奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)

Anastasia

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Part 3

* Д.б 状況確認 *

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「父ちゃんっ……!!」

 ボイマレ村に向かう道に近づいてきて、セシル達の視界にも二人の子供らしき影が入ってきた。
 それで、そのまま馬を進めて、土砂崩れがあったらしい場所へと近づいていく。

 セシル達が馬で近づいていくと、ボイマレから大慌てで逃げ込んで来た男の話した通り、目の前の道は――こんもりとした土砂で完全に封鎖されていた。

「これは……!!」
「なんと……!!」

 土砂崩れがあったとは、ギルバートからも説明があった王国騎士団の騎士達でも、実際問題、そのような天災を目の辺りにしたのは今日が初めてだった。

 全員が、信じられない光景を目にしたかのように瞠目し、言葉を失っている。

 馬で近づいていった場所は、すでにものすごい高さで土砂が積み上げられていて、ボロボロと上の方から崩れてきたであろう残りの土砂や泥で、そこら中が真っ黒になっていた。

「ポレ……!」
「父ちゃんっ……!」

 騎士の一人に相乗りさせてもらっていた形の男は、騎士に馬から下ろしてもらうと、その場に子供が駆けつけてきた。

 ヒシッと、子供が男に抱き着いてきたと同時に、男の方もしっかりと子供を抱きしめる。

「ポレ……、無事だったか?」
「父ちゃんっ……! 父ちゃん、生きてたんだな! もう、死んじゃったかと思った……! ――だって、村が、村が、うもれてるんだもん……」

 父親に抱き着いている子供が、その場で大泣きしてしまった。

「おじさん……」

 その後ろで、もう一人残っていた子供が、その場で立ち尽くしたまま泣き出してしまった。

「おじさん……!」
「おお、ポール……。お前も生きていたんだな……。よかった、よかった……」

 手だけを振って、こっちに来なさいと、伯父に呼ばれたようで、子供が駆け出してきた。そして、最初の子供のように、必死に、男にしがみついていく。

「おじさん……!」

 どうやら、山に残してきた子供達は災害に巻き込まれず、無事だったようである。
 その事実が判り、セシル達もホッと一安心だ。

 まさか、ボイマレに到着して早々――すでに、死人の確認をしなければならない最悪の状態は、さすがに、セシル達も遭遇したくはないものだ。

 子供達が怪我一つない様子で無事だったので、全員が安堵の息を漏らしていた。

 二人の子供達は子供ではあったのが、だからと言って、あまりに幼過おさなすぎる年齢という感じにも見受けない。外見から判断するに、11~12歳くらいの少年達だろうか。

「感動の再会の場に水を差してしまうのははばかれるのですが、今は緊急事態ですので、まず、説明を聞かせてくれませんか?」

 その場で、とても落ち着いた、静かな声が落ち、男にしがみついている少年達がやっと顔を上げた。

 顔を上げた先で、実は――ものすごい数の大人が揃っていて、その全員が剣をぶら下げていて、見るからに“お貴族サマ”という様相がありありとしていた為か、二人の顔が一気に青ざめていった。

 ぎゅっと、怯えたように、更に男にしがみついていく。

「ああ、こちらのお方は、コトレア領の領主さまなんだ。道が埋もれてしまったから、こんな風に、確認に来てくださったんだ」
「確認……?」

 剣をぶら下げている“お貴族サマ”がやって来たのだ、少年達だって、何の理由も判らずに、もしかして……捕まえられるのかもしれない……と、怯えてしまったのだ。

「そうですね。ですから、今から村の調査に入ります」
「ちょうさ……?」
「そうです。あなた達二人は、山に登っていたと聞きましたが、二人で下りて来たのですか?」

 ゆっくりと、銀髪のとてもきれいな女性が歩み寄って来て、少年達の少し前でその足を止めた。

 少年達だって、今まで生きて来た中で、こんなにきれいな貴族のオジョーサマを見たことがないだけに、セシルを見上げながらポカンと口を開けている。それで、実は、セシルがズボンを履いている事実に気が付いていない。

 二人が返答もせずに、セシルを凝視しているので、男が焦って、少年達の頭を少し押すようにした。

「こらっ。失礼になるじゃないか。頭を下げなさい」
「は、はいっ……」
「申し訳ありません、領主さま……」

 少年達が大慌てで、男にしがみついたまま頭を下げた。

「今は、緊急を要する非常事態ですから、そのような堅苦しい礼儀は抜きにしましょう。時間の無駄ですから」
「………………えっ……?!」

 今、貴族のご令嬢らしからぬ発言を聞いて、おまけに、あまりに貴族らしからぬ発言を聞いて、男の方も自分の耳を疑ってしまったほどだ。

「時間の無駄ですから、そのようなくだらない礼節は抜きにしてください。今の私達は、一刻も早く村の様子を調査し、生存者がいるかどうか確認しなければなりませんから」

 そして、男の方も――今、自分が耳にした言葉が嘘ではないと判り、少年達同様に口をポカンと開けて、理解不能だと……いう顔をして動かない(動けない、に近いが……)。

 セシルのすぐ真横にやって来ているギルバートと、すぐ後ろに控えているクリストフも、顔をしかめずにはいられない。

 緊急事態であろうとなかろうと、セシルはだ。生粋の貴族なのである。

 それなのに、普通で考えれば、貴族の令嬢に対して礼節を見せなければ不敬罪で即刻処罰されていてもおかしくはないのに、その行為を“くだらない”で締めくくってしまうのだから、ギルバートとクリストフの二人だって、もう、何と言っていいのか言葉も出ない。


――今、絶対に、、って言ったよな。
――言いましたよね。おまけに、、とも。


 セシルは“普通の貴族令嬢”という肩書も形容も、全くあてはまらない人物だということは、二人も重々に承知している。

 承知してはいても、まさか、貴族に対する礼節までくだらない――なんて、考えていたとは夢にも思わなかったのだ。

 本当に、困ったご令嬢である……。




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読んでいただき、ありがとうございます。
Terima kasih telah membaca buku ini
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