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Part 3
Е.а ごろ寝 - 05
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「私の母から、オスミン様が工房村で木工パズルを完成なさった、とお聞きしました」
その一言で、パッと、またオスミンの顔が輝き出す。
「そうです! ぼくは、ぱずるにいろをぬったのです。イングラムのためにも、もうひとつ、いろをぬったのです!」
セシルの母親のレイナには、オスミンの世話をお願いしている間、お土産にできるものは、二人分用意してくださいね、とお願いしていたのだ。
オスミンの弟であるイングラムは、まだ幼い幼児だ。それでも、兄弟揃っている場で、オスミン一人だけが楽しいものを自慢していたら、イングラムと喧嘩になってしまうだろう。
視察に来られなかったイングラムにも、オスミンと一緒に楽しめるように、二人分用意してくれるように頼んでおいたセシルだったのだ。
「そうですか。とても楽しそうですね。どんな色をお塗りになったのですか?」
「ぼくは、はなのもように、いろをぬったのです」
「ひまわりですか」
「そうですっ! イングラムと、“おそろい”ですっ!」
「まあ、それは素敵ですね」
工房村でできる木工パズルの色塗りは、簡単なパターンも用意してあるのだ。ひまわりの花柄や、星、お日様の太陽、あとは、少々、難しめのバラ模様と、簡単な動物の絵柄だ。
自分でパズルの色を決められない子供用にと、以前から用意しておいたのだ。
「セシルじょうに、みせてあげます」
「今、パズルをお持ちなのですか?」
「もっています」
えへんっ、とでも言えそうな誇らしげなオスミンが、胸を張ってみせる。
それから、いそいそと、自分の胸の前にぶら下がっている領地特産品である“ショルダーバッグ”を開けて、パズルのピースを取り出した。
「ぼくは、ぱずるもできるんですっ! ねるまえに、ちゃんと、まいにち、れんしゅうしたのです。おじうえが、れんしゅうすれば、うまくなるだろう、といったからです」
そうなると、オスミンの方も、夕食を終えて就寝前の少しの間、一生懸命パズルを完成させるために練習していたようである。
そんなに喜んでくれたなんて、セシルにとってはなによりの朗報である。
「これが“パズル”なのか、オスミン?」
目の前のテーブルの上に、オスミンの小さな手がパズルのピースを並べていき、ギルバートの方も興味津々である。
「そうです。こうやって、パズルのピースを合わせていくんです、おじうえ」
「へえ、それはすごいな。おもしろそうだ」
「すごくたのしいですっ!」
満面の笑みを浮かべているオスミンの手は止まらず、一生懸命、真剣に、パズルのピースを合わせていく。
たぶん、セシルの母親が推したパズルは、16ピースの簡単なやつだ。ピースの一コマも大きくて、ピースを合わせれば、最終的には正方形の四角になる。ピースの一つ一つは、少しだけ工夫を凝らし、ただの四角い角ではない。ジグソーパズルをならって、丸くなった先っぽがあったりする。
「おじうえ、しっていますか? このパズルは、かどをあわせるのがいちばんなんです」
そうやって教わった通りに、オスミンがギルバートに真剣に説明している。
「そうすると、そとがわのパズルができて、なかがわのパズルが、かんたんにできるようになるんです」
「へえ、なるほど」
そして、オスミンの相手をしているギルバートも、社交辞令ではなく、ちゃんとオスミンの説明を聞いて、真剣だ。
この二人、以前にも思ったことだが、王子殿下であるのに、何か新しいことを学んでいる姿勢はとても真面目なものだ。
真剣で、馬鹿にしたりしない。
そんなところが、叔父と甥っ子なのに、そっくりだった。
「ほらっ、できましたっ!」
「それは、すごいな、オスミン」
「はいっ!」
間違えずにパズルを完成することができたオスミンは、とても誇らしげだ。
「オスミン様、とても上手にできましたね」
「じょうずでしょう、セシルじょう?」
「はい、とても上手ですね」
「ぼくは、おしろにかえったら、イングラムにおしえてあげるのです。イングラムはまだちいさいから、ぼくが、おしえてあげるのです」
「そうですか。きっと、イングラム様もお喜びになられることでしょう。お二人で、揃って遊べるおもちゃになりますね」
「パズルは、おもちゃですか?」
「おもちゃの一つになります。でも、頭を使って考えなければならないので、練習したり、学んだりできるものでもありますのよ」
「べんりです」
「そうですね」
「ぼくは、きもきったのです」
「切ったのですか? のこぎりが重かったでしょう?」
「はい。それで、ぼくは、あまりうまくきれなかったので、おじうえが、さいごまできりました」
「まあ、そうでありましたか」
そして、王子殿下であるレイフにとっては、初めて「のこぎり」 なるものを触ったはずなのに、結構、器用にのこぎりで木を切る才能があったことを発見していたリドウィナだったのだ。
それから、オスミンの視察の報告は止まず、そのどの話もしても、オスミンは楽しそうで、興奮していて、しまいには、手を動かして説明したり、動きが止まらず立ち上がってしまったりと、その午後は、オスミンの楽しい報告会で終わっていた。
~・~・~・~・~・~・~・~・
読んでいただき、ありがとうございます。ブックマーク・評価★・感想・レビューなどなど応援いただければ励みになります!
Asante kwa kusoma kitabu hiki.
~・~・~・~・~・~・~・~・
その一言で、パッと、またオスミンの顔が輝き出す。
「そうです! ぼくは、ぱずるにいろをぬったのです。イングラムのためにも、もうひとつ、いろをぬったのです!」
セシルの母親のレイナには、オスミンの世話をお願いしている間、お土産にできるものは、二人分用意してくださいね、とお願いしていたのだ。
オスミンの弟であるイングラムは、まだ幼い幼児だ。それでも、兄弟揃っている場で、オスミン一人だけが楽しいものを自慢していたら、イングラムと喧嘩になってしまうだろう。
視察に来られなかったイングラムにも、オスミンと一緒に楽しめるように、二人分用意してくれるように頼んでおいたセシルだったのだ。
「そうですか。とても楽しそうですね。どんな色をお塗りになったのですか?」
「ぼくは、はなのもように、いろをぬったのです」
「ひまわりですか」
「そうですっ! イングラムと、“おそろい”ですっ!」
「まあ、それは素敵ですね」
工房村でできる木工パズルの色塗りは、簡単なパターンも用意してあるのだ。ひまわりの花柄や、星、お日様の太陽、あとは、少々、難しめのバラ模様と、簡単な動物の絵柄だ。
自分でパズルの色を決められない子供用にと、以前から用意しておいたのだ。
「セシルじょうに、みせてあげます」
「今、パズルをお持ちなのですか?」
「もっています」
えへんっ、とでも言えそうな誇らしげなオスミンが、胸を張ってみせる。
それから、いそいそと、自分の胸の前にぶら下がっている領地特産品である“ショルダーバッグ”を開けて、パズルのピースを取り出した。
「ぼくは、ぱずるもできるんですっ! ねるまえに、ちゃんと、まいにち、れんしゅうしたのです。おじうえが、れんしゅうすれば、うまくなるだろう、といったからです」
そうなると、オスミンの方も、夕食を終えて就寝前の少しの間、一生懸命パズルを完成させるために練習していたようである。
そんなに喜んでくれたなんて、セシルにとってはなによりの朗報である。
「これが“パズル”なのか、オスミン?」
目の前のテーブルの上に、オスミンの小さな手がパズルのピースを並べていき、ギルバートの方も興味津々である。
「そうです。こうやって、パズルのピースを合わせていくんです、おじうえ」
「へえ、それはすごいな。おもしろそうだ」
「すごくたのしいですっ!」
満面の笑みを浮かべているオスミンの手は止まらず、一生懸命、真剣に、パズルのピースを合わせていく。
たぶん、セシルの母親が推したパズルは、16ピースの簡単なやつだ。ピースの一コマも大きくて、ピースを合わせれば、最終的には正方形の四角になる。ピースの一つ一つは、少しだけ工夫を凝らし、ただの四角い角ではない。ジグソーパズルをならって、丸くなった先っぽがあったりする。
「おじうえ、しっていますか? このパズルは、かどをあわせるのがいちばんなんです」
そうやって教わった通りに、オスミンがギルバートに真剣に説明している。
「そうすると、そとがわのパズルができて、なかがわのパズルが、かんたんにできるようになるんです」
「へえ、なるほど」
そして、オスミンの相手をしているギルバートも、社交辞令ではなく、ちゃんとオスミンの説明を聞いて、真剣だ。
この二人、以前にも思ったことだが、王子殿下であるのに、何か新しいことを学んでいる姿勢はとても真面目なものだ。
真剣で、馬鹿にしたりしない。
そんなところが、叔父と甥っ子なのに、そっくりだった。
「ほらっ、できましたっ!」
「それは、すごいな、オスミン」
「はいっ!」
間違えずにパズルを完成することができたオスミンは、とても誇らしげだ。
「オスミン様、とても上手にできましたね」
「じょうずでしょう、セシルじょう?」
「はい、とても上手ですね」
「ぼくは、おしろにかえったら、イングラムにおしえてあげるのです。イングラムはまだちいさいから、ぼくが、おしえてあげるのです」
「そうですか。きっと、イングラム様もお喜びになられることでしょう。お二人で、揃って遊べるおもちゃになりますね」
「パズルは、おもちゃですか?」
「おもちゃの一つになります。でも、頭を使って考えなければならないので、練習したり、学んだりできるものでもありますのよ」
「べんりです」
「そうですね」
「ぼくは、きもきったのです」
「切ったのですか? のこぎりが重かったでしょう?」
「はい。それで、ぼくは、あまりうまくきれなかったので、おじうえが、さいごまできりました」
「まあ、そうでありましたか」
そして、王子殿下であるレイフにとっては、初めて「のこぎり」 なるものを触ったはずなのに、結構、器用にのこぎりで木を切る才能があったことを発見していたリドウィナだったのだ。
それから、オスミンの視察の報告は止まず、そのどの話もしても、オスミンは楽しそうで、興奮していて、しまいには、手を動かして説明したり、動きが止まらず立ち上がってしまったりと、その午後は、オスミンの楽しい報告会で終わっていた。
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