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Part 3
* Е.в 婚儀の準備と言うのは *
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「ドレスの採寸には、やはり、セシルさんが必要ですの……。ご多忙だと存じておりますが――さすがに、来月に戻られてからドレスを仕立てるのでは、無理がございまして……」
珍しく、アデラ自身がアルデーラの執務室にやって来て、まず初めに、そう説明する。
「無理があるのか?」
「ええ……」
それ以上、深くは説明しないが、アデラが懸念しているであろう問題は、アルデーラも、ある程度、理解できていた。
王族の婚儀に及ぶドレスも、身に着けるアクセサリーも、細心の注意を払い、王家の恥ともならず、風習にそぐわず、一から十まで詳細を極めているのだ。
だから、マナーやエチケットの再教育は、ある程度、時間が押して、セシル本人が王宮に到着してからできることでも、ドレスの仕立ては話が違う。
「それなら、仕立屋や、お針子を、コトレアの領地に送るしかありませんね」
レイフが、簡単に、その結論に締めくくっていた。
「できますの……?」
「この場合、できるできないの問題ではないですからね。来年の婚儀までにドレスが出来上がらなければ、王国中の笑い者もいいところだ。今更、婚儀の日程を変更することはできませんからね」
「そうですけれども……」
「いや、今回は仕方がないだろう。コトレア領には早馬を送らせる。仕立屋とお針子には、明日、出発できる準備を整えておくよう、指示しておきなさい」
「早馬の――返答をお待ちにならないのですか?!」
「互いの返答の行き来を待っている間、時間を無駄にしてしまう。早馬を飛ばして、先触を立てておけば、仕立屋が領地に向かうことを連絡できるだろう。仕立屋には、一度で、全部、済ませることができるよう、その指示を促すように。時間が限られているのなら、余計に、何度も行き来はできない」
「わかりましたわ。そのように指示をしておきます」
アルデーラが、うむ、と頷き、その視線をレイフに向ける。
「ヘインズとギルバートを召集しろ」
「ギルバートさんに、護衛を?」
「いや。さすがに、ギルバートをそこまでコトレアに送りつけていたら、ギルバートの仕事に支障がでるどころか、ヘインズから文句が飛んでくるだろう」
「ふふふ、そうですわね」
きっと、ギルバートなら、多忙な中でもセシルに会える機会があるなら、喜んでコトレアの領地に向かうことだろう――が、豊穣祭に参加していた(余計な問題も一緒になって) ギルバートの仕事が押しているので、今回は、ギルバートは王宮でお留守番である。
「お仕事のお邪魔をいたしました。わたくしは、失礼させていただきます」
ドレスの裾を持ち上げ、丁寧なお辞儀を済ますと、アデラは、静々と、執務室を後にする。
「私も、コトレアの領地に戻りたいですねえぇ……」
ああ、羨ましい……と、言わんばかりのレイフの態度に、アルデーラも顔をしかめてしまう。
「お前は、仕事が残っている。しっかり働きなさい」
セシルが領地の年末調整などで多忙なら、アルデーラだって、王国の年末調整などで多忙なのである。
「婚儀を終えて、休暇、など?」
「それはない」
「なぜです?」
「一体、どこの国に、宰相自らが仕事をほっぽり出して、フラフラと出かける、などという珍事があるのだ?」
「この王国が最初になるでしょう」
「いや、ならない。しっかり仕事をしなさい」
「こき使いすぎではありませんか?」
「それはない」
まったく、この弟なら、宰相の仕事をホッポリ出して、本気で、コトレアの領地に遊びに行きそうである。
* * *
「皆さん、コトレア領にようこそいらっしゃいました。私が、コトレア領領主、セシル・ヘルバートです」
アトレシア大王国から送られてきた早馬の連絡通り、王家から派遣された仕立屋とお針子達が、セシルの邸の客間で丁寧に頭を下げている。
「頭を上げてください」
それで、全員が静かに体を起こし、顔を上げていくと、その視界の前で、領主であるセシルが、姿勢よく静かに立っていた。
セシルは髪の毛を後ろで一つにまとめて、スッキリとしたその場に、その小さな顔や、細い顎の輪郭が強調され、ゆっくりと瞬く深い藍の瞳に落ちるまつ毛の影が優しく揺れていて、儚げな麗しい美女が立っている。
噂通りで――話に伺っていた通りのセシルの容姿を見て、若いお針子達も、内緒で、ほうぅ……と、感嘆の溜息を漏らしてしまう。
だが、セシルの格好は、儚げなご令嬢をイメージする様相とは全く異なっていた。
襟の着いたシャツの上にベストを着ていて、下はズボンに長いブーツである。
男装しているの? ――と思わず、そんなことがお針子達の頭に浮かんでいたなど、セシルは露にも思わないだろう。
「残念ながら、私は、今日は仕事が押していまして、時間を取ることができません。ですから、その間、皆さんは、たった今、領地に着いたばかりですが、領地の観光をしてもらいましょう」
「えっ……?!」
さすがに、その提案には、全員がビックリである。
「あの、ですが……」
「大丈夫です。明日から、ドレスの仕立てをしっかり始めましょう。私も、できる限り、時間の調整をしますので」
「は、はい……」
「皆さん、お疲れかと思いますが、今は丁度良い時間ですので、私の邸の者が、皆さんを領地に案内しますね」
「あの、ですが……よろしいのでしょうか……?」
「ええ、構いません。皆さんは、食事と、ある程度の買い物ができる程度のお金だけ持ち歩き、後は、自分で必要な小物程度の準備をしてくださいね。一時間後、皆さんを連れて、領地の案内をさせますから」
「わかりました。ありがとうございます……」
まさか、ドレスの仕立てという重要な仕事の為にやってきた全員に、その到着当日から、“観光”などという休暇がもらえるなど、予想もしていない展開だ。
「では、改めて、コトレア領にようこそ」
~・~・~・~・~・~・~・~・
読んでいただき、ありがとうございます。ブックマーク・評価★・感想・レビューなどなど応援いただければ励みになります!
