488 / 530
Part 3
* Е.а ごろ寝 *
しおりを挟む
最高潮に疲労している時に、しっかり、ぐっすり眠ってしまうと、目を覚ました後は、今まで以上に、更にものすごい疲労が襲ってくる。
医学的にも、その理由も原因も理解している。
疲労が溜まっている間は体の緊張状態が続き、アドレナリンが活発になっている。だが、一旦、熟睡を経験した体は、そこから生存本能が一気に誘引され、極度の疲労による身体の危機感を、脳が登録してしまう。
だから、身体の危機から脱出する為、体を保護する為に、身体機能の低下が生じてしまう。その間は、体を動かすことなく、休んで体の危機から回復する、という仕組みである。
そして、熟睡を経験した脳が、緊張状態から解放されたとの勘違いが生じ、一気に休眠状態へとホルモンが切り替わる。
そんなことを医学的、理論的に説明しようが、理解しようが、今のセシルには全く意味はなかった。
昨日、あまりの疲労で熟睡してしまったセシルは、例外なく、もちろんのこと、今朝、目を覚ましてから、ほぼ動くことがままならないほどの、更なる疲労に苛まされていた。
再起不能――には近いかもしれない。
あまりに体が重く、だるく、動くことがままならないので、今日は仕方なく、休息を取ることにした。
動けない状態のセシルが無理をしても、余計な仕事を増やすだけである。
それで、セシルは会議室にある長いソファーで――だらしなく、貴族の子女としてははしたなく――クッションに寄りかかりながら、横になっていた(ごろ寝状態)。
それでも、セシルが領地を空けていた間の領内の仕事の報告はあるので、時間が空いた者達から、会議室に立ち寄ってもらっていた。
セシルのそのだらけたごろ寝を見ても、訪れる領地の代表役達はなにも言わない。
午前中の何人かの報告を聞き終えたセシルの顔が、申し訳なさそうである。
「――あの……、お疲れでしょうから、どうぞ、今日は休息なさってください」
朝食の場でも、それを提案したセシルではあった。
「ああ、私のことはお気になさらないでください」
そして、朝食時と全く同じ返答をするギルバートだ。
クリストフは、ギルバートから今日一日、休暇をもらったので、今は自分の客室で休んでいることだろう。
だが、ギルバートはずっとセシルに付き添っていて、セシルとは対になる長いソファーに腰を下ろしている。
普段だったら、もう少し休むように提案しているのだろうが、今日のセシルは、完全に集中力が途切れて思考が働かない。体も、動かない。
ソファーの上で横になりながらギルバートを見上げてくるセシルの瞳も、明らかに疲労の色が濃く映し出されていた。
話をしながらも、ほとんど動きを見せないことから、セシルは、今日一日、身体的にも完全にアウトだと見て取れる。
それで、余計にそのセシルが心配で、ギルバートは朝からずっとセシルに付き添っていたのだ。
「そのままお休みになられたらいかがですか?」
「ええ、そうですね……」
反対もなく、異論もない。
それで、それ以上話を続けることもなく、セシルは目を閉じていた。
それだけで、セシルは眠りに落ちていた。
ギルバートも少々気だるく感じる体を動かして、テーブルの上にある呼び鈴を手に取る。
呼び鈴を鳴らすと、ほんのしばらくして、執事のオスマンドが顔を出し、丁寧に一礼した。
顔を上げて、ソファーの上で眠っているセシルを見るだけで、
「毛布をお持ち致します」
長年セシルの執事をしているオスマンドには、全てお見通しなのである。
「では、毛布を二枚」
「かしこまりました」
突然の指示を出されても、オスマンドは動じることもない。静かに頭を下げて、会議室を後にした。
それからすぐに、二枚分の毛布が用意され、一枚はセシルの上に掛けられ、二枚目はギルバートに渡された。
説明もなしにギルバート用の毛布を手渡すオスマンドは、本当に有能な執事である。
その後、執事が去って、その会議室では、ソファーの上でセシルとギルバートが休息を取っていた間、邸中の全員が会議室に近寄らず、昼を過ぎるまで、二人は熟睡していたのだった。
「王宮から、使者が送られてきたそうですね」
