奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)

Anastasia

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Part 3

* EPILOGUE *

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「年越し、パーティー? それは何ですか?」
「パーティーというほどのものでもありませんけれど、私の邸では、一年の最後の日、夕食後から少し夜更かしをして、新年を迎える行事を作りました。まあ、家族や親しい人間が混じって、一年の終わりをちょっとお祝いするようなものです。一年間、お疲れ様。頑張ったね、というような感じで」

「なるほど」
「それで、新年の日は“全く何もしない日”ということにしていますの」
「全く、何もしない日?」

 セシルの領地でも、年末の最後の日を“大晦日おおみそか”と呼ぶことにした。それで、現世(なのか前世) のように、新年を迎えるに当たり、「大掃除」 の習慣を作ってみたのだ。
 やっぱり、新年を迎えるなら、フレッシュな気分で、フレッシュなスタートで、


「今年も頑張っていこう!」


なんていう気分で、新しい一年を始めたい。

 それで、一応、「大掃除」 の習慣を作ってみて、一年の汚れ落としや、埃を払い、新年を迎えるという行事だ。

 現世(なのか前世) なら、年末に近づくにつれ、大掃除も大変だし、年末年始の買い物や、飾りつけだってあるだろう。
 お節料理の用意をしたり、一年をしめくくって忘年会や、パーティーもあるだろう。

 だが、この世界ではそういったお祝い事はない。

 それで、セシルの領地では「大掃除」 の習慣を作ってみた。結構、領民達の反応も悪くなく、自然にその習慣を受け入れていたようなので、恒例になった年末行事だ。
 大掃除の後は、夕食を食べて、少しのんびりしながら年越しを過ごす。

 さすがに、除夜の鐘もなければ、108回も除夜の鐘を鳴らし続けるのも少々うるさいかしら? ――なんて考えて、セシルの領地では、新年を迎える12時のカウントダウン10秒前から、10回の鐘を鳴らすことにしたのだ。

 仏教とか、そういった概念も存在しない世界だから、108つの煩悩を洗い流して除きましょう、というのも、ねえ?

 普段は領地内の緊急警報として使っている鐘だったが、大晦日のその晩だけは、新年を迎える10秒前に鐘を鳴らす。そして、12時ジャストに新年を迎えた合図に、数回だけ。
 実は、領民達の間でも、年越しの鐘鳴らし行事は、結構、喜ばれている今日この頃である。

 年越しソバもなければ、初日の出や、初詣はつもうでといった行事もない。
 それでも、少しは、年末行事の一つとして一年の最後を締めくくるには丁度いいかしら、とセシルは思っている。
 まあ、セシル自身の気持ちの問題だろうけど。

 12時になれば、少し夜更かしをして起きている皆と一緒に、


「新年おめでとうっ!」


の挨拶を交わす。

 おめでとう、の部分は抜かしてあるが。
 それから、それぞれが眠りについていって、新年を迎える。

 だが、悲しいかな。
 現世(なのか前世) とは違う習慣と言えば、そう!


“全く何もしない日!”


 この世界に飛ばされたのか、生まれ変わったのか、異世界に放り投げだされて生きて行かなければならなくなったセシルは、最初の数年は、今まで慣れ親しんだ習慣や行事を思い出していた。

 そういった恒例行事をいきなり経験しなくなると、結構、寂しいものなんだな……と感じるのも、その時、初めて知った。

 今まで(昔、なのか) は、そういった行事や習慣が毎年やって来るのが当たり前のことだと、深く考えもしなかったからだ。

 お節料理やお雑煮なども、ちょっと恋しくなった。あまり、気にかけて食べたこともなかったのに……。
 この世界では、もちろん、お節料理など存在しない。

 現世(なのか前世) のように、お正月もお祝いすべきかな、とセシルも考えてみた。この世界でのご馳走を作って、お祝いしてみようかな、なんて。

 でも、現実では、そうもいかないところが、オチだろう。

 年末ですでに体力が限界を超え過ぎて、過労が溜まりに溜まっているセシルの現実と日常では、お正月のお祝いまで入れてしまったのなら、もう、完全に生き残れない……。

 次の一年を超すどころか、次の一月ひとつきを乗り越えることも、かなり難しくなってくるのだ。
 気力と根性だけでは、さすがに限度があったのだ……。残念なことに。

 それで、渋々、仕方なく、お正月だけは、一切何もしない日にしたのだ。
 仕事もなし。書類もなし。一日一杯、完全にダラダラとだらけて、なまくら生活を送る、一年で唯一の日となってしまったのだ。

 だから、邸の使用人達も全員、その日一日だけは、


何もしない日!」


という、お達しがセシルから言い渡されたのだ。

 最低必要限以外の仕事をしない日、と言う意味だ。

 邸中で年末の大掃除を終えれば、その日は軽い夕食にして、年越しを迎える。
 新年の初日は、使用人達だってほとんど必要のない仕事はしないことになっている。それで、使用人達に出される食事も、かなり簡単なものになっているくらいだ。

 パンが山ほど用意されていて、自分達で適当に作ることができるサンドイッチの具材などが用意されるだけで、後は、年末にしっかりと作り込んでおいたスープ程度がある。

 使用人達も、食事の時間になったら、適当に自分の食事を用意して食べ、後片付けは自分自身で簡単に済まし、食器は自分で洗い流す。

 厨房のシェフやコック達も、一日中、仕事で追われないようにする為だ。
 メイド達だって、新年のその日だけは、邸の掃除もしない。

 なにしろ、邸の主であるセシル自身が、ダラダラにだらけで、怠け者になっているくらいだから、使用人達にもそれを習慣づけさせたセシルである。

 セシルは普段から多忙を極めるご令嬢であったから(なにしろ、周囲の人間から止められているのに次から次に仕事を入れるから)、その主であるセシルが怠け者になって、一日中何もしなくても、使用人達には全くの問題がない。

 むしろ、セシルが仕事をしない日が来るなんて天変地異ですわ……と、初めは大喜びされたくらいである(大袈裟な……)。

 だが、セシルは、自分一人だけぐーたらな時間を送るのが、少々、落ち着かなくて、結局は、邸全員に“ほとんど何もしない日”をあげたのだ。

 使用人思いの主を持てて感激しているのは、もちろんのこと、邸にいる全員である。

「興味深い習慣ですね」

 セシルの説明を聞いていたギルバートは、セシルの隣に座りながら、その話を聞いている様子も真剣だ。
 王宮の第三王子殿下の館の一画にある豪奢な談話室で、セシル達は年越しを迎えようとしていた。


「身内のパーティーのようなものを開きたいので、よろしいでしょうか?」


などと、ギルバートはセシルからお願いされたのだ。

 もちろん、セシルに甘々なギルバートは、速攻でセシルのお願いを聞き入れてくれている。

 談話室には、セシルの身の回りの世話をする付き人のオルガ、メイドのアーシュリン、護衛のイシュトールとユーリカ、そして、補佐役のフィロが揃っている。

 アトレシア大王国側からは、セシルの婚約者であるギルバート。そして、ギルバートの護衛兼腹心である、クリストフが談話室にやって来ていた。

 ギルバートとクリストフの目の前には、山のように積まれたスナックやスイーツの数々。
 好きな時に、好きなだけ食べて、年越しのお祝いをしましょう、ということだ。




~・~・~・~・~・~・~・~・
ああ、Part3のEpilogueに入りました。ここまでお付き合いくださいまして、本当にありがとうございます。
Cảm ơn bạn đã đọc cuốn tiểu thuyết này
~・~・~・~・~・~・~・~・
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