上 下
405 / 530
Part 3

В.а 余計な - 08

しおりを挟む
 夕食の時間になると、ギルバート達はダイニングホールに招待され、部下達も一緒に、その場にやって来ていた。

 朝食の時とは違い、テーブルなどは壁側に移動したらしく、そこに並んだ長いテーブルの上には、燦然と輝く食事やデザートがずらりと並べられていた。

「豊穣祭並みの食事の量ですねえ」

 ずらりと並んだ料理を眺めているクリストフも、素直に感心している。

「さすが、セシル嬢だ」

 そして、この場でも、普段と変わらず、セシルの人気度に感心して、喜んでいるギルバートだ。

「領民全員からの贈り物ですからねえ」
「確かに」

 アトレシア大王国でも、そのような話など、一度だって聞いたことはない。

「さすが、セシル嬢だ」
「いやいや、そこで褒め殺さなくても、ギルバート様がご令嬢にベタ惚れしている事実は、存じています」

「わざわざ強調しなくてもいいだろうが」
「ただの事実です」

 ダイニングホールには使用人達も全員が揃い、今夜の主役を待ちわびている。

 そうやってセシルを待っている間も、ギルバートはセシルの贈り物はどんなものがいいか、ついつい、考えてしまっている。

 今日の移動中だって、領民達が贈り物を手渡している場面を見やりながら、何度も、なにがいいのかなぁ……と、その考えばかりが頭を支配していたくらいだ。

「マイレディー」

 使用人達が一斉に深く頭を下げ、一礼をした。

 それで、ギルバートもダイニングホールの入り口に目を向ける。――が、その視線の先の人物を見て、ギルバートがその場で固まってしまっていた。

 入口から姿を出したセシルの今夜の整いは、深いワインレッド色のドレスだった。ドレスは、オフショルダーの形で、少し、体の線を強調するようなピッタリとしたデザインだ。

 ドレスのスカート部分にはプリーツを入れ込み、流れるようなラインを見せながら、少しふんわりとしたスカートの形を見せるように工夫しているドレスだ。

 今夜は、セシルの誕生日を祝う夕食会であるから、プライベートのお祝いごとになる。

 それで、少々、体の線が協調されるような煽情的せんじょうてきなドレスなのだったが、侍女達全員に勧められて、そのドレスを着ることにしたのだ。


「絶対に、このドレスがいいですっ! このドレスを着たマイレディーを見た副団長様が、マイレディーのあまりの美しさとセクシーさに目を奪われて、悶絶もんぜつされるんですっ!」


 いや……。セシルは、全くそんなことを望んでなどいない……。

 だが、侍女達全員の迫力に押されて、仕方なく、このドレスを着ることになったセシルだ。

 肩と腕を隠すために、トップは短いボレロを着込んでいる。それは、鈍い金色の糸を使用したレースで、繊細で豪奢な模様が編み込まれたボレロに出来上がっている。

 近年、セシルの領地でも、大分、レース編みが普及し出してきて、お針子達だけではなく、家に残っている主婦や、まだ若い少女達などもレース編みを始めている。

 ドレスのスカート部分には、ボレロと同じ色の長いレースをスカートの上に囲み、セシルが歩くたびに、サラサラとそのレースが波打って、とても美しい光景に仕上がっていた。

 そこに集まっている使用人達、全員から、嘆息たんそくめいた息が吐き出される。

 今夜のセシルの仕上がりに、全員が溜息ためいきをこぼしそうなほど見惚みとれて、大満足しているのだ。

 ギルバートも、そのうちの一人だった。全く、除外されていない。

 トップとスカートのレースが豪奢なのに、繊細な模様が美しく、はかなげなイメージのあるセシルの印象を、更に強調しているかのようだった。

 セシルは細身の体躯なのに、緩やかな身体からだのラインが協調されて、なまめかしいほどの色気を放っている。

 ゆっくりと部屋の中を進んで、ギルバートの方に寄ってきたセシルを前に、ギルバートも完全に我を忘れて、セシルに見惚れてしまっている。

「ギルバート様」
「セシル嬢……」

「お待たせしてしまいましたか?」
「いいえ、そのようなことはありません」

 少し、ギルバートを見上げてくるセシルの藍の瞳にとらえられて、ギルバートは胸が詰まって、溜息ためいきが漏れてしまいそうだった。

「……申し訳ありません。正式な場であるとは知らず、このようなで立ちで……」

「そのように、お気になさらないでくださいませ。今日のパーティーは、正式なものでもありませんの。それに、ギルバート様は、騎士団の制服を着ていらっしゃるのですから、全く問題もありませんわ」

