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Part 3
Д.а 予期せぬ - 02
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そして、隣でその会話を聞いているギルバートと、ギルバートのすぐ後ろでその会話を聞いているクリストフも、ついつい、期待を高めてしまう。
なにしろ、豊穣祭の露店で売られている食べ物は、そのどれを取ってもおいしいものばかりである。今年の豊穣祭だって、またも新たなメニューや食べ物がたくさん出ていたのに、領地内では、それ以上の新作や新製品が売られていると言うのだ。
期待しないはずもない。
宿場町のレストランや食事処だって、おいしい場所ばかり。食べたこともない食事が出てきて、そのどれもおいしくて、満足のいくものばかりだ。
幌馬車に乗り込み、邸には向かわず、すぐ一つ目の停車駅で降りていた。
そこからまた全員がゆっくりと進んで行き、領地内の大通りに向かう。
「ここなんですよ」
大通りには、領民達が忙しく動き回っていて、豊穣祭の片付けに余念がないようだ。
そして、セシルが止まった場所で、全員が、セシルが指している上を見上げる。
見上げる先にはアーチ形のお洒落な看板があり、その看板には名前が刻まれている。看板の下には、花が入ったバスケットが何個もぶら下がっていて、雰囲気がとても可愛らしいものだった。
「あれはなんですか? ――しょ……ぴん、ぐ……?」
「ショッピングモール、と書いてありますのよ」
「それはなんですか?」
「色々なお店が一緒の区画に立ち並んでいる場所のことなんですのよ。私の場所では、この入り口から真っすぐ伸びた通りを進みますと、その両脇に色々なお店が並んでいます。この通りは、全面、歩行者用ですので、馬車は通れません。私達のようにお買い物をするお客さん専用なのです」
へえぇぇ、と全員が感心したようにセシルの説明を聞いている。
もちろん、この世界でショッピングモールのような概念はありませんからね。
全員の期待を込めて、いざ、ショッピングモール(商店街)へと出発。
ゆっくりと一本道を進んで行くと、両脇のお店はまだ閉まっている場所が多い。さすがに、今日・明日は豊穣祭の片付けで終わってしまっているから、通常の営業はお休みなのだろう。
それでも、通りに出ている領民達が、通り過ぎていくセシルと見つけて、親し気に頭を下げていく。
「セシルじょう」
「なんでしょう、オスミン様」
「どうして、セシルじょうは、マスターと、よばれているのですか?」
「それは、私が、コトレア領の領主をしているからですのよ」
「りょうしゅをしているから、マスター、なのですか?」
「ええ、そうですわね」
「では、マスター・セシル、なのですか?」
「そう……とは、あまり呼ばれませんわね」
その返答を聞いて、オスミンもあまり納得のいかなそうな顔をしてみせる。
オスミンの経験から言えば、女性は、「レディー・セシル(セシル嬢)」 と呼ばれるのが普通だと思っていた。
だから、「マスター・セシル」と呼ばれないのは、なにかしっくりこない。
「ああ、でも、昨夜は、「マイレディー」 でしたね」
そんなことを(わざと) 指摘してくるレイフだ。
「ええ、そうですわね」
そして、にこやかに返答をするセシル。
二人のその会話を聞いて、すぐに納得していたギルバートだった。
ギルバートだって、以前から、この領地の民が、貴族の令嬢に対して「マスター」 と呼ぶのは、随分、変なものだなと考えていた方である。
だが、コトレア領は、なにしろ、ギルバート達の知っている常識も通用しなければ、固定概念も見事にぶっ壊してくれる土地なので、この土地では、「マスター」と呼ぶのが普通なのだろうか、と勝手に一人で納得していたものだ。
でも、豊穣祭でセシルがドレスを着ると、「マイレディー」に変わる。
なのに、セシルの名前は一切呼ばれない。
よくよく考えなくても、この土地で、セシルの名前を呼ぶ者など、ほぼ皆無に近い。
セシルの両親以外は、誰一人として、セシルの名前を呼んだことを見たことがないほどだ。
ギルバートがセシルに出会った時でも、セシルは慎重で警戒心の強い令嬢だった。つけ入る隙も見せず、手の内を明かさないほどの“謎の令嬢”だった。
もちろん、この土地でも、“謎の令嬢”――もしくは、“謎の領主”を演じていたとしても、全くの不思議はない。
どこにいても、本当に隙のないご令嬢である。
「ここが、ショッピングモール内の食事処です」
他のお店と違って、その場所は一軒家のお店ではなかった。かなり広めの場所になっていて、奥の方に三件ほどのお店が並び、その前にはたくさんの机や椅子が並んでいた。
「ここは、小さな「フードコート」 というコンセプトにしていますの」
「それはなんですか?」
オスミンだけではなく、全員が不思議そうにセシルを見返す。
なぜか、買い物を終えてからというもの、謎の単語が連続で出てきているのは、全員の気のせいではないだろう。
「食事処や飲食店が集まり、各店舗から注文した料理を共有スペースで食べる場所のことを言います。それで、「セルフサービス」 ですから、自分で好きな料理を注文し、それを持って、空いているテーブルで食べることができるのです」
へええぇぇと、全員が素直に感心している。
「もう少し、宿場町の方の開発が落ち着きましたら、宿場町の方にもショッピングモールやフードコートを建てようかと考えていますの。まだ、それは少し先の話ですけれどね」
人手も足りなければ、人材・人員も足りない。
食材の分配だって、まだまだ、たくさんのレストランや食事処を賄えるほどの、安定したものでもない。
土地はあっても、お店を支えて行けるような大きな人口もない。
まだまだ……セシルの思い浮かべる“住みやすい領地”への道のりは、長いものである。