「ええ、そうですね。ボイマレを経つ前に、使者がやって来ましてね。それで、今日は領地に戻って来たんです」
ソファーに横になった――はしたなく、失礼な姿――のままのセシルを見ても、レイフはその点を全く指摘しない。ギルバートの横に座って、出された紅茶を優雅に飲んでいる。
「どのような内容で?」
「どうやら、王宮は、ボイマレ地区の当座の救済援助を承諾したようですよ」
「ほう。その程度の慈悲はあるようで」
「ええ。さすがに、そこまで非情ではないでしょう。自国の民ですし」
「なるほど。それでオラフソン伯爵家の対応は?」
「オラフソン伯爵次期後継者は、今、その使者と、被害状況の報告と確認を済ませている最中です。双方での話し合いで、救済援助の詳細をお決めになるでしょう」
「では、ご令嬢の仕事は、ほぼ終わりですね」
「ある程度は」
「今回の災害救助及び救済への損害は、どうなさるのです?」
「もちろん請求しますよ。うちだって、領地、領民の生活がかかっています。無償でお金の木がなるわけではありませんから」
「そうですね」
そして、レイフはセシルとの会話を進めながら、ただ静かに話に耳を傾けてもいるだけだ。
~・~・~・~・~・~・~・~・
読んでいただき、ありがとうございます。ブックマーク・評価★・感想・レビューなどなど応援いただければ励みになります!
Hvala, ker ste prebrali to knjigo.
~・~・~・~・~・~・~・~・
医学的にも、その理由も原因も理解している。
疲労が溜まっている間は体の緊張状態が続き、アドレナリンが活発になっている。だが、一旦、熟睡を経験した体は、そこから生存本能が一気に誘引され、極度の疲労による身体の危機感を、脳が登録してしまう。
だから、身体の危機から脱出する為、体を保護する為に、身体機能の低下が生じてしまう。その間は、体を動かすことなく、休んで体の危機から回復する、という仕組みである。
そして、熟睡を経験した脳が、緊張状態から解放されたとの勘違いが生じ、一気に休眠状態へとホルモンが切り替わる。
そんなことを医学的、理論的に説明しようが、理解しようが、今のセシルには全く意味はなかった。
昨日、あまりの疲労で熟睡してしまったセシルは、例外なく、もちろんのこと、今朝、目を覚ましてから、ほぼ動くことがままならないほどの、更なる疲労に苛まされていた。
再起不能――には近いかもしれない。
あまりに体が重く、だるく、動くことがままならないので、今日は仕方なく、休息を取ることにした。
動けない状態のセシルが無理をしても、余計な仕事を増やすだけである。
それで、セシルは会議室にある長いソファーで――だらしなく、貴族の子女としてははしたなく――クッションに寄りかかりながら、横になっていた(ごろ寝状態)。
それでも、セシルが領地を空けていた間の領内の仕事の報告はあるので、時間が空いた者達から、会議室に立ち寄ってもらっていた。
セシルのそのだらけたごろ寝を見ても、訪れる領地の代表役達はなにも言わない。
午前中の何人かの報告を聞き終えたセシルの顔が、申し訳なさそうである。
「――あの……、お疲れでしょうから、どうぞ、今日は休息なさってください」
朝食の場でも、それを提案したセシルではあった。
「ああ、私のことはお気になさらないでください」
そして、朝食時と全く同じ返答をするギルバートだ。
クリストフは、ギルバートから今日一日、休暇をもらったので、今は自分の客室で休んでいることだろう。
だが、ギルバートはずっとセシルに付き添っていて、セシルとは対になる長いソファーに腰を下ろしている。
普段だったら、もう少し休むように提案しているのだろうが、今日のセシルは、完全に集中力が途切れて思考が働かない。体も、動かない。
ソファーの上で横になりながらギルバートを見上げてくるセシルの瞳も、明らかに疲労の色が濃く映し出されていた。
話をしながらも、ほとんど動きを見せないことから、セシルは、今日一日、身体的にも完全にアウトだと見て取れる。
それで、余計にそのセシルが心配で、ギルバートは朝からずっとセシルに付き添っていたのだ。
「そのままお休みになられたらいかがですか?」
「ええ、そうですね……」
反対もなく、異論もない。
それで、それ以上話を続けることもなく、セシルは目を閉じていた。
それだけで、セシルは眠りに落ちていた。
ギルバートも少々気だるく感じる体を動かして、テーブルの上にある呼び鈴を手に取る。
呼び鈴を鳴らすと、ほんのしばらくして、執事のオスマンドが顔を出し、丁寧に一礼した。
顔を上げて、ソファーの上で眠っているセシルを見るだけで、
「毛布をお持ち致します」
長年セシルの執事をしているオスマンドには、全てお見通しなのである。
「では、毛布を二枚」
「かしこまりました」
突然の指示を出されても、オスマンドは動じることもない。静かに頭を下げて、会議室を後にした。
それからすぐに、二枚分の毛布が用意され、一枚はセシルの上に掛けられ、二枚目はギルバートに渡された。
説明もなしにギルバート用の毛布を手渡すオスマンドは、本当に有能な執事である。
その後、執事が去って、その会議室では、ソファーの上でセシルとギルバートが休息を取っていた間、邸中の全員が会議室に近寄らず、昼を過ぎるまで、二人は熟睡していたのだった。
「王宮から、使者が送られてきたそうですね」
「ええ、そうですね。ボイマレを経つ前に、使者がやって来ましてね。それで、今日は領地に戻って来たんです」
ソファーに横になった――はしたなく、失礼な姿――のままのセシルを見ても、レイフはその点を全く指摘しない。ギルバートの横に座って、出された紅茶を優雅に飲んでいる。
「どのような内容で?」
「どうやら、王宮は、ボイマレ地区の当座の救済援助を承諾したようですよ」
「ほう。その程度の慈悲はあるようで」
「ええ。さすがに、そこまで非情ではないでしょう。自国の民ですし」
「なるほど。それでオラフソン伯爵家の対応は?」
「オラフソン伯爵次期後継者は、今、その使者と、被害状況の報告と確認を済ませている最中です。双方での話し合いで、救済援助の詳細をお決めになるでしょう」
「では、ご令嬢の仕事は、ほぼ終わりですね」
「ある程度は」
「今回の災害救助及び救済への損害は、どうなさるのです?」
「もちろん請求しますよ。うちだって、領地、領民の生活がかかっています。無償でお金の木がなるわけではありませんから」
「そうですね」
そして、レイフはセシルとの会話を進めながら、ただ静かに話に耳を傾けてもいるだけだ。
~・~・~・~・~・~・~・~・
読んでいただき、ありがとうございます。ブックマーク・評価★・感想・レビューなどなど応援いただければ励みになります!
Hvala, ker ste prebrali to knjigo.
~・~・~・~・~・~・~・~・
12
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
イケメン御曹司、地味子へのストーカー始めました 〜マイナス余命1日〜
和泉杏咲
恋愛
表紙イラストは「帳カオル」様に描いていただきました……!眼福です(´ω`)
https://twitter.com/tobari_kaoru
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私は間も無く死ぬ。だから、彼に別れを告げたいのだ。それなのに……
なぜ、私だけがこんな目に遭うのか。
なぜ、私だけにこんなに執着するのか。
私は間も無く死んでしまう。
どうか、私のことは忘れて……。
だから私は、あえて言うの。
バイバイって。
死を覚悟した少女と、彼女を一途(?)に追いかけた少年の追いかけっこの終わりの始まりのお話。
<登場人物>
矢部雪穂:ガリ勉してエリート中学校に入学した努力少女。小説家志望
悠木 清:雪穂のクラスメイト。金持ち&ギフテッドと呼ばれるほどの天才奇人イケメン御曹司
山田:清に仕えるスーパー執事
乙女ゲームで唯一悲惨な過去を持つモブ令嬢に転生しました
雨夜 零
恋愛
ある日...スファルニア公爵家で大事件が起きた
スファルニア公爵家長女のシエル・スファルニア(0歳)が何者かに誘拐されたのだ
この事は、王都でも話題となり公爵家が賞金を賭け大捜索が行われたが一向に見つからなかった...
