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第一章

逆らわないこと

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 未令の眠りこけている間、卓水は祥文帝への謁見の取次ぎに奔走していたらしい。
 ずいぶん待たされるなとついうとうとしたが、申し訳ないような気がした。

 それにしても卓水はうそつきだと未令は思う。

 先ほどの年かさの女官がやってきて乱れた服装と髪を直してくれる間や、宮城への道々で、卓水からこの国での為政者、祥文帝との謁見における注意点を聞かされた。

 一、許しがあるまで顔を上げないこと。
 一、自分から話さないこと。
 一、聞かれたことにだけ答えること。
 一、何を言われても「はい」と答えること。

 卓水の話に、思わず未令は「冗談?」と聞き返した。
 そんな決まり事を守っていては、何一つ自分からアクションを起こせない。
 つまりは父との面会や、あわよくば釈放を願い出るなんてこともできないことになる。

「有明との面会については事前に祥文帝に伝えてあるからね。許可が下りるなら謁見で祥文帝がよしとした後だから、謁見では何も言っちゃだめだよ。ましてや有明の釈放なんて、口が裂けても言ったらだめだからね」とのことらしい。

 つまりは父に会えるも会えないも、すべて今からの謁見にかかっているというわけだ。

 卓水は父に会わせてあげようかと持ち掛けて未令をここに連れてきたけれど、会わせられるかどうかなんてわからないではないか。
 なのに会わせてあげようかなんて言って、しかも危険な扉までくぐらされて……。
 未令はついつい、うろんな目で傍らの卓水を見上げた。

 日本に住んでいると、そんな絶対的な存在になんて出会うことはまずない。
 まんまと卓水の言葉に乗せられ、平安国に足を踏み入れてしまった感は否めない。
 けれどここまで来てしまったのだ。
 今更うじうじと考えても仕方がない。
 それに父がここにいることは、どうやら間違いなさそうだ。
 
 未令は何度も大きく深呼吸しては、体のこわばりをほぐした。
 卓水の話からも、祥文帝の前ではよほど注意して振舞うべきだろう。とうてい自分の価値観で太刀打ちできる相手ではないのだ。

 薙刀の試合での礼儀作法を頭に思い描いた。おそらく相手への礼節を欠かさないという点では通じるものがあるはずだ。
 卓水の後を歩きながら、未令は次第に緊張感が増していくのを感じた。

 
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