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Part 3

Д.в 災害救済 - 06

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 そう言えば、ギルバート達が泊まった宿屋の説明書にも、確か――“災害時の避難場所”らしき説明が書かれていたのを、ギルバート達は思い出していた。

 宿場町での避難訓練や、その方法にも、徹底しているものである。

「全部――ご令嬢の指示の元ですよね」
「もちろんです。生き抜く為には、それを補う知識が必要ですから」

「無知と言うのは、本当に危険なのです。緊急時など、混乱してパニックを起こすと、人は理性で行動できなくなってしまいます」

 そういう時に出てくる行動は、本能や直感というもので、本能は咄嗟に体が動いてしまうものだろうから、磨き上げることは簡単にはできないものだ。

 だが、直感というものは、何度も繰り返し訓練され、体に、脳に、時間をかけて刻みつけられていくものだ。

「そうやって訓練すればするほど、直感を磨くこともできるでしょうから、領地では、その訓練を徹底しておりますのよ」
「なるほど……」

 ギルバート達の表情は素直な驚きが混ざっているのと、なんだか、自分達の理解を越え過ぎた知識を詰め込まれて反応ができないのと、そんな色が浮かんでいた。

「ですから、この領地の領民は、非常時でも、さほど混乱は呼ばないでしょう」
「ですが、ボイマレなどは、どこにでもある農村のようでしたよ」

「そうですね。ノーウッド王国の南に位置する土地は、農業や酪農を主としている領地が多いのです。冬になっても乾燥した気候が続きますので、農業や酪農に適しているのでしょうね。ボイマレも、その一つだと思います。コトレアだって、元は、小さな農村でしたから」
「そう、聞いていますね」

「そういった民は、日々の暮らしで精一杯です。作物を育て、収穫し、冬に備え。それ以上の知識があるわけでもないでしょうし、知識がある者が、いるのも珍しいでしょう」

「それなら、災害時、何が起きたか理解できずに、逃げ遅れた可能性は高いですね」

「ええ、私はそちらの可能性が問題だったのではないかと思います。――なにしろ、マスターの基準で判断しますと……、そうですね、他の農村や町々などは、あまりに基準になりますから……」
「ひどいですわ」

 いや、基準、なのは疑いようもなく、このコトレアの領地だ!

「いえ……。これは、侮辱ではなくて事実です」

 そして、その場の全員も、暗黙でラソムに完全に同意しているようだった。

 ふむと、大方の説明で理解したレイフが質問を続ける。

「では、今の話からすると、対策本部は設置されたのですね」
「ええ、災害対策本部です」

 セシルではなく、ギルバートがレイフに答えていた。

「先程の報告からしても、随分、調査が進んだように聞こえたのだが」
「ええ、そうですね。ほぼ――調査と確認は、終えていると思いますが……」
「どのような?」

 ギルバートの顔が、一瞬、なにかとても言いにくそうにしかめられ、

「そうですねえ……。例えば――最初の状況確認、災害地区の確認と調査、生存者確認、怪我人収用、災害対策本部の設置、煮炊き場の設置、水場の確保、馬の駐留所の確保、被害状況の調査と確認などなど?」

「――これ以上、調査をする必要があるんですか?!」
「もちろんあります。まだまだ、することはたくさんありますから」

 断固として豪語するセシルに、レイフがひどく顔を引きつらせている。

 午前中に災害の報告が飛び込んできて、一時間もしないで領地を発ったセシル達一行は、夕食を終えた頃には戻って来た。

 そんな短期間で、すでに、ほとんどの状況確認や調査の報告ができあがっていたのだから。

「――凄すぎですね……」
「ええ、そうなんです……」

 もう、全く、文句のつけようがないほどの対応の早さに、対応の仕方に、統率方法に、その全てに、頭が上がらないのだ。

「明日は、もう少し、災害地区の調査範囲を広げていこうと考えています。ボイマレの入り口付近は、山から連なる丘が続いた傾斜区域でしてね。そこの丘が、半分以上滑り落ちて来てしまったようなんです。ですから、明日は、丘側に上がって、少し調査を続けてみようと考えていました」
「なるほど」

「今の状況確認は一応できましたので、お父様?」
「急使かい?」

「ええ、オラフソン伯爵に、急使を送っていただきたいのです」
「ああ、問題ないよ。トムソーヤの報告書を借りたいんだが、いいかね」
「ええ、もちろんです」

「明日、手紙をしたため、急使を飛ばしてもらおう」
「ありがとうございます。お母様の方は、どうでしたか?」
「オスミン様は、もう、ぐっすりとお休みになられていますよ。今日も、色々なことを経験なさりましたからね。お疲れでしょう」

「そうですか。オスミン様も――皆様も、視察を楽しまれましたか?」
「ええ、もちろんです」

 そして、どこに行っても質問が尽きないレイフが、一番、楽しんでいた本人だろう。
 その点は、誰一人、指摘しない。

「それは良かったです。リドウィナ様は、お疲れでは?」
「い、いえ……。そのようなことは、ございません……」




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