奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)

Anastasia

文字の大きさ
上 下
461 / 532
Part 3

Д.б 状況確認 - 06

しおりを挟む
 手渡された紙を持ったまま、セシルが少し考え込んで、それからすぐに、トムソーヤが押さえている画板の上に紙を置いて、ペンを取る。

 スー、スーっと、手早く、紙の上にセシルが線を書き込みだした。

「まず初めに、ここの欄が“名前”を記入するところ。一列ごとに、一緒に住んでいる家族を、全員、ひとまとめにして記入しましょう。そして、次の欄から、“ボイマレ”、“コトレア”、“生存者”、“行方不明”、“死亡”、それから“家屋”、“その他”――まず初めは、これくらいかしら?」

 その紙の中には何本かの縦の線が描かれていて、現代版で言えば、統計用のテーブルができていた。

「“名前”の欄には全員の名前、性別、年齢を。“ボイマレ”と“コトレア”は、現在の所在地。〇と×で区別を付けましょう? もし、コトレアの領地に移動することになったら、その日にちも、隣に記入しておいてくれたら助かるわ」

「わかりました」

「次の欄は、私達自身が確認した状況で、〇と×ね。もし、行方が分からなかったり、生存確認ができていない場合は、全部“行方不明”の欄に。私達が、きちんと、最終的に確認を終えるまでは、“死亡”欄を更新しないでね。もし――その確認ができた場合、日付けも、一応、記入しておいてね」
「はい」

「“家屋”は、家屋破損で家があるかないのかの確認。それで、“その他”の部分には、職業やできる仕事など。あとは、家の場所がどの辺だった,のかとか、そういう気づいたことを、何でも記入してね。――こういったのでどうかしら?」
「わかりました、問題ありません」

 昔から、セシルは、こうやって、組織的や合理的な作成が、ものすごい得意な女性だった。

 シフトの体制や組み込みなども簡単に、アッと言う間に終わらせてしまうし、こういった情報集めになると、セシルにとって何が必要なのか、どんな情報が必要なのかと、それがあまりに整然と整頓され、構成されて作られる。

 トムソーヤ達が領地にやって来てからも、いつもセシルからは、情報のまとめ方、分析の仕方、統計の取り方などなど、要は、現代での情報管理やデーター管理のやり方を、直に教わって来たのだ。

「これ、番号を入れてもいいですか?」
「ええ、もちろんよ。使いやすいように、自分達で工夫してね?」

 それで、トムソーヤはもう一本のペンを取り上げ、一番左側に線を加え、1番を最初の列に記入した。

「なあ? これ、他の人数で分担するなら、誰が情報集めたか、記録しておいた方がいいんじゃないか?」
「あっ、確かに」

 ケルトの指摘で、右端上に、トムソーヤが“TF”のイニシャルと、ページナンバーも記録する。

「じゃあ、それをうちの騎士達と、王国騎士団の騎士の方で、分配しましょう」
「わかりました」

「きっと、生存確認をしている間、みんなから、他の名前が挙がってくる可能性が大きいと思います。「うちの兄は、妹は、母は?」 っていう感じで。もしかすると、友達の名前とかも、上がってくるかもしれませんね。その時は、もう、全部、記録してください。後々、全員を回っている間に、家族構成などがはっきりしてくるでしょうから。今は、できる限りの情報を集めることが重要です。漏らさず、全部、記録してね?」
「わかりました」

「今、現在、集まってもらった生存者達は、それぞれに家族が揃っている組と、はぐれたり、行方不明が分かっている組、それから怪我人の3グループに分かれています。うちの騎士達と、王国騎士団の騎士達で分担して、生存確認を急がせましょう」
「はい。ですが、画板は、四つしか持ってきていません」

「それなら、あなた達ともう一組がうちの騎士から、残りの二つを、王国騎士団にお任せしましょう? その指揮は、ケルト、あなたが」
「わかりました」
「では、取り掛かってください」

 それで、二人はすぐに動き出す。

「クリストフ」
「わかりました」

 セシルの指示を伝えに、クリストフもすぐに動いていた。

 全員が動き出した中、ギルバートも、つい、手を顎に押し当てながら唸ってしまう。

「どうかなさいましたか、ギルバート様?」
「いえね――あなたの領地の騎士達は、一から十まで説明しなくても、あなたの簡単な指示だけで、何をすべきなのかすぐに理解していますし、納得しているように見えましたもので」
「そのように訓練していますので」

 どのような訓練なんですか?

