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Part 3
* В.а 余計な *
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「ご冗談は、おやめになってください」
まず、その第一声は、スッパリ、キッパリ、にべもなく投げ捨てられた。
そのセシルの反応を予想していたギルバートは、申し訳なさそうに、その心底困っている表情が暗い。
豊穣祭まであと二カ月も切っているのに、今年も豊穣祭に参加する予定になっていたギルバートが、突然、領地にやって来るものだから、一体、何事なのか――と、セシルだって驚いていた。
「冗談では、ありません……。――本当に、申し訳ありません……」
なにも、あまりに突飛な、おまけに傍迷惑な提案を出してきたのは、あの兄のレイフである。
だから、ギルバートが謝罪する理由はなかったのだが、それでも、本当に余計なことをしてくれたレイフのおかげで、ヒューと、音が聞こえてきそうなほどに凍り付いたセシルの背後が、不穏だ。
「ご冗談はおやめになってください。一体、どこの世界に、現在の王太子殿下として即位されていらっしゃる第二王子殿下、その上、第三王子殿下、国王陛下第一子、第一王位継承権を持つ王子殿下まで揃って領地にやって来るなどと、そのようなバカげたことを口にする者がいるのですか?」
それは、兄のレイフです――などと言い訳しても、今のセシルには通用しないだろう。
ことの始まりは、レイフが(末姫のトリネッテ以外の) 全員を召集して、その場で爆弾宣言を落としたことが始まりだった。
その爆弾宣言を聞くや否や、ギルバートの反応だって、
「冗談はやめてください」
もう、これ以上、口を挟める隙もないほど、キッパリ、スッパリ、おまけに、ズバッと、レイフを切り落としていたほどだ。
だが、その程度の抵抗で諦めるようなレイフではない。
まだにこやかな微笑を口に浮かべたまま、なぜかは知らないが――レイフのすぐ隣に座っている、国王陛下の第一子、小さなオスミンの肩をポンと叩く。
「オスミンに約束してしまってね」
「そうですっ」
そして、自分が前に出され、オスミンだって、ここぞとばかりに胸を張る。
「レイフおじうえが、やくそくしてくれました。ぼくが、ちゃんといい子でいれば、りょうちのしさつに、つれていってくれると、いいましたっ!」
その爆弾発言を聞いて、国王陛下であるアルデーラまでも、心底、嫌そうな顔を隠さない。
一体、両親の知らない場で、そんな――あまりに突飛な――話が出ていたのか、アデラさえ困り顔だ。
「ぼくは、ちゃんといい子にしてましたっ! べんきょうも、しました。せんせいのいうことも、ちゃんとききました。ずっと、いい子にしてましたっ!」
そして、レイフを除いた三人は、すでに言葉なし。
ちゃんと自慢するように胸を張り、オスミンが、もう一度、強調する。
「レイフおじうえが、やくそくしてくれました!」
そして、オスミンを前に出してきて、子供の約束を盾に取るなど、卑怯な作戦ではないか。
さすがに、この状況は予想していなく、アルデーラとアデラも唖然としている。
ギルバートは頭を抱え込みたい心境で、目先が真っ暗である。
ギロリと、兄であるレイフを睨んでも、本人は全く懲りた様子がない。
それで、手に負えない兄の所業に、自然、ギルバートの視線が、アルデーラに向けられる。
問題を押し付けられて、アルデーラの顔が、つい、引きつっていた。
オスミンの期待している顔が、父親に向けられる。
大抵なら、王子であるのだから、そのような勝手な行動は慎み、王宮で待っていなさい――と諫めるものだ。
アルデーラだって、子供の時から、そうやっていつも諫められたり、制限されたり、そして、王子としての自覚を持てと、何度も繰り返し、その責任を押し付けられたものだ。
「ちちうえ、おじうえは、ぼくがちゃんといい子にしていたら、やくそくをまもってくれると、いってくれました」
そして、子供に、(無責任に) そんな約束をちらつかせるなど、レイフも全く意地の悪い叔父だ。
「おじうえは、おうじはがいゆうして、たくさんのことをまなばなければならない、といいました。だから、ぼくは、とおでをして、たくさん、まなびにいくんです」
いや、“外遊”も“遠出”も、全く意味合いがかち合わない単語である。
まだ幼いオスミンだからと、難しい単語を出してきて、あたかも、それが素晴らしいことなのだなどと、レイフがオスミンを言いくるめたのだろう。
大人のくせに、やることが汚いではないか。
だが、その程度の無言の非難で怯むようなレイフではない。
レイフはにこやかな笑みを崩さず、
「オスミンはしっかりと約束を守り、勉強も励んでいたのだよ。私達も約束を守らなければ、こんな幼いうちから、約束は破っていいものだ、などと教えてしまうだろう?」
「それは、お前がしていることではないのか、レイフ?」
「いいえ。私は、オスミンをちゃんと一緒に連れて行きますよ。約束しましたから」
