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Part 3
Е.г 思いはそれぞれ - 07
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確か、カー・サルヴァソンは、セシルにお祝いの言葉を述べてから、あてがわれた部屋に籠りっきりで、部屋から一切顔を出さない――なんていう報告を受けていたセシルだ。
そんな中でも、カリーナはカー・サルヴァソンに会いに行って、邪魔扱いされなかったのだろうか。興味深い話である。
「そうですね。ドレスに合わせ、ヴェイル(ベール) もドレスの丈ほど長いものもあります。全体に刺繍を施したり、裾に刺繡をしたりと色々ですが、金糸や銀糸を加えて豪奢にしてみたり、レースだけのヴェイルにしてみたりと」
そのどれも、この時代では、ものすごい高価な代物になってしまう。超金持ちでない限り、そんな贅沢は滅多にできることではない。
「あぁ……、素晴らしいですわぁ……。後ろ姿が流れるように繊細で優美で、きっと惚れ惚れしてしまいますわぁ……」
夢見心地で、カリーナの顔が緩みに緩みまくってしまっている。
さすが、服作りを本職としているだけはある。ドレスの話でこんなにも盛り上がってしまえるのだから。
「もし、今からデザインを変えた場合、最終的にスタイルとデザインを決定するまで、どのくらいを予定しているのですか?」
「そ、それは……」
一気に現実に引き戻されて、カリーナも顔を引き締める。
「1週間……」
「できるのですか?」
「できます。絶対に、終わらせてみせますっ……」
「では、素材選びは? 私は、いつまでも長くコトレアに居座り続けていることはできませんもの。もう、そろそろ、アトレシア大王国に向かわなくては、問題になってしまいますから」
「わかって、おります……。――お選びになったドレスの生地や素材で、なにか……文句はございませんか……?」
「文句はありません。ああいうドレスのデザインなので、ああいう生地などが似合うんではないのかな、ということで決めたものです」
その口ぶりからすると、特別、セシルが気に入ったからとか、思い入れがあるから今のドレスの素材を選んだようではないらしい。
「一週間でデザインの完成。その頃には、私も、アトレシア大王国に旅立つ準備をしなくてはなりません。ただ、その間――私が素材選びをした場合?」
「……よろしいのですか?」
「それは私の質問です。私が素材選びや、ドレスのデザインに手を貸してしまうと、どうしても、私好みの選択になってしまいかねません。そうなると、アトレシア大王国の習慣とは全くかけ離れた選択になってしまうかもしれませんしね」
「それは……」
問題になってしまうかもしれないが……。
「あの……そうなってしまった場合は、私が、全責任を持ちますので」
「持つのですか?」
「はい……。ですから、どうか、デザインを変えさせてください……」
座ったまま、カリーナが、深く、深く、頭を下げて行った。
「お父さまは、なんて?」
「父には、承諾してもらいました……」
ここ連日、連夜、カリーナは父親であるフレイにまでも土下座する勢いで、ドレスのデザイン変更をお願いしたのだ。
初めは、父親もあまり良い顔をしなかったが、カリーナに意気込みに根負けして、やっと(渋々と)、カリーナの提案に承諾してくれたのだ。
「デザインが変われば、ドレスの縫い上げにも時間がかかってしまうでしょう?」
「その、ことなのですが……。もし、ドレスのデザインを変えて、裾を伸ばす形のマーメイド型か、“フィット・アンド・フレア”型にした場合……、当初のドレス型よりも、かなりドレスの生地を半減で着ると思うのです。ですから、実際の縫い上げ時間も、当初よりは短縮して、その分、ドレスの装飾や刺繍、ベールの方に力を入れることができるのではないかと……」
「なるほど。では、資金の方は?」
「……あの……、王妃陛下より、ウェディングドレスにかかる費用の際限はない、と申し遣っておりますが……」
それは、セシルの全く知らない話である。
王妃陛下であるアデラの好意を受け取って、今の所、アトレシア大王国での婚儀の準備は、全て、アデラに任せきりである。
そうやって、豊穣祭にやって来たギルバートに、アデラがセシル宛の文を預けたから。
セシルは、その行為に大感謝して、ギルバートにお礼の手紙を頼み、その後は、婚儀の準備は全てアデラに任せきりなのである。
それが、どうしたことか、まさか、ウェディングドレスの費用は際限なし、なんて、あまりに思い切った決断を聞かされてしまったものだから、セシルも驚かずにはいられない。
国庫の無駄遣いなんじゃ……。
だが、その質問をするにも、アトレシア大王国は遠く離れた土地にある。アトレシア大王国に到着するまで、気軽に手紙をしたためて尋ねることができるような質問ではない。
「もし、宝石の削り粉や欠片を使用する場合は、新たな費用がかかるかもしれませんが、今の所、こちらの領地に持ち込んだ素材であれば、予算を上乗せすることはないんではないかと……」
「そう、ですか……」
これは、もう、次に王妃であるアデラに会ったら、セシルからもしっかりとお礼を述べておかないといけないだろう。
「では、今日から一週間。がんばってくださいね。期待していますよ」
パッと、カリーナが顔を上げた。
信じられなくて、数秒、ポカンと口を開けたまま身動きもしなかったが、すぐに、カリーナの顔に満面の笑みが浮かび上がる。
「ありがとうございますっ。本当に、ありがとうございますっ! 絶対に、期日は守ってみせますので、ご安心ください」
「では、がんばってくださいね」
「はいっ、ありがとうございますっ!」
どうやら、幸運なことに、セシルは、アトレシア大王国の習慣に乗っ取ったウェディングドレスに執着する必要がなくなり、ほぼ、セシルの趣味で出来上がるようなウェディングドレスを着られることになったらしい。
はっきり言って、セシルの方が、勇気を出してセシルの前にお願いにやって来たカリーナにお礼を言いたいくらいである。
コルセットなし。
ああ、なんて、最高の響きなんだろう。
来年に向けての婚儀の準備は多忙であるけれど、思いはそれぞれに。どの選択も、互いにとって有意義なものになったようである。
万々歳、ってね?
~・~・~・~・~・~・~・~・
読んでいただき、ありがとうございます。ブックマーク・評価★・感想・レビューなどなど応援いただければ励みになります!
Diolch yn fawr iawn am ddarllen y nofel hon
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そんな中でも、カリーナはカー・サルヴァソンに会いに行って、邪魔扱いされなかったのだろうか。興味深い話である。
「そうですね。ドレスに合わせ、ヴェイル(ベール) もドレスの丈ほど長いものもあります。全体に刺繍を施したり、裾に刺繡をしたりと色々ですが、金糸や銀糸を加えて豪奢にしてみたり、レースだけのヴェイルにしてみたりと」
そのどれも、この時代では、ものすごい高価な代物になってしまう。超金持ちでない限り、そんな贅沢は滅多にできることではない。
「あぁ……、素晴らしいですわぁ……。後ろ姿が流れるように繊細で優美で、きっと惚れ惚れしてしまいますわぁ……」
夢見心地で、カリーナの顔が緩みに緩みまくってしまっている。
さすが、服作りを本職としているだけはある。ドレスの話でこんなにも盛り上がってしまえるのだから。
「もし、今からデザインを変えた場合、最終的にスタイルとデザインを決定するまで、どのくらいを予定しているのですか?」
「そ、それは……」
一気に現実に引き戻されて、カリーナも顔を引き締める。
「1週間……」
「できるのですか?」
「できます。絶対に、終わらせてみせますっ……」
「では、素材選びは? 私は、いつまでも長くコトレアに居座り続けていることはできませんもの。もう、そろそろ、アトレシア大王国に向かわなくては、問題になってしまいますから」
「わかって、おります……。――お選びになったドレスの生地や素材で、なにか……文句はございませんか……?」
「文句はありません。ああいうドレスのデザインなので、ああいう生地などが似合うんではないのかな、ということで決めたものです」
その口ぶりからすると、特別、セシルが気に入ったからとか、思い入れがあるから今のドレスの素材を選んだようではないらしい。
「一週間でデザインの完成。その頃には、私も、アトレシア大王国に旅立つ準備をしなくてはなりません。ただ、その間――私が素材選びをした場合?」
「……よろしいのですか?」
「それは私の質問です。私が素材選びや、ドレスのデザインに手を貸してしまうと、どうしても、私好みの選択になってしまいかねません。そうなると、アトレシア大王国の習慣とは全くかけ離れた選択になってしまうかもしれませんしね」
「それは……」
問題になってしまうかもしれないが……。
「あの……そうなってしまった場合は、私が、全責任を持ちますので」
「持つのですか?」
「はい……。ですから、どうか、デザインを変えさせてください……」
座ったまま、カリーナが、深く、深く、頭を下げて行った。
「お父さまは、なんて?」
「父には、承諾してもらいました……」
ここ連日、連夜、カリーナは父親であるフレイにまでも土下座する勢いで、ドレスのデザイン変更をお願いしたのだ。
初めは、父親もあまり良い顔をしなかったが、カリーナに意気込みに根負けして、やっと(渋々と)、カリーナの提案に承諾してくれたのだ。
「デザインが変われば、ドレスの縫い上げにも時間がかかってしまうでしょう?」
「その、ことなのですが……。もし、ドレスのデザインを変えて、裾を伸ばす形のマーメイド型か、“フィット・アンド・フレア”型にした場合……、当初のドレス型よりも、かなりドレスの生地を半減で着ると思うのです。ですから、実際の縫い上げ時間も、当初よりは短縮して、その分、ドレスの装飾や刺繍、ベールの方に力を入れることができるのではないかと……」
「なるほど。では、資金の方は?」
「……あの……、王妃陛下より、ウェディングドレスにかかる費用の際限はない、と申し遣っておりますが……」
それは、セシルの全く知らない話である。
王妃陛下であるアデラの好意を受け取って、今の所、アトレシア大王国での婚儀の準備は、全て、アデラに任せきりである。
そうやって、豊穣祭にやって来たギルバートに、アデラがセシル宛の文を預けたから。
セシルは、その行為に大感謝して、ギルバートにお礼の手紙を頼み、その後は、婚儀の準備は全てアデラに任せきりなのである。
それが、どうしたことか、まさか、ウェディングドレスの費用は際限なし、なんて、あまりに思い切った決断を聞かされてしまったものだから、セシルも驚かずにはいられない。
国庫の無駄遣いなんじゃ……。
だが、その質問をするにも、アトレシア大王国は遠く離れた土地にある。アトレシア大王国に到着するまで、気軽に手紙をしたためて尋ねることができるような質問ではない。
「もし、宝石の削り粉や欠片を使用する場合は、新たな費用がかかるかもしれませんが、今の所、こちらの領地に持ち込んだ素材であれば、予算を上乗せすることはないんではないかと……」
「そう、ですか……」
これは、もう、次に王妃であるアデラに会ったら、セシルからもしっかりとお礼を述べておかないといけないだろう。
「では、今日から一週間。がんばってくださいね。期待していますよ」
パッと、カリーナが顔を上げた。
信じられなくて、数秒、ポカンと口を開けたまま身動きもしなかったが、すぐに、カリーナの顔に満面の笑みが浮かび上がる。
「ありがとうございますっ。本当に、ありがとうございますっ! 絶対に、期日は守ってみせますので、ご安心ください」
「では、がんばってくださいね」
「はいっ、ありがとうございますっ!」
どうやら、幸運なことに、セシルは、アトレシア大王国の習慣に乗っ取ったウェディングドレスに執着する必要がなくなり、ほぼ、セシルの趣味で出来上がるようなウェディングドレスを着られることになったらしい。
はっきり言って、セシルの方が、勇気を出してセシルの前にお願いにやって来たカリーナにお礼を言いたいくらいである。
コルセットなし。
ああ、なんて、最高の響きなんだろう。
来年に向けての婚儀の準備は多忙であるけれど、思いはそれぞれに。どの選択も、互いにとって有意義なものになったようである。
万々歳、ってね?
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