その12年後彼女は......転生した記憶を取り戻しゆったりスローライフをしていた!?
たまたまその光景を見た兄に連れていかれ学園に入ったことで気づく
ここが...
乙女ゲームの世界だと
これは、乙女ゲームに転生したモブ令嬢と彼女に恋した攻略対象の話
乙女ゲーのモブデブ令嬢に転生したので平和に過ごしたい
ゆの
恋愛
私は日比谷夏那、18歳。特に優れた所もなく平々凡々で、波風立てずに過ごしたかった私は、特に興味のない乙女ゲームを友人に強引に薦められるがままにプレイした。
だが、その乙女ゲームの各ルートをクリアした翌日に事故にあって亡くなってしまった。
気がつくと、乙女ゲームに1度だけ登場したモブデブ令嬢に転生していた!!特にゲームの影響がない人に転生したことに安堵した私は、ヒロインや攻略対象に関わらず平和に過ごしたいと思います。
だけど、肉やお菓子より断然大好きなフルーツばっかりを食べていたらいつの間にか痩せて、絶世の美女に…?!
平和に過ごしたい令嬢とそれを放って置かない攻略対象達の平和だったり平和じゃなかったりする日々が始まる。
転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?
朱音ゆうひ
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!
「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」
王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。
不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。
もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた?
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)
一家の恥と言われた令嬢ですが、嫁ぎ先で本領を発揮させていただきます
風見ゆうみ
恋愛
ベイディ公爵家の次女である私、リルーリアは貴族の血を引いているのであれば使えて当たり前だと言われる魔法が使えず、両親だけでなく、姉や兄からも嫌われておりました。
婚約者であるバフュー・エッフエム公爵令息も私を馬鹿にしている一人でした。
お姉様の婚約披露パーティーで、お姉様は現在の婚約者との婚約破棄を発表しただけでなく、バフュー様と婚約すると言い出し、なんと二人の間に出来た子供がいると言うのです。
責任を取るからとバフュー様から婚約破棄された私は「初夜を迎えることができない」という条件で有名な、訳アリの第三王子殿下、ルーラス・アメル様の元に嫁ぐことになります。
実は数万人に一人、存在するかしないかと言われている魔法を使える私ですが、ルーラス様の訳ありには、その魔法がとても効果的で!? そして、その魔法が使える私を手放したことがわかった家族やバフュー様は、私とコンタクトを取りたがるようになり、ルーラス様に想いを寄せている義姉は……。
※レジーナブックス様より書籍発売予定です!
※本編完結しました。番外編や補足話を連載していきます。のんびり更新です。
※作者独自の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。
皇帝(実の弟)から悪女になれと言われ、混乱しています!
魚谷
恋愛
片田舎の猟師だった王旬果《おうしゅんか》は
実は先帝の娘なのだと言われ、今上皇帝・は弟だと知らされる。
そしていざ都へ向かい、皇帝であり、腹違いの弟・瑛景《えいけい》と出会う。
そこで今の王朝が貴族の専横に苦しんでいることを知らされ、形の上では弟の妃になり、そして悪女となって現体制を破壊し、再生して欲しいと言われる。
そしてこの国を再生するにはまず、他の皇后候補をどうにかしないといけない訳で…
そんな時に武泰風(ぶたいふう)と名乗る青年に出会う。
彼は狼の魁夷(かいい)で、どうやら旬果とも面識があるようで…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる