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Part 3
Б.в 戦場で - 07
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それで、その嬉しさを隠さず、ギルバートが瞳を細めセシルに微笑んでくる。
そんな――嬉しそうな、とろけそうな表情をしてセシルを見つめてくるギルバートの瞳は嬉しそうで、それでも、その奥でちらほらと見えるセシルへの強い思いが熱くて、セシルは本当に不思議だった。
そう、強く、熱く、ギルバートから告白された。
それでも、セシルはギルバートほどの男性から告白されるだけの理由が、自分では解らない。
ギルバートがセシルのことを高く評価してくれても、ほとんど、前世(それとも現世なのか) で覚えている習慣だったり、常識だったり、特別、セシル本人がすごくて、大発明などしたわけでもない。
この地でも――勝手に飛ばされてきた異世界でも、ただ、自分の知っている知識を、応用しているだけなのに。
「私は、このようにギルバート様の婚約者となりましたが、それでも、私は――あなたが評価するほどの女ではありません」
「なぜです?」
「私は、ただ、知識の応用をしているだけで、私自身がなにかを発明した、作り出した、というのでもありません。知っていることを真似しているだけです」
「あなたはたくさんのことを知っていて、知識が深く、聡明な方だとは、私も思っています。ですが、知識があるからと、誰にでも簡単に行動に移すことはできません。そういった勇気が必要となったり、決意が必要となったりすることもあるでしょう」
「そのようなことは、ないと思いますが」
「そうですか? あなたは応用しているだけだとおっしゃいますが、あなたは知識を応用することに、何の躊躇いもない。そういった知識を自身で応用できるというのは、その場の状況も判断しなくてはならないでしょうし、適応性も考えなくてはならない。応用する時でさえ、周囲の者達を説得しなければならない」
それで、ギルバートの視線が、ドレスの上で手を重ねているセシルの手に移っていた。
そっと、ギルバートの手が、少しだけ躊躇いがちに、セシルの手の上に置かれた。
「誰もが全員、あなたの言うことを聞く者ばかりではないでしょう。応用するだけでも、行動に移すことは、並大抵な努力ではありませんよ。そして、それをできる力は、私はあなた自身の能力だと考えています」
それを言って、ギルバートがセシルの手をそっと掴み、その手を上げさせた。
少しだけ顔を寄せて、ギルバートが自分の手に乗せているセシルの手の指に、静かに唇を寄せる。
「ですから、私は、あなたのように、自分の可能性を潰さない、他人の可能性も潰さない、そして広げていけるあなたの力が、心から尊敬していますし、惹かれてもいます」
ギルバートは、また、そうやって、本心から、嘘でも偽りでもなく、セシルを褒めてくれる。
セシル自身はそんな大層な人物だとは思えないが、全くの他人で、隣国の王族で、そんな立場のギルバートがセシルを認め、褒めてくれる。
褒められる為に領地を治めているのではないし、領主になったのでもない。
それでも、赤の他人であるギルバートが、セシルの存在をきちんと認めてくれている事実には、セシル自身も嬉しかった。
自分の存在がただの器でもなく、セシルが今までしてきたことも、努力も、無駄ではなかったかもしれないと思えるほどに、そんな気持ちになるからだ。
「私はあなたに惹かれています。ですが、きっと、私には、あなたのことを知らないことが、まだまだたくさんあると思いますし、これから、もっとたくさんのことを知っていきたいと思います。それと同時に、あなたにも、私のことを知っていってもらいたいと思っています」
「これから、どうぞ、よろしくお願いいたします」
「もちろんです」
ギルバートが本当に嬉しそうだ。
「先程、迎えに来てくださった時に、言い忘れていましたけれど――」
「なんでしょう?」
「ギルバート様が、王子殿下としての正礼装の姿を拝見するのは、今夜が初めてですわ。良くお似合いで、凛々しくていらっしゃって、とても素敵ですのね。目を奪われてしまいました」
「――えっ……?」
さすがに――今のパンチは、ジャブに近く、予想もしていなかった不意打ちだけに、ポッと、ギルバートの顔が赤くなっていた。
それで、ギルバートが、パっと、微かにだけ横を向いてしまった。
まさかそんな反応が返ってくるとは思わず、セシルも目を輝かせた。
「あの……?」
「――あまり、見ないでください……」
「いえ……ですが、あの、とても素敵だな、と思ったことは本心でして。とても凛々しくいらっしゃって、貴族のご令嬢方が、ギルバート様に心奪われてしまうお気持ちも、解らないではないな、と――」
「ちょっと、待ってください」
ガシッと、セシルの肩が掴まれた。なのに、ギルバートは未だに横を向いたままだ。
「さすがに……そんな、男を喜ばせるようなことを言われたら、抑えがきかなくなってしまいますので、それはやめてください。このまま、あなたを抱きしめてしまいそうになりますから」
