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第一章
異世界へ到着
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――――――……。
「あれ?」
扉を抜けた先は広い空間に凝った意匠の棚や机が置かれ、房飾りのついた緋色の絨毯が敷かれている部屋だった。
先ほどの円形に開口窓のついたリビングとはまるで違う部屋だ。
振り返ると扉の向こうには元の部屋が見えていたが、卓水が扉を閉めるとマンションのリビングは消え、扉だけが部屋の中央に残った。
「ようこそ、平安国へ」
卓見がおどけて言うので「え?」と未令は部屋内をぐるりと見回した。
中華風の異国情緒溢れる部屋ではあるが、違う国へ来るほど遠くへ来た感はない。
そもそも平安国なんて国名聞いたこともない。
不思議な手品に引っかかったみたいな気分だ。
卓水は不思議そうに部屋を見回る未令に驚いたように肩をすくめた。
「気絶しなかったね」
「気絶? どうして?」
一瞬、扉をくぐる時、妙な感覚はあったが気絶はない。
「へぇそっかそっか。これは期待大だなぁ」
「なにが?」
「だってさ、日本と平安国をつなぐこの紫檀の扉を抜けるとたいていの者は、空間と時間のゆがみの大きさに失神するんだよね。最悪、意識と身体が分離し、二度と元に戻れない可能性もある」
「……そんなに恐ろしい扉だったの」
にこにこ笑顔でとんでもないところへ引っ張り込まれたわけだ。
害は与えられないだろうと軽く考えていたけれど、これはある意味かなり恐ろしい……。
けれど、扉を抜けると失神するかもしれない、とは大げさな話だ。
どこまで真面目に受け取っていいものやら。
マンション内にある扉をくぐれば「はい、ここは日本ではなく平安国という国です」って?
思わずふふっと不気味な笑い声が出た。んな馬鹿な……。
「ほら未令ちゃんこっち」
卓水はそんな未令に構わず手を引くと、部屋の外に出る。
マンションの一室だったことを思えば、外に出ればベランダから眺める街並みが見えるのかと思いきや―――。
「うわぁ……」
広がる光景に思わず歓声をあげた。
中庭を囲うように回廊がめぐり、いくつもの部屋が並んでいる。その異国情緒あふれる光景にさらに回廊を覆う屋根からは滝のように絶えず水が流れ落ち、庭の水路を巡り、庭中央の大きな滝へと流れていく。
日の光を浴びた水しぶきには虹ができ、漆黒に塗られた柱と水と虹のコントラストがとてもきれいだ。
「……すごい、きれい」
屋根から流れ落ちる滝に手をかざすと水がはね、顔にしぶきがかかる。
「すごく素敵なところだね」
空気が澄んでいる。高い空の雲がどこまでも広がっている。
ひとしきり初めて見る美しい光景に見入っていたのだけれど―――。
よくよく考えてみればありえない事態に陥っている。
未令がいたのはあのマンションの一室で、外観からはとてものこと広大な建物と滝があのマンション内に収まるわけもなく……。
何より見上げる空の青さは昼間の明るさで、部活帰りの日が傾きかけた空とはまるで違う……。
全身からさぁーっと血の気が引いた。
「あの、卓水、さん……?」
「卓水でいいよ。なに? 未令ちゃん」
「ここは一体どこでしょう……」
「だからさっきも言ったよ」
未令の慄きをよそに、卓水は変わらず呑気ににぱっと笑った。
「平安国だよ。そうだな、未令ちゃんのいたさっきの場所とは時間も空間も違う全く別のもう一つの世界てとこかな」
どうやら異世界というもののようだ……。
「あれ?」
扉を抜けた先は広い空間に凝った意匠の棚や机が置かれ、房飾りのついた緋色の絨毯が敷かれている部屋だった。
先ほどの円形に開口窓のついたリビングとはまるで違う部屋だ。
振り返ると扉の向こうには元の部屋が見えていたが、卓水が扉を閉めるとマンションのリビングは消え、扉だけが部屋の中央に残った。
「ようこそ、平安国へ」
卓見がおどけて言うので「え?」と未令は部屋内をぐるりと見回した。
中華風の異国情緒溢れる部屋ではあるが、違う国へ来るほど遠くへ来た感はない。
そもそも平安国なんて国名聞いたこともない。
不思議な手品に引っかかったみたいな気分だ。
卓水は不思議そうに部屋を見回る未令に驚いたように肩をすくめた。
「気絶しなかったね」
「気絶? どうして?」
一瞬、扉をくぐる時、妙な感覚はあったが気絶はない。
「へぇそっかそっか。これは期待大だなぁ」
「なにが?」
「だってさ、日本と平安国をつなぐこの紫檀の扉を抜けるとたいていの者は、空間と時間のゆがみの大きさに失神するんだよね。最悪、意識と身体が分離し、二度と元に戻れない可能性もある」
「……そんなに恐ろしい扉だったの」
にこにこ笑顔でとんでもないところへ引っ張り込まれたわけだ。
害は与えられないだろうと軽く考えていたけれど、これはある意味かなり恐ろしい……。
けれど、扉を抜けると失神するかもしれない、とは大げさな話だ。
どこまで真面目に受け取っていいものやら。
マンション内にある扉をくぐれば「はい、ここは日本ではなく平安国という国です」って?
思わずふふっと不気味な笑い声が出た。んな馬鹿な……。
「ほら未令ちゃんこっち」
卓水はそんな未令に構わず手を引くと、部屋の外に出る。
マンションの一室だったことを思えば、外に出ればベランダから眺める街並みが見えるのかと思いきや―――。
「うわぁ……」
広がる光景に思わず歓声をあげた。
中庭を囲うように回廊がめぐり、いくつもの部屋が並んでいる。その異国情緒あふれる光景にさらに回廊を覆う屋根からは滝のように絶えず水が流れ落ち、庭の水路を巡り、庭中央の大きな滝へと流れていく。
日の光を浴びた水しぶきには虹ができ、漆黒に塗られた柱と水と虹のコントラストがとてもきれいだ。
「……すごい、きれい」
屋根から流れ落ちる滝に手をかざすと水がはね、顔にしぶきがかかる。
「すごく素敵なところだね」
空気が澄んでいる。高い空の雲がどこまでも広がっている。
ひとしきり初めて見る美しい光景に見入っていたのだけれど―――。
よくよく考えてみればありえない事態に陥っている。
未令がいたのはあのマンションの一室で、外観からはとてものこと広大な建物と滝があのマンション内に収まるわけもなく……。
何より見上げる空の青さは昼間の明るさで、部活帰りの日が傾きかけた空とはまるで違う……。
全身からさぁーっと血の気が引いた。
「あの、卓水、さん……?」
「卓水でいいよ。なに? 未令ちゃん」
「ここは一体どこでしょう……」
「だからさっきも言ったよ」
未令の慄きをよそに、卓水は変わらず呑気ににぱっと笑った。
「平安国だよ。そうだな、未令ちゃんのいたさっきの場所とは時間も空間も違う全く別のもう一つの世界てとこかな」
どうやら異世界というもののようだ……。
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