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Part 3
Д.б 状況確認 - 09
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* * *
「あの……、セシルじょうのおかあさま……」
不思議な呼ばれ方だったが、レイナは小さなオスミン王子に向く。
「はい、なんでございましょう?」
「あの……、いまは、きんきゅうじたい、なのでしょう?」
「緊急事態ではありませんが、ここから少し離れた場所にある村で、少し、問題が起きてしまったようですわね」
それで、きゅっと、オスミンが口を結ぶ。
「それは……、ぼくが、こんなことをして、いいんですか……?」
まだこんな幼いのに、王子としての立場も理解していて、大人達が駆けまわっている時に、一人だけ視察に来ている自分に、罪悪感を感じてしまっているのだろうか。
レイナは膝を折って屈みながら、オスミンの視線と同じ高さに目線を合わせる。そして、優しく微笑んだ。
「わたくし達が邸に残っていても、やきもき心配するだけで、今はまだ、手伝えることがあまりございません。ですから、待っている間は、わたくし達ができることをするんですの」
「……できること?」
「そうです。こうやって視察に回って、たくさんのことを知ることも、大切でしょう?」
「そう、だと……おもいます」
「大切なことだと、わたくしは思いますわ。特に、この領地は、他領と違い、色々な方法が試されているんですのよ。わたくしだって、毎回、この地を訪れる度に、驚かされています」
「……セシルじょうのおかあさまが……?」
「ええ、もちろんです。毎回、驚く新発見があって、いつもこの地にやって来ることを、楽しみにしておりますの。今回だって、「時計塔」 というものを見る為に、この豊穣祭を、とても心待ちにしておりましたのよ」
その一言をきいて、パっと、オスミンの顔が輝いた。
「おにんぎょうが、おどっていたのですっ! くるくると。ぼくは、はじめてみましたっ」
「ええ、わたくしもですの。とてもすばらしいもので、つい、拍手をしてしまいましたわ」
確かに、中央に集まったたくさんの観光客から、拍手喝采がたくさん上がっていた。
「セシルさんは、いつもね、色んなことを試されるんですのよ。知らないことだったり、驚くことだったり、それでも、そのどれも全部、興味深く、わたくしは、いつもこの地を訪れる度に、領地の視察をさせていただいています。わたくしは、“1日体験ツアー”というコースにも参加しましたわ」
嬉しそうにそれを説明するレイナに、レイフとリドウィナの二人も、視察前に紹介されたコースのパンフレットを思い出していた。
まさか、セシルの義母親である伯爵夫人のレイナまで、そのコースに参加していたなど驚きである。
「ですからね? 学べる機会や、学べる場があるというのは、とても幸せなことだと、わたしも、常々、実感しておりますのよ。この年になって――と、思われるかもしれませんが、知らないことを発見する度に、なんだか嬉しくなってきますもの。オスミン様は、どう思われますか?」
「――ぼくは……、たのしい、です……」
最後の方が、聞こえるか聞こえないかほどの小声になってしまったが、レイナがオスミンに優しく微笑んでいく。
「セシルさんは、手助けが必要となったら、そう、きちんとおっしゃってくれる方なんですよ。そのセシルさんが、今は視察を続けてください、とおっしゃっているのですから、今はまだ、わたくし達の“出番”ではないということなのです」
「でばん……?」
「ええ、そうです。ですから、わたくし達は、できることをして、有意義な時間を過ごすべきだと思いませんか? みなさまが、この領地で学ぶこと、知っていくことは、きっと、これからの役に立っていくことだと、わたくしは思っております」
「……はい……」
「よろしかったら、わたくしを、エスコートしてくださいませんか?」
オスミンの身長なら、レイナをエスコートできるものではないが、そっと、目の前に出された左手を見て、オスミン王子が自分の手を出して、ギュッと、握っていた。
「ありがとうございます」
「セシルじょうのおかあさま、このグリーンハウスは、おかあさまも、おどろきましたか?」
「ええ、もちろんです。グリーンハウスが建築された年にも、わたくしも領地にやって来ておりましたの。ここのグリーンハウスを案内されまして、それはもう、驚きましたわ」
「そうですか……」
オスミン一人だけが驚いているのではないと分かって、その頬が、少しだけ嬉しそうに盛り上がっていた。
「オスミン」
「はい、おじうえ」
「新しいことを学べるということは、本当に楽しいことだろう? 私だって、とても驚いているんだよ」
「おじうえがっ?!」
「もちろん。だから、オスミン、この領地にいる時間は限られている。その間、お前も、学べることをたくさん学びなさい。お前が成長していく過程でも、きっと、その全てが、役に立っていくだろう」
「はい、わかりました、おじうえっ」
叔父であるレイフにも後押ししてもらって、オスミンが素直に喜んでいる。
「話がまとまったようなので――では、私の質問をしてもいいだろうか?」
「もちろんでございます」
では――と、質問をしたくてうずうずしていたらしいレイフから、矢継ぎ早で質問が落とされて、おまけに、まだその質問が終わらないようで――案内役の庭師も、ポカンと口を開け、唖然としている。
「父うえが、おじうえは、いつもしつもんがおおすぎる、といっていました」
「まあっ!」
レイナとリドウィナが、ちょっと吹き出してしまった。
~・~・~・~・~・~・~・~・
読んでいただき、ありがとうございます。
یہِ کِتاب پرنہٕ خٲطرٕ چُھ تُہُنٛد شُکریہ