~・~・~・~・~・~・~・~・
読んでいただき、ありがとうございます。
આ નવલકથા વાંચવા બદલ તમારો આભાર
~・~・~・~・~・~・~・~・
なにしろ、豊穣祭の露店で売られている食べ物は、そのどれを取ってもおいしいものばかりである。今年の豊穣祭だって、またも新たなメニューや食べ物がたくさん出ていたのに、領地内では、それ以上の新作や新製品が売られていると言うのだ。
期待しないはずもない。
宿場町のレストランや食事処だって、おいしい場所ばかり。食べたこともない食事が出てきて、そのどれもおいしくて、満足のいくものばかりだ。
幌馬車に乗り込み、邸には向かわず、すぐ一つ目の停車駅で降りていた。
そこからまた全員がゆっくりと進んで行き、領地内の大通りに向かう。
「ここなんですよ」
大通りには、領民達が忙しく動き回っていて、豊穣祭の片付けに余念がないようだ。
そして、セシルが止まった場所で、全員が、セシルが指している上を見上げる。
見上げる先にはアーチ形のお洒落な看板があり、その看板には名前が刻まれている。看板の下には、花が入ったバスケットが何個もぶら下がっていて、雰囲気がとても可愛らしいものだった。
「あれはなんですか? ――しょ……ぴん、ぐ……?」
「ショッピングモール、と書いてありますのよ」
「それはなんですか?」
「色々なお店が一緒の区画に立ち並んでいる場所のことなんですのよ。私の場所では、この入り口から真っすぐ伸びた通りを進みますと、その両脇に色々なお店が並んでいます。この通りは、全面、歩行者用ですので、馬車は通れません。私達のようにお買い物をするお客さん専用なのです」
へえぇぇ、と全員が感心したようにセシルの説明を聞いている。
もちろん、この世界でショッピングモールのような概念はありませんからね。
全員の期待を込めて、いざ、ショッピングモール(商店街)へと出発。
ゆっくりと一本道を進んで行くと、両脇のお店はまだ閉まっている場所が多い。さすがに、今日・明日は豊穣祭の片付けで終わってしまっているから、通常の営業はお休みなのだろう。
それでも、通りに出ている領民達が、通り過ぎていくセシルと見つけて、親し気に頭を下げていく。
「セシルじょう」
「なんでしょう、オスミン様」
「どうして、セシルじょうは、マスターと、よばれているのですか?」
「それは、私が、コトレア領の領主をしているからですのよ」
「りょうしゅをしているから、マスター、なのですか?」
「ええ、そうですわね」
「では、マスター・セシル、なのですか?」
「そう……とは、あまり呼ばれませんわね」
その返答を聞いて、オスミンもあまり納得のいかなそうな顔をしてみせる。
オスミンの経験から言えば、女性は、「レディー・セシル(セシル嬢)」 と呼ばれるのが普通だと思っていた。
だから、「マスター・セシル」と呼ばれないのは、なにかしっくりこない。
「ああ、でも、昨夜は、「マイレディー」 でしたね」
そんなことを(わざと) 指摘してくるレイフだ。
「ええ、そうですわね」
そして、にこやかに返答をするセシル。
二人のその会話を聞いて、すぐに納得していたギルバートだった。
ギルバートだって、以前から、この領地の民が、貴族の令嬢に対して「マスター」 と呼ぶのは、随分、変なものだなと考えていた方である。
だが、コトレア領は、なにしろ、ギルバート達の知っている常識も通用しなければ、固定概念も見事にぶっ壊してくれる土地なので、この土地では、「マスター」と呼ぶのが普通なのだろうか、と勝手に一人で納得していたものだ。
でも、豊穣祭でセシルがドレスを着ると、「マイレディー」に変わる。
なのに、セシルの名前は一切呼ばれない。
よくよく考えなくても、この土地で、セシルの名前を呼ぶ者など、ほぼ皆無に近い。
セシルの両親以外は、誰一人として、セシルの名前を呼んだことを見たことがないほどだ。
ギルバートがセシルに出会った時でも、セシルは慎重で警戒心の強い令嬢だった。つけ入る隙も見せず、手の内を明かさないほどの“謎の令嬢”だった。
もちろん、この土地でも、“謎の令嬢”――もしくは、“謎の領主”を演じていたとしても、全くの不思議はない。
どこにいても、本当に隙のないご令嬢である。
「ここが、ショッピングモール内の食事処です」
他のお店と違って、その場所は一軒家のお店ではなかった。かなり広めの場所になっていて、奥の方に三件ほどのお店が並び、その前にはたくさんの机や椅子が並んでいた。
「ここは、小さな「フードコート」 というコンセプトにしていますの」
「それはなんですか?」
オスミンだけではなく、全員が不思議そうにセシルを見返す。
なぜか、買い物を終えてからというもの、謎の単語が連続で出てきているのは、全員の気のせいではないだろう。
「食事処や飲食店が集まり、各店舗から注文した料理を共有スペースで食べる場所のことを言います。それで、「セルフサービス」 ですから、自分で好きな料理を注文し、それを持って、空いているテーブルで食べることができるのです」
へええぇぇと、全員が素直に感心している。
「もう少し、宿場町の方の開発が落ち着きましたら、宿場町の方にもショッピングモールやフードコートを建てようかと考えていますの。まだ、それは少し先の話ですけれどね」
人手も足りなければ、人材・人員も足りない。
食材の分配だって、まだまだ、たくさんのレストランや食事処を賄えるほどの、安定したものでもない。
土地はあっても、お店を支えて行けるような大きな人口もない。
まだまだ……セシルの思い浮かべる“住みやすい領地”への道のりは、長いものである。
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読んでいただき、ありがとうございます。
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