上 下
407 / 530
Part 3

В.а 余計な - 10

しおりを挟む
* * *


「皆様、昨日は、私の為に、滞在を一日引き延ばしてくださいまして、ありがとうございます」

「いいえ。偶然とは言え、私も、あなたの誕生日を祝うことができて、とても嬉しく思います。贈り物を用意してきませんでしたが……」

「そのようなこと、お気になさらないでくださいね?」

 気落ちしているギルバートの前でも、セシルはそんなことを全く気にしていない様子だった。

 それで、ギルバートだって、


「王国に帰ったらすぐに、セシルへの贈り物を探すぞ!」


と、セシルには内緒で、今から闘志を燃やしているのだ。

 時間的に言っても、ギルバートが王国で贈り物を用意し、それをコトレア領に送っても、そのすぐ後に、ギルバート自身も、もう一度、領地に戻って来るのだから、この際、セシルへの贈り物は、次にコトレアに戻って来る時に持参すべきだろう、とも考えている。

 それで、誕生日からは遅れてしまったが、ちゃんと、ギルバート自身がセシルに贈り物を手渡すことができる。

 今朝は、普段からセシルが好んで使用している、こぢんまりとした小さなダイニングで朝食を頂いている。

 八人ほどが座れそうな大きなテーブルを囲んで、セシルとギルバート、そして、ギルバートに付き添って来た四人の護衛が一緒に食事をしていた。

 クリストフはギルバート付きの護衛で側近でもあるから、常にギルバートに付き従っているのは言うまでもない。

 ただ、食事ともなれば、この場合、クリストフは食事中のギルバートを待ち、部屋の隅で待機するのが普通だ。

 そして、残りの護衛達だって、ギルバート達が食事を済ませる前に、使用人塔の方で先に朝食を頂き、それで、クリストフに習い、部屋の片隅に控えているか、呼ばれるまで自室で待機しているかのどちらかである。

 でも、セシルは、初めてやって来た時から、「皆様も一緒にどうぞ」 と、付き人である騎士達を、気軽に、一緒に食事に招いてくれていた。

 セシルはこの領地の領主であり、女主おんなあるじでもあるから、ギルバート以外の騎士達は身分違いとなるのに、そんなことを一切気にした様子もなく、セシルは皆で食事を済ませることを勧めてくれた。

 今朝はダイニングテーブルを囲んでいるので、セシルのすぐ隣にはギルバートが座っている。

 セシルの好意で、ギルバート達の皿は、朝からでもかなりの量が盛られている。そして、毎回、難なく完食する全員だった。

「ギルバート様」
「なんでしょう?」

「今日は、朝食の後、王国にお戻りになられると思われますが、もう少しだけ、お時間を頂けないでしょうか?」
「時間ですか? もちろんです。私には、全く問題ではありません」

「昼頃までで良いのです。お見せしたいものがありますの」
「見せたいもの、ですか?」

 ギルバートの方も、不思議にちょっと首を傾げてしまう。

 ふふと、セシルが口元を緩め、
「はい。本来なら、これから後にでも見られる機会はあると思いますが、まだ混雑していない時に見た方が、よろしいのではないかと思いまして」

「それなら、問題はありません」
「申し訳ありません。お忙しい中、引き留めてしまいまして……」
「ああ、そんなこと、お気になさらないでください」

 朝食後に出立しようが、昼を過ぎてから出立しようが、移動に関しては、それほど問題はない。
 ただ、到着する時間が少しずれてしまうだけだ。

 それよりも、セシルがギルバートに見せたいものとは、一体、なんだろうか?

 セシルのことだから、きっと、ギルバートは簡単に驚いてしまうことだろうなと、今からでも楽しみである。

 朝食を終えたセシルは、外での見回りもあるらしく、暇であるギルバートはセシルに同行させてもらった。

 領地内で会議か会合だったらしく、それは、すぐに終えて、移動もそれほど要求されたものでもなかったのだ。

 それから、邸に続く通行門側で馬を降り、セシルに案内されて、全員が宿場町の方に戻って行く。
 それで、宿場町の中央に設置されている観光情報館の前にやって来ていた。

 観光情報館の二階側には、新しく設置された大きな丸い時計が飾られている。子供一人分の背丈は軽くあるのではないかと思われるような直径の高さで、大きな丸い時計だ。

 すでに、周囲には、ギルバート達だけではなく、宿場町で働いている者達や、領地からの領民達、商隊のような団体や傭兵達が、色々と集まり出していた。

 皆が皆、揃って、中央にある観光情報館を取り囲むように、立っている。

 どうやら、外からやって来た者達も、全員、この領地の新しい名物である「時計塔」 なるものを、見物しにやって来たらしい。

 ギルバート達は、時計塔と真正面から向き合うように、通りの端側に立っている。
 こんな風に、賑わって混雑した場で囲まれるのは、ギルバート達も落ち着かないのだ。

 それで、観光情報館と通りを挟んで向き合っている建物の壁側に陣取り、セシルの護衛六人が、セシルとギルバート達の前に立っているので、混雑で人込みに押される心配はなくなった。

