494 / 531
Part 3
* Е. б やっと、ただいま *
しおりを挟む
賑やかで楽しかった豊穣祭と領地の視察を終えて、アトレシア大王国の一行は帰路へと向かう。
最後のお別れを済まし、セシルに見送られ、アトレシア大王国の一行はコトレア領を後にした。
今回は、王子殿下達のお忍びとあって、護衛の数も並ではない。王子殿下達が乗った馬車が一台。ガルブランソン侯爵家のリドウィナと付き人が乗っている馬車が一台。そして全員の荷物を積んだ大きな荷台が一台。
中継点のコロッカル領に残して来た侍従や侍女達が乗った馬車が二台。
お忍びとは言っても、ものすごい数の行列だった。
それだけに、町々を通り過ぎていく際には、その地の領民達だって、興味心で行列の通過を覗き見しにくるような混雑だって見られたものだ。
なにしろ、王国騎士団の騎士達が揃った行列など、一生かかっても見られるものではない。それで、賑わった場所の道を空ける為に、先行隊として飛ばされていた騎士達は、領民達が道を塞がないように押し留めていなくてはならない。
今回は、本当に――余計なお荷物のせいで、王国騎士団だって、護衛の任務に通常の倍以上の苦労をさせられたものだ……。
コトレアにいる間中、幼いオスミンは毎日がはしゃいでいて、夜が遅かったり、朝が早かったりと、不規則な生活時間もみられないではなかった。
それで、レイフとオスミンが乗り込んだ馬車の中には、領地で開発した馬車に乗せれる置台をセシルは貸してあげたのだ。両側の椅子の間に置ける幅で、その上にクッションでもおけば、椅子に座っている人は、ゆったりと足を伸ばせるという方法だ。
オスミンなら、王都の帰路で、きっと疲れ切って眠りに落ちてしまうだろう、とのセシルの予想で、その置台とクッションを貸していたのだ。
セシルの予想通り、馬車の移動が始まると、オスミンは椅子と置台の上に横になり、爆睡だったそうな。
馬車が揺れて、オスミンが置台から落ちそうになった時は、レイフが行儀悪く足でオスミンを押さえていたらしいが、まあ……蹴とばしていたのではないようだから、ギルバートもその点は深く指摘していない……。
実は、昨夜――ギルバートはちょっとした秘密をもらった。
セシルとギルバートだけの、二人だけの秘密だ。
「どうか、あまり無理をなさらないでくださいね……。王国でお待ちしております……」
今度の時は、次の一月もせずにセシルに会えることになるのに、それでも、ギルバートは別れ際、セシルと離れがたそうに意気消沈している。
セシルがアトレシア大王国にやって来たら、婚儀の準備に取り掛かり、セシルだって王宮のギルバートの館で身を寄せることになる。
毎日、会いに行ける場所にセシルがいることになる。
その事実は判っていても、今回は、いつも以上に長く、セシルと一緒にいられただけに、別れを惜しんでしまうギルバートだった。
あまりに気落ちしているギルバートの様子を見て、セシルも、つい、笑わずにはいられなかった。
いつもは、キリリと凛々しい騎士団の副団長サマなのに、セシルの前にいるギルバートは、しょぼくれた子犬のような様相なのだ。
セシルとギルバートの二人きりなので、セシルも、そこはちょっとだけ大サービスをあげることにしたのだ。
一歩、ギルバートの前に近寄って、少しだけ背伸びしたセシルの――柔らかな唇が、ちゅっと、ギルバートの唇に落ちていた。
驚いたギルバートが、目をまん丸くする。でも、そこから動きはしなかった。驚いていたのに、体は後ろに飛び下がったのではなかったのだ。
見る見る間に、ギルバートの顔が緩み、少し頬を赤らめたギルバートが満面の笑みをみせた。
きらきら、きらきら……と、あまりに眩しい笑顔を投げられて、セシルの方がくらくらと眩暈がしてきそうだった。
輝かしいほどの笑顔はものすごい破壊力で、自覚していないだろうギルバートは、セシルを真似たように、少し前に屈んで来た。
ちゅっと、ギルバートの唇も、セシルの唇に下りていた。
そうやって、二人だけの別れを済ませた内緒の時間である。
昨夜の光景を思い出して、アトレシア大王国に戻る帰路で、ギルバートが何度もにやけそうになっていたのは言うまでもない。
「ははうえっ!」
アトレシア大王国の王宮に到着すると、馬車から降りた場所には、使用人全員がずらりと並び、一糸乱れることなく頭を下げてお辞儀している。
長い旅路だった。やっと、王宮に帰って来た。
「オスミン」
その中で、母親の姿を見つけて嬉しそうに駆け寄って来る幼い息子を見て、王妃であるアデラが嬉しそうに微笑んだ。
「にーたまっ!」
「あっ、イングラム!」
母親の前に駆け寄っていくつもりだったオスミンは、まず先に、自分の方に駆け寄ってきた弟に抱き着いた。
ガバっと、勢いをつけてイングラムが直進してくるので、それを受け止めたオスミンだって後ろにひっくり返りそうになる。
「相変わらずだな」
オスミンのすぐ後ろにやって来ていたギルバートが、咄嗟に、二人の子供を支えてやる。
「あっ、おじうえ」
「ほら、転んでしまうだろう? 王妃にご挨拶しなさい」
「はいっ。ははうえ、ただいま、もどりましたっ。ぼくは、たくさん、しさつをしたんです。ごはんも、たくさんたべました! ほうじょうさいも、ひとがいっぱいいて、『しゅくふく』ももらったんです」
挨拶と一緒に、ものすごい勢いでオスミンが喋り出してしまい、アデラも目を丸くする。
~・~・~・~・ 後書き ~・~・~・~・
体調不良で投稿が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。
まだ、少し体調が戻っておらず、次の投稿は、来週の金曜日、17日を予定しております。
読んでいただきありがとうございました。ブックマーク・評価★・感想・レビューなどなど応援いただければ励みになります! どうぞよろしくお願いいたします。
Tack för att du läste den här boken
~・~・~・~・~・~・~・~・
最後のお別れを済まし、セシルに見送られ、アトレシア大王国の一行はコトレア領を後にした。
今回は、王子殿下達のお忍びとあって、護衛の数も並ではない。王子殿下達が乗った馬車が一台。ガルブランソン侯爵家のリドウィナと付き人が乗っている馬車が一台。そして全員の荷物を積んだ大きな荷台が一台。
中継点のコロッカル領に残して来た侍従や侍女達が乗った馬車が二台。
お忍びとは言っても、ものすごい数の行列だった。
それだけに、町々を通り過ぎていく際には、その地の領民達だって、興味心で行列の通過を覗き見しにくるような混雑だって見られたものだ。
なにしろ、王国騎士団の騎士達が揃った行列など、一生かかっても見られるものではない。それで、賑わった場所の道を空ける為に、先行隊として飛ばされていた騎士達は、領民達が道を塞がないように押し留めていなくてはならない。
今回は、本当に――余計なお荷物のせいで、王国騎士団だって、護衛の任務に通常の倍以上の苦労をさせられたものだ……。
コトレアにいる間中、幼いオスミンは毎日がはしゃいでいて、夜が遅かったり、朝が早かったりと、不規則な生活時間もみられないではなかった。
それで、レイフとオスミンが乗り込んだ馬車の中には、領地で開発した馬車に乗せれる置台をセシルは貸してあげたのだ。両側の椅子の間に置ける幅で、その上にクッションでもおけば、椅子に座っている人は、ゆったりと足を伸ばせるという方法だ。
オスミンなら、王都の帰路で、きっと疲れ切って眠りに落ちてしまうだろう、とのセシルの予想で、その置台とクッションを貸していたのだ。
セシルの予想通り、馬車の移動が始まると、オスミンは椅子と置台の上に横になり、爆睡だったそうな。
馬車が揺れて、オスミンが置台から落ちそうになった時は、レイフが行儀悪く足でオスミンを押さえていたらしいが、まあ……蹴とばしていたのではないようだから、ギルバートもその点は深く指摘していない……。
実は、昨夜――ギルバートはちょっとした秘密をもらった。
セシルとギルバートだけの、二人だけの秘密だ。
「どうか、あまり無理をなさらないでくださいね……。王国でお待ちしております……」
今度の時は、次の一月もせずにセシルに会えることになるのに、それでも、ギルバートは別れ際、セシルと離れがたそうに意気消沈している。
セシルがアトレシア大王国にやって来たら、婚儀の準備に取り掛かり、セシルだって王宮のギルバートの館で身を寄せることになる。
毎日、会いに行ける場所にセシルがいることになる。
その事実は判っていても、今回は、いつも以上に長く、セシルと一緒にいられただけに、別れを惜しんでしまうギルバートだった。
あまりに気落ちしているギルバートの様子を見て、セシルも、つい、笑わずにはいられなかった。
いつもは、キリリと凛々しい騎士団の副団長サマなのに、セシルの前にいるギルバートは、しょぼくれた子犬のような様相なのだ。
セシルとギルバートの二人きりなので、セシルも、そこはちょっとだけ大サービスをあげることにしたのだ。
一歩、ギルバートの前に近寄って、少しだけ背伸びしたセシルの――柔らかな唇が、ちゅっと、ギルバートの唇に落ちていた。
驚いたギルバートが、目をまん丸くする。でも、そこから動きはしなかった。驚いていたのに、体は後ろに飛び下がったのではなかったのだ。
見る見る間に、ギルバートの顔が緩み、少し頬を赤らめたギルバートが満面の笑みをみせた。
きらきら、きらきら……と、あまりに眩しい笑顔を投げられて、セシルの方がくらくらと眩暈がしてきそうだった。
輝かしいほどの笑顔はものすごい破壊力で、自覚していないだろうギルバートは、セシルを真似たように、少し前に屈んで来た。
ちゅっと、ギルバートの唇も、セシルの唇に下りていた。
