奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)

Anastasia

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Part 3

В.б ようこそ、コトレアへ - 05

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* * *


 夕食の時間になり、全員が邸のダイニングホールに集まっていた。

 だが、その全員が、なぜかは知らないが、テーブルに付かずに、一か所で頭を寄せてワイワイと集まっていたのだ。

 全員の視界の前で、木枠の椅子らしきものがある。

 セシルと騎士の一人が、その調整をしているようだったのだ。

「これは、何ですか?」
「子供用のハイチェアです」
「子供用の、ハイ、チェア?」

 聞き慣れない単語である。
 そして、恒例のごとながら、ギルバートもすぐにセシルに説明を頼んでみる。

「それは、何でしょう?」
「子供用に作った椅子の高さが違う椅子のことですの。まだ小さな子供は、ダイニングテーブルで食事をする際、大人用の椅子に座らされることが多いと思います」
「ええ、そうですね」

 それは、ギルバートの生活でも、あまりに慣れ親しんだ日常だと思っていたのだが。

「ですが、大人用の椅子を小さな子供に座らせることは、背丈が合わず、クッションや置台おきだいを敷いたりして高さを合わせたりと、とても不向きなものです。子供用のハイチェアなら、元々、高さの高い椅子に子供を座らせることができます。クッションも必要ありませんのよ」

 それで、今回、幼いオスミン殿下が領地に訪問してくるので、大急ぎで、セシルは“高さの調節できるハイチェア”を作ったのだ。

 L字の反対に沿った椅子の形も考案してみたが、最初は安定性を高める為、椅子の脚は大きな三角の脚を作り、その両面に刻まれた隙間に板を挟め込み、足場を作るという椅子だ。

「それ――を、オスミンにですか? もしかして、オスミンの為に、わざわざ作ってくださったのですか?」

「子供用の家具などの案は、以前から出していたものなのです。今回、それを作る機会ができましたので、お試し用に作ってみたのです」
「そうでしたか」

 さすが、準備万端、用意周到のセシルだけはある。

 今回、(余計な) こぶ付きで領地にやって来るオスミンの不便を思い、子供用の椅子を用意してくれていたのだから。

 セシルの簡潔な説明を後ろで聞いている全員も、更に興味津々である。

「ぼくのいすですか、セシルじょう?」
「ええ、そうです。オスミン様用に、椅子の高さを調整しているところなのです」
「たかさ? どうやってですか?」

 その質問には答えず、セシルが隣にいるギルバートに向いた。

「申し訳ありませんが、少し高さを確認したいので、オスミン様を抱き上げていただけないでしょうか?」
「ええ、問題ありませんよ。椅子に座らせる形ですか?」

「はい、そうです。お願いしてもよろしいでしょうか?」
「ええ、問題ありません」

 その程度のお願いなど、ギルバートにとってもお手のものだ。

「オスミン、少し抱き上げるよ」
「おじうえ? ――うわっ!」

 急に、脇の下に手を入れたギルバートに抱き上げられて、オスミンの足が宙ぶらりんだ。

 こんな風に抱き上げられたのなんて初めての経験で、オスミンの瞳が嬉しそうに輝きだす。

「うわぁい!」
「ああ、こらこら。少し静かにしていなさい」

 宙ぶらりんでぶら下がっているまま、オスミンが大喜びで足をバタつかせる。

「ほら、オスミン? 足をくっつけて。椅子に座らせるから」
「はいっ、おじうえ」

 それで、一応、ピタリと、足をくっつけたオスミンは、ギルバートに抱き上げられたまま、椅子の高さがかなり高い木の椅子の上に座らされた。

 いつものように、ダイニングテーブルが高く、クッションを敷かれた上で大人しく座っていなければならないのとは違い、今は、オスミンが座っている場所から、簡単にテーブル全体が見渡せる。

「うわぁ、ぼくも、おおきくなりました」

 椅子の高さが上がっただけなのですけれどね、ふふ。

「ちょっと失礼しますね、オスミン様」

 テーブルに近づけるように、セシルがオスミンの乗った椅子を後ろから押してみる。
 すぐに、傍にいた騎士が手を貸していた。

「これ――は、二段目くらいかしら?」

 屈んで、オスミンの足の高さを確認しているセシルと騎士だ。

「そう、だと思います。一応、二段目に、足置きをつけてみますね」
「ええ、よろしくね」

 騎士は足場となる板をはめ込んでいき、移動しないようにしっかりと固定していく。

「ギルバート様、もう一度、申し訳ありませんが、オスミン様を下ろしていただけないでしょうか?」
「ええ、いいですよ。――ほら、オスミン?」

 ひょいと、気軽にオスミンを持ち上げ、ギルバートがオスミンを床に下ろす。

「うわぁ! ギルバートおじうえ、もういちど、やってください?」
「さあ、それはどうかな?」

 その間、椅子の木枠に、トンカン、トンカンと、杭を打ち込み、騎士が足場の板をきちんとはめていた。
 自分で重さを置いても揺れないし、動かないし、大丈夫そうである。

「オスミン様? 今度は、ご自分で、この椅子に座っていただけませんか? 椅子の前から、この板の部分を階段代わりに、ゆっくりと登ってくだされば良いのです」
「はい、わかりました」

 新しい挑戦で、ワクワクとした表情を浮かべ、オスミンは一番下にある段に足を置いてみた。

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