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Part 3
Е.г 思いはそれぞれ - 04
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「なにか問題ですか?」
「いえ、全く問題ではございません。全くの問題も、ございません」
「今からデザインを変えたのでは、時間が足りなくなってしまうのではないのですか?」
「いえっ……! 絶対に、期日は守ってみせます。婚儀まで、絶対に抜かりなくドレスは仕上げますので、どうかっ……! どうか、お願いいたします。ドレスのデザインを変えさせてくださいっ……!」
ははぁ、ははぁ、とでも言えそうなほどの勢いで、すでにカリーナの額は、床のカーペットにこすりつけられているくらいだ。
いやぁ……、お願いごとをするにも、床に土下座したままでは、全く会話もできやしないではないか。
貴族制がどうのと、そんな無駄な行為は抜きにしても、ドレスのデザインを変えたいのなら、普通の会話でちゃんと交渉すれば良いものを。
余程、カリーナの経験からして、貴族の夫人や令嬢達が決めたドレスのデザインを変えることは、命を懸けるような不敬罪並みの行動として扱われるのかは知らないが、デザインを変えたい理由も説明せず、お願いしますっ――だけで、自分の望みを聞いてもらうことができる時なんてあるのだろうか?
「カリーナさん」
「は、はいっ……!」
そして、土下座したまま、きちんと返事をするカリーナだ。
「デザインを変えたいと言うのであれば、まずはその説明をするのが先決だと思うのですが? 理由も判らず、ただ、お願いします――で、お願いを聞く相手は、中々、いるとも思えませんしね」
「そ、それは……」
「まず最初に、顔を上げてください。床に頭をこすりつけて理由もない土下座をしている行為は、私も好きではありません。デザインの交渉をしたいのであれば、まずは、その長椅子に腰をかけ、話はそれからですね。土下座をするなど、自分のプライドも何もかもを全て投げ打ってでもしたいことがあるようですから、その意気込みは、話の中で説明すべきでしょう。土下座などというくだらない行為は、無駄ですからね」
「……えっ……? いえ、あの……、いえ、わかりました……!」
支離滅裂になっているようなカリーナが、ガバっとその場で顔を上げた。
一つ一つの動作がものすごい勢いになっていて、ものすごい状態なので、口を挟まずに黙って控えているフィロの無表情の奥で、随分、面白いものを見た、とでも言えそうな雰囲気が伺える。
「では、掛けてください」
「は、はいっ……。失礼いたします……」
ガバっと、顔を上げた次の行動は、ガバっと、その場でジャンプするかのような勢いで立ち上がり、その勢いのまま、カリーナが執務室の談話用に置いてある長椅子に座っていく――飛びついていった、とでも言えそうなほどの勢いである。
シャキンっと、カリーナが背筋をピンと伸ばして、その場で座った。
緊張しているからの行動からなのか、それとも、普段からのカリーナの行動がこういうものなのか、今のセシルにも判断しがたいものがある。
「フィロ、席を外してね」
「わかりしました。失礼します」
素直に深く一礼をするフィロだったが、珍劇を見るチャンスを見逃してしまうのも、つまらないものである。
一礼をしたフィロが執務室を後にし、セシルが自分の机から離れ、カリーナの座っている対面の椅子に腰を下ろした。
「では、説明してくださいね。なぜ、デザインを変えたくなったのか。どんなデザインに変えたいのか。デザインを変えた後の影響はどんなものか。例えば、ドレスのデザインに合わせた素材選びを終え、パターンの作成も終わっています。確か、すぐに生地の裁断に入る頃だと聞いていましたから、デザインを一からやり直した場合、ドレス作りの仕事の経過、時間、それにかかる費用はどう変わるのか。その程度の説明もできなくては、相手に交渉を持ち掛けることはできませんよ」
親切に説明してくれるセシルを前に、そんな説明は初めて聞いた……とでも言えそうな顔を見せて、カリーナの口が微かに開いたまま唖然としている。
「時間の無駄はできません。さあ、頑張って説明してくださいね」
セシルは仕事の邪魔をされて、怒っているのでもない。ドレスのデザインを変えたいと突然頼まれて、腹を立てているのではない。
なぜかは知らないが、仕立屋の娘であるカリーナに対しても、交渉のノウハウを教えるかのように、親切に説明をしてくれる。
おまけに、セシルの表情が……なんだか、セシルがこの状況を楽しんでいるように見えるのは、カリーナの気のせいなのだろうか。
「あの……あの……」
意気込みだけで執務室にやってきたカリーナは、セシルに指摘された点を思い出して、一気に、舌足らずになってしまった。
かあぁ……と、カリーナの頬が赤く染まる。
普段通りに、ドレスの説明や、デザインの説明などすればいいではないか。もう、何十回、何百回としてきた仕事だ。今更、初めての顧客を相手にするような小娘でもなんでもないのだ。
「あの……」
興奮を抑えるように、カリーナがそこで言葉を止めていた。
スー、ハーと、その肩が上下するほどの深い呼吸をしてみせて、自分を落ち着かせようとしているらしい。
交渉の場で、そんな弱味を見せてしまったのなら、交渉どころか、足元を見られて、ぼったくられること間違いなし。
今日の交渉相手が、他の貴族の令嬢や夫人ではなくて、セシルだったことが、カリーナにとって本当にラッキーだったことだろう。
~・~・~・~・~・~・~・~・
読んでいただき、ありがとうございます。ブックマーク・評価★・感想・レビューなどなど応援いただければ励みになります!
