5 / 45
アイラと廉
その2-02
しおりを挟む
廉は、さっきから、アイラの指をゆっくりとなぞりながら、また次の指へと移って行って、その指の付け根から指先までを、ゆっくりとなぞっては、次の指に移っていた。
その触れ方が、ただ指を握り締めているようながさつな触れ方でもなく、スーっと、皮膚をくすぐっていくかいかないかの微妙な触れ方で、その動きが――妙に体の奥の燻りを残していく。
「初日から、そうやって女を誘い込むなんてね」
「それもルール?」
「そうよ」
「他には?」
「色々ね」
「じゃあ、その度に、そう指摘してくれればいい。当分は、どれがルールか判らないから、色々、試さないとね」
「スムーズねぇ」
「そうかな」
「さすが、女慣れしてるだけあること」
「それは、龍ちゃんとアイラが思い込んでるだけのことだし」
「初日から、それだけスムーズな男なんて、早々、いるわけないじゃない」
「それは経験から?」
アイラは薄い微笑を浮かべて見せて、廉の方に少し顔を近づけるようにした。
「レンちゃん、嫉妬するのは判るけど、私ほどのいい女を、男が放っておくわけないでしょう」
それで、廉も少しアイラの方に顔を近づけるようにして、
「アイラが本気を出したら、まあ、どんな男もイチコロだろうし。だから、それは否定しないけどね」
そしてそれを言い終わると、廉が、サッと、アイラの唇をすくっていた。
「ごちそうさま。あまりにおいしそうだから、我慢できなくてね」
アイラの瞳がかなり細められ、あまりに飄々と言ってのける廉に、アイラの口元が微かに曲がっていた。
「おやすみ。定番だけど、楽しかったわ」
アイラのアパートの前で、送ってきた廉に、アイラがそれを言った。
「おやすみのキスは?」
「初日から?」
「伝統じゃないの?」
「違うわよ」
「そうか」
それを言った廉だったが、片手でアイラの顎をすくいあげ、サッと、そこにキスを落としていた。
「やり過ぎじゃないの?」
「そうかな」
アイラに口を挟ませず、廉がそのまま唇を深めてきて、キスを強めていた。
昔から廉とはキスをしているので、今更驚くことではないが、それでも、廉だけでなく、アイラも――不承不承に――廉とのキスが癖になりそうなことは判っていた。
その唇の動きや、キスの仕方が、頭の奥を刺激しそうになるのは――昔からである。
ただ、昔はただのキスだけで、それ以上でもそれ以下でもなかったから、その時々で、特別、問題はなかった。
だが、女を前提としてデートに誘ったアイラにキスをしてくる廉は、もちろん、女を前提として、遊びのキスなどしてこない。
はぁ……と、唇の間から吐息が漏れていき、自分から引くのは癪に障るので、アイラは瞳を開けて、真っ直ぐに廉の瞳を覗き返した。
廉はキスをした間も、アイラをずっと見ていた。
それで、瞳を開けたアイラの瞳が真っ直ぐに飛び込んでくる。
廉を真っ直ぐに見詰め返すその瞳の強さが、自分からは絶対に引かないことを強く物語っていた。
このアイラを相手にする場合、勢いに負けて――というのは、あり得ないだろう。
「何度デートしたら次のステップになるのかな」
「そんなに私を抱きたいわけ?」
「そうだね。それを前提として、俺はアイラを女として意識しているから」
皮肉げに言われたのに、廉はそれを全く気にも留めず、それを真顔で言い返す。
あまりに素直に認められて、拍子抜けしたアイラは、ちょっと廉を睨め付けながら、ゆっくりと廉の腕を外していく。
「初日じゃないわよ」
「どのくらい?」
「その状況によりけりでしょうけど――当分は、ないわね」
アイラがにこやかに微笑みを投げて、ちゅと、軽いキスを廉の頬に落とした。
「それじゃあね」
アイラはドアを開けて、一人さっさと部屋の中に入っていく。
見送っている廉には振り返らず、そのドアが静かに閉められていった。
廉はそのドアをまだ少し見ていたが、廉も動き出していた。
アイラが相手であるなら、そんじょそこらの画策は効かないのである。
下手に遠回しの方法とて、アイラなら簡単に蹴散らしてしまうだろう。
だから、普通の男がアイラをデートに誘っても、苦もなく、難もなく、いつも、アイラの手の平で踊らされてしまう。
だが、廉も、初めから、そんなことは全て承知済みなのである。
その点では、初日のデートだろうと、心構えができているせいか、アイラのペースに乗せられずに済んだのかもしれない。
「アイラが相手だから」
手強いのは初めから承知済みである。
それでも、アイラを女として意識しているそのうずきがある限り、廉とて、簡単に諦めることはしないのだ。
もう、互いに後戻りができない場所まで来てしまったから。
