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Part 3

Б.д まずは、土台造り - 06

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* * *


「それで、答えは見つかりましたか?」
「なんの答えでしょうか?」

 セシルが領地に戻る前の最終日。

 ギルバートに連れられて、また、セシルはアルデーラの私室にやって来ていた。そして、その場には、数日前と同じ、全員がすでに揃っていた。

 レイフが、ただ薄く口元を曲げてみせる。

「今日のお茶会は、どうでしたか?」
「楽しい時間を過ごさせていただきました」

「なるほど。それは良かった。それで、その答えは?」
「なんの答えでしょうか?」

「冗談ですか? あなたのようなご令嬢が、理由もなしに、見知りもしない他国の令嬢と、いきなり“お友達”ですか? さすがに、それは笑えないでしょうねえ」

「そうでしょうかしら? ご縁と言うものは、いつ舞い降りてくるものか分かりませんものね」
「では、“お友達”になれましたか?」

「さあ、どうでしょう。好き嫌いを判断するまでには、お互いにお互いのことを、よく存じ上げておりませんので」

「なるほど。それなら、時間をかけたら“お友達”、ですか?」
「さあ、どうでしょう」

 そして、レイフとセシルの会話は全く先が進まない、進歩のない会話のままだ。

 セシルは穏やかに、慎ましやかな笑みを口元に浮かべているだけだ。それで、普段と態度が変わるわけでもない、落ち着いている。

 本当に、ただそれだけだった。

「時間をかけたいんですか?」
「それは、宰相閣下次第でしょう」
「なぜ?」

「皆様は、まだ即位なされたばかりですわよね? 国王陛下、王妃陛下、宰相閣下、そして、外務大臣。国内外、これだけ重要な役職が全員入れ替わりましたものね。その下に付く者も、働く者も、落ち着きを見せない状態ではないかと思いまして」

「まあ、そうですね。特に、国王陛下の譲位、そして、新国王陛下の践祚せんそ、即位ともなれば、国中が浮き足立って、国政・王政も、しばらくは締まりがつかないとしても、不思議ではないですね」

「そうですわね。皆様はまだお若く、即位さればかりですので、これからの基盤付けが、必要となってくることではありませんか?」

「そうですね。それが、ガルブランソン侯爵令嬢?」
「そうは思われませんこと?」
「さあ、どうでしょう」

 レイフも、セシルと全く同じ反応を見せる。

 セシルは気にした風もなく、ただ、口元を軽く動かしたような微笑をみせる。

「何事も、土台造りが必要だと、思われませんか?」
「ええ、そうですね」

「新国王陛下の即位、王妃陛下の交代、内務・外務で大臣が代わり、おまけに、第三王子殿下には、他国からの無名の令嬢との婚約。これから、新国王陛下の元で、政権が大きく揺れ動くことでしょう。新国王陛下の新たな政策や方針、王政の変更一つで、仕える貴族達の足並みも、一気に崩しかねません。そうなる前に――そうですわね? 今から土台造りで、少し、基盤を固めておいた方が、よろしいのではないかと思いまして」

「どうやって? ガルブランソン侯爵令嬢を使い?」
「侯爵様は、少々、お怒りではございませんか?」

「まあ、そうでしょうね。ですが、その程度は問題にすることでもない。一時の感情で、家を潰すような馬鹿でもないでしょう」

「それは頼もしいことでございますわ。ただ――一時の感情、であっても、人の感情というものは、気分次第で、状況次第で、簡単に揺れ動いてしまうものですわ。ですから、まだ、侯爵様がこちら寄りでいる間、ご機嫌取り、でもなど?」

「わざわざ?」

 面倒だ。
 無駄だ。

 あまりに、レイフの冷たい鼻にかけたような態度が明らかだ。

「ええ。そのが、後の恩を売ることになると思いますの。ですから、ガルブランソン侯爵令嬢を、宰相閣下のお手伝い係や、補佐役の方の見習いなど、よろしいのではないかと思いまして」

 ガルブランソン侯爵に恩を売る方法がレイフを使って――など、全員は、全く予想していなかった。

 レイフの元に、“お手伝い”役で侯爵令嬢を送り込むなど、誰一人考えたことなどない。

 絶対に――長続きなどしないで、数日で(即日でなければ)、レイフに追い出されていること間違いなし。

 追い出されなければ、イジメられて、泣き出して、令嬢の方から飛び出しているかのどちらかだ。

 あまりにその光景も、状況も想像でき過ぎてしまって、レイフを除いた三人が、その問題をセシルに指摘すべきかどうか、迷っている。

「敵を作ることは簡単ですわ。ですが、味方を引き入れることは、簡単ではありませんでしょう? 恩を売れる時は、盛大に恩を売りつけておくのも、一つの策だと思いますの。今までは、ギルバート様に、侯爵家からの圧力がかかっていらっしゃったようですけれど、その程度の圧力程度、宰相閣下なら、全く問題なく、対処なされるだろうと思っております」

 だが、レイフからの反応はない。
 それでも、無視されているようでもない。

「それで、「ああ、まだ、王家は我が侯爵家の力が必要なのだ。それなら、まだ力を貸してやろう」と言う程度には、調子に乗ってもおかしくありませんわよね。その間、その程度の干渉や圧力なら、宰相閣下が対処できますでしょうし、間近で監視もできますでしょう」

「まあ、そうでしょうね」

「ええ。そして、なによりも、私がこの王国に嫁いでくるまでの間、これから社交界では、私の話題で持ちきりになることでしょう。ガルブランソン侯爵令嬢リドウィナ様は、その度に、ヒソヒソと、陰口を叩かれ、婚約もさせてもらえなかったと嘲笑され、果てには、お父上から、王子殿下一人も落とせないなど役立たずだと、責められたとしても、不思議はありません」

「確かにそうですね。まあ、それは、貴族社会では驚くことでもありませんよ」

「そうでしょうね。ですが、この婚約により、予想もしていない悪影響をこうむる羽目になるのは、なによりも、ガルブランソン侯爵令嬢ですわ。社交界、貴族社会で行き場のない、立場もなくなってしまっては、身動きが取れなくなってしまうことでしょう。その隙を突いて、ガルブランソン侯爵令嬢との婚約が――そうですわね、あちら側の貴族と成立してしまったのなら、国王陛下に従う侯爵家のパワーバランスが、崩れてしまう恐れがでてきませんこと?」

 ふむと、レイフもその点は異論がないようだった。

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