506 / 531
Part 3
Е.в 婚儀の準備と言うのは - 04
しおりを挟む
おまけに、十周年記念の式典で着たドレスで、こちらは王立学園卒業祝いのドレスで、新年のドレスで――と、軽く十着ほど、過去の着ていたドレスを持ち込んだのではないだろうか。
普段、セシルの邸内では、外部からの出入りがほとんどない。だから、自慢できる話し相手が現れて、侍女達やお針子達が喜んでいる気持ちは分からなくはない。
それで、セシルも、みんなの“お披露目”を止めはしない――が、侍女達は、嬉しそうに、延々と、セシルのドレスが、ドレスを着たセシルがああだこうだと説明し、その説明が未だに続いている。
仕立屋の主人フレイとその後継ぎの娘カリーナは、その長い説明を聞きながら、一切、口を挟まない。
社交辞令と王宮マナーで、礼儀正しく口を挟まないのかしら? ――と思ったセシルの前で、どうやら、この二人も、見慣れぬデザインのドレスを見て、素直に目を輝かせている。
ええ、ええ、そうですわねえ……。
もちろん、そうですとも。
専門のドレス職人なのだから、自分達の知らないデザインのドレスを見て、その職人意識が触発されないはずがない。
レースが、宝飾が、刺繍が、この襟口が――留まるところを知らない“お披露目”でも、二人とも、実は、かなり興味津々だったのだ。
「こちらの藍のドレスは、マイレディーの正式な領主就任をお祝いしたもので、第三王子殿下がいらしていた時の豊穣祭に、マイレディーが身につけられたものなんですよ。それで、アトレシア大王国の夜会に招待されました時、第三王子殿下からのたってのご希望で、このドレスを、夜会でも身に着けられました」
「まあっ。そうでしたか」
これが、王妃アデラが話していた噂のドレスだったらしい。
一つ指摘するが、ギルバートは、一言だって、そのドレスを着てこい、とセシルに希望したことはない。
「その時に身に着けられていたネックレスは、第三王子殿下から贈られたものなのですよ」
「まあっ」
いやいや……。
そんなところで、いかに、あのギルバートが自分達の主を大切にしているか、など主張――自慢しなくてもいいものを。
おまけに、なぜ、邸の侍女達が、いかにも自慢げにそんな話をするのか……。
困ったものだ……。
「そのネックレスを、見させていただいてもよろしいですか?」
「もちろんでございます。こちらにご用意しておきました」
準備万端でやって来ていたオルガだった。
もう一人の侍女に手伝ってもらい、薄い箱を開けて、中身を見せるように、二人の前にその箱を並べていく。
「まあぁ……っ……!」
「おぉ……!」
ネックレスを見ただけで、二人は絶句したように、言葉につまる。
きらきらと、ダイヤモンドが並べられた中央にある大きなサファイヤ。そして、繊細な模様が、滑らかに首元を飾るように、精巧な技法で造られたネックレス。
きっと、希代一とも呼べる宝石彫刻師が手掛けたと言っても過言ではない、特注の逸品である。
王族が受け継いでいく、王家の宝石類と肩を並べるほどの、重厚な高級品だった。
「――ねえ、お父さんっ。これほど素晴らしいネックレスだもの。このネックレスに合わせて、ドレスも他のアクセサリーも、仕立てたらいいんじゃないかしら?」
「確かにね、それはいい考えだ」
興奮している二人は、ハッとして、その顔を上げる。
ドレスのデザインを決めるのは、セシルなのだ。仕立屋の二人ではない。
「ええ、その方向でお願いしますね」
だが、セシルは全く気分を害した様子もなく、静かで落ち着いた様子のままだ。
その答えを聞き、二人の顔も嬉しそうに綻んでいく。
「わかりましたっ」
「――失礼でございますが、こちらのネックレスは、カー・サルヴァソンの作品でいらっしゃいますか?」
「すみません。私は、王国での宝石彫刻師の方を存じ上げませんもので」
「あっ、いえ……」
隣国にいるセシルが、アトレシア大王国の宝石彫刻師の名など知らないのは、当然である。
「申し訳ございません……」
「いいえ、お気になさらずに。カー・サルヴァソンというお方は?」
「王国一の宝石彫刻師として名高い技術師です。まだ若い彫刻師なのですがね、独創的なデザインが多く、王都内でも、若いご令嬢たちに、とても人気がある宝石商です」
「まあ……、そうでしたの……」
まさか、あのギルバートが、そんな有名な宝石彫刻師から、セシルのネックレスを作らせたのではないだろうに……。
さすがに、お礼としてどうぞ――なんていう次元のネックレスではないではないか。
「もし、ご迷惑でなければ、確認することもできますが?」
「刻印でも刻まれているので?」
「ええ。確か……サルヴァソンの“S”を取って、それに、王国の象徴である剣を絡ませていた、というような話を耳にしますね」
「そうですか。では、お願いします」
「はい。失礼いたします」
落とさないよう、細心の注意を払い、フレイが薄い箱を手にとって、宝石に触れないよう、包まれている光沢のある滑らかな赤い布で、少しネックレスを持ち上げた。
留め金の部分を覗き込むようにして、
「――ああ、ありました。このネックレスですと、“S”が横に倒されていますが、“S”が剣にからまるような印が刻まれておりますね」
「そう、ですか……」
信じられないことである……!
あのギルバートは、いくら――セシルに惹かれていたからといっても、王国一とまで名を馳せる宝石彫刻師を選んで、わざわざ、セシルの為にネックレスを作らせたなど……!
今は、セシルはギルバートと婚約したから、一応、そんな高価な贈り物ももらっていいのかもしれない(セシルは気が重いのでやめて欲しい……) が、以前は、ただの知り合いである。
~・~・~・~・~・~・~・~・
読んでいただき、ありがとうございます。ブックマーク・評価★・感想・レビューなどなど応援いただければ励みになります!
Fakamālō atu ʻi hoʻo lau e tohí ni.
~・~・~・~・~・~・~・~・
普段、セシルの邸内では、外部からの出入りがほとんどない。だから、自慢できる話し相手が現れて、侍女達やお針子達が喜んでいる気持ちは分からなくはない。
それで、セシルも、みんなの“お披露目”を止めはしない――が、侍女達は、嬉しそうに、延々と、セシルのドレスが、ドレスを着たセシルがああだこうだと説明し、その説明が未だに続いている。
仕立屋の主人フレイとその後継ぎの娘カリーナは、その長い説明を聞きながら、一切、口を挟まない。
社交辞令と王宮マナーで、礼儀正しく口を挟まないのかしら? ――と思ったセシルの前で、どうやら、この二人も、見慣れぬデザインのドレスを見て、素直に目を輝かせている。
ええ、ええ、そうですわねえ……。
もちろん、そうですとも。
専門のドレス職人なのだから、自分達の知らないデザインのドレスを見て、その職人意識が触発されないはずがない。
レースが、宝飾が、刺繍が、この襟口が――留まるところを知らない“お披露目”でも、二人とも、実は、かなり興味津々だったのだ。
「こちらの藍のドレスは、マイレディーの正式な領主就任をお祝いしたもので、第三王子殿下がいらしていた時の豊穣祭に、マイレディーが身につけられたものなんですよ。それで、アトレシア大王国の夜会に招待されました時、第三王子殿下からのたってのご希望で、このドレスを、夜会でも身に着けられました」
「まあっ。そうでしたか」
これが、王妃アデラが話していた噂のドレスだったらしい。
一つ指摘するが、ギルバートは、一言だって、そのドレスを着てこい、とセシルに希望したことはない。
「その時に身に着けられていたネックレスは、第三王子殿下から贈られたものなのですよ」
「まあっ」
いやいや……。
そんなところで、いかに、あのギルバートが自分達の主を大切にしているか、など主張――自慢しなくてもいいものを。
おまけに、なぜ、邸の侍女達が、いかにも自慢げにそんな話をするのか……。
困ったものだ……。
「そのネックレスを、見させていただいてもよろしいですか?」
「もちろんでございます。こちらにご用意しておきました」
準備万端でやって来ていたオルガだった。
もう一人の侍女に手伝ってもらい、薄い箱を開けて、中身を見せるように、二人の前にその箱を並べていく。
「まあぁ……っ……!」
「おぉ……!」
ネックレスを見ただけで、二人は絶句したように、言葉につまる。
きらきらと、ダイヤモンドが並べられた中央にある大きなサファイヤ。そして、繊細な模様が、滑らかに首元を飾るように、精巧な技法で造られたネックレス。
きっと、希代一とも呼べる宝石彫刻師が手掛けたと言っても過言ではない、特注の逸品である。
王族が受け継いでいく、王家の宝石類と肩を並べるほどの、重厚な高級品だった。
「――ねえ、お父さんっ。これほど素晴らしいネックレスだもの。このネックレスに合わせて、ドレスも他のアクセサリーも、仕立てたらいいんじゃないかしら?」
「確かにね、それはいい考えだ」
興奮している二人は、ハッとして、その顔を上げる。
ドレスのデザインを決めるのは、セシルなのだ。仕立屋の二人ではない。
「ええ、その方向でお願いしますね」
だが、セシルは全く気分を害した様子もなく、静かで落ち着いた様子のままだ。
その答えを聞き、二人の顔も嬉しそうに綻んでいく。
「わかりましたっ」
「――失礼でございますが、こちらのネックレスは、カー・サルヴァソンの作品でいらっしゃいますか?」
「すみません。私は、王国での宝石彫刻師の方を存じ上げませんもので」
「あっ、いえ……」
隣国にいるセシルが、アトレシア大王国の宝石彫刻師の名など知らないのは、当然である。
「申し訳ございません……」
「いいえ、お気になさらずに。カー・サルヴァソンというお方は?」
「王国一の宝石彫刻師として名高い技術師です。まだ若い彫刻師なのですがね、独創的なデザインが多く、王都内でも、若いご令嬢たちに、とても人気がある宝石商です」
「まあ……、そうでしたの……」
まさか、あのギルバートが、そんな有名な宝石彫刻師から、セシルのネックレスを作らせたのではないだろうに……。
さすがに、お礼としてどうぞ――なんていう次元のネックレスではないではないか。