そうやって、二人だけの別れを済ませた内緒の時間である。
昨夜の光景を思い出して、アトレシア大王国に戻る帰路で、ギルバートが何度もにやけそうになっていたのは言うまでもない。
「ははうえっ!」
アトレシア大王国の王宮に到着すると、馬車から降りた場所には、使用人全員がずらりと並び、一糸乱れることなく頭を下げてお辞儀している。
長い旅路だった。やっと、王宮に帰って来た。
「オスミン」
その中で、母親の姿を見つけて嬉しそうに駆け寄って来る幼い息子を見て、王妃であるアデラが嬉しそうに微笑んだ。
「にーたまっ!」
「あっ、イングラム!」
母親の前に駆け寄っていくつもりだったオスミンは、まず先に、自分の方に駆け寄ってきた弟に抱き着いた。
ガバっと、勢いをつけてイングラムが直進してくるので、それを受け止めたオスミンだって後ろにひっくり返りそうになる。
「相変わらずだな」
オスミンのすぐ後ろにやって来ていたギルバートが、咄嗟に、二人の子供を支えてやる。
「あっ、おじうえ」
「ほら、転んでしまうだろう? 王妃にご挨拶しなさい」
「はいっ。ははうえ、ただいま、もどりましたっ。ぼくは、たくさん、しさつをしたんです。ごはんも、たくさんたべました! ほうじょうさいも、ひとがいっぱいいて、『しゅくふく』ももらったんです」
挨拶と一緒に、ものすごい勢いでオスミンが喋り出してしまい、アデラも目を丸くする。
~・~・~・~・ 後書き ~・~・~・~・
体調不良で投稿が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。
まだ、少し体調が戻っておらず、次の投稿は、来週の金曜日、17日を予定しております。
読んでいただきありがとうございました。ブックマーク・評価★・感想・レビューなどなど応援いただければ励みになります! どうぞよろしくお願いいたします。
Tack för att du läste den här boken
~・~・~・~・~・~・~・~・
24
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~
saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。
前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。
国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。
自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。
幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。
自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。
前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。
※小説家になろう様でも公開しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
新婚早々、愛人紹介って何事ですか?
ネコ
恋愛
貴方の妻は私なのに、初夜の場で見知らぬ美女を伴い「彼女も大事な人だ」と堂々宣言する夫。
家名のため黙って耐えてきたけれど、嘲笑う彼らを見て気がついた。
「結婚を続ける価値、どこにもないわ」
一瞬にしてすべてがどうでもよくなる。
はいはい、どうぞご自由に。私は出て行きますから。
けれど捨てられたはずの私が、誰よりも高い地位の殿方たちから注目を集めることになるなんて。
笑顔で見返してあげますわ、卑劣な夫も愛人も、私を踏みつけたすべての者たちを。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
三年待ったのに愛は帰らず、出奔したら何故か追いかけられています
ネコ
恋愛
リーゼルは三年間、婚約者セドリックの冷淡な態度に耐え続けてきたが、ついに愛を感じられなくなり、婚約解消を告げて領地を後にする。ところが、なぜかセドリックは彼女を追って執拗に行方を探り始める。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
[完結連載]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜
コマメコノカ@大人の女性向け
恋愛
王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。
そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる