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Part2
В.д 囮に? - 05
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にこにこと、セシルの表情が変わらず、
「私が顔を出した際、ドアを開け、確認しに来た男を外に引っ張り出します。まず、一人は外で片づけてしまいましょう。その騒ぎを聞きつけて、もう一人も、必ず、外に出てくるはずです。攻撃する隙を突かせず、私達が家の中に乗り込んで、もう一人の男を捕縛。もし、その場で、二人以上の人数がいた場合は、少々、乱闘になってしまうかもしれませんが、副団長様とお付きの騎士の方の腕なら、なんとかなると思うのですのよね」
ギルバートの顔が、あまりに嫌そうにしかめられて行く。
この手のセシルの行動は、決まって、止めることができないのである。
「外に引っ張り出した男は、子供達に任せませしょう。私がすぐにその場を避けますので、副団長様、家の中に乗り込んでいただけますか?」
今回は、ギルバートを除け者にせず、ギルバートもセシルの計画の一人として入れたくれたことには、ギルバートも嬉しく思うべきなのだろうか。
その程度には、一応、セシルもギルバートの腕を信用してくれているようだから。
「家の中に乗り込むことは、問題はありません」
その程度の、大捕物や狭い場所での乱闘は、ギルバート達も昔からよくやっていたことだ。
だが、セシル自身が行動を起こすことは、別問題だ。
「下手に長引かせてしまうと、連れ去られた女性の身柄が、更に危険にさらされてしまうかもしれません」
ここら辺の住宅街は、家同士が連なっている集合住宅地が建ち並んでいるようだった。それでも、かなり奥まった場所に入り込んでいる。
だから、大声を張り上げたり、悲鳴を上げたりしたら、隣近所にはある程度の喧騒が届いたり、通りすがりの通行人には聞こえるかもしれないが、昼間でも、それほど活気のある場所ではなかった。
そんな場所で、女性が連れ去られ、家に連れ込まれたのなら、一体――どんな仕打ちをされてしまうか分かったものではない。
誘拐目的が人身売買なら、女性の身柄も、今は、安全かもしれない。
でも、どんな拍子で、男達の気が変わり、女性に魔の手が伸びてしまうか分かったものではない。
「一刻も争うと思いますの」
「そう、ですが……」
渋って、セシルの提案を受け入れられない、受け入れたくないギルバートの前で、セシルは子供達の方に向く。
「家の入口の構造は、どうなっていますか?」
「通りに面している家のすぐ後ろにくっつている家です。ですから、入り口も、横道から入って行かないといけません」
「どのくらいの幅です?」
「私達、五人が並んで丁度いいくらいの幅です。剣は抜いても問題ないです」
「ドアの構造は?」
「鍵穴がありましたが、それだけです。頑丈そうでもなく、ただの木のドアです。覗き窓もありません。内開きです」
まあ、この世界のドアは、大抵、内開きが多いから、その事実はあまり驚きでもない。
「では、通りの前で、一人見張り役。残り四人で、男を一人捕縛。気絶させなさい」
「「わかりました」」
それで、ゴソゴソと、ケルトが自分のショルダーバッグから――ナックルリングを取り出していた。
「普段からも、そのような武器を持ち歩いているなど……」
なんだか、その光景を見て、感心すべきなのか、頭痛が上がりだしそうなのか、ギルバートもどちらとも言えない……。
ジャンと言えば、革の手袋をはめて、手にしている小型の折り畳みナイフを握っている。
「殺す、のはダメだ……」
「いえ。この柄の部分で殴りつけるだけです」
さすがに、王国騎士団からゲストとして招待されている立場なだけに、殺傷問題は起こせるはずもない。
淡々と答えるジャンにも、ギルバートの長い溜息がこぼれてしまっていた。
