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Part 3
Д.д 心配だから - 02
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「次の報告は、破壊された家屋の排除と近辺の掃除ですが、土砂崩れ近辺を除き、こちらも、ほぼ完了しております。排除された家屋で使っていた木材などは、破損部分を除き、数件の小屋を建てることができました。簡易小屋ですが、雨や風をしのぐことに問題はありません」
「そうですか。続けてください」
「はい。土砂崩れ近辺の調査は順調で、今晩辺りで、全ての調査が完了する予定です」
「それは朗報です」
セシル達がボイマレにやって来てから、すでに、一週間は経ってしまった。
その間、ここにいる全員の食糧やら水の補給は、全てコトレア領で養っているようなものだから、いつまでも、長々とこの地に滞在していては、それだけコトレア領の負担が倍増してしまう。
だから、調査が終わり次第、セシルはこの地から撤退する予定なのだ。
「ご苦労様、ケルト。他の皆にも、よく労っておいてください」
「わかりました」
セシルは、ボイマレにやって来てからというもの、こういった報告会を毎日きちんと開いていた。
最初は、なぜ、そんな報告をわざわざ村人達に聞かせる必要があるのかと、不思議に思ったギルバートに対し、セシルはこう説明したのだ。
「集団活動をする際に、パニックに陥ることもなく、全員が同じ行動ができるよう統括するには、一貫した情報統制が必要になってきます。ですから、下手な憶測や、根拠もないでっち上げの話などが上がり、それで民が混乱しないように、ある程度の状況説明をしておくのがとても効果的なのです」
セシルの説明通り、毎日、セシルから状況報告を聞いている村人達は、自分達の心配や不安から余計な噂話をしたり、憶測を立てたり、というような行動が見られなかった。
それを見て、ギルバートとクリストフも、セシルからまた新たな知識を学んだことだ。なるほど、と。
「では、私からの話は、これからの食糧問題をどう解決していくか、という点です」
その一言が出てきて、その場の村人達が敏感に反応していた。
その問題は、誰もが知る一番の難題だったから。
「現段階では、領地に残っている農作物及び、秋初めの収穫物を合わせても、次の1~2カ月で、この領地の領民は食料不足問題に直面するでしょう」
飾り気もなにもない、あまりにシビアな事実を突きつけられて、村人がショックで言葉を失っている。
「食料不足問題の解決方法の一つとして、それぞれの一家に貯蔵してある保存食を集め、それを分配することで次の――」
セシルの話が終わる前に、村人の数人が割り込んで来た。
「保存食を集めるだって?!」
「なんで、うちらの保存食を盗むのよっ」
「そうだ、そうだ。それは、俺たちの冬越え用の食糧なんだぞ。それを盗むなんて、俺たちに死ねと言ってるようなものじゃないか」
そこに座っている何人かから、激しい文句が飛ばされた。抗議する声を上げ、その怒りをぶつけてくる領民だ。
まず初めに、貴族であるセシルに対して、許されてもいないのに、勝手に口を挟み、文句を飛ばして来た行為は、すでに不敬罪で問われてもおかしくない。
次に、貴族に対して口答えをした行為は、すでに非礼とされ、同じく不敬罪として処罰される。
全く、この世界は理不尽で不条理なことばかりだ。平民ともなると、その命の価値は塵ほどにも値しない。
その事実を一番に理解しているセシルだから、村人の行動を咎める気はない。ただ――後ろに控えている領地の騎士達や、王国騎士団の騎士達は、さすがに、これだけ親切に救済活動を率先して領民達を救ったセシルに対するその行為は許せないらしく、その場から動きはしないが、不穏な気配が上がり始めている。
「では、他にどのような解決策があるのですか?」
セシルは動揺しているのでもなく、淡々と、真ん中辺りに座っている村人のグループに聞き返す。
「解決策、って……」
「そんなの……」
文句を口には出せど、教育もそれほど受けていない村人に、解決方法など見い出せるはずもない。
「……でも、俺らの食糧なのに……」
「そうよ、そうよ……」
「そうだ、そうだ……」
結局は、自分の文句だけはぶーぶーと上げる癖に、それ以上は関与したくない有様が明らかだった。
「今、食糧の確保をしなければ、次の1~2カ月で餓死は免れないでしょう」
ひっ……と、その話を聞いている領民達が悲壮な顔をして、青ざめてしまった。
それでなくても、この村自体、裕福な村でもなんでもないのだ。
食料不足問題が上がって来るのは、今日が初めてではない。それでも、村ではある程度の保存食を備え、それで、細々と暮らしていく年も何度もあった。
だから、飢えのつらさを知らない民ではない。
それでも、この現状で言えば……生き残った半分近くの村人達は、自分達の家屋や住居を失い、保存食をほとんど失った状態と言えるのだ。そうなると、次の1~2カ月で餓死してしまう可能性が一番高いのは、その半分近くの村人達だった。
その場にいる村人達の顔が青ざめていく。
~・~・~・~・~・~・~・~・
読んでいただき、ありがとうございます。ブックマーク・評価★・感想・レビューなどなど応援いただければ励みになります!