 騎士団の制服と言っても、普段の常務用の制服のほうだ。正礼装の制服ではない。

 対するセシルは、きちんとしたドレスに身を包み、パーティーにだって参加できるように美しく着飾って、正装をしてきたのだ。

「それに、これは――その……」

 珍しく口を濁らせているようなセシルに、ギルバートも不思議そうな顔をする。

「いえ、これは……今日は、ギルバート様がいらっしゃっていますので」
「私ですか?」

「ええ、そうです。普段は、仕事着のままで食事会に参加しているのですが、今日は――隣国から、わざわざ、婚約者である王子殿下がいらしていて、王国騎士団の騎士の方も付き添っていらっしゃるのに、伯爵家の令嬢らしい格好一つもできないとは、伯爵家の恥だ、といさめられまして……」

「そうなのですか?」

 ギルバートは、その程度のことなど、全く問題にはしていないのに。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームで唯一悲惨な過去を持つモブ令嬢に転生しました

雨夜 零
恋愛
ある日...スファルニア公爵家で大事件が起きた スファルニア公爵家長女のシエル・スファルニア(0歳)が何者かに誘拐されたのだ この事は、王都でも話題となり公爵家が賞金を賭け大捜索が行われたが一向に見つからなかった... その12年後彼女は......転生した記憶を取り戻しゆったりスローライフをしていた!? たまたまその光景を見た兄に連れていかれ学園に入ったことで気づく ここが... 乙女ゲームの世界だと これは、乙女ゲームに転生したモブ令嬢と彼女に恋した攻略対象の話

乙女ゲームの世界に転生した!攻略対象興味ないので自分のレベル上げしていたら何故か隠しキャラクターに溺愛されていた

ノアにゃん
恋愛
私、アリスティーネ・スティアート、 侯爵家であるスティアート家の第5子であり第2女です そして転生者、笹壁 愛里寿(ささかべ ありす)です、 はっきり言ってこの乙女ゲーム楽しかった! 乙女ゲームの名は【熱愛!育ててプリンセス!】 約して【熱プリ】 この乙女ゲームは好感度を上げるだけではなく、 最初に自分好みに設定したり、特化魔法を選べたり、 RPGみたいにヒロインのレベルを上げたりできる、 個人的に最高の乙女ゲームだった! ちなみにセーブしても一度死んだらやり直しという悲しい設定も有った、 私は熱プリ世界のモブに転生したのでレベルを上げを堪能しますか! ステータスオープン! あれ?  アイテムボックスオープン! あれれ? メイクボックスオープン! あれれれれ? 私、前世の熱プリのやり込んだステータスや容姿、アイテム、ある‼ テイム以外すべて引き継いでる、 それにレベルMAX超えてもモンスター狩ってた分のステータス上乗せ、 何故か神々に寵愛されし子、王に寵愛されし子、 あ、この世界MAX99じゃないんだ、、、 あ、チートですわ、、、 ※2019/ 7/23 21:00 小説投稿ランキングHOT 8位ありがとうございます‼ ※2019/ 7/24 6:00 小説投稿ランキングHOT 4位ありがとうございます‼ ※2019/ 7/24 12:00 小説投稿ランキングHOT 3位ありがとうございます‼ ※2019/ 7/24 21:00 小説投稿ランキングHOT 2位ありがとうございます‼ お気に入り登録1,000突破ありがとうございます‼ 初めてHOT 10位以内入れた!嬉しい‼

乙女ゲーのモブデブ令嬢に転生したので平和に過ごしたい

ゆの
恋愛
私は日比谷夏那、18歳。特に優れた所もなく平々凡々で、波風立てずに過ごしたかった私は、特に興味のない乙女ゲームを友人に強引に薦められるがままにプレイした。 だが、その乙女ゲームの各ルートをクリアした翌日に事故にあって亡くなってしまった。 気がつくと、乙女ゲームに1度だけ登場したモブデブ令嬢に転生していた!!特にゲームの影響がない人に転生したことに安堵した私は、ヒロインや攻略対象に関わらず平和に過ごしたいと思います。 だけど、肉やお菓子より断然大好きなフルーツばっかりを食べていたらいつの間にか痩せて、絶世の美女に…?! 平和に過ごしたい令嬢とそれを放って置かない攻略対象達の平和だったり平和じゃなかったりする日々が始まる。

落ちぶれて捨てられた侯爵令嬢は辺境伯に求愛される~今からは俺の溺愛ターンだから覚悟して~

しましまにゃんこ
恋愛
年若い辺境伯であるアレクシスは、大嫌いな第三王子ダマスから、自分の代わりに婚約破棄したセシルと新たに婚約を結ぶように頼まれる。実はセシルはアレクシスが長年恋焦がれていた令嬢で。アレクシスは突然のことにとまどいつつも、この機会を逃してたまるかとセシルとの婚約を引き受けることに。 とんとん拍子に話はまとまり、二人はロイター辺境で甘く穏やかな日々を過ごす。少しずつ距離は縮まるものの、時折どこか悲し気な表情を見せるセシルの様子が気になるアレクシス。 「セシルは絶対に俺が幸せにしてみせる!」 だがそんなある日、ダマスからセシルに王都に戻るようにと伝令が来て。セシルは一人王都へ旅立ってしまうのだった。 追いかけるアレクシスと頑なな態度を崩さないセシル。二人の恋の行方は? すれ違いからの溺愛ハッピーエンドストーリーです。 小説家になろう、他サイトでも掲載しています。 麗しすぎるイラストは汐の音様からいただきました!

流星群の落下地点で〜集団転移で私だけ魔力なし判定だったから一般人として生活しようと思っているんですが、もしかして下剋上担当でしたか?〜

古森きり
恋愛
平凡な女子高生、加賀深涼はハロウィンの夜に不思議な男の声を聴く。 疎遠だった幼馴染の真堂刃や、仮装しに集まっていた人たちとともに流星群の落下地点から異世界『エーデルラーム』に召喚された。 他の召喚者が召喚魔法師の才能を発現させる中、涼だけは魔力なしとして殺されかける。 そんな時、助けてくれたのは世界最強最悪の賞金首だった。 一般人生活を送ることになった涼だが、召喚時につけられた首輪と召喚主の青年を巡る争いに巻き込まれていく。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスに掲載。 [お願い] 敵役へのヘイト感想含め、感想欄への書き込みは「不特定多数に見られるものである」とご理解の上、行ってください。 ご自身の人間性と言葉を大切にしてください。 言葉は人格に繋がります。 ご自分を大切にしてください。

処刑直前ですが得意の転移魔法で離脱します~私に罪を被せた公爵令嬢は絶対許しませんので~

インバーターエアコン
恋愛
 王宮で働く少女ナナ。王様の誕生日パーティーに普段通りに給仕をしていた彼女だったが、突然第一王子の暗殺未遂事件が起きる。   ナナは最初、それを他人事のように見ていたが……。 「この女よ! 王子を殺そうと毒を盛ったのは!」 「はい?」  叫んだのは第二王子の婚約者であるビリアだった。  王位を巡る争いに巻き込まれ、王子暗殺未遂の罪を着せられるナナだったが、相手が貴族でも、彼女はやられたままで終わる女ではなかった。  (私をドロドロした内争に巻き込んだ罪は贖ってもらいますので……)  得意の転移魔法でその場を離脱し反撃を始める。  相手が悪かったことに、ビリアは間もなく気付くこととなる。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

前世持ち公爵令嬢のワクワク領地改革! 私、イイ事思いついちゃったぁ~!

Akila
ファンタジー
旧題:前世持ち貧乏公爵令嬢のワクワク領地改革!私、イイ事思いついちゃったぁ〜! 【第2章スタート】【第1章完結約30万字】 王都から馬車で約10日かかる、東北の超田舎街「ロンテーヌ公爵領」。 主人公の公爵令嬢ジェシカ(14歳)は両親の死をきっかけに『異なる世界の記憶』が頭に流れ込む。 それは、54歳主婦の記憶だった。 その前世?の記憶を頼りに、自分の生活をより便利にするため、みんなを巻き込んであーでもないこーでもないと思いつきを次々と形にしていく。はずが。。。 異なる世界の記憶=前世の知識はどこまで通じるのか?知識チート?なのか、はたまたただの雑学なのか。 領地改革とちょっとラブと、友情と、涙と。。。『脱☆貧乏』をスローガンに奮闘する貧乏公爵令嬢のお話です。             1章「ロンテーヌ兄妹」 妹のジェシカが前世あるある知識チートをして領地経営に奮闘します! 2章「魔法使いとストッカー」 ジェシカは貴族学校へ。癖のある?仲間と学校生活を満喫します。乞うご期待。←イマココ  恐らく長編作になるかと思いますが、最後までよろしくお願いします。  <<おいおい、何番煎じだよ!ってごもっとも。しかし、暖かく見守って下さると嬉しいです。>>

処理中です...