上 下
389 / 530
Part 3

* Б.д まずは、土台造り *

しおりを挟む
「皆様、お忙しい中、お呼び立てしてしまいまして、申し訳ございません」
「いえ、構いませんよ。婚約の儀が無事に済みましたからね。そろそろ、きちんと挨拶をすべきだと、考えていたところですからね」

 あの後すぐに、ギルバートが国王陛下に連絡をつけてくれたおかげか、セシルは待つこともなく、国王陛下の私室に呼ばれていた。

 セシルが頼んだ通り、すでに、国王陛下、王妃陛下、そして、宰相閣下が揃っている。

 丁寧なお辞儀を済まし、席を勧められて、セシルはギルバートの隣に腰を下ろしていた。

「婚約おめでとうございます。アトレシア大王国からも、あなたを歓迎しますよ」

 全員が席について、最初にレイフが口を開く。

「ありがとうございます」

 セシルは椅子に腰かけながら、丁寧に頭を下げる。

「婚約おめでとうございます、ギルバートさん、セシルさん」

 次に、王妃陛下であるアデラが二人を歓迎する。

「ありがとうございます」
「ありがとうございます、王妃陛下。国王陛下、王妃陛下も、お二人ともお変わりなく、ご健勝でいらっしゃると、お見受けいたします」
「ええ、変わりありませんわ」

 互いの社交辞令を済ませ終わり、アルデーラの視線がセシルに向けられる。

「それで?」

 無駄を吹っ飛ばして、本題に入って来たアルデーラだ。

 それなら、セシルに取っても好都合である。社交辞令だけなら、いつまで経っても話は進まない。

「実は、今日は皆様にお願いがございまして。ガルブランソン侯爵家のご令嬢と、お茶会を開いていただきたくございますの。それも、ご令嬢と二人きりだけで」
「――――……えっ……!?」

 さすがに、あまりに突拍子もない提案が上がり、アデラも、珍しく、そこで声を上げてしまっていた。

 残りの三人も、さすがに予想していなかった……と、その驚きの表情を隠しもせず、目を輝かせた。

「――――それは本気ですか?」
「ええ、もちろんです」

 まだ真意を図るかのように、探るような目を向けるレイフに、セシルの態度はあっさりとしたものだ。

「ですから、王妃陛下にはお茶会を開いていただけないでしょうか? 私はギルバート様の婚約者と言う立場ではございますが、それでも、他国の伯爵令嬢です。ガルブランソン侯爵令嬢を呼び出せられるほどの格ではございません」

「それは――構いませんけれど……。本当に、よろしいのですか?」
「ええ、もちろんです」

 セシルは全く気にしていない様子だったが、王妃アデラはほんの少しだけ、チラッと、その視線を国王陛下のアルデーラに向ける。

 アデラの気がかりもすぐに理解できて、セシルの意図が全く読めなくて、アルデーラもこの対応には困っている。

 まさか、このセシル自身から、ガルブランソン侯爵令嬢を呼び出して欲しい、などと頼まれる日がくるなど、この場の誰一人、予想したこともなかったのだ。

「ガルブランソン侯爵令嬢――の話は?」
「ギルバート様から、お伺いいたしました」

 その事情を知りながらも、セシルがお茶会を希望するなど、全くセシルの意図が読めないアルデーラ達だ。

「問題になってしまいますでしょうか?」
「いや……」

 全員が、どうしようか、と考えこんでしまっている。

「理由を聞いても?」
「お知り合いになれる機会がありましたら、光栄ですわ」

 そんな理由だけで――以前から、ギルバートの婚約者候補として上がっていた令嬢と二人きりで、それも、互いに一度も顔を合わせたこともない仲で、お茶会など、あまりに信じられない状況だ。

 言葉に出されないセシルの裏の目的が怪しいものだが、今の段階では、その裏が何なのか、全く考えも及ばない。

「無理なお願いでしたら、どうか、捨て置きくださいませ。皆様に、ご迷惑をおかけするつもりはございませんので」
「迷惑ではないが――」

 まだ少し考え込んでいる様子のアルデーラだったが、今の段階では、セシルの裏の意図も解からずじまいなだけに、そこで、一つ息を吐いていた。

「いいだろう」
「ありがとうございます、国王陛下」

  まだ心配そうな様子を隠せないアデラは、じーっと、アルデーラの顔を見つめている。

「アデラ、そのように手配するように」
「……わかり、ましたわ」

 その返事をしても、アデラの顔は、未だに、本当に大丈夫なのかしら……という心配が拭いきれていない。

「王妃陛下、無理をお願いしてしまいまして、申し訳ございません」
「いえ……。無理ではありませんわ。――本当に、よろしいのですか?」
「はい。是非、お願いいたします」

