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Part 3
Е.а ごろ寝 - 02
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「ですが、災害を受けたばかりで、被害状況もひどいようですから、しばらくは猶予期間をつけて、大目に見るかもしれませんが」
「寛大ですね」
「一応、今年は少しだけ剰余金――がありましたもので。そうでなければ、今頃、救済作業の確認と報告だけで済ませていたことでしょう」
「今年の豊穣祭は、それは盛況のようでしたからね」
「それは別としても――まあ、慰謝料、ですわ」
その一言を聞いて、レイフの口元が薄っすらと上がっていく。
「ああ、そうでしたね」
「ただ、領地の非常食を半分近く譲渡した形になりましたから、この穴を埋めるのに、次の年だけで賄えるものではありません」
「では、非常食の損害は即時払いで、その他は、執行猶予、といった感じで?」
「ボイマレは、それほど潤っている村ではありませんからねぇ……」
「ああ、やはり、ご令嬢は、オラフソン伯爵家を全く知らないのではなかったようだ」
隣の他領とは言え、馬なら数時間でコトレアの領地に着くことができる。だから、セシル達だって、近隣の領地の現状把握程度は調査させているし、領地の統治方法程度も把握しているのだ。
この頃では、セシルの領地であるコトレアもその繁栄を築き、驚くほどの急成長を遂げている。
近隣の村や町ではその噂を聞きつけ、セシルの領地で、出稼ぎや仕事ができないかとやって来る民が増加している。
果ては、他領からコトレア領地への移住――など考える貧困層の村人もいるだけに、近隣の領地の情報は、常に把握しているようにしているのだ。
セシルの領地は、常に人手不足で、人員不足である。かと言って、誰かれ構わず領地に引き入れては、今築いてきた統治方法や体制が崩れる可能性もでてきてしまう。
だから、領地に出入りする人間は厳重に管理されているし、チェックもされているのだ。
「では、私が面倒な書類関係の問題を手伝いましょう。オラフソン伯爵家の交渉も、私が引き受けた方が簡単でしょうしね」
「――さすがに、そのような問題を押し付けることはできません」
「問題、ではありませんよ。それに、これから身内となるご令嬢ですから、貸し借り、とも考えませんので、安心してください」
素直に納得してよいのか、考えものだ。
「私に裏の意図はありませんよ。貸し借り、はなくとも、ご令嬢には、これから我々の事情に巻き込んでいくことになるのです。その程度の手伝いは、ご令嬢が我が国に嫁いでくることを考慮すれば、些末のことです。私はこう見えても、交渉ごとはそれほど苦手ではありませんので」
そりゃあ、そうだろう。
隣国アトレシア大王国の宰相と言えば、“頭脳明晰の切れ者”とうたわれる人物だ。その交渉手段には、大抵、手も足も出ないほどの完全無欠とさえ、噂されるのだ。
「――――そこまで、オラフソン伯爵家を追い詰めるつもりはないのですけれど」
「そんなことはしませんよ」
薄っすら口元に笑みを浮かべているレイフには――なんだか、背筋が凍りそうな雰囲気を感じずにはいられない。
「それに――私がアトレシア大王国に嫁いでいくと言いましても、今はまだ、ノーウッド王国内の問題でしょう? さすがに、そのような場で他国の介入をされるのは……」
「介入はしません。今の所、我々の立場は知られていないでしょうから。私は、ご令嬢の補佐として、交渉役を務めるだけですよ」
そこまでの好意はありがたいのだが、どうしようか……と、セシルの瞳がギルバートに向けられた。
ギルバートも少し考え込んでいる。
「――レイフ兄上が交渉役の手伝いをされるのなら、私もそれはかなり良い案だと思います。ただ、オラフソン伯爵家まで赴いていては、または、この地に呼び出していては、時間を取り過ぎてしまうでしょう」
非常事態で、無理矢理、レイフ達のステイを延長したようなものだ。さすがに、それ以上、休暇を延長することはできない。
「交渉相手は、あの嫡男で済ませましょう。伯爵は必要ない。――そうでしょう、ご令嬢?」
全く、このレイフは、一体、どこまでセシルの内情を把握しているのか、それを推測しているのか、末恐ろしい男である。
セシルが少しだけ溜息を吐き出す。
「――――あの伯爵は、ダメでしょう」
「ご存知だったのですか?」
「会ったことは一度もありませんが、なにしろ、あの夫婦は浪費癖が激しいようでして」
浪費するだけして、後はほったらかし。大した力量もないダメ伯爵なのだ。
「そうだったんですか」
「それで、嫡男の次期後継者は、一応、当主の責任、領主の責任を自覚しているようですけれどね」
「それでも、伯爵家を継いでいないのなら、さすがに伯爵家の決め事はできないでしょう」
「ええ、そうですわね」
それで二人の視線が向けられ、レイフの口元に浮かんでいる薄い微笑は変わらない。
「「領主名代」 なら、話は違うでしょう」
「ああ、なるほど。確かに、その手なら、次期後継者でも、多少の権限が持てますものね」
「ええ、ですから、その次期後継を、コトレアに呼び戻してください」
「明日でもよろしいですか?」
「その体で、またボイマレに戻ると?」
「仕方がありません。後片付けは、残っていますから」
「本当に、今回は、ご令嬢に全く利もない問題だけを押し付けられましたね」
「仕方がありません」
それも人生だ――とでも聞こえそうだった。
~・~・~・~・~・~・~・~・
読んでいただき、ありがとうございます。ブックマーク・評価★・感想・レビューなどなど応援いただければ励みになります!
