やっぱりやらねば(続)

Anastasia

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アイラと廉

その1-01

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(会話は全て英語)


「アイラ、久しぶり」

「レン、久しぶりね。どうしたの?」

 アイラはベッドの上で器用にペディキュアをつけながら、肩で受話器を挟んでいる。

「仕事の方は?」
「まあまあよ。そっちは?」
「まあまあかな」

 互いに淡々とした返答である。

 龍之介と廉とアイラの3人が出会ってから、かなりの年月が経っているが、あの3人で旅行した大学時代を終えても、まだイーメールなど、3人の間で連絡がされていた。

 その時の気分によってか、廉からたまに電話がくることがあったり、龍之介の近況を聞くのに、アイラが龍之介に電話をしたり、龍之介はかなり廉と電話で話をするらしいとも聞いている。

「イーメールに、動きたい、って書いてあったようだけど」
「そうね」
「もうそこは飽きたの?」
「別に悪くないけど、大した娯楽がないんだもんね。ショッピングもありきたりだし、いっつもオークランドに行かなきゃダメだし。オーストラリアにちょっと買い物――なんて、この頃じゃ飛行機代が高くて、そっちの方が無駄だわ」

「まあ、買い物好きな君の性格で、あののんびりした国はちょっと難しいかも」
「大学時代はそれなりのメリットがあったけどね。でも仕事も見つかったし、そろそろ気楽に動こうかと思って」
「へえ。だったら、イギリスに戻る?」
「さあね。今はどっちにしようか考慮中よ」
「どっち? アメリカに来るの? それともシンガポールかどこか?」
「色々よ。でも、移動分くらいは貯めたから、どっちがいいか決めたら、すぐに動くわ。長く引き伸ばすだけお金の無駄だモンねぇ」

 アイラは昔から有言実行である。

 実行するのにお金が必要なら、どんな手段を使っても必ず貯めるし、行動するに当たって一切の迷いがない。

 そこら辺はかなりあっさり、スッパリの性格だったが、実行力と行動力があるだけに、こう言った大きな決断も普通なら多少の心配をしたり、迷ったりとするだろうが、一度、心を決めたアイラはそれに向かってまっしぐらだ。

「カナダはまだ行ってないのよねぇ。旅行ついでにいいかも」
「そうかもね。ただ、カナダはまだインフレが少し強いから、就職状況はどうだろう」
「そうね。そういう感じだとは聞いてるけど」

「イギリスのパスポートを持ってるんだから、イギリス経由でヨーロッパ内も、アイラだったら動きやすいだろう?」
「そうね。そっちも考えてるけど、それは、もうちょっと仕事の経験が増えてからの方がいいかも、って考えてるし。そうしたら、給料も高いわ」
「まあ、それはそうだろうな」

 簡単に同意して、廉は受話器を持ちながら、ふと、また考えていた。

「日本には行かないの?」
「やめてよー。ショッピングはいい国だけど、あんな国でなんか働けないわよ」
「まあ、君は偉そうだし、要求が多いから、無理なのは当然だろうけど」
「なによ」

 電話越しでも、キッと、アイラが廉を睨め付けていた。

「レンだって、日本に帰らないじゃない。ふてぶてしいし、そのやけに丁寧な態度だって不遜だし、絶対に上から目をつけられるタイプじゃない」

 アイラの述べた特徴には問題があるが、それでも、廉自身、外国生活が長い為、今更、日本に戻って仕事をするというのは、あまり興味の引かれるものではなかったのだ。

「アメリカに来るなら、俺の所に来てもいいけどね。仕事探すまでタダだし」
「そうよねぇ」
「でも、アイラはアメリカにも親戚がいるから、ステイするのも大した問題じゃないだろうけど」

 それはそうなのではあるが、従兄弟達の家にステイする予定は当分ないのである。

 ボストンにいる伯母の家もあったが、親戚のいる街に行くのもつまらないものだ。

 会いに遊びに行くからこそ旅行が楽しくなるのであって――変なアイラの理屈があったが――まだ身軽に動けるうちは、親戚が住んでいる街は避けてるのである。

 そうなると、廉の場所は今の所、アイラの親戚が一人もいない。

 ロスにはケードがいるが、早々、行き来するのでもないから、然程、問題にすることでもないだろう。

 カイリもNavyを辞めて、プライベートの仕事を見つけてから、あっちこっちを飛んでいるようだが、今の所、ベースはニューヨークになった。

 同じ大陸ではあるが、東海岸と西海岸ではかなりの距離でもあることだし、廉の場所がかなり魅力的になってくる。

 アイラが仕事探しをしている間も、宿泊代と食費は廉持ちにさせて――してもらうではないが――そうなると、当座、仕事が見つからない間も、かなり凌げることになる。

 廉の場所が気に入らなかったら、また違う場所に移れば良いだけである。
 縛られていない若いうちでなければ、簡単に移動などできないのは判りきっている。
 だから、今のうちに、動ける所は動き回ろう、というのがアイラの計画だった。

 イギリスには、ジェイドとギデオンもいる。
 おまけに、他の親戚一同がかなり揃っているので、イギリスは今回はやめた方がいいのだろう。

「決めた。サンフランシスコにするわ」
「相変わらず、随分、早い決断で」
「決めたのよ。そうとなれば、飛行機の手配もしなくちゃね。家の引越しと片付けもあるし」

「やっぱり、俺の所なの?」
「そうよ」
「まあ、君の親戚の散布図を見ていたら、そうなるだろうけど」

 相変わらず妙な形容をする廉に、アイラの口元が上がっていた。

「荷物は?」
「残したいもの以外は、全部、売りに出すわ。食器類とかはかさ張るけど、結構、気に入ってるのよね。だから、移動代がかさむけど、仕方ないわ」

「後は君のクローゼット一式だろう?」
「当たり前じゃない」

「そっちの方が、かなりコストがかかりそうだけど」
「いいのよ、その分くらい。後で働けばいいことなんだから」

 ショッピングが好きなアイラのクローゼットの中身は、想像しなくても、たくさんあるだろう。
 アクセサリーやバッグも入れて、おまけに靴もいれたら、それはそれで、独身男性の身の回り全部を合わせた引越し程度には、軽くなるのではないだろうか。

「それじゃあ、引越しも頑張って。予定が決まれば、また知らせてくれればいいから」
「あっ、そう。ねえ、私の荷物、そっちに送り始めるから、ちゃんとしてよね」
「はいはい」

 廉も慣れた風に、そんな返事をしていた。

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