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Part 3

В.д 後祭りも、お楽しみ満載 - 02

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* * *


 のんびりと朝食を済ませ、セシルに連れられた宿場町の方に戻ってきた一行は、有名な“便利なかばん屋”のお店に入っていた。

 “便利なかばん屋”は、昨日の豊穣祭で大繁盛をみせて、ものすごい売り上げを確保できたので、今朝はお店を開いていなかった。

 セシルの邸からメッセージが送られてきて、それで、大慌てでお店の用意を済ませたほどである。

「休んでいたのに、ごめんなさいね」
「いえ、そんなことはございません。よくお越しくださいました」

 お店を任せている主人と女将が、セシル達の前で深々と頭を下げた。

 元々、今日はお店を閉めている予定だったので、セシル達だけの観覧である。

「うわぁぁ……!」

 お店の中は、それほど広い場所ではない。

 それでも、両脇の棚にはたくさんのカバンやバッグが並んでいて、高い天井の方にもカバンがぶら下がっている。

 中央にも何列か棚が並び、壁側の棚とは高さが違って見やすく、取りやすい場所にバッグがたくさん並んでいた。

 実は、まだ幼いオスミンなど、自分で買い物をしたこともなければ、“買い物”という概念だってない。

 お金は必要です、程度の授業は受けても、それをどうやって使って、どう数えて、どう手に入れるのかなど、全く想像も及ばないのだ。

 オスミンにとって、“人生初のおかいもの!”である。

「オスミンの様のショルダーバッグでしたら、こちらの棚の方がよろしいですわね。こちらの棚は、子供用のバッグが揃っているのですよ」

「こじいんのこどもたちも、ここで、“かいもの”をするのですか?」
「する子供もいれば、豊穣祭でプレゼントとしてもらったバッグを使っている子供達もいますのよ」

 オスミンの目線の高さにあるバッグから、少し目線を上げた場所にもバッグ。首を上げている場所にもバッグ。

 そして、豊穣祭で孤児院の子供達が胸の前にぶら下げていた「ショルダーバッグ」が、オスミンの目の前でズラリと並んでいる。

 たくさんあるバッグを見ているだけで、自然、嬉しくて、オスミンの柔らかな頬が丸く上がっていた。

「うわぁぁ……! たくさんあります」
「ええ、そうですね。ショルダーバッグは、今では、領地で一番人気がある品物なのですよ」

「そうなのですか?」
「気に入ったバッグがありましたら、手に取って確認なさってもよろしいのですよ、オスミン様」

「いいのですか」
「ええ、もちろんです」
「わかり、ました……」

 自分自身で手に取ってバッグを確認するなど――初めての経験で、オスミンはちょっと恥ずかしくなってしまう。

 自分からなにかを取りに行くという経験がないだけに、いいですよ、と言われても、つい、周囲の目を気にしてしまって、自分からバッグを触りになど行けそうになかった。

「リドウィナ様も、どうぞ、ゆっくりと観覧なさってくださいね。上の棚にあるバッグなどは、声をかければ、店主が取ってくれますので」

「そうでしたか。では……、少し、見させていただきますね」
「ええ、どうぞ」

 ちらっと、視線だけでレイフの方を確認してみると、レイフはすでに端から端までバッグの確認を始めている。何も説明していないのに、あの様子なら、全部のバッグを取り上げて、念入りに調べていきそうな勢いだ。

 だから、セシルもレイフの邪魔はせず、確認の声をかけてはいない。

 一人残したオスミンは、真剣な眼差しで棚に飾ってあるバッグを凝視しているが、どうやら、手に取ることはしていないようだった。

「決まりましたか?」

 オスミンの目の前には、目移りするほどの多様なバッグが並んでいて、どれにしようか迷ってしまう。

「……この、バッグは、どうですか?」

 どれを見渡しても、色が違って、少しだけ形が違って、飾りや模様も違って。
 それでも、グルグルと見渡して、やっぱり目についたのは、黒地のショルダーバッグだった。

「素敵ですね」
「ほんとうですかっ?」

「ええ。かっこいいですね」
「かっこ、いい……」

 そして、そんな形容を聞いたのは初めてで、オスミンが感動していく。

「これになさったらどうですか?」
「はいっ。ぼくは、これがほしいですっ」

「そうですか。それなら――あら? これなら、お揃いかしら?」
「おそろい?」

 意味の分からない形容で、オスミンが見上げる前で、セシルはもう一つの黒地のショルダーバッグを取り上げていた。

 オスミンが選んだのは、赤いストライプが入った奴だ。セシルの持っているバッグは、青いストライプが入っている。

「これもいいですね。弟君にどうぞ?」
「え? イングラムに?」

「ええ、そうですよ。オスミン様と一緒のバッグで、柄も同じですからね。違うところは、ここのストライプの色が違うだけです。こういった全く同じものを使ったり、身に着けたりすることを、「お揃い」 と言うのですよ。お二人で、同じものを持てますね」

「イングラムと……!?」

 この世界――時代では、現代のような「お揃い」 の概念がないようだった。

 初めて、セシルがそんな形容を使った時でも、


「なぜ、「おそろい」 なんかがいいんですか?」


などと、聞き返されたほどである。

「兄弟揃って「お揃い」 ができる機会は、あまりありませんよ。小さな子供の時くらいかしらね? ですから、弟君にお土産として買って帰られたら、とても喜ばれると思いますよ」
「おみやげ? それはなんですか?」

「自分の家や――オスミン様の場合は、オスミン様が住んでいる場所から、違う場所に出かけていく時、その場所などで買って帰る贈り物のことです」
「ぼくが、“とおで”をしたからですか?」

「そうですね。「お土産」 を買って贈り物にすると、受け取った側も、自分が行っていない知らない場所でも、なんだか、その場所の繋がりができてくると思いませんか?  それで、オスミン様も、弟君にたくさんお話をしてあげられますよ」

「すごいっ……」
「ですから、もう一つは、弟君の「お土産」 にしましょう」

「はいっ」
「では、預かりますね」

 ギルバートの手の中には、セシルから受け取った二つの子供用のショルダーバッグがある。




~・~・~・~・~・~・~・~・
読んでいただき、ありがとうございます。
Merci d’avoir lu ce roman
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