奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)

Anastasia

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Part 3

* Е. б やっと、ただいま *

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 賑やかで楽しかった豊穣祭と領地の視察を終えて、アトレシア大王国の一行は帰路へと向かう。

 最後のお別れを済まし、セシルに見送られ、アトレシア大王国の一行はコトレア領を後にした。

 今回は、王子殿下達のお忍びとあって、護衛の数も並ではない。王子殿下達が乗った馬車が一台。ガルブランソン侯爵家のリドウィナと付き人が乗っている馬車が一台。そして全員の荷物を積んだ大きな荷台が一台。

 中継点のコロッカル領に残して来た侍従や侍女達が乗った馬車が二台。
 お忍びとは言っても、ものすごい数の行列だった。

 それだけに、町々を通り過ぎていく際には、その地の領民達だって、興味心で行列の通過を覗き見しにくるような混雑だって見られたものだ。

 なにしろ、王国騎士団の騎士達が揃った行列など、一生かかっても見られるものではない。それで、賑わった場所の道を空ける為に、先行隊として飛ばされていた騎士達は、領民達が道を塞がないように押し留めていなくてはならない。

 今回は、本当に――余計なお荷物のせいで、王国騎士団だって、護衛の任務に通常の倍以上の苦労をさせられたものだ……。

 コトレアにいる間中、幼いオスミンは毎日がはしゃいでいて、夜が遅かったり、朝が早かったりと、不規則な生活時間もみられないではなかった。

 それで、レイフとオスミンが乗り込んだ馬車の中には、領地で開発した馬車に乗せれる置台をセシルは貸してあげたのだ。両側の椅子の間に置ける幅で、その上にクッションでもおけば、椅子に座っている人は、ゆったりと足を伸ばせるという方法だ。

 オスミンなら、王都の帰路で、きっと疲れ切って眠りに落ちてしまうだろう、とのセシルの予想で、その置台とクッションを貸していたのだ。

 セシルの予想通り、馬車の移動が始まると、オスミンは椅子と置台の上に横になり、爆睡だったそうな。

 馬車が揺れて、オスミンが置台から落ちそうになった時は、レイフが行儀悪く足でオスミンを押さえていたらしいが、まあ……蹴とばしていたのではないようだから、ギルバートもその点は深く指摘していない……。

 実は、昨夜――ギルバートはちょっとした秘密をもらった。
 セシルとギルバートだけの、二人だけの秘密だ。


「どうか、あまり無理をなさらないでくださいね……。王国でお待ちしております……」


 今度の時は、次の一月ひとつきもせずにセシルに会えることになるのに、それでも、ギルバートは別れ際、セシルと離れがたそうに意気消沈している。

 セシルがアトレシア大王国にやって来たら、婚儀の準備に取り掛かり、セシルだって王宮のギルバートの館で身を寄せることになる。

 毎日、会いに行ける場所にセシルがいることになる。
 その事実は判っていても、今回は、いつも以上に長く、セシルと一緒にいられただけに、別れを惜しんでしまうギルバートだった。

 あまりに気落ちしているギルバートの様子を見て、セシルも、つい、笑わずにはいられなかった。
 いつもは、キリリと凛々しい騎士団の副団長サマなのに、セシルの前にいるギルバートは、しょぼくれた子犬のような様相なのだ。

 セシルとギルバートの二人きりなので、セシルも、そこはちょっとだけ大サービスをあげることにしたのだ。

 一歩、ギルバートの前に近寄って、少しだけ背伸びしたセシルの――柔らかな唇が、ちゅっと、ギルバートの唇に落ちていた。

 驚いたギルバートが、目をまん丸くする。でも、そこから動きはしなかった。驚いていたのに、体は後ろに飛び下がったのではなかったのだ。

 見る見る間に、ギルバートの顔が緩み、少し頬を赤らめたギルバートが満面の笑みをみせた。

 きらきら、きらきら……と、あまりに眩しい笑顔を投げられて、セシルの方がくらくらと眩暈めまいがしてきそうだった。

 輝かしいほどの笑顔はものすごい破壊力で、自覚していないだろうギルバートは、セシルを真似たように、少し前に屈んで来た。

 ちゅっと、ギルバートの唇も、セシルの唇に下りていた。

 そうやって、二人だけの別れを済ませた内緒の時間である。

 昨夜の光景を思い出して、アトレシア大王国に戻る帰路で、ギルバートが何度もにやけそうになっていたのは言うまでもない。




「ははうえっ!」

 アトレシア大王国の王宮に到着すると、馬車から降りた場所には、使用人全員がずらりと並び、一糸乱れることなく頭を下げてお辞儀している。
 長い旅路だった。やっと、王宮に帰って来た。

「オスミン」

 その中で、母親の姿を見つけて嬉しそうに駆け寄って来る幼い息子を見て、王妃であるアデラが嬉しそうに微笑んだ。

「にーたまっ!」
「あっ、イングラム!」

 母親の前に駆け寄っていくつもりだったオスミンは、まず先に、自分の方に駆け寄ってきた弟に抱き着いた。

 ガバっと、勢いをつけてイングラムが直進してくるので、それを受け止めたオスミンだって後ろにひっくり返りそうになる。

「相変わらずだな」

 オスミンのすぐ後ろにやって来ていたギルバートが、咄嗟に、二人の子供を支えてやる。

「あっ、おじうえ」
「ほら、転んでしまうだろう? 王妃にご挨拶しなさい」

「はいっ。ははうえ、ただいま、もどりましたっ。ぼくは、たくさん、しさつをしたんです。ごはんも、たくさんたべました! ほうじょうさいも、ひとがいっぱいいて、『しゅくふく』ももらったんです」

 挨拶と一緒に、ものすごい勢いでオスミンが喋り出してしまい、アデラも目を丸くする。




~・~・~・~・ 後書き ~・~・~・~・
体調不良で投稿が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。
まだ、少し体調が戻っておらず、次の投稿は、来週の金曜日、17日を予定しております。

読んでいただきありがとうございました。ブックマーク・評価★・感想・レビューなどなど応援いただければ励みになります! どうぞよろしくお願いいたします。

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