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Part 3
Е.д 楽しみ - 08
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「でも、ギルバート様は――こう申してはなんですけれど、一応、騎士団でのお仕事で、視察や遠出などなさっていらっしゃるから、田舎町でも、あまり問題はなく過ごされたのではありませんか?」
「田舎町、って……。はっきり言って、あなたの領地は、この王都よりも、遥に生活水準が高いと思いますよ。ただ、人口が少ないというだけです」
「いえいえ、そこまでなんて。ここは、大王国の王都ですもの」
「いや、私も冗談を言っているのではないのですよ。きっと、レイフ兄上だって、私に同意してくると思いますが」
「そう、おっしゃっていただいて、光栄ですわ」
「冗談じゃないんですがね……」
そんな恐縮するセシルの気持ちが、ギルバートには理解できないが、そこを深く指摘しない。
「私は、ヴォーグル侯爵夫人と個人的に親しいのではありませんが、それでも、たしか、以前に、国王陛下だったでしょうか……? ――元宰相、ヴォーグル侯爵の妻である侯爵夫人は、少々、腕が立つから、というようなことをおっしゃっていたような?」
「腕が立つ? ――もしかして、剣技ですか?」
「ええ、そうです。なんでも、成人する前の若い時、見習い騎士のようなことをしていらっしゃった、とかなんとか」
「えっ……?! 侯爵夫人が、見習い騎士ですか?!」
さすがに、それは驚く話題だ。
「そうだったと、その話を記憶していますが。ヴォーグル侯爵夫人は、ご実家が辺境伯出身で、そのジェンソン辺境伯は、よく騎士を輩出している家柄なんです。その関係で、見習い騎士をなさっていたのかもしれませんね」
「まあ、そうでしたの。なんだか、宰相閣下と見習い騎士という繋がりが、興味深いのですのね」
「そうですね。ですが、あなたはご存知ないかもしれませんが、王国内では、一応、貴族の子息は、剣技が必須科目になっているんです。その訓練をするのは本人次第でもありますが、それでも、一応、貴族の子息であれば、剣を扱うことができなければならないのです。ヴォーグル侯爵だって、例外ではありません」
「そうだったんですか」
「ですから、元見習い騎士をされていたのなら、コトレア領地の視察や観光は、むしろ、大変喜ばれるんじゃないでしょうか?」
「そうですか?」
「騎士団に入団していなくても、騎士という立場や職業は、戦争以外で、あまり、自領や守護地域を出ていく機会はありません。移動は慣れていますし、宿屋での宿泊や、最悪、野宿をした経験とてあるはずです。ですから、移動に慣れている者にとっては、新しく珍しい土地に行けることは、とても楽しいことだと思います。きっと、侯爵夫人もお喜びになるでしょう」
絶対間違いなし、とギルバートはその状況を確信しているかのような、それで、ギルバートがセシルのことを自慢しているかのような嬉しさだ。
こういった些細な仕草や言動でも、もうなんだか……セシルの気のせいではなくて、セシルは ベタ惚れされているな……と、実感してしまう。
身内贔屓もいいところだ……。
本当に嬉しそうに、瞳を細めセシルを見つめているギルバートの視線がセシルの髪に移り、ギルバートの手が上がり、セシルの髪の毛をそっと掴んだ。
「髪の毛が伸びましたね」
「ええ」
昨年は、あの長かった髪の毛をバッサリと切り落としてしまって、ギルバートも唖然として、言葉が出なかった。
その髪の毛も今は少し伸びて、肩を流れ落ちていく。
髪の毛に触れ、スーっと梳いていた指が、そのままセシルの頬に届いていた。
ギルバートの人差し指がそっと当たり、それから人差し指の背で、ギルバートの指がセシルの頬を撫でていく。
スーっと、指の背が頬を優しく――そして親密に撫でられて、そこで肌の感触を確かめているかのように指が止まり、またすぐに、その指がゆっくりと肌の上を下りていく。
誘われている……あからさまじゃなくても、その動きが煽情的で、無意識なのか意識的なのか、微かに伏せられたその瞳に映る熱は、確かだった。
「あなたが……こんな風に私の隣にいることが、本当に、信じられない話です……」
囁きを吐き出すかのように漏れた声音は、いつも以上に低く、甘さが乗り、耳を刺激してくる。
セシルの頬を優しく、そして親密に撫でていた指が顎に届き、ススっ、ススっと、その指が顎の輪郭を確かめるように動いていた。
誘われている……あからさまに、セシルを欲して――
「ギルバート様……」
それが合図であるかのように、ギルバートの手がセシルの頬を包み込み、隣から顔を寄せるように近づいたギルバートの唇が、セシルの唇に触れた。
あぁ……と、感慨深げに、それで、満たされていくかのように、ギルバートの吐息が吐き出されていた。
そっと吐き出された熱い吐息がセシルの唇をこすり、それでも、ギルバートはセシルの唇を味わうかのように、ゆっくりとこするだけで、唇が触れているだけだった。
「……あなたが、こうして、私の目の前にいることが、本当に、夢のようだ……」
「でも……、消えていませんわ……」
「ええ、そうですね。ですから、尚更、夢でも見ているのかと、錯覚してしまいそうになります……セシル嬢……」
~・~・~・~・~・~・~・~・