 ついつい、ギルバートの頭にもそんな質問が浮かんできてしまう。

 王国騎士団とは全く違った訓練方法をする、コトレア領の騎士達。おまけに、ゲリラ戦などという未知なる戦法を得意とする、騎士団だ。

 災害地にやって来ても、指示が簡潔で、あまりに端的だ。長々と全部を説明する必要がないのが明らかなほど、指示が早くて、それを受けている騎士隊の行動が早い。

 一体、それはどんな訓練を受けたら、そんな風な成果がでるのか、ギルバートも確認してみたいものである。

 クリストフの指示を受けて、四組の騎士達は馬でその場を離れて行った。ケルトの説明を聞いて、「画板」を持たされた組は、トムソーヤの持っている紙を真似て、今は必至でテーブルの枠を書き込んでいる。

 イシュトールとユーリカは、ケルトとトムソーヤと同じように、村人達の確認に向かわせる。

 セシルの隣にはいつもギルバートとクリストフが付き添っているので、今は、セシルから別行動するように、二人は言い遣ったのだ。

 最初の村人達が、セシル達が待機している場所にやって来るのに、それほど時間はかからなかった。
 子供連れの親子らしく、一体、村に何が起きたから判らず、混乱して、子供達は怯えた様子があらわなほど、村人達は憔悴しょうすいしていた。

 どうやら、土砂崩れを間近で目撃してしまったような家族である。

 セシルに促され、草むらに腰を下ろし座ったようだが、ショック状態でセシル達の存在も目に入っていないようだった。

 それでも、どこまでも落ち着いたセシルの静かな声がつむがれ、どこまでも落ち着いた態度が変わらず、なにか静穏――を思い浮かべるようなセシルを前に、ひどいショックは受けていても、村人達はセシルの状況説明に耳を貸しているようだった。

 その間も、ゾロゾロと、ショックを受けた家族や、憔悴しょうすいも露わな村人たちが、騎士達に呼びかけられて、この集合場所に集まってきている。




~・~・~・~・~・~・~・~・
読んでいただき、ありがとうございます。
Go raibh maith agat as an leabhar seo a léamh
~・~・~・~・~・~・~・~・
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ

柚木 潤
ファンタジー
 実家の薬華異堂薬局に戻った薬剤師の舞は、亡くなった祖父から譲り受けた鍵で開けた扉の中に、不思議な漢方薬の調合が書かれた、古びた本を見つけた。  そして、異世界から助けを求める手紙が届き、舞はその異世界に転移する。  舞は不思議な薬を作り、それは魔人や魔獣にも対抗できる薬であったのだ。  そんな中、魔人の王から舞を見るなり、懐かしい人を思い出させると。  500年前にも、この異世界に転移していた女性がいたと言うのだ。  それは舞と関係のある人物であった。  その後、一部の魔人の襲撃にあうが、舞や魔人の王ブラック達の力で危機を乗り越え、人間と魔人の世界に平和が訪れた。  しかし、500年前に転移していたハナという女性が大事にしていた森がアブナイと手紙が届き、舞は再度転移する。  そして、黒い影に侵食されていた森を舞の薬や魔人達の力で復活させる事が出来たのだ。  ところが、舞が自分の世界に帰ろうとした時、黒い翼を持つ人物に遭遇し、舞に自分の世界に来てほしいと懇願する。  そこには原因不明の病の女性がいて、舞の薬で異物を分離するのだ。  そして、舞を探しに来たブラック達魔人により、昔に転移した一人の魔人を見つけるのだが、その事を隠して黒翼人として生活していたのだ。  その理由や女性の病の原因をつきとめる事が出来たのだが悲しい結果となったのだ。  戻った舞はいつもの日常を取り戻していたが、秘密の扉の中の物が燃えて灰と化したのだ。  舞はまた異世界への転移を考えるが、魔法陣は動かなかったのだ。  何とか舞は転移出来たが、その世界ではドラゴンが復活しようとしていたのだ。  舞は命懸けでドラゴンの良心を目覚めさせる事が出来、世界は火の海になる事は無かったのだ。  そんな時黒翼国の王子が、暗い森にある遺跡を見つけたのだ。   *第1章 洞窟出現編 第2章 森再生編 第3章 翼国編  第4章 火山のドラゴン編 が終了しました。  第5章 闇の遺跡編に続きます。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

辺境伯令嬢に転生しました。

織田智子
ファンタジー
ある世界の管理者(神)を名乗る人(?)の願いを叶えるために転生しました。 アラフィフ?日本人女性が赤ちゃんからやり直し。 書き直したものですが、中身がどんどん変わっていってる状態です。

処理中です...