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Part 3
Е.а ごろ寝 - 03
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* * *
「セシルじょう……。びょうきなのですか……?」
クリストフの付き添いでセシルの会議室にやって来たオスミンが、長椅子の上でごろ寝しているセシルを見て、ひどくショックを受けているようだった。
「セ、セシル様……」
そのすぐ後ろについてきたリドウィナも、一気に心配げな表情を浮かべ、顔色が翳っていく。
「皆様、このようなはしたない姿をお見せしてしまいまして、申し訳ございません。今日は少々疲れていましたもので、ごろ寝をしていただけなのです」
二人の心配に反して、ごろ寝しているセシルは全くいつもと変わらず、にこやかにそんな説明をする。
「ごろ、ね……?」
「ごろ寝……?」
そして、二人の顔には、全く理解できない単語が出てきて、更に困惑した様子を見せている。
「ごろね、って……、なんですか?」
「「ごろ寝」 とは、ゴロゴロとベッドではない場所で寝ていることを言うのですよ。ダラダラ怠けている時にも、そう言った表現をすることもあります」
「なまけて、いるのですか?」
いや、セシルはダラダラ怠けているからごろ寝しているのではない。
疲労――すでに、過労の域に達している疲労困憊のせいで、セシルは今日一日完全にアウトな状態なだけなのだ。
「オスミン、ご令嬢は怠けているのではなくて、疲れが溜まっているから、横になって休んでいらっしゃるんだよ。そうして、体力回復をなさっているんだ」
親切な叔父であるギルバートの説明を聞いても、今一つ納得いくような理由でもなかったが、オスミンは一応頷いてみた。
「そう、ですか……」
「このような煩雑な場ではございますが、どうぞ、皆様、おかけになってくださいね?」
セシルは長椅子で“ごろ寝”している。ギルバートは、そのセシルの向かいの長椅子に座っている。
だから、オスミンは躊躇いもなくスタスタとギルバートの椅子に向かい、その隣の場所に座り込んだ。
「どうぞ、こちらに」
クリストフが一人用の椅子を持ってきて、リドウィナに差し出した。
「ありがとうございます。では、失礼致します」
おしとやかに、静々と、リドウィナが椅子に腰を下ろす。
クリストフはギルバート達の後ろ側で起立して控えているようである。
レイフは、セシルとの会話の後、準備することがあると言って、さっさと会議室を後にしている。オラフソン伯爵嫡男との交渉をしてくれるという寛大な申し出だったので、その準備をする為に、レイフはセシルに何点かの資料を請求した。
書類や資料の準備はフィロにお願いしたセシルだったが、宰相閣下であるレイフにコキ使われないといいけれど……などという、多少の心配はセシルの胸に留まっている。
会議室を後にしたレイフは、なんだか……異様なやる気を見せて、随分張り切っている様子だったのだ。
まさかとは思うが……、レイフの頭脳明晰さで、オラフソン伯爵嫡男に対して徹底的に追い詰める……なんてことは、しないだろう……とは、セシルも思いたい。
無能なオラフソン伯爵に関わりたくもないセシルは、災害救助での支援は返済してもらったとしても、どうせ時間がかかるだろうな、と半分以上諦めている状態でもある。
「皆様、視察はいかがでしょうか? せっかく、ゲストの方がコトレア領にいらっしゃっているのに、皆様のことを放ったらかしにしてしまいましたものね。申し訳ございません」
「いえ、そのような……。災害救助のお仕事で、多忙でいらっしゃると伺っておりますもの」
そんな中、セシルだってゲストの面倒ばかりを見ていられないだろう。
「リドウィナ様は、不都合はございませんか? 私の邸では、滅多にゲストがいらっしゃらないので、使用人達も、貴族の方々に慣れていないのです」
「皆様、大変よくしてもらっておりますわ」
本当にそうだろうか……。
リドウィナなど、高位貴族の中でも高位の侯爵家のご令嬢だ。屋敷の使用人達だって、自分の周囲にいる付き人達だって、英才教育を受けた者たちばかりだろう。
対するセシルの邸では、働いている使用人は全員平民である。
使用人として、仕事としての教育は受けていても、きっといたらないことがたくさんあったはずだ。
それなのに、全く文句を言ってこないリドウィナには、セシルもほんわかと嬉しくなってしまう。本当に、気遣いがあって優しいご令嬢だ。
噂に聞く、権力にがめついガルブランソン侯爵とは大違いである。
「それをお聞きして、安心いたしました。視察の方はいかがでしょう?」
ぽっと、なぜかは知らないが、リドウィナが少し気恥しそうにほんの少しだけ頬を染めたのだ。
その新鮮な反応を見て、セシルも不思議そうである。
「……たくさん、学ばせて、いただいております……。とても興味深い施設がたくさんあり、わたくしが今まで見たことも聞いたこともないものがたくさんあり、セシル様おひとりのお力で、このような素晴らしい開発をなさり、領地を発展させたご尽力を、改めて尊敬しております。このように豊穣祭に招待していただきまして、そして、領地の視察を許してくださったセシル様には、感謝の言葉もございません」
セシルも一瞬ポカンとしてしまった。
まさか、知り合って間もないリドウィナの口から、こんなに素直な感想を聞けるとは思いもよらなかったのだ。そして、真摯な賛辞を向けられて、嬉しかったのだ。
~・~・~・~・~・~・~・~・
読んでいただき、ありがとうございます。ブックマーク・評価★・感想・レビューなどなど応援いただければ励みになります!
Bu romanı okuduğunuz için teşekkür ederiz (hebraw)
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「セシルじょう……。びょうきなのですか……?」
クリストフの付き添いでセシルの会議室にやって来たオスミンが、長椅子の上でごろ寝しているセシルを見て、ひどくショックを受けているようだった。
「セ、セシル様……」
そのすぐ後ろについてきたリドウィナも、一気に心配げな表情を浮かべ、顔色が翳っていく。
「皆様、このようなはしたない姿をお見せしてしまいまして、申し訳ございません。今日は少々疲れていましたもので、ごろ寝をしていただけなのです」
二人の心配に反して、ごろ寝しているセシルは全くいつもと変わらず、にこやかにそんな説明をする。
「ごろ、ね……?」
「ごろ寝……?」
そして、二人の顔には、全く理解できない単語が出てきて、更に困惑した様子を見せている。
「ごろね、って……、なんですか?」
「「ごろ寝」 とは、ゴロゴロとベッドではない場所で寝ていることを言うのですよ。ダラダラ怠けている時にも、そう言った表現をすることもあります」
「なまけて、いるのですか?」
いや、セシルはダラダラ怠けているからごろ寝しているのではない。
疲労――すでに、過労の域に達している疲労困憊のせいで、セシルは今日一日完全にアウトな状態なだけなのだ。
「オスミン、ご令嬢は怠けているのではなくて、疲れが溜まっているから、横になって休んでいらっしゃるんだよ。そうして、体力回復をなさっているんだ」
親切な叔父であるギルバートの説明を聞いても、今一つ納得いくような理由でもなかったが、オスミンは一応頷いてみた。
「そう、ですか……」
「このような煩雑な場ではございますが、どうぞ、皆様、おかけになってくださいね?」
セシルは長椅子で“ごろ寝”している。ギルバートは、そのセシルの向かいの長椅子に座っている。
だから、オスミンは躊躇いもなくスタスタとギルバートの椅子に向かい、その隣の場所に座り込んだ。
「どうぞ、こちらに」
クリストフが一人用の椅子を持ってきて、リドウィナに差し出した。
「ありがとうございます。では、失礼致します」
おしとやかに、静々と、リドウィナが椅子に腰を下ろす。
クリストフはギルバート達の後ろ側で起立して控えているようである。
レイフは、セシルとの会話の後、準備することがあると言って、さっさと会議室を後にしている。オラフソン伯爵嫡男との交渉をしてくれるという寛大な申し出だったので、その準備をする為に、レイフはセシルに何点かの資料を請求した。
書類や資料の準備はフィロにお願いしたセシルだったが、宰相閣下であるレイフにコキ使われないといいけれど……などという、多少の心配はセシルの胸に留まっている。
会議室を後にしたレイフは、なんだか……異様なやる気を見せて、随分張り切っている様子だったのだ。
まさかとは思うが……、レイフの頭脳明晰さで、オラフソン伯爵嫡男に対して徹底的に追い詰める……なんてことは、しないだろう……とは、セシルも思いたい。
無能なオラフソン伯爵に関わりたくもないセシルは、災害救助での支援は返済してもらったとしても、どうせ時間がかかるだろうな、と半分以上諦めている状態でもある。
「皆様、視察はいかがでしょうか? せっかく、ゲストの方がコトレア領にいらっしゃっているのに、皆様のことを放ったらかしにしてしまいましたものね。申し訳ございません」
「いえ、そのような……。災害救助のお仕事で、多忙でいらっしゃると伺っておりますもの」
そんな中、セシルだってゲストの面倒ばかりを見ていられないだろう。
「リドウィナ様は、不都合はございませんか? 私の邸では、滅多にゲストがいらっしゃらないので、使用人達も、貴族の方々に慣れていないのです」
「皆様、大変よくしてもらっておりますわ」
本当にそうだろうか……。
リドウィナなど、高位貴族の中でも高位の侯爵家のご令嬢だ。屋敷の使用人達だって、自分の周囲にいる付き人達だって、英才教育を受けた者たちばかりだろう。
対するセシルの邸では、働いている使用人は全員平民である。
使用人として、仕事としての教育は受けていても、きっといたらないことがたくさんあったはずだ。
それなのに、全く文句を言ってこないリドウィナには、セシルもほんわかと嬉しくなってしまう。本当に、気遣いがあって優しいご令嬢だ。
噂に聞く、権力にがめついガルブランソン侯爵とは大違いである。
「それをお聞きして、安心いたしました。視察の方はいかがでしょう?」
ぽっと、なぜかは知らないが、リドウィナが少し気恥しそうにほんの少しだけ頬を染めたのだ。
その新鮮な反応を見て、セシルも不思議そうである。
「……たくさん、学ばせて、いただいております……。とても興味深い施設がたくさんあり、わたくしが今まで見たことも聞いたこともないものがたくさんあり、セシル様おひとりのお力で、このような素晴らしい開発をなさり、領地を発展させたご尽力を、改めて尊敬しております。このように豊穣祭に招待していただきまして、そして、領地の視察を許してくださったセシル様には、感謝の言葉もございません」
セシルも一瞬ポカンとしてしまった。
まさか、知り合って間もないリドウィナの口から、こんなに素直な感想を聞けるとは思いもよらなかったのだ。そして、真摯な賛辞を向けられて、嬉しかったのだ。
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