それで、オスミンの外遊を許さない父であるアルデーラが、約束を破る悪人にされてしまうというわけだ。
なんと卑怯な手ではないか。
まず、その第一声は、スッパリ、キッパリ、にべもなく投げ捨てられた。
そのセシルの反応を予想していたギルバートは、申し訳なさそうに、その心底困っている表情が暗い。
豊穣祭まであと二カ月も切っているのに、今年も豊穣祭に参加する予定になっていたギルバートが、突然、領地にやって来るものだから、一体、何事なのか――と、セシルだって驚いていた。
「冗談では、ありません……。――本当に、申し訳ありません……」
なにも、あまりに突飛な、おまけに傍迷惑な提案を出してきたのは、あの兄のレイフである。
だから、ギルバートが謝罪する理由はなかったのだが、それでも、本当に余計なことをしてくれたレイフのおかげで、ヒューと、音が聞こえてきそうなほどに凍り付いたセシルの背後が、不穏だ。
「ご冗談はおやめになってください。一体、どこの世界に、現在の王太子殿下として即位されていらっしゃる第二王子殿下、その上、第三王子殿下、国王陛下第一子、第一王位継承権を持つ王子殿下まで揃って領地にやって来るなどと、そのようなバカげたことを口にする者がいるのですか?」
それは、兄のレイフです――などと言い訳しても、今のセシルには通用しないだろう。
ことの始まりは、レイフが(末姫のトリネッテ以外の) 全員を召集して、その場で爆弾宣言を落としたことが始まりだった。
その爆弾宣言を聞くや否や、ギルバートの反応だって、
「冗談はやめてください」
もう、これ以上、口を挟める隙もないほど、キッパリ、スッパリ、おまけに、ズバッと、レイフを切り落としていたほどだ。
だが、その程度の抵抗で諦めるようなレイフではない。
まだにこやかな微笑を口に浮かべたまま、なぜかは知らないが――レイフのすぐ隣に座っている、国王陛下の第一子、小さなオスミンの肩をポンと叩く。
「オスミンに約束してしまってね」
「そうですっ」
そして、自分が前に出され、オスミンだって、ここぞとばかりに胸を張る。
「レイフおじうえが、やくそくしてくれました。ぼくが、ちゃんといい子でいれば、りょうちのしさつに、つれていってくれると、いいましたっ!」
その爆弾発言を聞いて、国王陛下であるアルデーラまでも、心底、嫌そうな顔を隠さない。
一体、両親の知らない場で、そんな――あまりに突飛な――話が出ていたのか、アデラさえ困り顔だ。
「ぼくは、ちゃんといい子にしてましたっ! べんきょうも、しました。せんせいのいうことも、ちゃんとききました。ずっと、いい子にしてましたっ!」
そして、レイフを除いた三人は、すでに言葉なし。
ちゃんと自慢するように胸を張り、オスミンが、もう一度、強調する。
「レイフおじうえが、やくそくしてくれました!」
そして、オスミンを前に出してきて、子供の約束を盾に取るなど、卑怯な作戦ではないか。
さすがに、この状況は予想していなく、アルデーラとアデラも唖然としている。
ギルバートは頭を抱え込みたい心境で、目先が真っ暗である。
ギロリと、兄であるレイフを睨んでも、本人は全く懲りた様子がない。
それで、手に負えない兄の所業に、自然、ギルバートの視線が、アルデーラに向けられる。
問題を押し付けられて、アルデーラの顔が、つい、引きつっていた。
オスミンの期待している顔が、父親に向けられる。
大抵なら、王子であるのだから、そのような勝手な行動は慎み、王宮で待っていなさい――と諫めるものだ。
アルデーラだって、子供の時から、そうやっていつも諫められたり、制限されたり、そして、王子としての自覚を持てと、何度も繰り返し、その責任を押し付けられたものだ。
「ちちうえ、おじうえは、ぼくがちゃんといい子にしていたら、やくそくをまもってくれると、いってくれました」
そして、子供に、(無責任に) そんな約束をちらつかせるなど、レイフも全く意地の悪い叔父だ。
「おじうえは、おうじはがいゆうして、たくさんのことをまなばなければならない、といいました。だから、ぼくは、とおでをして、たくさん、まなびにいくんです」
いや、“外遊”も“遠出”も、全く意味合いがかち合わない単語である。
まだ幼いオスミンだからと、難しい単語を出してきて、あたかも、それが素晴らしいことなのだなどと、レイフがオスミンを言いくるめたのだろう。
大人のくせに、やることが汚いではないか。
だが、その程度の無言の非難で怯むようなレイフではない。
レイフはにこやかな笑みを崩さず、
「オスミンはしっかりと約束を守り、勉強も励んでいたのだよ。私達も約束を守らなければ、こんな幼いうちから、約束は破っていいものだ、などと教えてしまうだろう?」
「それは、お前がしていることではないのか、レイフ?」
「いいえ。私は、オスミンをちゃんと一緒に連れて行きますよ。約束しましたから」
それで、オスミンの外遊を許さない父であるアルデーラが、約束を破る悪人にされてしまうというわけだ。
なんと卑怯な手ではないか。
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