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アイラと廉
その8-04
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アイラは反論せず、ちょっとだけ口を曲げている。
「信じられないわっ。レンだけじゃなく、自分の娘に会うのにも、4年ぶりだなんてね」
「忙しかったのよ」
「言い訳だわ。クリスマスだって、帰って来なかったもの」
家族で過ごすクリスマスなのに、この放蕩娘は、一度たりと顔を出したことがない。
プンプンと、アイラの母親がかなり怒った様子で、口を膨らませていた。
隣の怒っている妻を見て、アイラの父親も、そこでは助け舟を出さないようだった。
クリスマスに会えるのを楽しみにしていたのは、アイラの母親だけではないのである。
「ごめ~ん、ってば。今度は、ちゃんと帰るから。地球の果てじゃないから、飛行機だって、取りやすいだろうし」
「そうよぉ。ずっと会ってなかったんだから、ママだって寂しかったのよぉ……」
ぐすっと、涙ぐんできたアイラの母親を前に、アイラも閉口ものである。
「ごめん、ってばぁ。今度は、ちゃんと帰るから。レンだって、連れて帰るわよ」
「レンも? そうなの?」
その予定は計画されていないし、相談されたものでもない。
突然、自分の話題が振ってきて、廉は口には出さず、暗黙に、アイラを横目で睨んでいた。
「でも――レンのご両親は?」
「それも、もしかしたら、会いに行くかもしれないし、行かないかもしれないけど、今回は、どうにか時間見つけて帰るわよ。――でも、2~3日だけかもしれないけど……」
既に、年越し、年明けのプロジェクトの日程は、ほぼ決定しているのである。
その予定から言っても、時間を見つけてドバイに立ち寄る――ことは、かなり難しくなっていたのも、アイラは知っていた。
だから、最後に付け足したかのような一言をグレナが聞き逃しても、それは仕方がないことである。
「そう言えば――レンのご両親って、何を……していらっしゃる方なのかしら?」
肝心な情報も抜けすぎである。
やはり、今回は、しっかりと質問攻めして帰ってこないことには、グレナの気がすまない。
「父は外交官です」
「外交官?」
「そうです。今は、イギリスに派遣されていまして」
「まあ、そうなの……」
へえぇ……と、アイラの母親と父親が、揃って感心していた。
「外回りが多いんですって。だから、レンも、日本にいた時の方が少ないし」
へえと、二人揃って感心している夫婦は、道理で、廉の英語が本場並みの滑らかなものであることを、改めて納得していたのだった。
英語を知っているだけにしては、廉の話し振りが、ネイティブ並みなのである。
「全然、見えないけど、レンにはお兄ちゃんがいるのよ」
「いるの?!」
これには、アイラの両親も、アイラと同じ反応を示していた。
対する廉は、ただ淡々と頷いて、
「います」
「全然、そうには見えないわよねぇ」
「そんなことはないけれど……」
一応、取り繕ってはみるアイラの母親だった。
「お兄さんも――イギリスにいらっしゃるの?」
「そうです。兄は、高校・大学から、向こうに行っていまして」
「そうだったの。でしたら――あちらで、永住になるのかしらね」
「そうでしょう。仕事も定着していますから」
「お仕事は?」
「脳外科医の助手をしていると、聞いていますが」
「まあ……」
へえぇ……と、またも素直に感心してしまうアイラの両親二人だった。
知らないことがあるが、新しい事実を知るたびに、へえぇ……と、二人揃って感心してしまう。
「お兄さんと……いくつ、離れているの?」
「4つです」
「まあ、そうだったの……」
「全然、そうには見えないわよね。私だって、ずっと一人っ子だと思ってたくらいだし」
「そんなことは……ないけれどね――」
大威張りで自慢するかのような口ぶりの娘の前で、グレナが賢く、言葉尻をなんとなく濁しているだけだ。
なんだか、こんな短期間だけなのに、知らないことをたくさん知ったような、それでもまだ知り得ていないような、そんな気分になっていたのは、グレナ一人だけではなかったようだった。
それで、夕食前までも他愛無い会話が続いていて、夕食を食べて外に出かけて行って、そこでもまた他愛無い会話が続けられ、それでも、まだまだ、たくさん知らないことはあるようであった。
「――パパぁ」
「どうしたんだい?」
眠る用意をし出していたアイラの両親は、用意された部屋で、それぞれにパジャマに着替えながら、ベッドに横になりだしていた。
「この家――アパート、どのくらいなの?」
「うーん――それは、私もアメリカの物件から離れて長いから、正確な値段は判断しかねるがね」
「それでも、どのくらい?」
「どのくらいだろうねえ……」
ふーんと、アイラの父親は部屋をサッと見渡しながら、どんなものか――と、思案に耽っている。
「安くは、ないわよね」
「そうだね。土地代を知らないとは言え、街からも遠くなくて、3部屋もあるからね。バスルームが二つに、ダイニングとキッチンを入れても、かなりの広さだ」
「バスルームが二つ? どこ?」
「アイラ達の部屋は、エンスーツだと聞いてるよ」
「うそ? ホント?」
横になりかかっていたグレナは、ガバッと、起き上がって、隣の夫を覗き込んだ。
「さっき、興味があったから、レンに、家の構造を説明してもらったんだ」
「そうなの? ――なぁんだ、そう言ってくれればいいのに」
「せっかく、娘と二人きりのお話ができるのに、邪魔しちゃ悪いだろう?」
「だってねぇ、すごい久しぶりなんだもの。あの娘ったら、ホント、全然、戻ってこないじゃない」
「そうだね。忙しいのは判るけどね」
「そうよ」
「信じられないわっ。レンだけじゃなく、自分の娘に会うのにも、4年ぶりだなんてね」
「忙しかったのよ」
「言い訳だわ。クリスマスだって、帰って来なかったもの」
家族で過ごすクリスマスなのに、この放蕩娘は、一度たりと顔を出したことがない。
プンプンと、アイラの母親がかなり怒った様子で、口を膨らませていた。
隣の怒っている妻を見て、アイラの父親も、そこでは助け舟を出さないようだった。
クリスマスに会えるのを楽しみにしていたのは、アイラの母親だけではないのである。
「ごめ~ん、ってば。今度は、ちゃんと帰るから。地球の果てじゃないから、飛行機だって、取りやすいだろうし」
「そうよぉ。ずっと会ってなかったんだから、ママだって寂しかったのよぉ……」
ぐすっと、涙ぐんできたアイラの母親を前に、アイラも閉口ものである。
「ごめん、ってばぁ。今度は、ちゃんと帰るから。レンだって、連れて帰るわよ」
「レンも? そうなの?」
その予定は計画されていないし、相談されたものでもない。
突然、自分の話題が振ってきて、廉は口には出さず、暗黙に、アイラを横目で睨んでいた。
「でも――レンのご両親は?」
「それも、もしかしたら、会いに行くかもしれないし、行かないかもしれないけど、今回は、どうにか時間見つけて帰るわよ。――でも、2~3日だけかもしれないけど……」
既に、年越し、年明けのプロジェクトの日程は、ほぼ決定しているのである。
その予定から言っても、時間を見つけてドバイに立ち寄る――ことは、かなり難しくなっていたのも、アイラは知っていた。
だから、最後に付け足したかのような一言をグレナが聞き逃しても、それは仕方がないことである。
「そう言えば――レンのご両親って、何を……していらっしゃる方なのかしら?」
肝心な情報も抜けすぎである。
やはり、今回は、しっかりと質問攻めして帰ってこないことには、グレナの気がすまない。
「父は外交官です」
「外交官?」
「そうです。今は、イギリスに派遣されていまして」
「まあ、そうなの……」
へえぇ……と、アイラの母親と父親が、揃って感心していた。
「外回りが多いんですって。だから、レンも、日本にいた時の方が少ないし」
へえと、二人揃って感心している夫婦は、道理で、廉の英語が本場並みの滑らかなものであることを、改めて納得していたのだった。
英語を知っているだけにしては、廉の話し振りが、ネイティブ並みなのである。
「全然、見えないけど、レンにはお兄ちゃんがいるのよ」
「いるの?!」
これには、アイラの両親も、アイラと同じ反応を示していた。
対する廉は、ただ淡々と頷いて、
「います」
「全然、そうには見えないわよねぇ」
「そんなことはないけれど……」
一応、取り繕ってはみるアイラの母親だった。
「お兄さんも――イギリスにいらっしゃるの?」
「そうです。兄は、高校・大学から、向こうに行っていまして」
「そうだったの。でしたら――あちらで、永住になるのかしらね」
「そうでしょう。仕事も定着していますから」
「お仕事は?」
「脳外科医の助手をしていると、聞いていますが」
「まあ……」
へえぇ……と、またも素直に感心してしまうアイラの両親二人だった。
知らないことがあるが、新しい事実を知るたびに、へえぇ……と、二人揃って感心してしまう。
「お兄さんと……いくつ、離れているの?」
「4つです」
「まあ、そうだったの……」
「全然、そうには見えないわよね。私だって、ずっと一人っ子だと思ってたくらいだし」
「そんなことは……ないけれどね――」
大威張りで自慢するかのような口ぶりの娘の前で、グレナが賢く、言葉尻をなんとなく濁しているだけだ。
なんだか、こんな短期間だけなのに、知らないことをたくさん知ったような、それでもまだ知り得ていないような、そんな気分になっていたのは、グレナ一人だけではなかったようだった。
それで、夕食前までも他愛無い会話が続いていて、夕食を食べて外に出かけて行って、そこでもまた他愛無い会話が続けられ、それでも、まだまだ、たくさん知らないことはあるようであった。
「――パパぁ」
「どうしたんだい?」
眠る用意をし出していたアイラの両親は、用意された部屋で、それぞれにパジャマに着替えながら、ベッドに横になりだしていた。
「この家――アパート、どのくらいなの?」
「うーん――それは、私もアメリカの物件から離れて長いから、正確な値段は判断しかねるがね」
「それでも、どのくらい?」
「どのくらいだろうねえ……」
ふーんと、アイラの父親は部屋をサッと見渡しながら、どんなものか――と、思案に耽っている。
「安くは、ないわよね」
「そうだね。土地代を知らないとは言え、街からも遠くなくて、3部屋もあるからね。バスルームが二つに、ダイニングとキッチンを入れても、かなりの広さだ」
「バスルームが二つ? どこ?」
「アイラ達の部屋は、エンスーツだと聞いてるよ」
「うそ? ホント?」
横になりかかっていたグレナは、ガバッと、起き上がって、隣の夫を覗き込んだ。
「さっき、興味があったから、レンに、家の構造を説明してもらったんだ」
「そうなの? ――なぁんだ、そう言ってくれればいいのに」
「せっかく、娘と二人きりのお話ができるのに、邪魔しちゃ悪いだろう?」
「だってねぇ、すごい久しぶりなんだもの。あの娘ったら、ホント、全然、戻ってこないじゃない」
「そうだね。忙しいのは判るけどね」
「そうよ」
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