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Part 3
В.г 後夜祭 - 06
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何度、あの姿のセシルを見ても思うが、あれはもう、上に立つ者の資質――といっても過言ではないのだろうか。
あれは、絶対に、“王者の資質”なはずだから。
今でも、会場に集まった全員からの歓声が止まない。
それなのに、熱狂的な支持を受けているセシルが、その手をゆっくりと下ろしていくと、ピタリ、と歓声が止み、一気に静寂に変わる。
「――すごいっ……!」
周囲の雰囲気に影響されて、オスミンも囁き声になっていた。
スッと、優雅に、セシルがドレスの裾を掴み、ゆっくりと膝を折りながら、セシルが会場の全員に向かってお辞儀をした。
「みんな、ありがとう。私と共に生きてくれて、本当にありがとう」
うわぁっ――と、また一斉に大歓声が轟いていた。――かと思うと、感涙したかのように、泣き出す群れも出てくる。
「マイレディー……!!」
「マイレディーっ……!?」
大声で歓声を張りあげていた数秒前、そして、今は感涙しきって、泣き出している群衆。
そのどの光景をとっても、あまりに信じられない光景で――レイフが意味もなく、パっと、ギルバートに向き直っていた。
「すごいでしょう?」
だが、返事は返ってこない。
なにかを言いかけたのか、口にしたかったのか、それでも、口をきっちり閉じているレイフは、喋らなかった。
「すごいでしょう? レイフ兄上までも、言葉を失うなんて、滅多に見られない光景だ」
いや、一生見られない貴重な光景だろう。
壇上の上で、セシルの元に、執事を含め数人の侍女達が上がっていく。
「おじうえ……、あれはなんですか?」
なんだか、トレーの上に山のように連なっている物体が不思議で、オスミンが目を凝らして見ている。
「『祝福』 だよ」
「しゅくふく?」
「そう。すぐに判るさ」
壇上での用意ができ始めたようだが、向こうの列の端で座っているシリルが、ギルバートの方に視線を投げて寄越した。
「どうぞ」 と、その口の動きが理解できて、ギルバートも微かに驚いていた。
ギルバートが、最初の『祝福』 を受け取れるらしい。
ギルバートはセシルの婚約者になったけれど、それでも、この領地で、その立場や身分を見せびらかすつもりはなかったのだ。
会場全体が静かになったようで、『祝福』 を待つ領民達の前で、ギルバートがオスミンを隣に下ろし、スッと立ち上がった。
全員の視線がギルバートに注がれていく中、ギルバートはゆっくりと壇上に上がっていく。
セシルがそっと微笑んで、執事から手渡された小さなケーキを差し出した。
ギルバートは慣れた様子で、ケーキを両手で受け取っていた。
それから、スッと、膝を折り屈んでみせる。
セシルが一歩前に近寄って、少し屈みながら、そっと、ギルバートの髪の毛に唇を寄せた。
「次の一年も健やかに。そして、強く、前に進んでいけますように」
「ありがとうございます」
ゆっくりとセシルが離れていくと、重さも感じさせず、ギルバートが立ちあがった。
会場全体が静まり返っていて、全員が、この光景を見守っている雰囲気が伝わってくる。
「この場を少しお借りしても、よろしいですか?」
「ええ、どうぞ」
礼の代わりにギルバートは頷いて、それから、会場全員に向き直るように姿勢を正す。
「ここに集まったコトレアの領地の皆さん」
お腹に響き渡るような、強く、低いギルバートの声音が会場中に届く。
「もう知っているかもしれませんが、私は、こちらのヘルバート伯爵令嬢と婚約をしました」
シーンと、一気にその場が静まり返る。
「ポッと湧いて出てきたような余所者が、皆さんの大切にしている領主であるご令嬢を横取りした、奪ったと思われるかもしれませんが、私は、皆さんから彼女を奪いにやって来たわけではありません」
きっぱりと言い切ったギルバートに、会場全員の目が釘づけた。
「私は、皆さんほど、ご令嬢を存じていません。それでも、私は、ご令嬢を心から敬服しております。その存在自体がとても稀有なものだと、このような立場の私が、一番に理解しているつもりです」
ギルバートの視界の前で、領民達が、全員ギルバートの話に耳を澄ましている様相と気配が伺える。
「ですから、私の事情で、ご令嬢をこの地から離すことになるかもしれませんが、引き離すつもりはありません。この地は、ご令嬢が最も愛した地であり、そして、心の拠り所なのですから。その場所を、私は奪うつもりもありません。取り上げるつもりもありません」
だから、もうすぐ、この領地は、アトレシア大王国に加入するのだ。
セシルがアトレシア大王国に嫁いでいっても、この領地の属する国は、セシルの所在地と全く変わらない。
もう、これからは、ノーウッド王国からの介入なんて、全く関係もない話だ。
「私は、ご令嬢が愛したこの地の皆さんに、今、ここで誓います。私は、いかなる時でも、いかなる場でも、私の命ある限り、必ずご令嬢を護ってみせます。絶対に、護り切ってみせます。そして、ここにいる全員に、私の誓いが嘘でないことを、必ず証明してみせます。不肖ではありますが、皆さんに受け入れてもらえるまで、私は誠意を尽くし、皆さんの愛するご令嬢を大切にします」
それをはっきりと言いきったギルバートが、セシルに顔を向ける。
スッと、セシルの前に手袋をした右手が差し出され、セシルも自分の手をその上に置くようにした。
そっと、セシルの手を握りながら、ギルバートがその誓いを込めて、指にキスをしていく。
うわぁ……っ!
感激したような、そんな歓声が上がると同時に、パチパチ、パチパチと、拍手も上がった。
それが引き金となったのか、パチパチと、また違う場所からも拍手が上がり、それがすぐに会場全体に広がって行った。
「ありがとうございます」
「私の本気で、本心です」
躊躇いもなく言いきって、セシルを優しく見つめてくるギルバートに、セシルも瞳を細めたように微笑んだ。
その光景を見て――感動したように、また会場で泣き声も上がりだす。
「では、他の全員に壇上を譲らなければ、大変なことになってしまいますね。――それでは、また」
「ええ」
その言葉を残し、登って来た反対側から、ギルバートが壇上を下りていった。
それを見て、シリルが立ち上がり、オスミンの元にやってくる。
「よろしければ、どうぞ」
「ぼく、がですか……?」
はい、とシリルは優しく手を差し出した。
困って、隣にいるレイフに顔を向けると、レイフは頷いてくれる。
それで、おずおずと、オスミンがシリルの手を取った。
オスミンの手を繋いで、シリルがゆっくりと壇上を上がっていく。
~・~・~・~・~・~・~・~・
読んでいただき、ありがとうございます。
Täname, et lugesite seda romaani
~・~・~・~・~・~・~・~・
あれは、絶対に、“王者の資質”なはずだから。
今でも、会場に集まった全員からの歓声が止まない。
それなのに、熱狂的な支持を受けているセシルが、その手をゆっくりと下ろしていくと、ピタリ、と歓声が止み、一気に静寂に変わる。
「――すごいっ……!」
周囲の雰囲気に影響されて、オスミンも囁き声になっていた。
スッと、優雅に、セシルがドレスの裾を掴み、ゆっくりと膝を折りながら、セシルが会場の全員に向かってお辞儀をした。
「みんな、ありがとう。私と共に生きてくれて、本当にありがとう」
うわぁっ――と、また一斉に大歓声が轟いていた。――かと思うと、感涙したかのように、泣き出す群れも出てくる。
「マイレディー……!!」
「マイレディーっ……!?」
大声で歓声を張りあげていた数秒前、そして、今は感涙しきって、泣き出している群衆。
そのどの光景をとっても、あまりに信じられない光景で――レイフが意味もなく、パっと、ギルバートに向き直っていた。
「すごいでしょう?」
だが、返事は返ってこない。
なにかを言いかけたのか、口にしたかったのか、それでも、口をきっちり閉じているレイフは、喋らなかった。
「すごいでしょう? レイフ兄上までも、言葉を失うなんて、滅多に見られない光景だ」
いや、一生見られない貴重な光景だろう。
壇上の上で、セシルの元に、執事を含め数人の侍女達が上がっていく。
「おじうえ……、あれはなんですか?」
なんだか、トレーの上に山のように連なっている物体が不思議で、オスミンが目を凝らして見ている。
「『祝福』 だよ」
「しゅくふく?」
「そう。すぐに判るさ」
壇上での用意ができ始めたようだが、向こうの列の端で座っているシリルが、ギルバートの方に視線を投げて寄越した。
「どうぞ」 と、その口の動きが理解できて、ギルバートも微かに驚いていた。
ギルバートが、最初の『祝福』 を受け取れるらしい。
ギルバートはセシルの婚約者になったけれど、それでも、この領地で、その立場や身分を見せびらかすつもりはなかったのだ。
会場全体が静かになったようで、『祝福』 を待つ領民達の前で、ギルバートがオスミンを隣に下ろし、スッと立ち上がった。
全員の視線がギルバートに注がれていく中、ギルバートはゆっくりと壇上に上がっていく。
セシルがそっと微笑んで、執事から手渡された小さなケーキを差し出した。
ギルバートは慣れた様子で、ケーキを両手で受け取っていた。
それから、スッと、膝を折り屈んでみせる。
セシルが一歩前に近寄って、少し屈みながら、そっと、ギルバートの髪の毛に唇を寄せた。
「次の一年も健やかに。そして、強く、前に進んでいけますように」
「ありがとうございます」
ゆっくりとセシルが離れていくと、重さも感じさせず、ギルバートが立ちあがった。
会場全体が静まり返っていて、全員が、この光景を見守っている雰囲気が伝わってくる。
「この場を少しお借りしても、よろしいですか?」
「ええ、どうぞ」
礼の代わりにギルバートは頷いて、それから、会場全員に向き直るように姿勢を正す。
「ここに集まったコトレアの領地の皆さん」
お腹に響き渡るような、強く、低いギルバートの声音が会場中に届く。
「もう知っているかもしれませんが、私は、こちらのヘルバート伯爵令嬢と婚約をしました」
シーンと、一気にその場が静まり返る。
「ポッと湧いて出てきたような余所者が、皆さんの大切にしている領主であるご令嬢を横取りした、奪ったと思われるかもしれませんが、私は、皆さんから彼女を奪いにやって来たわけではありません」
きっぱりと言い切ったギルバートに、会場全員の目が釘づけた。
「私は、皆さんほど、ご令嬢を存じていません。それでも、私は、ご令嬢を心から敬服しております。その存在自体がとても稀有なものだと、このような立場の私が、一番に理解しているつもりです」
ギルバートの視界の前で、領民達が、全員ギルバートの話に耳を澄ましている様相と気配が伺える。
「ですから、私の事情で、ご令嬢をこの地から離すことになるかもしれませんが、引き離すつもりはありません。この地は、ご令嬢が最も愛した地であり、そして、心の拠り所なのですから。その場所を、私は奪うつもりもありません。取り上げるつもりもありません」
だから、もうすぐ、この領地は、アトレシア大王国に加入するのだ。
セシルがアトレシア大王国に嫁いでいっても、この領地の属する国は、セシルの所在地と全く変わらない。
もう、これからは、ノーウッド王国からの介入なんて、全く関係もない話だ。
「私は、ご令嬢が愛したこの地の皆さんに、今、ここで誓います。私は、いかなる時でも、いかなる場でも、私の命ある限り、必ずご令嬢を護ってみせます。絶対に、護り切ってみせます。そして、ここにいる全員に、私の誓いが嘘でないことを、必ず証明してみせます。不肖ではありますが、皆さんに受け入れてもらえるまで、私は誠意を尽くし、皆さんの愛するご令嬢を大切にします」
それをはっきりと言いきったギルバートが、セシルに顔を向ける。
スッと、セシルの前に手袋をした右手が差し出され、セシルも自分の手をその上に置くようにした。
そっと、セシルの手を握りながら、ギルバートがその誓いを込めて、指にキスをしていく。
うわぁ……っ!
感激したような、そんな歓声が上がると同時に、パチパチ、パチパチと、拍手も上がった。
それが引き金となったのか、パチパチと、また違う場所からも拍手が上がり、それがすぐに会場全体に広がって行った。
「ありがとうございます」
「私の本気で、本心です」
躊躇いもなく言いきって、セシルを優しく見つめてくるギルバートに、セシルも瞳を細めたように微笑んだ。
その光景を見て――感動したように、また会場で泣き声も上がりだす。
「では、他の全員に壇上を譲らなければ、大変なことになってしまいますね。――それでは、また」
「ええ」
その言葉を残し、登って来た反対側から、ギルバートが壇上を下りていった。
それを見て、シリルが立ち上がり、オスミンの元にやってくる。
「よろしければ、どうぞ」
「ぼく、がですか……?」
はい、とシリルは優しく手を差し出した。
困って、隣にいるレイフに顔を向けると、レイフは頷いてくれる。
それで、おずおずと、オスミンがシリルの手を取った。
オスミンの手を繋いで、シリルがゆっくりと壇上を上がっていく。
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読んでいただき、ありがとうございます。
Täname, et lugesite seda romaani
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