読んでいただき、ありがとうございます。
Ndiyathemba ukuba uyonwabele esi sihlandlo
~・~・~・~・~・~・~・~・
「田舎町、って……。はっきり言って、あなたの領地は、この王都よりも、遥に生活水準が高いと思いますよ。ただ、人口が少ないというだけです」
「いえいえ、そこまでなんて。ここは、大王国の王都ですもの」
「いや、私も冗談を言っているのではないのですよ。きっと、レイフ兄上だって、私に同意してくると思いますが」
「そう、おっしゃっていただいて、光栄ですわ」
「冗談じゃないんですがね……」
そんな恐縮するセシルの気持ちが、ギルバートには理解できないが、そこを深く指摘しない。
「私は、ヴォーグル侯爵夫人と個人的に親しいのではありませんが、それでも、たしか、以前に、国王陛下だったでしょうか……? ――元宰相、ヴォーグル侯爵の妻である侯爵夫人は、少々、腕が立つから、というようなことをおっしゃっていたような?」
「腕が立つ? ――もしかして、剣技ですか?」
「ええ、そうです。なんでも、成人する前の若い時、見習い騎士のようなことをしていらっしゃった、とかなんとか」
「えっ……?! 侯爵夫人が、見習い騎士ですか?!」
さすがに、それは驚く話題だ。
「そうだったと、その話を記憶していますが。ヴォーグル侯爵夫人は、ご実家が辺境伯出身で、そのジェンソン辺境伯は、よく騎士を輩出している家柄なんです。その関係で、見習い騎士をなさっていたのかもしれませんね」
「まあ、そうでしたの。なんだか、宰相閣下と見習い騎士という繋がりが、興味深いのですのね」
「そうですね。ですが、あなたはご存知ないかもしれませんが、王国内では、一応、貴族の子息は、剣技が必須科目になっているんです。その訓練をするのは本人次第でもありますが、それでも、一応、貴族の子息であれば、剣を扱うことができなければならないのです。ヴォーグル侯爵だって、例外ではありません」
「そうだったんですか」
「ですから、元見習い騎士をされていたのなら、コトレア領地の視察や観光は、むしろ、大変喜ばれるんじゃないでしょうか?」
「そうですか?」
「騎士団に入団していなくても、騎士という立場や職業は、戦争以外で、あまり、自領や守護地域を出ていく機会はありません。移動は慣れていますし、宿屋での宿泊や、最悪、野宿をした経験とてあるはずです。ですから、移動に慣れている者にとっては、新しく珍しい土地に行けることは、とても楽しいことだと思います。きっと、侯爵夫人もお喜びになるでしょう」
絶対間違いなし、とギルバートはその状況を確信しているかのような、それで、ギルバートがセシルのことを自慢しているかのような嬉しさだ。
こういった些細な仕草や言動でも、もうなんだか……セシルの気のせいではなくて、セシルは ベタ惚れされているな……と、実感してしまう。
身内贔屓もいいところだ……。
本当に嬉しそうに、瞳を細めセシルを見つめているギルバートの視線がセシルの髪に移り、ギルバートの手が上がり、セシルの髪の毛をそっと掴んだ。
「髪の毛が伸びましたね」
「ええ」
昨年は、あの長かった髪の毛をバッサリと切り落としてしまって、ギルバートも唖然として、言葉が出なかった。
その髪の毛も今は少し伸びて、肩を流れ落ちていく。
髪の毛に触れ、スーっと梳いていた指が、そのままセシルの頬に届いていた。
ギルバートの人差し指がそっと当たり、それから人差し指の背で、ギルバートの指がセシルの頬を撫でていく。
スーっと、指の背が頬を優しく――そして親密に撫でられて、そこで肌の感触を確かめているかのように指が止まり、またすぐに、その指がゆっくりと肌の上を下りていく。
誘われている……あからさまじゃなくても、その動きが煽情的で、無意識なのか意識的なのか、微かに伏せられたその瞳に映る熱は、確かだった。
「あなたが……こんな風に私の隣にいることが、本当に、信じられない話です……」
囁きを吐き出すかのように漏れた声音は、いつも以上に低く、甘さが乗り、耳を刺激してくる。
セシルの頬を優しく、そして親密に撫でていた指が顎に届き、ススっ、ススっと、その指が顎の輪郭を確かめるように動いていた。
誘われている……あからさまに、セシルを欲して――
「ギルバート様……」
それが合図であるかのように、ギルバートの手がセシルの頬を包み込み、隣から顔を寄せるように近づいたギルバートの唇が、セシルの唇に触れた。
あぁ……と、感慨深げに、それで、満たされていくかのように、ギルバートの吐息が吐き出されていた。
そっと吐き出された熱い吐息がセシルの唇をこすり、それでも、ギルバートはセシルの唇を味わうかのように、ゆっくりとこするだけで、唇が触れているだけだった。
「……あなたが、こうして、私の目の前にいることが、本当に、夢のようだ……」
「でも……、消えていませんわ……」
「ええ、そうですね。ですから、尚更、夢でも見ているのかと、錯覚してしまいそうになります……セシル嬢……」
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読んでいただき、ありがとうございます。
Ndiyathemba ukuba uyonwabele esi sihlandlo
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