ขอบคุณที่อ่านหนังสือเล่มนี้
~・~・~・~・~・~・~・~・
珍しく、アデラ自身がアルデーラの執務室にやって来て、まず初めに、そう説明する。
「無理があるのか?」
「ええ……」
それ以上、深くは説明しないが、アデラが懸念しているであろう問題は、アルデーラも、ある程度、理解できていた。
王族の婚儀に及ぶドレスも、身に着けるアクセサリーも、細心の注意を払い、王家の恥ともならず、風習にそぐわず、一から十まで詳細を極めているのだ。
だから、マナーやエチケットの再教育は、ある程度、時間が押して、セシル本人が王宮に到着してからできることでも、ドレスの仕立ては話が違う。
「それなら、仕立屋や、お針子を、コトレアの領地に送るしかありませんね」
レイフが、簡単に、その結論に締めくくっていた。
「できますの……?」
「この場合、できるできないの問題ではないですからね。来年の婚儀までにドレスが出来上がらなければ、王国中の笑い者もいいところだ。今更、婚儀の日程を変更することはできませんからね」
「そうですけれども……」
「いや、今回は仕方がないだろう。コトレア領には早馬を送らせる。仕立屋とお針子には、明日、出発できる準備を整えておくよう、指示しておきなさい」
「早馬の――返答をお待ちにならないのですか?!」
「互いの返答の行き来を待っている間、時間を無駄にしてしまう。早馬を飛ばして、先触を立てておけば、仕立屋が領地に向かうことを連絡できるだろう。仕立屋には、一度で、全部、済ませることができるよう、その指示を促すように。時間が限られているのなら、余計に、何度も行き来はできない」
「わかりましたわ。そのように指示をしておきます」
アルデーラが、うむ、と頷き、その視線をレイフに向ける。
「ヘインズとギルバートを召集しろ」
「ギルバートさんに、護衛を?」
「いや。さすがに、ギルバートをそこまでコトレアに送りつけていたら、ギルバートの仕事に支障がでるどころか、ヘインズから文句が飛んでくるだろう」
「ふふふ、そうですわね」
きっと、ギルバートなら、多忙な中でもセシルに会える機会があるなら、喜んでコトレアの領地に向かうことだろう――が、豊穣祭に参加していた(余計な問題も一緒になって) ギルバートの仕事が押しているので、今回は、ギルバートは王宮でお留守番である。
「お仕事のお邪魔をいたしました。わたくしは、失礼させていただきます」
ドレスの裾を持ち上げ、丁寧なお辞儀を済ますと、アデラは、静々と、執務室を後にする。
「私も、コトレアの領地に戻りたいですねえぇ……」
ああ、羨ましい……と、言わんばかりのレイフの態度に、アルデーラも顔をしかめてしまう。
「お前は、仕事が残っている。しっかり働きなさい」
セシルが領地の年末調整などで多忙なら、アルデーラだって、王国の年末調整などで多忙なのである。
「婚儀を終えて、休暇、など?」
「それはない」
「なぜです?」
「一体、どこの国に、宰相自らが仕事をほっぽり出して、フラフラと出かける、などという珍事があるのだ?」
「この王国が最初になるでしょう」
「いや、ならない。しっかり仕事をしなさい」
「こき使いすぎではありませんか?」
「それはない」
まったく、この弟なら、宰相の仕事をホッポリ出して、本気で、コトレアの領地に遊びに行きそうである。
* * *
「皆さん、コトレア領にようこそいらっしゃいました。私が、コトレア領領主、セシル・ヘルバートです」
アトレシア大王国から送られてきた早馬の連絡通り、王家から派遣された仕立屋とお針子達が、セシルの邸の客間で丁寧に頭を下げている。
「頭を上げてください」
それで、全員が静かに体を起こし、顔を上げていくと、その視界の前で、領主であるセシルが、姿勢よく静かに立っていた。
セシルは髪の毛を後ろで一つにまとめて、スッキリとしたその場に、その小さな顔や、細い顎の輪郭が強調され、ゆっくりと瞬く深い藍の瞳に落ちるまつ毛の影が優しく揺れていて、儚げな麗しい美女が立っている。
噂通りで――話に伺っていた通りのセシルの容姿を見て、若いお針子達も、内緒で、ほうぅ……と、感嘆の溜息を漏らしてしまう。
だが、セシルの格好は、儚げなご令嬢をイメージする様相とは全く異なっていた。
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「えっ……?!」
さすがに、その提案には、全員がビックリである。
「あの、ですが……」
「大丈夫です。明日から、ドレスの仕立てをしっかり始めましょう。私も、できる限り、時間の調整をしますので」
「は、はい……」
「皆さん、お疲れかと思いますが、今は丁度良い時間ですので、私の邸の者が、皆さんを領地に案内しますね」
「あの、ですが……よろしいのでしょうか……?」
「ええ、構いません。皆さんは、食事と、ある程度の買い物ができる程度のお金だけ持ち歩き、後は、自分で必要な小物程度の準備をしてくださいね。一時間後、皆さんを連れて、領地の案内をさせますから」
「わかりました。ありがとうございます……」
まさか、ドレスの仕立てという重要な仕事の為にやってきた全員に、その到着当日から、“観光”などという休暇がもらえるなど、予想もしていない展開だ。
「では、改めて、コトレア領にようこそ」
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