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アイラと廉
その9-04
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カイリが同じB&Bに泊っているから、敵視され、敵意満々の無言の圧力と視線を向けられ、針の筵とかしている廉の周辺では、ここ数日、朝になると、必ず、カイリがうるさくドアを叩いて、アイラを起こしにやって来る。
いや、わざと、廉に嫌がらせの為に、廉を起こしにやってくる。
それで、うるさい、と美花から苦情が上がってこようが、廉をせっついて、きまずい朝食を朝から一緒にさせられる羽目になる。
無言で、話すこともなく、話しかける様子もなく、ただ、シリアルやトーストのような朝食を、そのきまずい朝食の場で食べなければならない苦痛を強いられている廉だ。
セスは牧場の仕事の関係で朝が早いので、大抵、朝食は一緒だ。
結婚式は出席せず挨拶だけだったが、セス本人は気にしている様子もなく、新婚となり、おまけに、新たに生まれて来る予定の赤ん坊の話が嬉しくて、今の所、廉には攻撃的な対応がない。
今の所、アメリカではまだカイリの邪魔が入っていなかったが、それも時間の問題だろうと踏んでいた廉の前で、葬儀にやって来た場所で、新たな戦いが待ち受けていたとは、本当に苦労ものである。
アイラの祖母の家にいけば、今度は、更なる無言の敵意を真っ向から向けられて、一日中監視される羽目になる廉だ。
それも、相手は、次男のあのジェイドだ。
昔だって、きっと、ジェイドの方が――Deadly だと推測していた廉だけに、ジェイドの前だけは、気を抜くことができない。
たとて、社交辞令のような会話を強制されようと(親戚中が、ちゃんと礼儀正しく話せと、ジェイドを叱るから)、選ぶ言葉だって、返答する言葉だって、廉は間違えたりはしない。
たった一言だけでも、あのジェイドなら、すぐにわざと裏読みして、廉を攻撃してくることだろうから。
ここ数日、本当に神経が磨り減る時間が長い……。
夜は夜で、アイラを抱くこともできない。
別に、B&Bに泊っているから遠慮しているのでない。
そう言った行為をしたからと言って、廉自体は恥ずかしさも何も感じない。
だが、カイリが一緒に泊っている以上、必ず邪魔されることは間違いないのだ。
まさか、あの最中に、アイラを抱く廉に腹を立てて、部屋の中に居座られたら、もう、最悪の話どころではない。
本当に、あの兄弟は限度を知らず、手が負えない兄弟だ……。
廉の苦労を理解してくれるのは、一族の女性陣だろうが、今回は、祖父を失った悲しみに、葬儀の準備で忙しい為、廉の味方になってくれる人はいない。
アメリカに帰るまでの辛抱だろうが、それでも、廉の苦労はまだまだ続く。
「いつ、アメリカに帰るんだ?」
「葬儀を終えてからだから、水曜か、木曜だろう」
「グレナ伯母さんが、レンは仕事が忙しい、って言ってたぜ」
それは事実で、言い訳ではない。
言い訳として、結婚式には参加しなかったが、仕事は忙しい。
今も、昼には一度B&Bに戻り、電話での確認が難しい仕事は、部屋で済ませて、またアイラの祖母の家に戻って来る。
電話でも、イーメールの確認とチャットはできるが、さすがに、ミーティングは祖母の家ですることもできず、その度に、B&Bに戻っている。
アメリカとの時差がかなりあるので、夜は寝る時間になるまで、大抵、仕事を片している状態でもある。
ただ、その話は、双子達もセスから聞いていた話だった。
セスの部屋が向かいにあるから、声を落していても、きっと、廉が仕事をしていて、アメリカの相手と話している気配が聞こえてきたのだろう。
「あいつも、仕事が忙しいって言うのは嘘じゃないみたいだな。結構、俺達に気を遣ってるんだろうけど、朝昼晩、必ず、ミーティングみたいなのやってるし、夜も結構遅くまで仕事してるみたいだぜ」
それで、双子の方も、へえ、とその話を聞いていたのだ。
アイラの親族に気を遣っているから、祖母の家にいる時も、こっそり外に抜け出して、電話をしていたり、電話でイーメールの確認を済ませているのは、双子も気づいていたことだった。
「忌引休暇ってあるのか?」
「あるけど、この場合、俺のパートナーの身内と言うことで、忌引休暇は一日だけなんだ」
あとは、自分自身の年休から休みを取っても不思議ではないが、休み中だとしても、廉は仕事をしていることになる。
「あんたの仕事って何だ?」
「ビジネスマネージメント関係だよ」
「それって、何だ?」
実は、ウィリアムは医者の卵。
マイケルはIT。
はっきり言って、二人の職業からでは、ビジネスには直接の関りがない。
「今の所、会社の年間の予算の確認や、月収入の予測や、マーケットのレポートや分析の報告とか、アドバイスと言った仕事かな」
「アカウンタント(会計士)なのか?」
「いや、違う」
廉の務めている会社は、アメリカでも有名なグローバルのオイル会社だ。
それで、廉の仕事はファイナンス・コントローラーで、いずれ、経験を積んだら、ファイナンス・マネージャーにでも希望するのだろう。
ファイナンス関係の大学の授業には、会計士となるにあたり必要な科目も取らされたが、廉は会計士ではない。
経済学、会計学、統計学など色々で、数字の扱いになれていなければいけない職業なので。グラフの読み取りも、分析も含めて。
さすがに、分野が違う職業だと、全く頭に入ってこない。
「リュウチャンって、もう、アメリカに来ないのか?」
「仕事があるから、たぶん、無理だろうね。日本では、中々、長期休暇は取りにくいらしいから」
「そうなんだ。それで――ああ、Vet になれたのか?」
昔、龍之介が楽しそうに話していたあの会話を思い出して、ウィリアムも興味深そうに目を輝かせる。
「資格は取れたみたいだ。今は、見習いの仕事をしているみたいだけどね」
「ああ、そうか。Vet になれたのか。そいつは良かったな」
「なんだよ。リュウちゃんって、Vet だったのか? そいつは知らなかったな」
それで、あのちっこい龍之介を思い出しながら、マイケルも感心している。
「あんたら3人で、毎回、旅行してたみたいだからな」
「そうだね。懐かしい思い出だ」
大学時代は、三人で一緒に旅行したあの時代が、一番、廉の記憶の中でも強く印象に残っているものだ。
長い時間、ずっと一緒に旅行しながら、アイラと龍之介に引っ張られて、色々なことに挑戦した。
色々な料理も挑戦した。
楽しい思い出だ。
「あぁあ、俺も、もう一回、学生に戻りたいぜ」
「それは楽しそうだけど、生活費も稼がないと生きていけないんで」
「まっ、そうだけどよ」
いつまでも学生気分のまま遊んでばかりもいられない。
大人になってしまったから。
それで、夕食の時間までは――なぜか知らないが、ウィリアムとマイケルがキッチンから動かないので、そこで、なぜかは知らないが会話に混ぜられた廉は、二人で適当な会話を済ましていたのだった。
もしかして――カイリとジェイドの邪魔が入らないよう、居座らせてくれたのだろうか?
あの二人が?
理由は分からないが、あの双子は、廉とアイラの関係に反対しているのではない。
面白がっているだけだ。
だから、カイリとジェイドの無言の圧力がかけられようが、廉がしつこく標的にされようが、面白そうに傍観しているだけだ。
助けは、絶対に、出さない二人だ。
なのに、なぜかは知らないが、今日は、随分平和な午後の時間になったものだ。
いや、わざと、廉に嫌がらせの為に、廉を起こしにやってくる。
それで、うるさい、と美花から苦情が上がってこようが、廉をせっついて、きまずい朝食を朝から一緒にさせられる羽目になる。
無言で、話すこともなく、話しかける様子もなく、ただ、シリアルやトーストのような朝食を、そのきまずい朝食の場で食べなければならない苦痛を強いられている廉だ。
セスは牧場の仕事の関係で朝が早いので、大抵、朝食は一緒だ。
結婚式は出席せず挨拶だけだったが、セス本人は気にしている様子もなく、新婚となり、おまけに、新たに生まれて来る予定の赤ん坊の話が嬉しくて、今の所、廉には攻撃的な対応がない。
今の所、アメリカではまだカイリの邪魔が入っていなかったが、それも時間の問題だろうと踏んでいた廉の前で、葬儀にやって来た場所で、新たな戦いが待ち受けていたとは、本当に苦労ものである。
アイラの祖母の家にいけば、今度は、更なる無言の敵意を真っ向から向けられて、一日中監視される羽目になる廉だ。
それも、相手は、次男のあのジェイドだ。
昔だって、きっと、ジェイドの方が――Deadly だと推測していた廉だけに、ジェイドの前だけは、気を抜くことができない。
たとて、社交辞令のような会話を強制されようと(親戚中が、ちゃんと礼儀正しく話せと、ジェイドを叱るから)、選ぶ言葉だって、返答する言葉だって、廉は間違えたりはしない。
たった一言だけでも、あのジェイドなら、すぐにわざと裏読みして、廉を攻撃してくることだろうから。
ここ数日、本当に神経が磨り減る時間が長い……。
夜は夜で、アイラを抱くこともできない。
別に、B&Bに泊っているから遠慮しているのでない。
そう言った行為をしたからと言って、廉自体は恥ずかしさも何も感じない。
だが、カイリが一緒に泊っている以上、必ず邪魔されることは間違いないのだ。
まさか、あの最中に、アイラを抱く廉に腹を立てて、部屋の中に居座られたら、もう、最悪の話どころではない。
本当に、あの兄弟は限度を知らず、手が負えない兄弟だ……。
廉の苦労を理解してくれるのは、一族の女性陣だろうが、今回は、祖父を失った悲しみに、葬儀の準備で忙しい為、廉の味方になってくれる人はいない。
アメリカに帰るまでの辛抱だろうが、それでも、廉の苦労はまだまだ続く。
「いつ、アメリカに帰るんだ?」
「葬儀を終えてからだから、水曜か、木曜だろう」
「グレナ伯母さんが、レンは仕事が忙しい、って言ってたぜ」
それは事実で、言い訳ではない。
言い訳として、結婚式には参加しなかったが、仕事は忙しい。
今も、昼には一度B&Bに戻り、電話での確認が難しい仕事は、部屋で済ませて、またアイラの祖母の家に戻って来る。
電話でも、イーメールの確認とチャットはできるが、さすがに、ミーティングは祖母の家ですることもできず、その度に、B&Bに戻っている。
アメリカとの時差がかなりあるので、夜は寝る時間になるまで、大抵、仕事を片している状態でもある。
ただ、その話は、双子達もセスから聞いていた話だった。
セスの部屋が向かいにあるから、声を落していても、きっと、廉が仕事をしていて、アメリカの相手と話している気配が聞こえてきたのだろう。
「あいつも、仕事が忙しいって言うのは嘘じゃないみたいだな。結構、俺達に気を遣ってるんだろうけど、朝昼晩、必ず、ミーティングみたいなのやってるし、夜も結構遅くまで仕事してるみたいだぜ」
それで、双子の方も、へえ、とその話を聞いていたのだ。
アイラの親族に気を遣っているから、祖母の家にいる時も、こっそり外に抜け出して、電話をしていたり、電話でイーメールの確認を済ませているのは、双子も気づいていたことだった。
「忌引休暇ってあるのか?」
「あるけど、この場合、俺のパートナーの身内と言うことで、忌引休暇は一日だけなんだ」
あとは、自分自身の年休から休みを取っても不思議ではないが、休み中だとしても、廉は仕事をしていることになる。
「あんたの仕事って何だ?」
「ビジネスマネージメント関係だよ」
「それって、何だ?」
実は、ウィリアムは医者の卵。
マイケルはIT。
はっきり言って、二人の職業からでは、ビジネスには直接の関りがない。
「今の所、会社の年間の予算の確認や、月収入の予測や、マーケットのレポートや分析の報告とか、アドバイスと言った仕事かな」
「アカウンタント(会計士)なのか?」
「いや、違う」
廉の務めている会社は、アメリカでも有名なグローバルのオイル会社だ。
それで、廉の仕事はファイナンス・コントローラーで、いずれ、経験を積んだら、ファイナンス・マネージャーにでも希望するのだろう。
ファイナンス関係の大学の授業には、会計士となるにあたり必要な科目も取らされたが、廉は会計士ではない。
経済学、会計学、統計学など色々で、数字の扱いになれていなければいけない職業なので。グラフの読み取りも、分析も含めて。
さすがに、分野が違う職業だと、全く頭に入ってこない。
「リュウチャンって、もう、アメリカに来ないのか?」
「仕事があるから、たぶん、無理だろうね。日本では、中々、長期休暇は取りにくいらしいから」
「そうなんだ。それで――ああ、Vet になれたのか?」
昔、龍之介が楽しそうに話していたあの会話を思い出して、ウィリアムも興味深そうに目を輝かせる。
「資格は取れたみたいだ。今は、見習いの仕事をしているみたいだけどね」
「ああ、そうか。Vet になれたのか。そいつは良かったな」
「なんだよ。リュウちゃんって、Vet だったのか? そいつは知らなかったな」
それで、あのちっこい龍之介を思い出しながら、マイケルも感心している。
「あんたら3人で、毎回、旅行してたみたいだからな」
「そうだね。懐かしい思い出だ」
大学時代は、三人で一緒に旅行したあの時代が、一番、廉の記憶の中でも強く印象に残っているものだ。
長い時間、ずっと一緒に旅行しながら、アイラと龍之介に引っ張られて、色々なことに挑戦した。
色々な料理も挑戦した。
楽しい思い出だ。
「あぁあ、俺も、もう一回、学生に戻りたいぜ」
「それは楽しそうだけど、生活費も稼がないと生きていけないんで」
「まっ、そうだけどよ」
いつまでも学生気分のまま遊んでばかりもいられない。
大人になってしまったから。
それで、夕食の時間までは――なぜか知らないが、ウィリアムとマイケルがキッチンから動かないので、そこで、なぜかは知らないが会話に混ぜられた廉は、二人で適当な会話を済ましていたのだった。
もしかして――カイリとジェイドの邪魔が入らないよう、居座らせてくれたのだろうか?
あの二人が?
理由は分からないが、あの双子は、廉とアイラの関係に反対しているのではない。
面白がっているだけだ。
だから、カイリとジェイドの無言の圧力がかけられようが、廉がしつこく標的にされようが、面白そうに傍観しているだけだ。
助けは、絶対に、出さない二人だ。
なのに、なぜかは知らないが、今日は、随分平和な午後の時間になったものだ。
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