 なぜ、セシルがここまで乗り気なのか、アデラ達にはサッパリ理解できない。

 だが、セシルが何の考えもなしにお茶会を開くなど絶対にあり得ない、という事実だけは、その場の全員の一致した考えだった。

 一体、どんな嵐が襲ってくるのか、やって来るのか、全員の謎だった。

 そして、簡単に話が決まり、セシル一人だけ浮かれているのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームで唯一悲惨な過去を持つモブ令嬢に転生しました

雨夜 零
恋愛
ある日...スファルニア公爵家で大事件が起きた スファルニア公爵家長女のシエル・スファルニア(0歳)が何者かに誘拐されたのだ この事は、王都でも話題となり公爵家が賞金を賭け大捜索が行われたが一向に見つからなかった... その12年後彼女は......転生した記憶を取り戻しゆったりスローライフをしていた!? たまたまその光景を見た兄に連れていかれ学園に入ったことで気づく ここが... 乙女ゲームの世界だと これは、乙女ゲームに転生したモブ令嬢と彼女に恋した攻略対象の話

乙女ゲームの世界に転生した!攻略対象興味ないので自分のレベル上げしていたら何故か隠しキャラクターに溺愛されていた

ノアにゃん
恋愛
私、アリスティーネ・スティアート、 侯爵家であるスティアート家の第5子であり第2女です そして転生者、笹壁 愛里寿(ささかべ ありす)です、 はっきり言ってこの乙女ゲーム楽しかった! 乙女ゲームの名は【熱愛!育ててプリンセス!】 約して【熱プリ】 この乙女ゲームは好感度を上げるだけではなく、 最初に自分好みに設定したり、特化魔法を選べたり、 RPGみたいにヒロインのレベルを上げたりできる、 個人的に最高の乙女ゲームだった! ちなみにセーブしても一度死んだらやり直しという悲しい設定も有った、 私は熱プリ世界のモブに転生したのでレベルを上げを堪能しますか! ステータスオープン! あれ?  アイテムボックスオープン! あれれ? メイクボックスオープン! あれれれれ? 私、前世の熱プリのやり込んだステータスや容姿、アイテム、ある‼ テイム以外すべて引き継いでる、 それにレベルMAX超えてもモンスター狩ってた分のステータス上乗せ、 何故か神々に寵愛されし子、王に寵愛されし子、 あ、この世界MAX99じゃないんだ、、、 あ、チートですわ、、、 ※2019/ 7/23 21:00 小説投稿ランキングHOT 8位ありがとうございます‼ ※2019/ 7/24 6:00 小説投稿ランキングHOT 4位ありがとうございます‼ ※2019/ 7/24 12:00 小説投稿ランキングHOT 3位ありがとうございます‼ ※2019/ 7/24 21:00 小説投稿ランキングHOT 2位ありがとうございます‼ お気に入り登録1,000突破ありがとうございます‼ 初めてHOT 10位以内入れた!嬉しい‼

薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ

柚木 潤
ファンタジー
 実家の薬華異堂薬局に戻った薬剤師の舞は、亡くなった祖父から譲り受けた鍵で開けた扉の中に、不思議な漢方薬の調合が書かれた、古びた本を見つけた。  そして、異世界から助けを求める手紙が届き、舞はその異世界に転移する。  舞は不思議な薬を作り、それは魔人や魔獣にも対抗できる薬であったのだ。  そんな中、魔人の王から舞を見るなり、懐かしい人を思い出させると。  500年前にも、この異世界に転移していた女性がいたと言うのだ。  それは舞と関係のある人物であった。  その後、一部の魔人の襲撃にあうが、舞や魔人の王ブラック達の力で危機を乗り越え、人間と魔人の世界に平和が訪れた。  しかし、500年前に転移していたハナという女性が大事にしていた森がアブナイと手紙が届き、舞は再度転移する。  そして、黒い影に侵食されていた森を舞の薬や魔人達の力で復活させる事が出来たのだ。  ところが、舞が自分の世界に帰ろうとした時、黒い翼を持つ人物に遭遇し、舞に自分の世界に来てほしいと懇願する。  そこには原因不明の病の女性がいて、舞の薬で異物を分離するのだ。  そして、舞を探しに来たブラック達魔人により、昔に転移した一人の魔人を見つけるのだが、その事を隠して黒翼人として生活していたのだ。  その理由や女性の病の原因をつきとめる事が出来たのだが悲しい結果となったのだ。  戻った舞はいつもの日常を取り戻していたが、秘密の扉の中の物が燃えて灰と化したのだ。  舞はまた異世界への転移を考えるが、魔法陣は動かなかったのだ。  何とか舞は転移出来たが、その世界ではドラゴンが復活しようとしていたのだ。  舞は命懸けでドラゴンの良心を目覚めさせる事が出来、世界は火の海になる事は無かったのだ。  そんな時黒翼国の王子が、暗い森にある遺跡を見つけたのだ。   *第1章 洞窟出現編 第2章 森再生編 第3章 翼国編  第4章 火山のドラゴン編 が終了しました。  第5章 闇の遺跡編に続きます。