Waad ku mahadsan tahay akhrinta buuggan.
~・~・~・~・~・~・~・~・
「寛大ですね」
「一応、今年は少しだけ剰余金――がありましたもので。そうでなければ、今頃、救済作業の確認と報告だけで済ませていたことでしょう」
「今年の豊穣祭は、それは盛況のようでしたからね」
「それは別としても――まあ、慰謝料、ですわ」
その一言を聞いて、レイフの口元が薄っすらと上がっていく。
「ああ、そうでしたね」
「ただ、領地の非常食を半分近く譲渡した形になりましたから、この穴を埋めるのに、次の年だけで賄えるものではありません」
「では、非常食の損害は即時払いで、その他は、執行猶予、といった感じで?」
「ボイマレは、それほど潤っている村ではありませんからねぇ……」
「ああ、やはり、ご令嬢は、オラフソン伯爵家を全く知らないのではなかったようだ」
隣の他領とは言え、馬なら数時間でコトレアの領地に着くことができる。だから、セシル達だって、近隣の領地の現状把握程度は調査させているし、領地の統治方法程度も把握しているのだ。
この頃では、セシルの領地であるコトレアもその繁栄を築き、驚くほどの急成長を遂げている。
近隣の村や町ではその噂を聞きつけ、セシルの領地で、出稼ぎや仕事ができないかとやって来る民が増加している。
果ては、他領からコトレア領地への移住――など考える貧困層の村人もいるだけに、近隣の領地の情報は、常に把握しているようにしているのだ。
セシルの領地は、常に人手不足で、人員不足である。かと言って、誰かれ構わず領地に引き入れては、今築いてきた統治方法や体制が崩れる可能性もでてきてしまう。
だから、領地に出入りする人間は厳重に管理されているし、チェックもされているのだ。
「では、私が面倒な書類関係の問題を手伝いましょう。オラフソン伯爵家の交渉も、私が引き受けた方が簡単でしょうしね」
「――さすがに、そのような問題を押し付けることはできません」
「問題、ではありませんよ。それに、これから身内となるご令嬢ですから、貸し借り、とも考えませんので、安心してください」
素直に納得してよいのか、考えものだ。
「私に裏の意図はありませんよ。貸し借り、はなくとも、ご令嬢には、これから我々の事情に巻き込んでいくことになるのです。その程度の手伝いは、ご令嬢が我が国に嫁いでくることを考慮すれば、些末のことです。私はこう見えても、交渉ごとはそれほど苦手ではありませんので」
そりゃあ、そうだろう。
隣国アトレシア大王国の宰相と言えば、“頭脳明晰の切れ者”とうたわれる人物だ。その交渉手段には、大抵、手も足も出ないほどの完全無欠とさえ、噂されるのだ。
「――――そこまで、オラフソン伯爵家を追い詰めるつもりはないのですけれど」
「そんなことはしませんよ」
薄っすら口元に笑みを浮かべているレイフには――なんだか、背筋が凍りそうな雰囲気を感じずにはいられない。
「それに――私がアトレシア大王国に嫁いでいくと言いましても、今はまだ、ノーウッド王国内の問題でしょう? さすがに、そのような場で他国の介入をされるのは……」
「介入はしません。今の所、我々の立場は知られていないでしょうから。私は、ご令嬢の補佐として、交渉役を務めるだけですよ」
そこまでの好意はありがたいのだが、どうしようか……と、セシルの瞳がギルバートに向けられた。
ギルバートも少し考え込んでいる。
「――レイフ兄上が交渉役の手伝いをされるのなら、私もそれはかなり良い案だと思います。ただ、オラフソン伯爵家まで赴いていては、または、この地に呼び出していては、時間を取り過ぎてしまうでしょう」
非常事態で、無理矢理、レイフ達のステイを延長したようなものだ。さすがに、それ以上、休暇を延長することはできない。
「交渉相手は、あの嫡男で済ませましょう。伯爵は必要ない。――そうでしょう、ご令嬢?」
全く、このレイフは、一体、どこまでセシルの内情を把握しているのか、それを推測しているのか、末恐ろしい男である。
セシルが少しだけ溜息を吐き出す。
「――――あの伯爵は、ダメでしょう」
「ご存知だったのですか?」
「会ったことは一度もありませんが、なにしろ、あの夫婦は浪費癖が激しいようでして」
浪費するだけして、後はほったらかし。大した力量もないダメ伯爵なのだ。
「そうだったんですか」
「それで、嫡男の次期後継者は、一応、当主の責任、領主の責任を自覚しているようですけれどね」
「それでも、伯爵家を継いでいないのなら、さすがに伯爵家の決め事はできないでしょう」
「ええ、そうですわね」
それで二人の視線が向けられ、レイフの口元に浮かんでいる薄い微笑は変わらない。
「「領主名代」 なら、話は違うでしょう」
「ああ、なるほど。確かに、その手なら、次期後継者でも、多少の権限が持てますものね」
「ええ、ですから、その次期後継を、コトレアに呼び戻してください」
「明日でもよろしいですか?」
「その体で、またボイマレに戻ると?」
「仕方がありません。後片付けは、残っていますから」
「本当に、今回は、ご令嬢に全く利もない問題だけを押し付けられましたね」
「仕方がありません」
それも人生だ――とでも聞こえそうだった。
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