~・~・~・~・~・~・~・~・
「あの……、セシルじょうのおかあさま……」
不思議な呼ばれ方だったが、レイナは小さなオスミン王子に向く。
「はい、なんでございましょう?」
「あの……、いまは、きんきゅうじたい、なのでしょう?」
「緊急事態ではありませんが、ここから少し離れた場所にある村で、少し、問題が起きてしまったようですわね」
それで、きゅっと、オスミンが口を結ぶ。
「それは……、ぼくが、こんなことをして、いいんですか……?」
まだこんな幼いのに、王子としての立場も理解していて、大人達が駆けまわっている時に、一人だけ視察に来ている自分に、罪悪感を感じてしまっているのだろうか。
レイナは膝を折って屈みながら、オスミンの視線と同じ高さに目線を合わせる。そして、優しく微笑んだ。
「わたくし達が邸に残っていても、やきもき心配するだけで、今はまだ、手伝えることがあまりございません。ですから、待っている間は、わたくし達ができることをするんですの」
「……できること?」
「そうです。こうやって視察に回って、たくさんのことを知ることも、大切でしょう?」
「そう、だと……おもいます」
「大切なことだと、わたくしは思いますわ。特に、この領地は、他領と違い、色々な方法が試されているんですのよ。わたくしだって、毎回、この地を訪れる度に、驚かされています」
「……セシルじょうのおかあさまが……?」
「ええ、もちろんです。毎回、驚く新発見があって、いつもこの地にやって来ることを、楽しみにしておりますの。今回だって、「時計塔」 というものを見る為に、この豊穣祭を、とても心待ちにしておりましたのよ」
その一言をきいて、パっと、オスミンの顔が輝いた。
「おにんぎょうが、おどっていたのですっ! くるくると。ぼくは、はじめてみましたっ」
「ええ、わたくしもですの。とてもすばらしいもので、つい、拍手をしてしまいましたわ」
確かに、中央に集まったたくさんの観光客から、拍手喝采がたくさん上がっていた。
「セシルさんは、いつもね、色んなことを試されるんですのよ。知らないことだったり、驚くことだったり、それでも、そのどれも全部、興味深く、わたくしは、いつもこの地を訪れる度に、領地の視察をさせていただいています。わたくしは、“1日体験ツアー”というコースにも参加しましたわ」
嬉しそうにそれを説明するレイナに、レイフとリドウィナの二人も、視察前に紹介されたコースのパンフレットを思い出していた。
まさか、セシルの義母親である伯爵夫人のレイナまで、そのコースに参加していたなど驚きである。
「ですからね? 学べる機会や、学べる場があるというのは、とても幸せなことだと、わたしも、常々、実感しておりますのよ。この年になって――と、思われるかもしれませんが、知らないことを発見する度に、なんだか嬉しくなってきますもの。オスミン様は、どう思われますか?」
「――ぼくは……、たのしい、です……」
最後の方が、聞こえるか聞こえないかほどの小声になってしまったが、レイナがオスミンに優しく微笑んでいく。
「セシルさんは、手助けが必要となったら、そう、きちんとおっしゃってくれる方なんですよ。そのセシルさんが、今は視察を続けてください、とおっしゃっているのですから、今はまだ、わたくし達の“出番”ではないということなのです」
「でばん……?」
「ええ、そうです。ですから、わたくし達は、できることをして、有意義な時間を過ごすべきだと思いませんか? みなさまが、この領地で学ぶこと、知っていくことは、きっと、これからの役に立っていくことだと、わたくしは思っております」
「……はい……」
「よろしかったら、わたくしを、エスコートしてくださいませんか?」
オスミンの身長なら、レイナをエスコートできるものではないが、そっと、目の前に出された左手を見て、オスミン王子が自分の手を出して、ギュッと、握っていた。
「ありがとうございます」
「セシルじょうのおかあさま、このグリーンハウスは、おかあさまも、おどろきましたか?」
「ええ、もちろんです。グリーンハウスが建築された年にも、わたくしも領地にやって来ておりましたの。ここのグリーンハウスを案内されまして、それはもう、驚きましたわ」
「そうですか……」
オスミン一人だけが驚いているのではないと分かって、その頬が、少しだけ嬉しそうに盛り上がっていた。
「オスミン」
「はい、おじうえ」
「新しいことを学べるということは、本当に楽しいことだろう? 私だって、とても驚いているんだよ」
「おじうえがっ?!」
「もちろん。だから、オスミン、この領地にいる時間は限られている。その間、お前も、学べることをたくさん学びなさい。お前が成長していく過程でも、きっと、その全てが、役に立っていくだろう」
「はい、わかりました、おじうえっ」
叔父であるレイフにも後押ししてもらって、オスミンが素直に喜んでいる。
「話がまとまったようなので――では、私の質問をしてもいいだろうか?」
「もちろんでございます」
では――と、質問をしたくてうずうずしていたらしいレイフから、矢継ぎ早で質問が落とされて、おまけに、まだその質問が終わらないようで――案内役の庭師も、ポカンと口を開け、唖然としている。
「父うえが、おじうえは、いつもしつもんがおおすぎる、といっていました」
「まあっ!」
レイナとリドウィナが、ちょっと吹き出してしまった。
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読んでいただき、ありがとうございます。
یہِ کِتاب پرنہٕ خٲطرٕ چُھ تُہُنٛد شُکریہ
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