乙女ゲーのモブデブ令嬢に転生したので平和に過ごしたい

ゆの
恋愛
私は日比谷夏那、18歳。特に優れた所もなく平々凡々で、波風立てずに過ごしたかった私は、特に興味のない乙女ゲームを友人に強引に薦められるがままにプレイした。 だが、その乙女ゲームの各ルートをクリアした翌日に事故にあって亡くなってしまった。 気がつくと、乙女ゲームに1度だけ登場したモブデブ令嬢に転生していた!!特にゲームの影響がない人に転生したことに安堵した私は、ヒロインや攻略対象に関わらず平和に過ごしたいと思います。 だけど、肉やお菓子より断然大好きなフルーツばっかりを食べていたらいつの間にか痩せて、絶世の美女に…?! 平和に過ごしたい令嬢とそれを放って置かない攻略対象達の平和だったり平和じゃなかったりする日々が始まる。

落ちぶれて捨てられた侯爵令嬢は辺境伯に求愛される~今からは俺の溺愛ターンだから覚悟して~

しましまにゃんこ
恋愛
年若い辺境伯であるアレクシスは、大嫌いな第三王子ダマスから、自分の代わりに婚約破棄したセシルと新たに婚約を結ぶように頼まれる。実はセシルはアレクシスが長年恋焦がれていた令嬢で。アレクシスは突然のことにとまどいつつも、この機会を逃してたまるかとセシルとの婚約を引き受けることに。 とんとん拍子に話はまとまり、二人はロイター辺境で甘く穏やかな日々を過ごす。少しずつ距離は縮まるものの、時折どこか悲し気な表情を見せるセシルの様子が気になるアレクシス。 「セシルは絶対に俺が幸せにしてみせる!」 だがそんなある日、ダマスからセシルに王都に戻るようにと伝令が来て。セシルは一人王都へ旅立ってしまうのだった。 追いかけるアレクシスと頑なな態度を崩さないセシル。二人の恋の行方は? すれ違いからの溺愛ハッピーエンドストーリーです。 小説家になろう、他サイトでも掲載しています。 麗しすぎるイラストは汐の音様からいただきました!

流星群の落下地点で〜集団転移で私だけ魔力なし判定だったから一般人として生活しようと思っているんですが、もしかして下剋上担当でしたか?〜

古森きり
恋愛
平凡な女子高生、加賀深涼はハロウィンの夜に不思議な男の声を聴く。 疎遠だった幼馴染の真堂刃や、仮装しに集まっていた人たちとともに流星群の落下地点から異世界『エーデルラーム』に召喚された。 他の召喚者が召喚魔法師の才能を発現させる中、涼だけは魔力なしとして殺されかける。 そんな時、助けてくれたのは世界最強最悪の賞金首だった。 一般人生活を送ることになった涼だが、召喚時につけられた首輪と召喚主の青年を巡る争いに巻き込まれていく。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスに掲載。 [お願い] 敵役へのヘイト感想含め、感想欄への書き込みは「不特定多数に見られるものである」とご理解の上、行ってください。 ご自身の人間性と言葉を大切にしてください。 言葉は人格に繋がります。 ご自分を大切にしてください。

処刑直前ですが得意の転移魔法で離脱します~私に罪を被せた公爵令嬢は絶対許しませんので~

インバーターエアコン
恋愛
 王宮で働く少女ナナ。王様の誕生日パーティーに普段通りに給仕をしていた彼女だったが、突然第一王子の暗殺未遂事件が起きる。   ナナは最初、それを他人事のように見ていたが……。 「この女よ! 王子を殺そうと毒を盛ったのは!」 「はい?」  叫んだのは第二王子の婚約者であるビリアだった。  王位を巡る争いに巻き込まれ、王子暗殺未遂の罪を着せられるナナだったが、相手が貴族でも、彼女はやられたままで終わる女ではなかった。  (私をドロドロした内争に巻き込んだ罪は贖ってもらいますので……)  得意の転移魔法でその場を離脱し反撃を始める。  相手が悪かったことに、ビリアは間もなく気付くこととなる。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

処理中です...