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第一章
緑香との一本勝負
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視界が上下逆転し、逆さまの世界が未令の瞳に映った。
退屈を紛らわすおもちゃを前にしたような祥文帝の顔と無表情な晴澄、未令が宙に舞っているのをおもしろそうに見上げる焔将、あくまで興味のなさそうな涼己の姿が目に飛び込み、両手をかざす青の瞳の緑香の姿もとらえた。
身体をひねり、自分の足首に木の枝が絡みついているのを見た。
「なに、これ……」
他の枝もくねくねとまるで生きているかのように動いている。
木の術者というのはこういうことなのか。
瞬時に状況は悟った未令だが、次に何が繰り出されるのかわからないだけに、しばらく相手の様子をうかがった。
足首の枝はしっかりと巻きつき、未令の力ではとれそうにない。上下反転していると頭に血がのぼる。
緑香の動きに目を据えたまま身体を起こし、絡み付いている枝そのものに腕を伸ばした。
と、緑香が右手を横に払ったかと思うと、足首を絡め取っていた枝がはずれ、頭から重力に従って落下した。
高さはさほどない。咄嗟に身体をひねり、両足でその場に着地した。
「意外にやるね」
卓水がこんな状況に関わらず感心したように着地した未令に声をかける。
が、助けてくれるわけではないらしい。
そんな落ち着きぶりから、こうなることを始めからわかっていたようでもある。
やっぱりとんでもない男だ。
また頭上から襲ってくる木の枝をかわし、横から飛んできた枝を避け、頭を狙って伸びてきた枝を一回転してよける。
緑香の手の動きを見ていると、大体の攻撃がくるタイミングがはかれる。
ちょこまかと逃げ回る未令の動きに焦れたのか。緑香が両手を動かした。
一方向からの攻撃だったのが、四方から枝が未令をからめとろうと向かってくる。
それを跳びあがってぎりぎりのタイミングでかわし、そのままの勢いでよこざまに飛ぶと門番の手から薙刀をひったくった。
得物があれば戦う手段もある。
襲ってくる庭木と対峙し、腰のあたりに薙刀を持ち、中段の構えをとった。
本物の刀が先についているだけに持ちなれた薙刀より重い。その分、防具はないから身軽ではある。
空を切って伸びてくる枝を次々になぎ払った。
が、払っても払っても枝は無限に伸びてくる。
慣れない重い得物の扱いに苦戦し、体力は急速に失われていく。
ちらりと階上の緑香を見ると額に汗を浮かべている。
緑香にとっても力を使い戦い続けるのは体力を消耗することのようだ。
未令は迫ってきた太い枝や小枝をまとめて一気に横になぎ払うとその場を跳んだ。
そのまま階の下まで迫り、下から薙刀を突き出す。
緑香の首元に触れるか触れぬかの位置でぴたりとおし留めた。
枝の動きが止まった。
青の瞳が驚愕したように見開かれ、未令を見下ろした。
未令と緑香の荒い息遣いだけがしんとした空間に響いた。
退屈を紛らわすおもちゃを前にしたような祥文帝の顔と無表情な晴澄、未令が宙に舞っているのをおもしろそうに見上げる焔将、あくまで興味のなさそうな涼己の姿が目に飛び込み、両手をかざす青の瞳の緑香の姿もとらえた。
身体をひねり、自分の足首に木の枝が絡みついているのを見た。
「なに、これ……」
他の枝もくねくねとまるで生きているかのように動いている。
木の術者というのはこういうことなのか。
瞬時に状況は悟った未令だが、次に何が繰り出されるのかわからないだけに、しばらく相手の様子をうかがった。
足首の枝はしっかりと巻きつき、未令の力ではとれそうにない。上下反転していると頭に血がのぼる。
緑香の動きに目を据えたまま身体を起こし、絡み付いている枝そのものに腕を伸ばした。
と、緑香が右手を横に払ったかと思うと、足首を絡め取っていた枝がはずれ、頭から重力に従って落下した。
高さはさほどない。咄嗟に身体をひねり、両足でその場に着地した。
「意外にやるね」
卓水がこんな状況に関わらず感心したように着地した未令に声をかける。
が、助けてくれるわけではないらしい。
そんな落ち着きぶりから、こうなることを始めからわかっていたようでもある。
やっぱりとんでもない男だ。
また頭上から襲ってくる木の枝をかわし、横から飛んできた枝を避け、頭を狙って伸びてきた枝を一回転してよける。
緑香の手の動きを見ていると、大体の攻撃がくるタイミングがはかれる。
ちょこまかと逃げ回る未令の動きに焦れたのか。緑香が両手を動かした。
一方向からの攻撃だったのが、四方から枝が未令をからめとろうと向かってくる。
それを跳びあがってぎりぎりのタイミングでかわし、そのままの勢いでよこざまに飛ぶと門番の手から薙刀をひったくった。
得物があれば戦う手段もある。
襲ってくる庭木と対峙し、腰のあたりに薙刀を持ち、中段の構えをとった。
本物の刀が先についているだけに持ちなれた薙刀より重い。その分、防具はないから身軽ではある。
空を切って伸びてくる枝を次々になぎ払った。
が、払っても払っても枝は無限に伸びてくる。
慣れない重い得物の扱いに苦戦し、体力は急速に失われていく。
ちらりと階上の緑香を見ると額に汗を浮かべている。
緑香にとっても力を使い戦い続けるのは体力を消耗することのようだ。
未令は迫ってきた太い枝や小枝をまとめて一気に横になぎ払うとその場を跳んだ。
そのまま階の下まで迫り、下から薙刀を突き出す。
緑香の首元に触れるか触れぬかの位置でぴたりとおし留めた。
枝の動きが止まった。
青の瞳が驚愕したように見開かれ、未令を見下ろした。
未令と緑香の荒い息遣いだけがしんとした空間に響いた。
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