やっぱりやらねば(続)

Anastasia

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アイラと廉

その8-02

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 グレナが仕方なさそうに腕を外して廉から離れたので、アイラの父親も腕を出して、廉の手を握り返す。

「お変わりなく、お元気そうですね」
「そうだね、ありがとう。君も元気そうだ」

「ありがとうございます」
「ねえ、感動の再開もいいけど、家でやってよねー」

 いつまでやってるのよ――と、文句を言いたげなアイラが、一人でしらけている。

「あら、いいじゃない。本当に、久しぶりだったんだから」

 セスの結婚式で会えるかしら――と、かなり期待していたグレナの期待に反して、


「レンは仕事で忙しいから」


と簡潔に説明された娘の一言に、かなり落胆してしまったグレナだった。

 だが、そこらで気落ちしてはいられないのである。

 本当に仕事が忙しかったのかどうかは、グレナにも、どちらとも言えないことだ。

 でもまあ、今回は、いきなり親戚中で押し寄られてもいけないわね――と、そこら辺の事情をすぐに納得して、文句は言っていない。

 セスの結婚式が終わったら、しばらく、アイラの所で泊まっていく予定も立てていたので、他の身内に邪魔されず、のんびりと、アイラと廉と一緒に過ごせることが嬉しくて、セスの結婚式に参加できない廉の擁護に、喜んで回っていたグレナだった。

「早かったね。明日じゃなかったんだ」
「そうね。予定変更。明日、ママとパパと、のんびりできるし」

 明日まで、セスの家にいる予定で、仕事も休んでいるアイラは、アイラの母親に押し切られたような形で、一日、早目に切り上げてきたのである。

 美花も久しぶりだったから、もっと美花と話をしていたかったのに、アイラの母親とも久しぶりに会うので、仕方なく予定変更である。

「明日は、4時に切り上げられるように、頼んでいたんだけどな」
「今日、取れたのね」

「明日と交代」
「だったら、明日も頼みなさいよ。ママとパパが来てるんだから」

「一応は、頼んでみるけどね」
「ちゃんと、早目に帰ってくるのよ」

「そうやって、頼んではみるけど」

 相変わらず、ビシッと、アイラに言いつけられているが、それでも気にした様子もなく――淡々とではあるが――アイラを怒らせずに、それでいて、自分の意見も流されず、そんな二人の会話をしている後ろ姿を見ながら、


(いいわぁ、良かったわぁ……)


 グレナが、およよ……と、感動していたのだった。

「――ママ、そんなに感動してないで……」
「あら、だって、やっと、アイラに彼氏ができたのよ。ずっと、一人身だったらどうしましょうって、すごい心配だったんだから」

「いや、そうだけどね……」

 アイラの父親は、息子達に加担するのではないが、可愛い娘の彼氏――は、まだいらないんじゃないかなぁ……と、密かに思ったりもする時がある。

「パパだって、心配でしょう? 自分の可愛い娘が、ずっと一人身だったらどうするの? 40~50才になっても、ずっと一人だったら、そんな寂しいことはないじゃない。アイラなんか、あんなに魅力的な娘に育ったのに、ずっと一人で、彼氏もできなかったら、いい笑いものよ。あそこの娘さんレズかしら? ――なんて、噂されたら、パパだって嫌でしょう?」

 アイラの容姿から言ったら、とてもではないが、アイラがレズになると噂されるような欠片もなかったが、それでも、大袈裟に、その場を想定して夫に言いつけている妻の言葉に、夫も少しは考えてしまう。

 可愛い娘ではあるが――そんな噂までされるようになったら、おしまいである。

「いや、それもあるがね……」
「そうよぉ。やっと定着した彼氏ができて、おまけに、一緒に住むことになったんだから、レンを逃がしたら、アイラに次はないわ」

 そこまで悲惨な状況を考えていたとは、夫も頭に入れていなかったのである。

「パパだって、いつかは可愛い孫が見たいでしょう? アイラのよ。可愛いわよ、きっとぉ」
「ああ、そうだね……」

 娘の彼氏がどうの――は、父親的には多少の抵抗があるが、孫の話を出されて、自分の姉のグエンが大自慢していたあの顔を、つい、アイラの父親も思い出していた。

「いいかもねえ……」
「そうよぉ。グエンの所は、来年じゃない。初孫よ」

「ああ、そうだね。グエンも、自慢しまくりだったな……」

「そうよぉ。おまけに、かわいい義娘ができたわよぉ――って、自慢しまくりだったじゃない。アイリーンは、本当に、かわいい子だったわね。結婚式で、グエンなんか、泣きまくってたじゃない」

「そうだねえ……」

 感動しきって、アイリーンの結婚式だったのに、アイリーンではなく、義母のグエンが泣きまくっていたのも、記憶に新しい。

「私達のかわいい息子達に負けずに、アイラと一緒にいれるなんて、レンしかいないのよ」

 そこをひどく強調されたが、よくよく考えてみなくても、確かに、妻の言ってることは正しいのである。

 あのマレーシアに遊びに来ていた時でさえ、一族中から、


「――彼は……大丈夫かしら?」


と心配されたくらいなのに、その本人は、あの淡々とした態度で、可愛い息子達に絡まれながらも、気にした様子もなく――気にしていたのかもしれないが――アイラと一緒に遊んでいた歴史もある。

「そうだねえ……」

 アイラの父親も、なんとなくそんな過去を思い出し、ふーむと、妻に賛同していた。

「そうよぉ。だからね、パパも、アイラとレンを見守ってるだけじゃ、足りないのよ。しっかり応援しないと、アイラの将来がなくなっちゃうわ……」

 そこまで悲惨な状況にはならないであろうに、それを本気で心配している妻を横目で見やりながら、アイラの父親も、ふーむと、また密かに唸っていたのだった。


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