「もし、ご迷惑でなければ、確認することもできますが?」
「刻印でも刻まれているので?」
「ええ。確か……サルヴァソンの“S”を取って、それに、王国の象徴である剣を絡ませていた、というような話を耳にしますね」
「そうですか。では、お願いします」
「はい。失礼いたします」
落とさないよう、細心の注意を払い、フレイが薄い箱を手にとって、宝石に触れないよう、包まれている光沢のある滑らかな赤い布で、少しネックレスを持ち上げた。
留め金の部分を覗き込むようにして、
「――ああ、ありました。このネックレスですと、“S”が横に倒されていますが、“S”が剣にからまるような印が刻まれておりますね」
「そう、ですか……」
信じられないことである……!
あのギルバートは、いくら――セシルに惹かれていたからといっても、王国一とまで名を馳せる宝石彫刻師を選んで、わざわざ、セシルの為にネックレスを作らせたなど……!
今は、セシルはギルバートと婚約したから、一応、そんな高価な贈り物ももらっていいのかもしれない(セシルは気が重いのでやめて欲しい……) が、以前は、ただの知り合いである。
~・~・~・~・~・~・~・~・
読んでいただき、ありがとうございます。ブックマーク・評価★・感想・レビューなどなど応援いただければ励みになります!
Fakamālō atu ʻi hoʻo lau e tohí ni.
~・~・~・~・~・~・~・~・
2
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~
saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。
前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。
国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。
自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。
幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。
自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。
前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。
※小説家になろう様でも公開しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
新婚早々、愛人紹介って何事ですか?
ネコ
恋愛
貴方の妻は私なのに、初夜の場で見知らぬ美女を伴い「彼女も大事な人だ」と堂々宣言する夫。
家名のため黙って耐えてきたけれど、嘲笑う彼らを見て気がついた。
「結婚を続ける価値、どこにもないわ」
一瞬にしてすべてがどうでもよくなる。
はいはい、どうぞご自由に。私は出て行きますから。
けれど捨てられたはずの私が、誰よりも高い地位の殿方たちから注目を集めることになるなんて。
笑顔で見返してあげますわ、卑劣な夫も愛人も、私を踏みつけたすべての者たちを。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
三年待ったのに愛は帰らず、出奔したら何故か追いかけられています
ネコ
恋愛
リーゼルは三年間、婚約者セドリックの冷淡な態度に耐え続けてきたが、ついに愛を感じられなくなり、婚約解消を告げて領地を後にする。ところが、なぜかセドリックは彼女を追って執拗に行方を探り始める。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
[完結連載]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜
コマメコノカ@大人の女性向け
恋愛
王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。
そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ある公爵令嬢の生涯
ユウ
恋愛
伯爵令嬢のエステルには妹がいた。
妖精姫と呼ばれ両親からも愛され周りからも無条件に愛される。
婚約者までも妹に奪われ婚約者を譲るように言われてしまう。
そして最後には妹を陥れようとした罪で断罪されてしまうが…
気づくとエステルに転生していた。
再び前世繰り返すことになると思いきや。
エステルは家族を見限り自立を決意するのだが…
***
タイトルを変更しました!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる