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Part 3
Д.б 状況確認 - 08
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「家屋を失ってしまったのなら、また、一つずつ造り直していけば良いのです。一つずつ、積み上げていけば良いのです。今ここであなたが死んでしまったら、一体、誰が、あなたの家族や一族の思い出を守っていくことができると言うのです?」
「…………だ、って……」
「何もかもを失い多大なショックを受けていることでしょう。だからと言って、あなたの命が奪われたわけではない。まだ、この場で生きている。この土砂の下には――たぶん……自分の意思とは無関係に、災害に巻き込まれて亡くなってしまった人達が埋もれてしまっているのですよ」
それを聞いて、さすがに驚いたのか、女が地面を咄嗟に見下ろした。誰だって、死人――死体の上で座り込んでいたくなどないはずだ。
「死にたい、などという言葉は、その人達に対する侮辱です」
あまりに惨めそうに顔をきつく歪め、女はそれ以上何も言わなかった。ボロボロと涙だけが、黒くすすけた頬を流れ落ちていく。
「私が彼女の片腕を支えますから、もう片方の腕をお願いできますか?」
「私とクリストフがします」
「いいえ。クリストフ様は、私達が足を滑らせて転んでしまった場合に、滑り落ちる前に支えてもらわなければならないかもしれません」
その状況は考えていなかったギルバートとクリストフだった。
「わかりました」
地面に座り込んでいる女性の片腕を取り上げ、ギルバートが反対の腕を取る。セシルとギルバートの二人で、動きもしない女性を立ち上がらせるようにした。
「下りる時は、少し滑るかもしれませんが、無理に滑ることを止めようとはなさらず、そのまま滑っていく方向に体を寄せるようにしてください」
「わかりました」
「最悪の場合は、私の掛け声で、一気に駆け下りてきましょう」
「わかりました」
登る時と違い、下りて行く時は、固まっていない土砂と泥が一緒に落ちてきて、セシルの言葉通り、足が土砂にはまって滑ってしまいそうになる。
下手に、足を止めて、下に崩れ落ちて行かないようにするよりは、むしろ、スキーの要領で足を滑らせるように、一気に下方に下りて行った方が良いのだ。
結局は、セシルの掛け声で、セシルとギルバートの二人は坂の半ばくらいから下方に向かって、滑っていく勢いのまま駆け下りてしまうことになってしまったのだ。
「すみません、女性を受け止めてください」
少しスピードが出過ぎてしまい、セシルとギルバートは、ほぼ、急斜面の勢いのまま走り込んできた形になる。
それで、土砂が終わった場所でもそのスピードが止まらず、セシルとギルバートが走り降りてくるので、待機していた騎士達も驚いてしまい、慌てて、セシル達の方に少し駆けて来た。
「ギルバート様、このまま女性を騎士達の方へ」
「わかりました――」
息もピッタリに、勢いで駆け下りていく二人は、向かってくる騎士達の方に向かって、女性を振り上げるようにした。
その反動のまま、女性が前のめりに突っ込んでいき、掛けて来た騎士達に受け止められていた。
だが、セシルとギルバートは足のスピードが止まらず、騎士達を通り過ぎて、平地の場でやっと足を止めることができた。
「お二人とも大丈夫ですか?」
どうやら、クリストフの方は、セシルとギルバートの足並みを見て、そのまま器用に土砂の上を滑りながら駆け下りてきたようだった。
「ええ、私は大丈夫です……」
「私もだ」
ホッと、安堵の一息をついて、セシルが後ろの騎士達を確認する。
誰一人、怪我した様子もなく、放り投げてしまった形の女性も無事のようである。
「皆さんに、その女性を任せてもよろしいですか? 私は、このまま先程の集合場所に戻らなければならないものですから」
「問題ありません。どうぞ、我々にお任せください」
平らな地面に領民がいるのなら、後は、問題なく騎士達で対処できる。
それを確認し、セシル達三人はまたすぐに馬に飛び乗っていく。
憔悴して、メソメソと、泣きじゃくる女性は騎士達に任せ、また、セシルは集合場所へと馬を馳せる。
セシルが戻ってくると、どうやら、迂回して遠回りを余儀なくされた物資管理の一行が、到着していたようだった。
「マスター」
「ああ、一応、全部、運び込めたようですね……」
「はい。迂回路の方は、通りも乾いておりましたし、雨が降った様子も見られず、全く問題はありませんでしたから」
「そう、良かったわ……。それなら、ここら一体を、集合場所にします。災害対策本部は、ここに設置しましょう」
「わかりました」
それだけの指示なのに、物資や荷物を運んできた騎士達が、積み荷下ろしに取り掛かっていく。
大きな木材やら、かなりの量の木版が大きな荷馬車に積み上げられていて、テントを一つ張るだけのような作業で、さっきから口を挟まずセシルに付き添っているギルバートとクリストフも、かなり内心で呆然としている。
指示が出され――ても、あまりに簡潔な一言が多くて、それなのに、領地の騎士達は全く混乱した様子もなく、次から次へと、自分達の作業に取り掛かっていく。
自分達の分担された仕事を、こなしていく。
それから、一時間もしないで、「災害対策本部」 というテントが立ち上がっていた。
その中に入っていったギルバートとクリストフは、完全に言葉を失っていた。
「――――――――」
サッと見渡しただけでも、日本でいう8畳ほどの大きさになるだろうテントの中には、中央にテーブルが置かれ、その上には、すでに何枚もの地図やら、他の書類がたくさん並べられている。
壁側にはセシルの書斎で見たことのある、「ホワイトボード」 もどき、移動式の展示版が二つ揃って並んでいる。
その前には、三脚が何個も並び、三脚に立てかけられている大きな板の上には、木のクリップで吊るしている置台に小箱が乗せられ、中にはたくさんの小さなピンが。
ボードにも、すでに、何枚もの紙がピンで留められていた。
テントの組み立てに三十分もかからず、おまけに、中で仕事ができるように、必要物資の組み立てにも三十分はかからず、すでに――この場所は、本格的なメインの作戦本部と化していた。
あまりの素早さに、統率の良さに、効率の良さに、ギルバートとクリストフは、唖然を通り越して、完全に言葉なし。
「これから、水の確保が大事になってきます。生存確認とはまた別に、領内の水場、または、貯水場の確認、排泄場、馬を管理できる場所、飼葉の確認などが必要ですね。村人の中で、土地勘のある者に案内してもらいましょう」
それで、中にいたセシルがさっさと外に出て行ってしまう。
そのセシルを追っていく二人の視界に、テントのすぐ横には、さらし板だけが乗っているような、真っ直ぐなベンチが三つ並べられていた。
その組み立てを終わった騎士達は、今度は、煮炊きのできる簡易かまどの組み立てに取りかかっているようだった。その後ろには、二人でやっと抱えられそうなほどの大鍋が三つほど。
セシルは村の村長という老人と話し込んでいて、その話し合いが終わると、村人の中でもまだ若く、体力が残っている青年達が5~6人集まっていた。
それで、騎士達がその青年を伴って、確認と調査とへと向かっていく。
災害地にやってきて、まだ一時間もしていないというのに、すでに、この場ではフルスイングで、確認調査の本格的な任務が始まっていた。
こんな場でも、さすがに、ギルバートとクリストフも言葉なく、胸内で呟いていたのは言うまでもない。
――これは、さすがに……予想を超えすぎだろ……。
凄すぎて……。
~・~・~・~・~・~・~・~・
読んでいただき、ありがとうございます。
ಈ ಪುಸ್ತಕವನ್ನು ಓದಿದ್ದಕ್ಕಾಗಿ ಧನ್ಯವಾದಗಳು (ee pustakavannu odiddakkagi dhanyavadagalu)
~・~・~・~・~・~・~・~・
「…………だ、って……」
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「私とクリストフがします」
「いいえ。クリストフ様は、私達が足を滑らせて転んでしまった場合に、滑り落ちる前に支えてもらわなければならないかもしれません」
その状況は考えていなかったギルバートとクリストフだった。
「わかりました」
地面に座り込んでいる女性の片腕を取り上げ、ギルバートが反対の腕を取る。セシルとギルバートの二人で、動きもしない女性を立ち上がらせるようにした。
「下りる時は、少し滑るかもしれませんが、無理に滑ることを止めようとはなさらず、そのまま滑っていく方向に体を寄せるようにしてください」
「わかりました」
「最悪の場合は、私の掛け声で、一気に駆け下りてきましょう」
「わかりました」
登る時と違い、下りて行く時は、固まっていない土砂と泥が一緒に落ちてきて、セシルの言葉通り、足が土砂にはまって滑ってしまいそうになる。
下手に、足を止めて、下に崩れ落ちて行かないようにするよりは、むしろ、スキーの要領で足を滑らせるように、一気に下方に下りて行った方が良いのだ。
結局は、セシルの掛け声で、セシルとギルバートの二人は坂の半ばくらいから下方に向かって、滑っていく勢いのまま駆け下りてしまうことになってしまったのだ。
「すみません、女性を受け止めてください」
少しスピードが出過ぎてしまい、セシルとギルバートは、ほぼ、急斜面の勢いのまま走り込んできた形になる。
それで、土砂が終わった場所でもそのスピードが止まらず、セシルとギルバートが走り降りてくるので、待機していた騎士達も驚いてしまい、慌てて、セシル達の方に少し駆けて来た。
「ギルバート様、このまま女性を騎士達の方へ」
「わかりました――」
息もピッタリに、勢いで駆け下りていく二人は、向かってくる騎士達の方に向かって、女性を振り上げるようにした。
その反動のまま、女性が前のめりに突っ込んでいき、掛けて来た騎士達に受け止められていた。
だが、セシルとギルバートは足のスピードが止まらず、騎士達を通り過ぎて、平地の場でやっと足を止めることができた。
「お二人とも大丈夫ですか?」
どうやら、クリストフの方は、セシルとギルバートの足並みを見て、そのまま器用に土砂の上を滑りながら駆け下りてきたようだった。
「ええ、私は大丈夫です……」
「私もだ」
ホッと、安堵の一息をついて、セシルが後ろの騎士達を確認する。
誰一人、怪我した様子もなく、放り投げてしまった形の女性も無事のようである。
「皆さんに、その女性を任せてもよろしいですか? 私は、このまま先程の集合場所に戻らなければならないものですから」
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平らな地面に領民がいるのなら、後は、問題なく騎士達で対処できる。
それを確認し、セシル達三人はまたすぐに馬に飛び乗っていく。
憔悴して、メソメソと、泣きじゃくる女性は騎士達に任せ、また、セシルは集合場所へと馬を馳せる。
セシルが戻ってくると、どうやら、迂回して遠回りを余儀なくされた物資管理の一行が、到着していたようだった。
「マスター」
「ああ、一応、全部、運び込めたようですね……」
「はい。迂回路の方は、通りも乾いておりましたし、雨が降った様子も見られず、全く問題はありませんでしたから」
「そう、良かったわ……。それなら、ここら一体を、集合場所にします。災害対策本部は、ここに設置しましょう」
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それだけの指示なのに、物資や荷物を運んできた騎士達が、積み荷下ろしに取り掛かっていく。
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その前には、三脚が何個も並び、三脚に立てかけられている大きな板の上には、木のクリップで吊るしている置台に小箱が乗せられ、中にはたくさんの小さなピンが。
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テントの組み立てに三十分もかからず、おまけに、中で仕事ができるように、必要物資の組み立てにも三十分はかからず、すでに――この場所は、本格的なメインの作戦本部と化していた。
あまりの素早さに、統率の良さに、効率の良さに、ギルバートとクリストフは、唖然を通り越して、完全に言葉なし。
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それで、中にいたセシルがさっさと外に出て行ってしまう。
そのセシルを追っていく二人の視界に、テントのすぐ横には、さらし板だけが乗っているような、真っ直ぐなベンチが三つ並べられていた。
その組み立てを終わった騎士達は、今度は、煮炊きのできる簡易かまどの組み立てに取りかかっているようだった。その後ろには、二人でやっと抱えられそうなほどの大鍋が三つほど。
セシルは村の村長という老人と話し込んでいて、その話し合いが終わると、村人の中でもまだ若く、体力が残っている青年達が5~6人集まっていた。
それで、騎士達がその青年を伴って、確認と調査とへと向かっていく。
災害地にやってきて、まだ一時間もしていないというのに、すでに、この場ではフルスイングで、確認調査の本格的な任務が始まっていた。
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