それからどうなるのかは、廉も知らないことだった。
その触れ方が、ただ指を握り締めているようながさつな触れ方でもなく、スーっと、皮膚をくすぐっていくかいかないかの微妙な触れ方で、その動きが――妙に体の奥の燻りを残していく。
「初日から、そうやって女を誘い込むなんてね」
「それもルール?」
「そうよ」
「他には?」
「色々ね」
「じゃあ、その度に、そう指摘してくれればいい。当分は、どれがルールか判らないから、色々、試さないとね」
「スムーズねぇ」
「そうかな」
「さすが、女慣れしてるだけあること」
「それは、龍ちゃんとアイラが思い込んでるだけのことだし」
「初日から、それだけスムーズな男なんて、早々、いるわけないじゃない」
「それは経験から?」
アイラは薄い微笑を浮かべて見せて、廉の方に少し顔を近づけるようにした。
「レンちゃん、嫉妬するのは判るけど、私ほどのいい女を、男が放っておくわけないでしょう」
それで、廉も少しアイラの方に顔を近づけるようにして、
「アイラが本気を出したら、まあ、どんな男もイチコロだろうし。だから、それは否定しないけどね」
そしてそれを言い終わると、廉が、サッと、アイラの唇をすくっていた。
「ごちそうさま。あまりにおいしそうだから、我慢できなくてね」
アイラの瞳がかなり細められ、あまりに飄々と言ってのける廉に、アイラの口元が微かに曲がっていた。
「おやすみ。定番だけど、楽しかったわ」
アイラのアパートの前で、送ってきた廉に、アイラがそれを言った。
「おやすみのキスは?」
「初日から?」
「伝統じゃないの?」
「違うわよ」
「そうか」
それを言った廉だったが、片手でアイラの顎をすくいあげ、サッと、そこにキスを落としていた。
「やり過ぎじゃないの?」
「そうかな」
アイラに口を挟ませず、廉がそのまま唇を深めてきて、キスを強めていた。
昔から廉とはキスをしているので、今更驚くことではないが、それでも、廉だけでなく、アイラも――不承不承に――廉とのキスが癖になりそうなことは判っていた。
その唇の動きや、キスの仕方が、頭の奥を刺激しそうになるのは――昔からである。
ただ、昔はただのキスだけで、それ以上でもそれ以下でもなかったから、その時々で、特別、問題はなかった。
だが、女を前提としてデートに誘ったアイラにキスをしてくる廉は、もちろん、女を前提として、遊びのキスなどしてこない。
はぁ……と、唇の間から吐息が漏れていき、自分から引くのは癪に障るので、アイラは瞳を開けて、真っ直ぐに廉の瞳を覗き返した。
廉はキスをした間も、アイラをずっと見ていた。
それで、瞳を開けたアイラの瞳が真っ直ぐに飛び込んでくる。
廉を真っ直ぐに見詰め返すその瞳の強さが、自分からは絶対に引かないことを強く物語っていた。
このアイラを相手にする場合、勢いに負けて――というのは、あり得ないだろう。
「何度デートしたら次のステップになるのかな」
「そんなに私を抱きたいわけ?」
「そうだね。それを前提として、俺はアイラを女として意識しているから」
皮肉げに言われたのに、廉はそれを全く気にも留めず、それを真顔で言い返す。
あまりに素直に認められて、拍子抜けしたアイラは、ちょっと廉を睨め付けながら、ゆっくりと廉の腕を外していく。
「初日じゃないわよ」
「どのくらい?」
「その状況によりけりでしょうけど――当分は、ないわね」
アイラがにこやかに微笑みを投げて、ちゅと、軽いキスを廉の頬に落とした。
「それじゃあね」
アイラはドアを開けて、一人さっさと部屋の中に入っていく。
見送っている廉には振り返らず、そのドアが静かに閉められていった。
廉はそのドアをまだ少し見ていたが、廉も動き出していた。
アイラが相手であるなら、そんじょそこらの画策は効かないのである。
下手に遠回しの方法とて、アイラなら簡単に蹴散らしてしまうだろう。
だから、普通の男がアイラをデートに誘っても、苦もなく、難もなく、いつも、アイラの手の平で踊らされてしまう。
だが、廉も、初めから、そんなことは全て承知済みなのである。
その点では、初日のデートだろうと、心構えができているせいか、アイラのペースに乗せられずに済んだのかもしれない。
「アイラが相手だから」
手強いのは初めから承知済みである。
それでも、アイラを女として意識しているそのうずきがある限り、廉とて、簡単に諦めることはしないのだ。
もう、互いに後戻りができない場所まで来てしまったから。
それからどうなるのかは、廉も知らないことだった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる