奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)

Anastasia

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Part 3

В.г 後夜祭 - 05

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* * *


「これより、今日のメイン、豊穣祭の後夜祭を始めます。まず、領主セシル様より、ご挨拶をいただきます」

 その言葉と同時に、男性の視線が、向こう側の馬車が停まっている方に向けられた。
 全員の眼差しも、その場所に、一気に注がれる。

 馬車からは、騎士にエスコートされたセシルが、ゆっくりと降りてきた。

 初めに視界に飛び込んできたのは、きらきらと眩しいほどの輝きで、真っ暗な夜の暗さを跳ね返すほどの白いドレスだった。

 そして、絢爛けんらん豪華ごうかなドレスの刺しゅうが松明たいまつあかりを跳ね返し、ゆっくりと壇上に向かって進んでいくセシルの周囲を、ぼんやりと光の輪を作っているかのような錯覚さえおこさせる。

 ドレスの裾を摘み、ゆっくりと階段を上がっていくセシルの動きを、会場中の全員が目で追っている。

 すでに、感嘆めいた溜息ためいきを漏らす女性達がたくさんだ。

「セシル、じょう、です……」
「そうだね……」

 オスミンが昼寝に入ってから、その後、ずっとセシルに会っていなかっただけに、会場入りして、ステージに上がっていくセシルの姿を見て、オスミンも嬉々としてセシルを迎えようとした。

 だが、きらきらと輝かしいドレスに身をつつみ、全身が輝いているセシルは――なにか、オスミンが口を出してはいけないような、そんな神聖な雰囲気があって、会場中が静かで息を止めて見守っているような気配に、オスミンだって微かに呆然としてしまっていたのだ。

 セシルが壇上に上がり、ゆっくりと、その静かで深い藍の瞳が会場全体を見渡すように動いていく。

 そのセシルを見上げているギルバートは、あまりの美しさに呼吸も止まってしまったかのようにセシルを凝視し、そして、我を忘れて見惚みとれてしまっていたのだ。


(――――……なんて、神々こうごうしい……!)


 さすが、十周年記念を祝う豊穣祭だ!

 今夜のセシルは、もう、一目見ただけで圧倒されるほどの存在感を放ち、ドレスに身をまとっているその姿からして神々こうごうしく、美しさなどをたたえるのを超えて、ただただ、圧倒されてしまう。

 会場中から、ほうぅ……と、感嘆めいた、感動したような、長い息が吐き出されていた。

 キャンプファイアーや松明たいまつあかりに照らされて、暗闇の中で、セシルがキラキラと反射しているだけではない。

 そうやって壇上に立っているセシル自体が、キラキラと眩しいほどに、輝いて見えるのだ。

 白地のドレスはエレガントで、スクエアネックのタイトなハイウェストのトップで、ドレスは大きなベル型だ。

 だが、その白地のドレスには、金銀の絢爛けんらん豪華ごうかな刺繍が施され、トップもドレスも、キラキラととても眩しいほどだ。

 そして、頭には、ドレスの裾まで届くほどの長いヴェールがかけられ、額にフロントレットのアクセサリーが、ヴェールを髪の上で押さえている。

 お揃いのネックレスとイヤリングも豪奢なもので、セシルにしては珍しく、アクセサリー自体も、豪華な存在感のある、大ぶりな金のジュエリーを身に着けていた。

 もう、どこから見ても、キラキラ、キラキラと輝いていて、神々しい……以外の形容など当てはまらない。

 ほうぅ……と、会場中でセシルの姿に圧倒されて、感嘆めいた溜息だけがこぼれていた。

 セシルが、壇上から会場の全員をゆっくりと見渡していく。

 落ち着いた、どこまでも深いその藍の瞳が穏やかで、それなのに、意志の強さを表した強い瞳が、印象的だ。

「皆さん、今年は、この領地の輝かしい十周年を祝う豊穣祭を迎えることができました。今年も、無事に豊穣祭を終えることができ、私も安堵しています。今年の豊穣祭は、例年以上の賑わいを見せ、大盛況に終わったと言えるでしょう。皆さん、まず、今日一日、お疲れさまでした」

 そのねぎらいの一言が向けられて、領民達が、なんだか嬉しそうに顔を緩めている。

 みんな、無事に豊穣祭を終えることができて、ホッと安堵しているのだろう。

「私達にとって、この最初の十年は、私達の歴史の劇的な時期を画したと言えるでしょう。ここまで、私達はやって来ました。ここまで、登りつめてきました。全員で、今までの十年を、生き抜いてきました。生き延びてきました。私達全員が、今ここで、この十年の証を祝うことができ、私もとても嬉しく思っています。ここに全員が揃っていることが、なによりも嬉しく思います」

 スッと、セシルが左手を前に出していた。

 そして、その手の中を少し見つめたセシルが、グッと拳を握る。

 こんな手の中でも、こんな取るに足らない大きさでも、今、セシルはこの十年の歳月を思い返し、その全てを掴み取っていた。

 零れ落ちていったものもある。手に収まり切れないものもある。
 だが、そんなことを全て思い返しても、この十年で、やっと、ここまで登り詰めたのだ。

 ほぼ、全く何もない場所から始まった。
 何もないことから、始まった。

 そして、やっと、ここまで登り詰めて来たのだ。

「この十年が、アッと言う間に過ぎてしまったように感じます。でも、実りはありました。私達がここまで築き上げて来たものも、ちゃんと実っています。私達は、これからも、強く、前に進んで行くのです。諦めずに、前に進んで行くのです。皆さん、これからも、私と共に駆け抜けていきましょう。私達の明日の為に!」

「――マイレディーっ!!」
「――マイレディー――!!」

 うわぁっ! ――という大歓声が鳴り響き、その迫力や音量だけで、周囲で地鳴りがしてきそうなほどの勢いだ。

 さすがに――その勢いに気圧されたのか、小さなオスミンは、ギルバートの腕にしがみついてきた。

 ギルバートは隣に座っているオスミンを、ひょいと抱き上げて、自分の膝の上に乗せた。

「すごいだろう?」
「……すごいですっ!」

 歓声に打ち消されないように、オスミンも大きな声を張り上げていた。

「そうなんだ。だから、私は初めて見た時、圧巻されてしまってね」
「あっかん? それはなんですか?」

「圧倒されて、言葉もでなかった、と言う意味だ」
「……すごいっ!」
「そうだろう?」

 自分のことのように、褒められているセシルを喜んでいるギルバートの横で、さすがに――これだけの熱狂的な領民の支持を得ているセシルに、レイフも呆然としている。

 壇上の上に立っているセシルは、前に出した左手を軽く握りしめ、そして、どこまでも強い眼差しが、会場を見渡しながら、優雅に、それなのに、目が離せないほどの圧倒的な存在感を放ち、その口元に笑みを浮かべている。

 挑戦的にも見える、それなのに艶やかで、セシルの力強さを見せつけているかのような――魅惑的な微笑みだった。




~・~・~・~・~・~・~・~・
読んでいただき、ありがとうございます。
Bedankt voor het lezen van deze roman
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