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Part 3

В.а 余計な - 07

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 今日はギルバート達がセシルに同行するので、領地からの残り四人の騎士達は一緒に同行しないようだった。

 不思議に思いながら、セシル達一行は、早速、領地内の施設やら敷地へと足を進める。

「あっ、マスター!」

 まるで、セシルの登場を待ち構えていたかのような様相で、最初の施設に到着すると、すでにそこで働いているような従業員など一同が、ずらりと立ち並んでいた。

「マスターっ!」

 子供達は嬉しそうに手を振りながら、セシルを迎え入れる。
 大人達は深く一礼をした。

「「マスター、お誕生日おめでとうございますっ!!」

 セシルが馬から下りるや否や、その場の全員が一斉に叫んでいた。

「皆、ありがとう」

 セシルはお礼を口にしたが、その場の全員が一斉にセシルに向かって(襲い掛かって) 群がり始め、一人一人が誕生日の祝いの言葉を口にする。

 全員の祝いが終わると、代表者のような男性がセシルになにかを差し出してきて。

「マスター、どうかこれを受け取ってください。大したものではありませんが……。皆で作りました」
「ありがとう。とても嬉しいわ」

 大きな木箱のようなものを手渡されたセシルは嬉しそうな微笑みを浮かべ、全員に向かってお礼を口にする。

 すぐに、イシュトールがやって来て、セシルから木箱を受け取っていた。

 そして、次の場所へと移動を開始する。

「マスターっ!」
「マスターっ!」

「「お誕生日おめでとうございますっ!!」

 次の場所でも、セシルは大人気。その場に集まっている全員に囲まれ、お祝いの言葉を受け取り、最後には贈り物を受け取っている。

 今度は、見た目からして、デザートかなにかの食べ物に見える。

 次の場所へ移動しても、またまた、同じ繰り返し。

 数件の場所を移動しただけで、すでに、ギルバートも今回のパターンを読んでしまっていた。

「大人気ですね。あなたが領主ですから、全くの不思議はありませんが」

 ほぅ……などと、素直に感心を見せるギルバートに、セシルもほんのりと微苦笑を浮かべてみせる。
 そして、行く先々で手渡される贈り物の数々。

 もう、ギルバートの見間違いでなければ、全部、なにかかしらの食べ物だった。

「全員が、セシル嬢、あなたの為に食事やらデザートやらを贈り物にしているのですね。その習慣は、もしかして、領地では一貫しているのですか?」

「いえ……。あの、特別、習慣にしている、というものでもございませんの……」

 一言付け足すが、セシルは一度として、領民達に、


「ご飯を作ってね」


とも頼んだことはない。

 領地の視察や移動だって、まだ半分も終えていないのに、イシュトールとユーリカが引いている荷馬車には、かなりの量の食事やデザートが積みあがっていた。

「すごい量ですねぇ……! この量を、あなた一人で消費するには、到底、無理があるような気がしますが」

 気がする――のではなく、実際に、到底、無理な話なのである。

 半端ない量の食事やデザートを、セシル一人きりでなど、絶対に食べきれるはずもない。

 セシルは、なんだか、曖昧あいまいな笑みを口元に浮かべただけだ。

「昔は――皆が揃って、なにか贈り物をしてくれようとしていたのですけれど、あまりに……ものすごい量になってしまいまして、それで、お祝いの言葉だけにして欲しい、と頼んでみたのです。でも、かなり落胆してしまって、今度は嵩張かさばらないようなものにしますから、とお願いされまして……」

「それでも、たくさんの量になったのでは?」

「ええ、そうなんです。それで、「簡単に消費できるようなクッキーなど?」 と、つい、口を滑らせてしまった私の失態で……」

「ものすごい量のクッキーが贈られてきたのでは?」

「そうなんです……。もう、あの時は、あれだけの量のクッキーをどうしようかと思ってしまいました……。到底、邸内やしきないだけでは消化が無理でしたので、結局、領民を集めて、広場で、皆で食べました」

「なるほど」

「それで、次の年は、領民達も、クッキーばかりではダメだと考えてしまったようでして、それぞれが、違ったものを贈ってくれるようになったのです。ですから、今夜は、(全) 領民が贈ってくれる食事やデザートなどのご馳走で、邸の全員で、小さなパーティーのような夕食会になりますので、ギルバート様と皆様も、よろしかったら、参加してくださいね……?」

「ありがとうございます」

 なるほど。

 領民達も、毎年、毎年、しっかりと、自分達の間違いを学んでいるようである。

 そして、次の年には、前年の間違いをしないようにと、新たな策で――セシルをお祝いしているのだろう。

 領民達のセシルへの敬慕や敬愛は、誰が見ても疑いようのないほど深いものだ。

 大好きな領主様の誕生日をお祝いしたくて、お祝いの言葉だけでは足りなくて、それで、毎回、工夫を凝らして、セシルの誕生日をお祝いしているのだろう。

 日頃からの感謝の気持ちを最大限に込めて。

「このようにお祝いしてもらい、贈り物もたくさんもらえることは、とても嬉しく思っています。――思っていますが……、あまりにたくさんの量で、消化しきれなく、残り物を無駄にしてしまうことの方が、勿体なくてぇ……」

 困っちゃう……。

 セシルの顔が素直にそう語っていた。
 難しいジレンマである。

 はは、とギルバートもつい笑ってしまって、

「それは、さぞ、大変なジレンマでしょう」
「そうなのです……」

 セシルの誕生日は、全く知らなかった。それは、ギルバートの不覚、である。

 だが、セシルがギルバートの婚約者になって、初めて、セシルの誕生日を一緒に迎えることができて、今晩は、小さなパーティーも開かれるらしい。

 これは、執事のオスマンドにしっかりとお礼を言っておかなければならないだろう。

 アトレシア大王国に戻る前に、こんな貴重な時間をセシルと一緒に過ごすことができたのだから。




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