Kea leboha ka ho bala sengoloa sena.
~・~・~・~・~・~・~・~・
「そうですか。続けてください」
「はい。土砂崩れ近辺の調査は順調で、今晩辺りで、全ての調査が完了する予定です」
「それは朗報です」
セシル達がボイマレにやって来てから、すでに、一週間は経ってしまった。
その間、ここにいる全員の食糧やら水の補給は、全てコトレア領で養っているようなものだから、いつまでも、長々とこの地に滞在していては、それだけコトレア領の負担が倍増してしまう。
だから、調査が終わり次第、セシルはこの地から撤退する予定なのだ。
「ご苦労様、ケルト。他の皆にも、よく労っておいてください」
「わかりました」
セシルは、ボイマレにやって来てからというもの、こういった報告会を毎日きちんと開いていた。
最初は、なぜ、そんな報告をわざわざ村人達に聞かせる必要があるのかと、不思議に思ったギルバートに対し、セシルはこう説明したのだ。
「集団活動をする際に、パニックに陥ることもなく、全員が同じ行動ができるよう統括するには、一貫した情報統制が必要になってきます。ですから、下手な憶測や、根拠もないでっち上げの話などが上がり、それで民が混乱しないように、ある程度の状況説明をしておくのがとても効果的なのです」
セシルの説明通り、毎日、セシルから状況報告を聞いている村人達は、自分達の心配や不安から余計な噂話をしたり、憶測を立てたり、というような行動が見られなかった。
それを見て、ギルバートとクリストフも、セシルからまた新たな知識を学んだことだ。なるほど、と。
「では、私からの話は、これからの食糧問題をどう解決していくか、という点です」
その一言が出てきて、その場の村人達が敏感に反応していた。
その問題は、誰もが知る一番の難題だったから。
「現段階では、領地に残っている農作物及び、秋初めの収穫物を合わせても、次の1~2カ月で、この領地の領民は食料不足問題に直面するでしょう」
飾り気もなにもない、あまりにシビアな事実を突きつけられて、村人がショックで言葉を失っている。
「食料不足問題の解決方法の一つとして、それぞれの一家に貯蔵してある保存食を集め、それを分配することで次の――」
セシルの話が終わる前に、村人の数人が割り込んで来た。
「保存食を集めるだって?!」
「なんで、うちらの保存食を盗むのよっ」
「そうだ、そうだ。それは、俺たちの冬越え用の食糧なんだぞ。それを盗むなんて、俺たちに死ねと言ってるようなものじゃないか」
そこに座っている何人かから、激しい文句が飛ばされた。抗議する声を上げ、その怒りをぶつけてくる領民だ。
まず初めに、貴族であるセシルに対して、許されてもいないのに、勝手に口を挟み、文句を飛ばして来た行為は、すでに不敬罪で問われてもおかしくない。
次に、貴族に対して口答えをした行為は、すでに非礼とされ、同じく不敬罪として処罰される。
全く、この世界は理不尽で不条理なことばかりだ。平民ともなると、その命の価値は塵ほどにも値しない。
その事実を一番に理解しているセシルだから、村人の行動を咎める気はない。ただ――後ろに控えている領地の騎士達や、王国騎士団の騎士達は、さすがに、これだけ親切に救済活動を率先して領民達を救ったセシルに対するその行為は許せないらしく、その場から動きはしないが、不穏な気配が上がり始めている。
「では、他にどのような解決策があるのですか?」
セシルは動揺しているのでもなく、淡々と、真ん中辺りに座っている村人のグループに聞き返す。
「解決策、って……」
「そんなの……」
文句を口には出せど、教育もそれほど受けていない村人に、解決方法など見い出せるはずもない。
「……でも、俺らの食糧なのに……」
「そうよ、そうよ……」
「そうだ、そうだ……」
結局は、自分の文句だけはぶーぶーと上げる癖に、それ以上は関与したくない有様が明らかだった。
「今、食糧の確保をしなければ、次の1~2カ月で餓死は免れないでしょう」
ひっ……と、その話を聞いている領民達が悲壮な顔をして、青ざめてしまった。
それでなくても、この村自体、裕福な村でもなんでもないのだ。
食料不足問題が上がって来るのは、今日が初めてではない。それでも、村ではある程度の保存食を備え、それで、細々と暮らしていく年も何度もあった。
だから、飢えのつらさを知らない民ではない。
それでも、この現状で言えば……生き残った半分近くの村人達は、自分達の家屋や住居を失い、保存食をほとんど失った状態と言えるのだ。そうなると、次の1~2カ月で餓死してしまう可能性が一番高いのは、その半分近くの村人達だった。
その場にいる村人達の顔が青ざめていく。
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