明はこの地とは時間も空間も異なった国から来たのだといった。
 術を遣う過程で何かの拍子に偶然道がひらけ、ここに迷い込んだという。

 安倍晴明はそこに暮らす人々を五人選び出し、それぞれに木火土金水の力を与え、この国の礎を築いた。

 安倍晴明は日本と平安国を行き来し、そのため時折姿を消しては現しを繰り返し、五人の血族に力の遣い方を教え、同時に日本の文化や政治を伝えた。
 今の平安国では、以前から根付いていたものと、それらが上手く融合し、独自の文化を形作っているようだと父はいう。

 木火土金水の力を得た平安国は、安倍晴明の助言を得て一気に周りの小国を従え、時の首長は帝と名乗り、平安国と国名を定めた。

 その後も平安国の破竹の勢いは止まらず小競り合いを繰り返していた小国を全て吸収し、現在の国境は南と西と東は海に面し、北に並ぶ国々とは停戦協定を結んでいる状態だ。

 平和に胡坐をかいている状態だなと焔将は例えたそうだ。

 国境には即戦力のある火の血族と土豪を築ける土の血族が交代で詰めているが、見張りが立っている砦を見たことがないとは焔将の話しだ。

 配置されている血族の者は田を耕し、周辺の農民と交流し平和そのものだ。
 いざというとき実際に力を発揮できるのかわからないなと焔将はいうが、血族により一瞬にして勝敗の決する戦いの記憶は周辺国の間に根強く残っており、各国への抑止力は今も絶大だ。

 安倍晴明が平安国から姿を消し百年ほどになる。

 晴明の子孫である晴澄は帝に近い位置におり、変わらず権勢を奮っているが晴明のように術が遣えるわけではないらしい。

 五つの力を受け継いだ血族も子孫を増やし続けているが、力の強弱は大きく、初代と同じほどの力を持つ者は限られている。土の血族からはここ何十年も強い力を持つ者が生まれていない。

 そんな中、今までにない圧倒的な力を持った有明の父、時有が生まれた。
 時有は先帝から重用され、血族出身としては異例の右大臣の身分を二十歳で与えられ権力を握った。

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