「そろそろですわ」

 ここに集まった全員が、興味津々きょうみしんしんで目を輝かせ、観光情報館の二階に設置にされている大きな時計を見上げている。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームで唯一悲惨な過去を持つモブ令嬢に転生しました

雨夜 零
恋愛
ある日...スファルニア公爵家で大事件が起きた スファルニア公爵家長女のシエル・スファルニア(0歳)が何者かに誘拐されたのだ この事は、王都でも話題となり公爵家が賞金を賭け大捜索が行われたが一向に見つからなかった... その12年後彼女は......転生した記憶を取り戻しゆったりスローライフをしていた!? たまたまその光景を見た兄に連れていかれ学園に入ったことで気づく ここが... 乙女ゲームの世界だと これは、乙女ゲームに転生したモブ令嬢と彼女に恋した攻略対象の話

乙女ゲームの世界に転生した!攻略対象興味ないので自分のレベル上げしていたら何故か隠しキャラクターに溺愛されていた

ノアにゃん
恋愛
私、アリスティーネ・スティアート、 侯爵家であるスティアート家の第5子であり第2女です そして転生者、笹壁 愛里寿(ささかべ ありす)です、 はっきり言ってこの乙女ゲーム楽しかった! 乙女ゲームの名は【熱愛!育ててプリンセス!】 約して【熱プリ】 この乙女ゲームは好感度を上げるだけではなく、 最初に自分好みに設定したり、特化魔法を選べたり、 RPGみたいにヒロインのレベルを上げたりできる、 個人的に最高の乙女ゲームだった! ちなみにセーブしても一度死んだらやり直しという悲しい設定も有った、 私は熱プリ世界のモブに転生したのでレベルを上げを堪能しますか! ステータスオープン! あれ?  アイテムボックスオープン! あれれ? メイクボックスオープン! あれれれれ? 私、前世の熱プリのやり込んだステータスや容姿、アイテム、ある‼ テイム以外すべて引き継いでる、 それにレベルMAX超えてもモンスター狩ってた分のステータス上乗せ、 何故か神々に寵愛されし子、王に寵愛されし子、 あ、この世界MAX99じゃないんだ、、、 あ、チートですわ、、、 ※2019/ 7/23 21:00 小説投稿ランキングHOT 8位ありがとうございます‼ ※2019/ 7/24 6:00 小説投稿ランキングHOT 4位ありがとうございます‼ ※2019/ 7/24 12:00 小説投稿ランキングHOT 3位ありがとうございます‼ ※2019/ 7/24 21:00 小説投稿ランキングHOT 2位ありがとうございます‼ お気に入り登録1,000突破ありがとうございます‼ 初めてHOT 10位以内入れた!嬉しい‼

乙女ゲーのモブデブ令嬢に転生したので平和に過ごしたい

ゆの
恋愛
私は日比谷夏那、18歳。特に優れた所もなく平々凡々で、波風立てずに過ごしたかった私は、特に興味のない乙女ゲームを友人に強引に薦められるがままにプレイした。 だが、その乙女ゲームの各ルートをクリアした翌日に事故にあって亡くなってしまった。 気がつくと、乙女ゲームに1度だけ登場したモブデブ令嬢に転生していた!!特にゲームの影響がない人に転生したことに安堵した私は、ヒロインや攻略対象に関わらず平和に過ごしたいと思います。 だけど、肉やお菓子より断然大好きなフルーツばっかりを食べていたらいつの間にか痩せて、絶世の美女に…?! 平和に過ごしたい令嬢とそれを放って置かない攻略対象達の平和だったり平和じゃなかったりする日々が始まる。

