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Part 3

* EPILOGUE 02 *

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 なんでも、昼間に、オルガとアーシュリン、フィロを交えて、全員で山のように買い込んで来たアトレシア大王国で売られている食事やスナックだ。
 それに加えて、一応、王宮の館のシェフ達に頼んで作ってもらった、王宮料理とスイーツの数々。

 やはり、王子殿下と高貴なお貴族さまである二人が混ざるだけに、セシルだって、


「あまりに一般市民用の食事ばかりだったら、気を悪くしてしまうかしら……?」


 ちょっと心配になって、ギルバートの館で筆頭執事をしているアーリーに頼んで、手で摘まみやすいようなお料理やスナックを頼んでみたのだ。

 実は、ここだけの話なのだが――セシルがギルバートの館にやって来てから初めて、セシルがアーリーに頼みごとをしてきたので、アーリーのほうだって、意気揚々とセシルのお願いを実行していたのだ。

 未だに、セシルの方は気を遣っているのか、遠慮しているのか、セシルの方から一切頼みごとをしてきたことがないので、ギルバートだって、


「やはり……私には、まだ、気を許してくれないのだろうか……」


と少々気落ちしているギルバートを前に、アーリーも慰める方法がない。

 それで、先週に、年末の予定を説明している時に、セシルが、


「少々、お願いがあるのですが、よろしいですか?」


と聞いてきて、アーリーの方が驚いてしまったほどだ。

 優秀な執事は少々の驚きと動揺を見せず、


「もちろんでございます(何でもおっしゃってくださいませっ!)」


とにこやかで礼儀正しい返答を返したアーリーだ。

「まあ、今年も無事に一年を終えましたが、一年の終わりにご馳走が並ぶ行事など、とても素晴らしい行事ですねえ」

 セシルとギルバート座っている向かいのソファーに座っているクリストフの前には、しっかりとお皿一杯に乗ったお料理にスナック、次の皿にも山のように積まれたスイーツが並んでいる。

「どうぞ、よろしかったら、たくさん食べてくださいね。12時に新年を迎えるまで、いつも、皆で適当にスナックを食べたり、談話したり、ゲームをしたりとのんびり過ごしているのです」
「素晴らしい習慣ですねえ」

 そして、礼儀正しく受け答えをしている割には、手を休めることもなく、クリストフはしっかりと自分の食事を平らげている。
 いつ見ても、器用なクリストフである。

「私も、結構、王都のお店には慣れていたと思っていたのですが、知らないスナックもありましたね」

「そうなのですか? 今日は、アトレシア大王国の王都で売られているものを色々買って来てもらったのです。私達にとっては、このように、他国で年越しを済ませることができるなど、夢にも思いませんでしたもの。ですから、今夜はアトレシア大王国の食事やスナックを試してみようと思いまして」
「そうですか」

 それから、ギルバートの瞳が微かに緩み、茶目を含んだ瞳でセシルに笑いかける。

「来年からは、同じ国なりますね」
「ふふふ」

 そうなのだ!

 なんでも、セシルの治めているコトレア領は、来年からアトレシア大王国に加入することが決定したらしい。

 そのニュースを聞いた時には、さすがに、セシルも驚いてしまった。珍しく、素直に驚いている様子も表情もあった(ギルバートとクリストフ談)。

 まさか、あの宰相閣下であるレイフが、本気で、セシルの治めている領地加入の交渉を引き受けてくれるなど、露にも思わなかったのだ。

 そのように、ギルバートから以前に説明をされていたが、戦もないのに、他国からの領地加入など不可能に近いだろう、とセシルだって半ば諦めがちに考えていたほうなのだ。

 それが、一体、どんな手段をつかったのか、手腕を見せつけたのか、説き伏せたのか。
 来年からは、なんと、コトレア領もアトレシア大王国の一部となる決定がされたのだ。


「問題は、ありませんでしたの……?」


 やはり、領地移動や加入問題など、外交に支障をきたすのではないかしら……と心配になっているセシルが、ちょっとだけ、ギルバートに尋ねてみたのだ。

 全然、問題ないようですよ、などという返答が出された時には、さすがに、セシルも一瞬言葉が出なかったほどだ。

 アトレシア大王国の敏腕宰相。交渉ごとに関しては、負けを知らず。完全勝利(のみ) を遂げる頭脳明晰・切れ者で有名な第二王子殿下である。

 どんな交渉術を使ったら、いさかいもなく、反対や摩擦もなく、他国から一領地をぶんどってくることができたのだろうか……!?

 その話を聞いたセシルの私用人達も、珍しく、全員が揃って、口を開けて呆気に取られていたほどである。
 アトレシア大王国敏腕宰相、恐るべし……!

「ヘルバート伯爵は、その件で……その、何かおっしゃっていましたか?」
「そうか。おめでとう、と言っていましたわ」
「それ、だけですか?」
「ええ」

 本当にそれだけなのだろうか……。
 大切な一人娘が治める領地が他国に移籍してしまって、父親であるヘルバート伯爵は何も思わなかったのだろうか。

 ギルバートの懸念している様子を見て、セシルもギルバートを安心させるように少し微笑んでみせた。

「父の頭の中では、コトレアは、私が領主任命を受諾する以前からずっと、すでに私の治める領地だと思っていてくれたようなのです」
「それは、事実ですよね。領地にあれだけの発展と繁栄をもたらしたのは、セシル嬢、あなたですからね」
「ありがとうございます。ですから……父の方も、コトレア領のアトレシア大王国への移籍と、王国加入が決まって、とても喜んでくれましたの」

 なにしろ――ヘルバート伯爵家一同、今のノーウッド王国(特に、無能な国王) に対して、何の思いれもない。

 伯爵家の一人娘が他国に嫁いでいくことになり、その娘が治めている領地が他国に移籍されるのなら、ノーウッド王国側は、セシルにも、コトレア領にも手を出すことができない。邪魔をすることもできない。

 茶々入れするなど、到底、無理な話だろう。
 ざま~みろ、などと陰で笑い飛ばしているヘルバート伯爵家がいるなど、誰が考えようか。
 あんな無能な国王に、コトレア領が奪い取られなくて清々しているのは、ヘルバート伯爵家全員だ。

 今は、セシルも自分が考えていた以上に安堵をみせている。
 自分自身の問題だったのに、セシル以外の他人が問題解決を進めてくれて、それが全く問題にもならなくて、セシルは感謝してもしきれないほど、感謝している。

 コトレアは、セシルの精魂込めて発展させた、セシルの血と涙の努力の結晶そのものだ。だから、手放したくはなかったし、そういう状況を考えるのも嫌だった。

「今度、時間が落ち着いた時でよろしいのですが、宰相閣下にきちんとお礼を述べさせてくださいね?」
「わかりました。ですが――そこまで、気になさらなくていいのですよ」
「なぜですか?」
「いや、まあ……うーんと、そうですねえ」

 ギルバートの語調が濁っていて、その様子も珍しいものだ。

「宰相は――というか、兄上は、この場合、断然に私情が混ざっていると思うんですよね」
「宰相閣下の私情?」




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