奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)

Anastasia

文字の大きさ
上 下
431 / 531
Part 3

В.г 後夜祭 - 03

しおりを挟む
「この領地にやってきた騎士達には、ご褒美ですねえ」
「少しくらいは問題ないだろう。こんなににぎわっているのに、参加できないのは、つまらないだろうしな」
「ええ、ええ。心ある上官を持てて、私達も嬉しく思っておりますよ」

 思っていない口調にしか聞こえないが、まあ、クリストフはいつものことだ。

「少しずつ並んでみましょうか? それとも、行列が空になるまで、待つべきでしょうか?」
「いえ、せっかくですので、混ざらせてもらいましょう」

「わかりました。オスミン様、その小袋は落ちないように、紐の部分を手にかけておくと、よろしいのではないかと?」

「てに? どうやってですか?」
「すみません。少し失礼いたします」

 シリルが屈んで、オスミンの手に紐の輪っかの部分を通してやる。

「それで、手の平の方で、この紐の部分を握ってみてください」
「はい」

「それなら、落ちる心配もなく、袋もしっかりと持てますので」
「わかりました」

「では、案内いたします。どうぞいらしてください」
「はいっ!」

 全員がベンチから立ち上がり、シリルの後についていく。

「シリル殿も、子供の扱いに慣れているんですねえ」

 ここ数年、シリルはギルバート達の案内役をしてくれていて、利発で聡明なシリルはよく気が付くし、ゲストの接待が上手だな、とギルバートもクリストフも感心していたものだ。

 伯爵家の子息なのに。

 それだけではなくて、シリルは、セシル同様、子供の面倒を見るのも上手かったらしい。

 そう言えば、最初の年に豊穣祭に参加した時も、あまりに自然に子供を抱き上げていた記憶がある。

 もしかして――シリルも、シリルやセシルが説明していないだけで、孤児の面倒をみていたのかな? ――なんて疑問も上がってくる。

 オスミンとレイフは興味津々といった様子で、行列ができている場所の後ろに並び、大人しく自分達の番を待っている。

 王子殿下達を行列にならばせるなんて! ――と非難され、不敬罪で極刑にかけられてしまっても文句は言えない状況だが、それはそれ。

 王子殿下二人にとっても、貴族でもない一般市民の間に交じって行列に並ぶなど、今夜が生まれて初めての経験だった。

 小さなオスミンは、大人達に混ざり、大抵、視界が塞がれ、遠くも見えず、大人達の足ばかりを見ていることが多い。

 今日も、そうだった。

 でも、行列に並んでいる間は、全員が移動していないから、オスミンはレイフとギルバートの間に挟まれながらも、こっそりと、ギルバートの足の後ろから顔を出してみる。

 キョロキョロと、活気があり賑わう周囲を眺めて、その丸い瞳が更にクリクリと丸くなっていく。
 こんなにたくさんの人に囲まれたのは、今日が初めてだ。

 こんなにたくさんの人がいるのに、誰一人、オスミンに近寄ってこない。おべっかを使って、うるさいほどに寄ってくる貴族達もいない。

 皆が皆、夕食が待ちきれなくて、お皿に食事を(山盛り) 積み上げていくのに、それ以上の食事を狙っている様子がおかしくて、新鮮で、オスミンはニコニコと顔を緩めたままだ。

「オスミン、おいで」
「はいっ、おじうえ! ぼくも、おさらに、いっぱいですか?」

「最初は、少しずつ、色々なものを試してみるのが楽しいんだよ。それで、好きな食事があったら、おかわりをすればいい」

「おかわり、ってなんですか?」
「2回も3回も食事をすることだよ」

「ええっ!? そんなこと、していいんですか?」
「今夜は、好きなものを食べていいからね。お腹が一杯になって、もう、お腹がはちきれてしまうかもしれないなぁ」

 ギルバートの表現がおかしくて、くすくすと、オスミンも声を出して笑っている。

 ここで、一つ、注意点がある。もちろん、ギルバートがセシルからしっかりと言い渡されていることだ。


「ギルバート様、オスミン様の食事は、きちんと様子を見てあげていて下さいね? 子供達は、たくさんの食事が目の前にあると、つい、なんでもかんでも取ってしまい、自分が食べきれる分以上の量を取ってしまう傾向があるのです。おまけに、お腹がきつくても無理矢理食べてしまおう、なんていうことをして、後からお腹が痛くなってしまったり」


 だから、初めは、色々な料理を一口分くらいずつ皿に乗せてみせ、食事が口に合うかどうか、アレルギーなどの心配がないかなどを確認し、全部食べた後で、まだお腹に余裕があるようなら、次のおかわりに行くこと。

 その助言をもらっている間、もちろん、兄のレイフは子供の世話役など全く役に立たないだけに、ギルバートもしっかりとセシルの話を聞いていたのだ。

 忘れないように、クリストフも混ぜて。

 なぜ私までもですか、とは聞き返されたが、そのクリストフを無視して、二人揃ってお行儀よく、セシルの助言を聞いていたのだった。

 王子殿下達の番になり、テーブルの上に乗せられた料理を見て、レイフの口元が満足そうに薄っすらと上がる。

「これは、昼間にもあった、「ウェッジ」 というものですか?」
「いえ。油で揚げているようには見えませんから――」

 それで、シリルが、テーブルの向こうで立っている女性に視線を向ける。

「これ、オーブン焼きですか?」
「はい、そうです、ヤングマスター。今回は、バジルなどのハーブを混ぜたものなのです」

 恰幅かっぷくのいい年配の女性が、にこにこと、嬉しそうに笑顔を投げて説明してくれる。

 なるほどと、頷いて、シリルが皆の方を向く。

「こちらはオーブン焼きのローストポテトに近い形になります。ただ、ウェッジ型の形に切られていて、ハーブなどの香辛料をまぶして、オーブンで焼いたものですね」

「なるほど。「ウェッジ」 というのは料理名でもあり、ジャガイモの切り方だったんですね」

「ええ、そう聞いています。近年では、大分、オーブンが普及してきましたから、家庭でも、ローストの料理など簡単にできるようになりました」
「ああ、そうでしたね」




~・~・~・~・~・~・~・~・
読んでいただき、ありがとうございます。
با تشکر از شما برای خواندن این رمان
~・~・~・~・~・~・~・~・
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

新婚早々、愛人紹介って何事ですか?

ネコ
恋愛
貴方の妻は私なのに、初夜の場で見知らぬ美女を伴い「彼女も大事な人だ」と堂々宣言する夫。 家名のため黙って耐えてきたけれど、嘲笑う彼らを見て気がついた。 「結婚を続ける価値、どこにもないわ」 一瞬にしてすべてがどうでもよくなる。 はいはい、どうぞご自由に。私は出て行きますから。 けれど捨てられたはずの私が、誰よりも高い地位の殿方たちから注目を集めることになるなんて。 笑顔で見返してあげますわ、卑劣な夫も愛人も、私を踏みつけたすべての者たちを。

三年待ったのに愛は帰らず、出奔したら何故か追いかけられています

ネコ
恋愛
リーゼルは三年間、婚約者セドリックの冷淡な態度に耐え続けてきたが、ついに愛を感じられなくなり、婚約解消を告げて領地を後にする。ところが、なぜかセドリックは彼女を追って執拗に行方を探り始める。

[完結連載]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜

コマメコノカ@大人の女性向け
恋愛
 王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。 そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

ある公爵令嬢の生涯

ユウ
恋愛
伯爵令嬢のエステルには妹がいた。 妖精姫と呼ばれ両親からも愛され周りからも無条件に愛される。 婚約者までも妹に奪われ婚約者を譲るように言われてしまう。 そして最後には妹を陥れようとした罪で断罪されてしまうが… 気づくとエステルに転生していた。 再び前世繰り返すことになると思いきや。 エステルは家族を見限り自立を決意するのだが… *** タイトルを変更しました!

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

虚偽の罪で婚約破棄をされそうになったので、真正面から潰す

千葉シュウ
恋愛
王立学院の卒業式にて、突如第一王子ローラス・フェルグラントから婚約破棄を受けたティアラ・ローゼンブルグ。彼女は国家の存亡に関わるレベルの悪事を働いたとして、弾劾されそうになる。 しかし彼女はなぜだか妙に強気な態度で……? 貴族の令嬢にも関わらず次々と王子の私兵を薙ぎ倒していく彼女の正体とは一体。 ショートショートなのですぐ完結します。

処理中です...