落ちぶれて捨てられた侯爵令嬢は辺境伯に求愛される~今からは俺の溺愛ターンだから覚悟して~

しましまにゃんこ
恋愛
年若い辺境伯であるアレクシスは、大嫌いな第三王子ダマスから、自分の代わりに婚約破棄したセシルと新たに婚約を結ぶように頼まれる。実はセシルはアレクシスが長年恋焦がれていた令嬢で。アレクシスは突然のことにとまどいつつも、この機会を逃してたまるかとセシルとの婚約を引き受けることに。 とんとん拍子に話はまとまり、二人はロイター辺境で甘く穏やかな日々を過ごす。少しずつ距離は縮まるものの、時折どこか悲し気な表情を見せるセシルの様子が気になるアレクシス。 「セシルは絶対に俺が幸せにしてみせる!」 だがそんなある日、ダマスからセシルに王都に戻るようにと伝令が来て。セシルは一人王都へ旅立ってしまうのだった。 追いかけるアレクシスと頑なな態度を崩さないセシル。二人の恋の行方は? すれ違いからの溺愛ハッピーエンドストーリーです。 小説家になろう、他サイトでも掲載しています。 麗しすぎるイラストは汐の音様からいただきました!

流星群の落下地点で〜集団転移で私だけ魔力なし判定だったから一般人として生活しようと思っているんですが、もしかして下剋上担当でしたか?〜

古森きり
恋愛
平凡な女子高生、加賀深涼はハロウィンの夜に不思議な男の声を聴く。 疎遠だった幼馴染の真堂刃や、仮装しに集まっていた人たちとともに流星群の落下地点から異世界『エーデルラーム』に召喚された。 他の召喚者が召喚魔法師の才能を発現させる中、涼だけは魔力なしとして殺されかける。 そんな時、助けてくれたのは世界最強最悪の賞金首だった。 一般人生活を送ることになった涼だが、召喚時につけられた首輪と召喚主の青年を巡る争いに巻き込まれていく。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスに掲載。 [お願い] 敵役へのヘイト感想含め、感想欄への書き込みは「不特定多数に見られるものである」とご理解の上、行ってください。 ご自身の人間性と言葉を大切にしてください。 言葉は人格に繋がります。 ご自分を大切にしてください。

処刑直前ですが得意の転移魔法で離脱します~私に罪を被せた公爵令嬢は絶対許しませんので~

インバーターエアコン
恋愛
 王宮で働く少女ナナ。王様の誕生日パーティーに普段通りに給仕をしていた彼女だったが、突然第一王子の暗殺未遂事件が起きる。   ナナは最初、それを他人事のように見ていたが……。 「この女よ! 王子を殺そうと毒を盛ったのは!」 「はい?」  叫んだのは第二王子の婚約者であるビリアだった。  王位を巡る争いに巻き込まれ、王子暗殺未遂の罪を着せられるナナだったが、相手が貴族でも、彼女はやられたままで終わる女ではなかった。  (私をドロドロした内争に巻き込んだ罪は贖ってもらいますので……)  得意の転移魔法でその場を離脱し反撃を始める。  相手が悪かったことに、ビリアは間もなく気付くこととなる。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

前世持ち公爵令嬢のワクワク領地改革! 私、イイ事思いついちゃったぁ~!

Akila
ファンタジー
旧題:前世持ち貧乏公爵令嬢のワクワク領地改革!私、イイ事思いついちゃったぁ〜! 【第2章スタート】【第1章完結約30万字】 王都から馬車で約10日かかる、東北の超田舎街「ロンテーヌ公爵領」。 主人公の公爵令嬢ジェシカ(14歳)は両親の死をきっかけに『異なる世界の記憶』が頭に流れ込む。 それは、54歳主婦の記憶だった。 その前世?の記憶を頼りに、自分の生活をより便利にするため、みんなを巻き込んであーでもないこーでもないと思いつきを次々と形にしていく。はずが。。。 異なる世界の記憶=前世の知識はどこまで通じるのか?知識チート?なのか、はたまたただの雑学なのか。 領地改革とちょっとラブと、友情と、涙と。。。『脱☆貧乏』をスローガンに奮闘する貧乏公爵令嬢のお話です。             1章「ロンテーヌ兄妹」 妹のジェシカが前世あるある知識チートをして領地経営に奮闘します! 2章「魔法使いとストッカー」 ジェシカは貴族学校へ。癖のある?仲間と学校生活を満喫します。乞うご期待。←イマココ  恐らく長編作になるかと思いますが、最後までよろしくお願いします。  <<おいおい、何番煎じだよ!ってごもっとも。しかし、暖かく見守って下さると嬉しいです。>>

処理中です...