どうやら、実行部隊は、ジャンとケルトの二人のようである。ハンスは、バックアップと言った所だろうか。
「では、副団長様は、ドア側の壁に控えていていただけますか? 護衛の騎士達も万が一のバックアップとして、壁側に一列に配置しておいてください。ただ、ギルバート様の合図があるまでは、決してその場を動かずに。下手に動かれると、子供達の動きの邪魔になってしまう怖れがありますから」
「……ダメです、と言っても、聞き入れて下さらないのですよね……」
「緊急事態ですもの」
だから、セシルは止める気はないようなのだ。
はああぁぁぁ……と、ものすごい嫌そうな、長い、長い、溜息だけがギルバートの口から吐き出されていた。
「わかりました……。護衛の騎士達は、五人ほど、壁側に控えさせておきましょう。クリストフ、お前は、私の次に突撃してこい」
「分かりました」
「抵抗する場合は、多少、傷付けてもいいだろう。殺さなければいい」
「分かりました」
作戦も決まり、全員の配置も完了した。
きちんと周囲を確認しても、セシル達の動きが目撃されるような気配もなければ、その様子もない。
時間帯が明るいだけに、これは、セシル側にとっては、運が良かったと言えるのだろうか。
通り側に、トムソーヤが見張りに立つ。全く問題ないと、その合図が返って来た。
「では、行きましょうか」
意気込んだ様子もなく、緊張している態度でもない。
相変わらずのことだが、本当に、セシルはどこまでも落ち着いていて、肝っ玉の据わった令嬢だ。
セシルは、丁度、ドアが開くラインに自分の真正面を向かせるように立っていた。
ドアノブは、ドアの左手、内開きなので、ギルバート達はセシルが立っている位置から見て、左側の壁にくっつくようにして身を潜めている。
ドアを開けて、中から外を確認する場合、怪しい人物がいると判明して、咄嗟にドアを閉められるようにするには、ドアの後ろに隠れ、開いた隙間から顔を覗かせるようにしないといけない。
だから、左手に取っ手があるドアは、角度的に、中にいる人間はセシルの右側の、その狭い視界しか入らない。
「私が顔を出した際、ドアを開け、確認しに来た男を外に引っ張り出します。まず、一人は外で片づけてしまいましょう。その騒ぎを聞きつけて、もう一人も、必ず、外に出てくるはずです。攻撃する隙を突かせず、私達が家の中に乗り込んで、もう一人の男を捕縛。もし、その場で、二人以上の人数がいた場合は、少々、乱闘になってしまうかもしれませんが、副団長様とお付きの騎士の方の腕なら、なんとかなると思うのですのよね」
ギルバートの顔が、あまりに嫌そうにしかめられて行く。
この手のセシルの行動は、決まって、止めることができないのである。
「外に引っ張り出した男は、子供達に任せませしょう。私がすぐにその場を避けますので、副団長様、家の中に乗り込んでいただけますか?」
今回は、ギルバートを除け者にせず、ギルバートもセシルの計画の一人として入れたくれたことには、ギルバートも嬉しく思うべきなのだろうか。
その程度には、一応、セシルもギルバートの腕を信用してくれているようだから。
「家の中に乗り込むことは、問題はありません」
その程度の、大捕物や狭い場所での乱闘は、ギルバート達も昔からよくやっていたことだ。
だが、セシル自身が行動を起こすことは、別問題だ。
「下手に長引かせてしまうと、連れ去られた女性の身柄が、更に危険にさらされてしまうかもしれません」
ここら辺の住宅街は、家同士が連なっている集合住宅地が建ち並んでいるようだった。それでも、かなり奥まった場所に入り込んでいる。
だから、大声を張り上げたり、悲鳴を上げたりしたら、隣近所にはある程度の喧騒が届いたり、通りすがりの通行人には聞こえるかもしれないが、昼間でも、それほど活気のある場所ではなかった。
そんな場所で、女性が連れ去られ、家に連れ込まれたのなら、一体――どんな仕打ちをされてしまうか分かったものではない。
誘拐目的が人身売買なら、女性の身柄も、今は、安全かもしれない。
でも、どんな拍子で、男達の気が変わり、女性に魔の手が伸びてしまうか分かったものではない。
「一刻も争うと思いますの」
「そう、ですが……」
渋って、セシルの提案を受け入れられない、受け入れたくないギルバートの前で、セシルは子供達の方に向く。
「家の入口の構造は、どうなっていますか?」
「通りに面している家のすぐ後ろにくっつている家です。ですから、入り口も、横道から入って行かないといけません」
「どのくらいの幅です?」
「私達、五人が並んで丁度いいくらいの幅です。剣は抜いても問題ないです」
「ドアの構造は?」
「鍵穴がありましたが、それだけです。頑丈そうでもなく、ただの木のドアです。覗き窓もありません。内開きです」
まあ、この世界のドアは、大抵、内開きが多いから、その事実はあまり驚きでもない。
「では、通りの前で、一人見張り役。残り四人で、男を一人捕縛。気絶させなさい」
「「わかりました」」
それで、ゴソゴソと、ケルトが自分のショルダーバッグから――ナックルリングを取り出していた。
「普段からも、そのような武器を持ち歩いているなど……」
なんだか、その光景を見て、感心すべきなのか、頭痛が上がりだしそうなのか、ギルバートもどちらとも言えない……。
ジャンと言えば、革の手袋をはめて、手にしている小型の折り畳みナイフを握っている。
「殺す、のはダメだ……」
「いえ。この柄の部分で殴りつけるだけです」
さすがに、王国騎士団からゲストとして招待されている立場なだけに、殺傷問題は起こせるはずもない。
淡々と答えるジャンにも、ギルバートの長い溜息がこぼれてしまっていた。
どうやら、実行部隊は、ジャンとケルトの二人のようである。ハンスは、バックアップと言った所だろうか。
「では、副団長様は、ドア側の壁に控えていていただけますか? 護衛の騎士達も万が一のバックアップとして、壁側に一列に配置しておいてください。ただ、ギルバート様の合図があるまでは、決してその場を動かずに。下手に動かれると、子供達の動きの邪魔になってしまう怖れがありますから」
「……ダメです、と言っても、聞き入れて下さらないのですよね……」
「緊急事態ですもの」
だから、セシルは止める気はないようなのだ。
はああぁぁぁ……と、ものすごい嫌そうな、長い、長い、溜息だけがギルバートの口から吐き出されていた。
「わかりました……。護衛の騎士達は、五人ほど、壁側に控えさせておきましょう。クリストフ、お前は、私の次に突撃してこい」
「分かりました」
「抵抗する場合は、多少、傷付けてもいいだろう。殺さなければいい」
「分かりました」
作戦も決まり、全員の配置も完了した。
きちんと周囲を確認しても、セシル達の動きが目撃されるような気配もなければ、その様子もない。
時間帯が明るいだけに、これは、セシル側にとっては、運が良かったと言えるのだろうか。
通り側に、トムソーヤが見張りに立つ。全く問題ないと、その合図が返って来た。
「では、行きましょうか」
意気込んだ様子もなく、緊張している態度でもない。
相変わらずのことだが、本当に、セシルはどこまでも落ち着いていて、肝っ玉の据わった令嬢だ。
セシルは、丁度、ドアが開くラインに自分の真正面を向かせるように立っていた。
ドアノブは、ドアの左手、内開きなので、ギルバート達はセシルが立っている位置から見て、左側の壁にくっつくようにして身を潜めている。
ドアを開けて、中から外を確認する場合、怪しい人物がいると判明して、咄嗟にドアを閉められるようにするには、ドアの後ろに隠れ、開いた隙間から顔を覗かせるようにしないといけない。
だから、左手に取っ手があるドアは、角度的に、中にいる人間はセシルの右側の、その狭い視界しか入らない。
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