暑くなってきていますが、皆さん、お身体に気を付けてお過ごしください。私の住んでいる場所では、インフルなどが流行っていて、周り中で病人が増えています(とほほ)
بۇ روماننى ئوقۇغانلىقىڭىزغا كۆپ رەھمەت
~・~・~・~・~・~・~・~・
「いえ、全く問題ではございません。全くの問題も、ございません」
「今からデザインを変えたのでは、時間が足りなくなってしまうのではないのですか?」
「いえっ……! 絶対に、期日は守ってみせます。婚儀まで、絶対に抜かりなくドレスは仕上げますので、どうかっ……! どうか、お願いいたします。ドレスのデザインを変えさせてくださいっ……!」
ははぁ、ははぁ、とでも言えそうなほどの勢いで、すでにカリーナの額は、床のカーペットにこすりつけられているくらいだ。
いやぁ……、お願いごとをするにも、床に土下座したままでは、全く会話もできやしないではないか。
貴族制がどうのと、そんな無駄な行為は抜きにしても、ドレスのデザインを変えたいのなら、普通の会話でちゃんと交渉すれば良いものを。
余程、カリーナの経験からして、貴族の夫人や令嬢達が決めたドレスのデザインを変えることは、命を懸けるような不敬罪並みの行動として扱われるのかは知らないが、デザインを変えたい理由も説明せず、お願いしますっ――だけで、自分の望みを聞いてもらうことができる時なんてあるのだろうか?
「カリーナさん」
「は、はいっ……!」
そして、土下座したまま、きちんと返事をするカリーナだ。
「デザインを変えたいと言うのであれば、まずはその説明をするのが先決だと思うのですが? 理由も判らず、ただ、お願いします――で、お願いを聞く相手は、中々、いるとも思えませんしね」
「そ、それは……」
「まず最初に、顔を上げてください。床に頭をこすりつけて理由もない土下座をしている行為は、私も好きではありません。デザインの交渉をしたいのであれば、まずは、その長椅子に腰をかけ、話はそれからですね。土下座をするなど、自分のプライドも何もかもを全て投げ打ってでもしたいことがあるようですから、その意気込みは、話の中で説明すべきでしょう。土下座などというくだらない行為は、無駄ですからね」
「……えっ……? いえ、あの……、いえ、わかりました……!」
支離滅裂になっているようなカリーナが、ガバっとその場で顔を上げた。
一つ一つの動作がものすごい勢いになっていて、ものすごい状態なので、口を挟まずに黙って控えているフィロの無表情の奥で、随分、面白いものを見た、とでも言えそうな雰囲気が伺える。
「では、掛けてください」
「は、はいっ……。失礼いたします……」
ガバっと、顔を上げた次の行動は、ガバっと、その場でジャンプするかのような勢いで立ち上がり、その勢いのまま、カリーナが執務室の談話用に置いてある長椅子に座っていく――飛びついていった、とでも言えそうなほどの勢いである。
シャキンっと、カリーナが背筋をピンと伸ばして、その場で座った。
緊張しているからの行動からなのか、それとも、普段からのカリーナの行動がこういうものなのか、今のセシルにも判断しがたいものがある。
「フィロ、席を外してね」
「わかりしました。失礼します」
素直に深く一礼をするフィロだったが、珍劇を見るチャンスを見逃してしまうのも、つまらないものである。
一礼をしたフィロが執務室を後にし、セシルが自分の机から離れ、カリーナの座っている対面の椅子に腰を下ろした。
「では、説明してくださいね。なぜ、デザインを変えたくなったのか。どんなデザインに変えたいのか。デザインを変えた後の影響はどんなものか。例えば、ドレスのデザインに合わせた素材選びを終え、パターンの作成も終わっています。確か、すぐに生地の裁断に入る頃だと聞いていましたから、デザインを一からやり直した場合、ドレス作りの仕事の経過、時間、それにかかる費用はどう変わるのか。その程度の説明もできなくては、相手に交渉を持ち掛けることはできませんよ」
親切に説明してくれるセシルを前に、そんな説明は初めて聞いた……とでも言えそうな顔を見せて、カリーナの口が微かに開いたまま唖然としている。
「時間の無駄はできません。さあ、頑張って説明してくださいね」
セシルは仕事の邪魔をされて、怒っているのでもない。ドレスのデザインを変えたいと突然頼まれて、腹を立てているのではない。
なぜかは知らないが、仕立屋の娘であるカリーナに対しても、交渉のノウハウを教えるかのように、親切に説明をしてくれる。
おまけに、セシルの表情が……なんだか、セシルがこの状況を楽しんでいるように見えるのは、カリーナの気のせいなのだろうか。
「あの……あの……」
意気込みだけで執務室にやってきたカリーナは、セシルに指摘された点を思い出して、一気に、舌足らずになってしまった。
かあぁ……と、カリーナの頬が赤く染まる。
普段通りに、ドレスの説明や、デザインの説明などすればいいではないか。もう、何十回、何百回としてきた仕事だ。今更、初めての顧客を相手にするような小娘でもなんでもないのだ。
「あの……」
興奮を抑えるように、カリーナがそこで言葉を止めていた。
スー、ハーと、その肩が上下するほどの深い呼吸をしてみせて、自分を落ち着かせようとしているらしい。
交渉の場で、そんな弱味を見せてしまったのなら、交渉どころか、足元を見られて、ぼったくられること間違いなし。
今日の交渉相手が、他の貴族の令嬢や夫人ではなくて、セシルだったことが、カリーナにとって本当にラッキーだったことだろう。
~・~・~・~・~・~・~・~・
読んでいただき、ありがとうございます。ブックマーク・評価★・感想・レビューなどなど応援いただければ励みになります!
暑くなってきていますが、皆さん、お身体に気を付けてお過ごしください。私の住んでいる場所では、インフルなどが流行っていて、周り中で病人が増えています(とほほ)
بۇ روماننى ئوقۇغانلىقىڭىزغا كۆپ رەھمەت
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