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Part 3
В.б ようこそ、コトレアへ - 07
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「無理に強制してしまっては、食事に興味を失くし、食事自体を嫌ってしまうかもしれません。それでは本末転倒ですもの」
子供には、まず、食事の楽しさを知って、食事をすることが習慣となる癖をつけなければならない。
「それに、このくらいの年齢の子供は、たくさんのことを学んで行きますが、頭で考えていることと、手に動かすことが一致しないことがあります。無意識で、または、自然に体を動かすことが、できないことも多いのです」
「子供だからですか?」
「ええ、そうです。それは、不器用、と決めつけられるものでもありませんし、子供自体が問題だった、というのでもありません」
ただ、慣れていないだけなのだ。
脳で理解している動作でも、それを実際に動かすシグナルと、筋肉を動かす動きが一致していないだけなのだ。
大袈裟なことでもなければ、問題にすることでもない。
「繰り返し練習していけば、体の動きも自然に追いついていくことでしょう。ですから、子供が一生懸命学んでいる間、更に追い打ちをかけたり、水を差したりするようなことをしないようにしているのですよ」
「なるほど」
テーブル越しで、レイフはかなり真剣な様子で、セシルの話を聞いていた。
そして、セシルの隣で、今の話を聞いていたギルバートは、更に驚きが隠せない。
ギルバートの記憶にある限り、ギルバートが小さな子供の頃は、よく叱られたものだ。
ナイフの音がうるさい。皿をこするな。フォークとナイフの持ち方が違う。テーブルマナーがダメだ。
もう、色々、挙げだしたらキリがないほどに。
それに、子供の時のギルバートは、フォークとナイフを使うのに、かなり苦労したものだ。
不器用、とも言われたことがある。王子のくせに、と。
今考えれば――王子という立場と、不器用であることは、全く関連性がない。
それでも、小さな子供の時は、毎回、叱られて、しょぼんと落ち込んでいたこともあった。
その記憶を思い出して、ギルバートは驚いていたのだ。
セシルの教育方法で行ったら、ギルバートが叱られた内容は、全部――間違っている?
セシルは、無理に子供を追い詰めたりせず、子供が自分一人でできるように手助けしたり、そうやって苦労して学んでいる間、応援するように、子供の背を押してあげるんだ、と言った。
子供を叱りつけて、無理矢理、強制したからと言って、簡単にできることではないから、と。
そんな――ことを言ったのは、セシルが初めてだった。
そんな――ことを言えるセシルが、ギルバートにとってはあまりに新鮮で、強烈で、ジーンと、つい感動してしまいそうになってしまった。
「オスミン様? 今日は、少し食事がこぼれてしまっても、あまり気になさらないでくださいね? オスミン様の膝の上にナプキンを敷きましたから、少しくらい落ちても、大丈夫でしょう。今日は、邸のシェフが、オスミン様の為に、一生懸命がんばって食事を用意したのですよ。オスミン様に気に入っていただけると、いいですわ」
「……は、い……」
テーブル越しからでも、オスミンが少しだけ困惑した様相が伺える。
そして、それ以上に、ギルバートと同じように――感動しているであろう、その幼い感情も。
食事をこぼしてもいい、だなんて、今まで、誰一人言ってきた人間はいない。
そんなマナー違反は、王子には絶対に禁物だったから。
「さあ、皆様、どうぞ、召しあがってくださいませ」
食事も筒がなく終わり、自分一人で椅子から下りて来たオスミンが、セシルの元に駆けよって来た。
「セシルじょう!」
「どうしました、オスミン様?」
「ぼくは、ぜんぶ、ごはんをたべました!」
「ええ、そうですわね。食事はいかがでしたか?」
「おいしかったですっ!」
「それを聞いて安心いたしました。邸のシェフも、そのことを聞いたら、とても喜ぶことでしょう」
「こどもようのフォークも、ナイフも、ぼくはちゃんとつかえました!」
「ええ、そうですわね。とても上手でしたわよ」
そして、セシルの手が上がり、オスミンの頭を優しく、なでなで、と撫でていく。
ビクッと、オスミンが反応していた――が、今は、ちょっと嬉しくて、照れた顔を緩めながら、オスミンは素直に頭を撫でられていた。
「オスミン殿下は、この旅行で、きっと、大変化を経験なさるでしょうね」
その光景を見守っていたギルバートの隣で、クリストフが、聞こえぬほどの小声で呟いた。
「ああ、そうだな……」
兄のレイフのせいで、今回は予定にない、余計なお荷物まで押し付けられてしまったセシルには、本当に申し訳ないと思っている。
それでも――オスミンが、この地で、セシルともっと交流していくうちに、もっとセシルと親しくなっていくうちに、きっと、オスミンの世界があまりに違っていて、そして、セシルのおかげで、その世界が拓けていく道ができたことを学ぶのは、もう疑いようがなかった。
だから、ギルバートが、ここまでセシルに惚れ込んでいるのだ。
セシル以外、もう、誰も目に入らないほどに。
子供には、まず、食事の楽しさを知って、食事をすることが習慣となる癖をつけなければならない。
「それに、このくらいの年齢の子供は、たくさんのことを学んで行きますが、頭で考えていることと、手に動かすことが一致しないことがあります。無意識で、または、自然に体を動かすことが、できないことも多いのです」
「子供だからですか?」
「ええ、そうです。それは、不器用、と決めつけられるものでもありませんし、子供自体が問題だった、というのでもありません」
ただ、慣れていないだけなのだ。
脳で理解している動作でも、それを実際に動かすシグナルと、筋肉を動かす動きが一致していないだけなのだ。
大袈裟なことでもなければ、問題にすることでもない。
「繰り返し練習していけば、体の動きも自然に追いついていくことでしょう。ですから、子供が一生懸命学んでいる間、更に追い打ちをかけたり、水を差したりするようなことをしないようにしているのですよ」
「なるほど」
テーブル越しで、レイフはかなり真剣な様子で、セシルの話を聞いていた。
そして、セシルの隣で、今の話を聞いていたギルバートは、更に驚きが隠せない。
ギルバートの記憶にある限り、ギルバートが小さな子供の頃は、よく叱られたものだ。
ナイフの音がうるさい。皿をこするな。フォークとナイフの持ち方が違う。テーブルマナーがダメだ。
もう、色々、挙げだしたらキリがないほどに。
それに、子供の時のギルバートは、フォークとナイフを使うのに、かなり苦労したものだ。
不器用、とも言われたことがある。王子のくせに、と。
今考えれば――王子という立場と、不器用であることは、全く関連性がない。
それでも、小さな子供の時は、毎回、叱られて、しょぼんと落ち込んでいたこともあった。
その記憶を思い出して、ギルバートは驚いていたのだ。
セシルの教育方法で行ったら、ギルバートが叱られた内容は、全部――間違っている?
セシルは、無理に子供を追い詰めたりせず、子供が自分一人でできるように手助けしたり、そうやって苦労して学んでいる間、応援するように、子供の背を押してあげるんだ、と言った。
子供を叱りつけて、無理矢理、強制したからと言って、簡単にできることではないから、と。
そんな――ことを言ったのは、セシルが初めてだった。
そんな――ことを言えるセシルが、ギルバートにとってはあまりに新鮮で、強烈で、ジーンと、つい感動してしまいそうになってしまった。
「オスミン様? 今日は、少し食事がこぼれてしまっても、あまり気になさらないでくださいね? オスミン様の膝の上にナプキンを敷きましたから、少しくらい落ちても、大丈夫でしょう。今日は、邸のシェフが、オスミン様の為に、一生懸命がんばって食事を用意したのですよ。オスミン様に気に入っていただけると、いいですわ」
「……は、い……」
テーブル越しからでも、オスミンが少しだけ困惑した様相が伺える。
そして、それ以上に、ギルバートと同じように――感動しているであろう、その幼い感情も。
食事をこぼしてもいい、だなんて、今まで、誰一人言ってきた人間はいない。
そんなマナー違反は、王子には絶対に禁物だったから。
「さあ、皆様、どうぞ、召しあがってくださいませ」
食事も筒がなく終わり、自分一人で椅子から下りて来たオスミンが、セシルの元に駆けよって来た。
「セシルじょう!」
「どうしました、オスミン様?」
「ぼくは、ぜんぶ、ごはんをたべました!」
「ええ、そうですわね。食事はいかがでしたか?」
「おいしかったですっ!」
「それを聞いて安心いたしました。邸のシェフも、そのことを聞いたら、とても喜ぶことでしょう」
「こどもようのフォークも、ナイフも、ぼくはちゃんとつかえました!」
「ええ、そうですわね。とても上手でしたわよ」
そして、セシルの手が上がり、オスミンの頭を優しく、なでなで、と撫でていく。
ビクッと、オスミンが反応していた――が、今は、ちょっと嬉しくて、照れた顔を緩めながら、オスミンは素直に頭を撫でられていた。
「オスミン殿下は、この旅行で、きっと、大変化を経験なさるでしょうね」
その光景を見守っていたギルバートの隣で、クリストフが、聞こえぬほどの小声で呟いた。
「ああ、そうだな……」
兄のレイフのせいで、今回は予定にない、余計なお荷物まで押し付けられてしまったセシルには、本当に申し訳ないと思っている。
それでも――オスミンが、この地で、セシルともっと交流していくうちに、もっとセシルと親しくなっていくうちに、きっと、オスミンの世界があまりに違っていて、そして、セシルのおかげで、その世界が拓けていく道ができたことを学ぶのは、もう疑いようがなかった。
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セシル以外、もう、誰も目に入らないほどに。
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