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Part 3

Б.г やっぱり - 03

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「婚約の儀では忙しく、あまり時間がとれませんでしたので、ヘルバート伯爵とも、ほとんど、お話することができませんでした。豊穣祭に参加させていただけるのなら、せめて、その時にでも、ゆっくりと話す機会ができればと、思っております」

 それで、ギルバートが、少々、困った表情を浮かべて見せた。

「さすがに、手紙だけで、おまけに、王国の事情を押し付けてしまった形で、王宮からの指示だけで、あなたの家族は婚約の儀に参加させられてしまった形でしたでしょうから……」

 それで、大切な一人娘の婚儀であったのに、ヘルバート伯爵一家は、王宮の、王族の仕来りで婚儀に参加しているだけで、セシルやギルバートと、ほとんど話す機会もなかったほどだ。

 ただ、アトレシア大王国の貴族達に交じって、全く知らない場で、全く見知りもしない貴族達に囲まれて、ギルバートとセシルに挨拶を済ませただけだった。

 なんとも申し訳なくて、ギルバートも、きちんとヘルバート伯爵に会って、挨拶を済ませたいのだ。

 ギルバートは、本気で父のヘルバート伯爵に済まないと思っているようで、その様子も、顔の表情も、とても真摯しんしなものだった。

 そのギルバートを発見して、そういうところが本当に真面目な方だな、とセシルも嬉しくなってしまう。

 大国の王子殿下で、王家の一員なのに、威張り散らすでもなく、たかが伯爵家であるセシルの両親のことを、ちゃんと気遣ってくれているのだ。

「そのように、ギルバート様が気遣ってくださって、私の両親も、とても嬉しく思うことでしょう。私は、そのような方に嫁ぐことができて、幸せ者ですね」

 そんな不意打ちは、卑怯ではないか。
 ふふと、微かに瞳を細めたようなセシルの微笑みが綺麗で、ギルバートの鼓動が早鐘はやがねのように打っている。

「そ、そんなことは、ありません……。幸運な男なのは、私の方ですから――」

 それでも、ギルバートがほんの微かにだけ照れている様子は、隠せていなかった。

 昨夜もそうだったが、こんなギルバートの表情も見ることができるなんて、セシルも想像したことがなかった。

 いつもは、どこまでも礼儀正しくて、騎士団の副団長という立場と重責を背負い、キリリと凛々しい様相が多い。

 なのに、こんな風に、ほんの微かにだけ照れてしまって、それで、その照れている自分自身が恥ずかしいのか、むずがゆいのか、そんな――可愛らしい表情を、つい、見せてしまうなんて、新発見である。

 ふふ、と知らず、セシルも口元が綻んでしまう。

 それで、益々、ギルバートが照れているようだった。

 それからも、なにげない会話でも話が弾み、普段はお茶会などしたことがないセシルは、ギルバートに勧められて、王宮のシェフが腕によりをかけて作ったスイーツも、少しいただいてみたものだ。

 セシルと一緒にいるだけで、特別、会話の内容や新しい話題を考えなくとも、なにか、次から次へと話題が上がってくるのだ。

 会話が楽しくて、興味深くて、セシルの話を聞いているだけで、ワクワクとしてきそうな、そんな驚きがあって。

 そして、なによりも、セシルは出会った時から何も変わらなくて、下手に気遣う必要もなく、セシルと過ごす時間は、本当に楽しいものだった。

 ああ、やっぱり……セシルに惚れ込んでいるギルバートだから、そう感じるのではなく、セシルとの会話は、本当に楽しいものだった。

 気を遣わなくて、嘘がなくて、ただ自然体で好きなことを話し、会話して、話題が尽きない。ギルバートが何を質問しても、セシルは、一度だって、嫌な顔をしたことはない。

 それで、必ず、興味深い答えが返って来る。
 こんなに楽しい時間を過ごせたのは、初めてではないだろうか。

「ところで――、ギルバート様?」

 会話の丁度良い切れ目で、セシルが優雅な手つきで紅茶を一口すする。

「なんでしょう?」
「ガルブランソン侯爵家、というのはどなたなのでしょう?」
「――――えっ……?」

 珍しく、ギルバートの反応が、そこで止まっていた。

 そんなギルバートの様子を気にした風もなく、優雅に紅茶を飲んでいるセシルが、そっと、紅茶のカップをソーサに戻していく。

「随分、気になったお名前でしたので」
「――そう、ですか……」

 それ以上、セシルは何も言わない。

 ガルブランソン侯爵家のことは、別に――隠している秘密でもなんでもない。
 セシルがアトレシア大王国に嫁いで来たら、これから頻繁に聞く名前でもあるのだ。だから――動揺する必要はないのだ。

 ギルバートだって隠し事をしているのではない。悪いことをしているのでもない。

 そう思うのに、無邪気にギルバートを見返しているセシルを前にすると、なぜか……自分が後ろめたいことを隠している――そんな気になってしまうのは、なぜだろうか……。

「――――ガルブランソン侯爵家は、王国内で今ある、十ほどの侯爵家の一つです」
「確か……、講座を受けた時には、公爵家が、七家ほどあるとのお話でしたが」

「そうですね。あなたには隠してもしょうがないですし、私と婚約を済ませたあなたにも、これから王国での問題が降りかかってきますから、お話すべきでしょう」

 もう、いつまでも隠しておく必要のない情報だ。
 もう、これ以上、隠すべきではない情報だ。

「公爵家は、全員、今の“長老会”の息のかかった貴族達です。長くから、国政にも王宮にも関わってきていますし、根深いところで牛耳ぎゅうじっている――と言っても過言ではないのですが。ですから、新国王陛下の元での新興勢力、そして、国王陛下を支えていく家臣は、侯爵家から。王国騎士団も同じ理由からです」

「そうですか。侯爵家には、“長老会”の息のかかった貴族はいないと?」

「いえ、いますよ。二家ほど。彼らは、今の所、“監視下”におかれているので、公爵家よりは、まだ少し、動きは追いやすいのですが。それから中立派も。まあ、中立派は、表立って“長老派”に反対するわけではありませんが、彼らに従う意思はありません。特に、今は王太子殿下が新国王陛下として即位なされたので、彼らも、徐々に、その立ち位置を決めることでしょう」

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