「ギルバート様も、よく、私のことを褒めてくださいますが……?」
クイッと、その顔を戻したギルバートが、真剣な顔つきでセシルを見つめる。
「当然でしょう?」
「いえ、そんなことはなく……」
「当然ですよ。一体、あなたのどこを見て、褒めない男がいるというのです?」
たくさんいます、と説明しようが、それを口に出してはいけない雰囲気だ。
「初めて参加させていただいた豊穣祭で、あなたを一目見た時から、私など、あまりの美しさに、言葉も出なかったほどなのですよ。あの時のあなたは、夜を照らし出すような神々しさがあって、威厳があって、そういった強さが美しく目が離せなかったのに、あなたの容姿は儚げで、それなのに笑顔が艶やかで、もっと目が奪われてしまったのです。はっきり言って、あの姿を見た男なら、絶対に、あなたに恋に落ちているはずです。あなたを褒めない男が、いるはずもないでしょう」
ものすごい勢いで、おまけに威勢で、断言されてしまった。
そんな――嬉しそうな、とろけそうな表情をしてセシルを見つめてくるギルバートの瞳は嬉しそうで、それでも、その奥でちらほらと見えるセシルへの強い思いが熱くて、セシルは本当に不思議だった。
そう、強く、熱く、ギルバートから告白された。
それでも、セシルはギルバートほどの男性から告白されるだけの理由が、自分では解らない。
ギルバートがセシルのことを高く評価してくれても、ほとんど、前世(それとも現世なのか) で覚えている習慣だったり、常識だったり、特別、セシル本人がすごくて、大発明などしたわけでもない。
この地でも――勝手に飛ばされてきた異世界でも、ただ、自分の知っている知識を、応用しているだけなのに。
「私は、このようにギルバート様の婚約者となりましたが、それでも、私は――あなたが評価するほどの女ではありません」
「なぜです?」
「私は、ただ、知識の応用をしているだけで、私自身がなにかを発明した、作り出した、というのでもありません。知っていることを真似しているだけです」
「あなたはたくさんのことを知っていて、知識が深く、聡明な方だとは、私も思っています。ですが、知識があるからと、誰にでも簡単に行動に移すことはできません。そういった勇気が必要となったり、決意が必要となったりすることもあるでしょう」
「そのようなことは、ないと思いますが」
「そうですか? あなたは応用しているだけだとおっしゃいますが、あなたは知識を応用することに、何の躊躇いもない。そういった知識を自身で応用できるというのは、その場の状況も判断しなくてはならないでしょうし、適応性も考えなくてはならない。応用する時でさえ、周囲の者達を説得しなければならない」
それで、ギルバートの視線が、ドレスの上で手を重ねているセシルの手に移っていた。
そっと、ギルバートの手が、少しだけ躊躇いがちに、セシルの手の上に置かれた。
「誰もが全員、あなたの言うことを聞く者ばかりではないでしょう。応用するだけでも、行動に移すことは、並大抵な努力ではありませんよ。そして、それをできる力は、私はあなた自身の能力だと考えています」
それを言って、ギルバートがセシルの手をそっと掴み、その手を上げさせた。
少しだけ顔を寄せて、ギルバートが自分の手に乗せているセシルの手の指に、静かに唇を寄せる。
「ですから、私は、あなたのように、自分の可能性を潰さない、他人の可能性も潰さない、そして広げていけるあなたの力が、心から尊敬していますし、惹かれてもいます」
ギルバートは、また、そうやって、本心から、嘘でも偽りでもなく、セシルを褒めてくれる。
セシル自身はそんな大層な人物だとは思えないが、全くの他人で、隣国の王族で、そんな立場のギルバートがセシルを認め、褒めてくれる。
褒められる為に領地を治めているのではないし、領主になったのでもない。
それでも、赤の他人であるギルバートが、セシルの存在をきちんと認めてくれている事実には、セシル自身も嬉しかった。
自分の存在がただの器でもなく、セシルが今までしてきたことも、努力も、無駄ではなかったかもしれないと思えるほどに、そんな気持ちになるからだ。
「私はあなたに惹かれています。ですが、きっと、私には、あなたのことを知らないことが、まだまだたくさんあると思いますし、これから、もっとたくさんのことを知っていきたいと思います。それと同時に、あなたにも、私のことを知っていってもらいたいと思っています」
「これから、どうぞ、よろしくお願いいたします」
「もちろんです」
ギルバートが本当に嬉しそうだ。
「先程、迎えに来てくださった時に、言い忘れていましたけれど――」
「なんでしょう?」
「ギルバート様が、王子殿下としての正礼装の姿を拝見するのは、今夜が初めてですわ。良くお似合いで、凛々しくていらっしゃって、とても素敵ですのね。目を奪われてしまいました」
「――えっ……?」
さすがに――今のパンチは、ジャブに近く、予想もしていなかった不意打ちだけに、ポッと、ギルバートの顔が赤くなっていた。
それで、ギルバートが、パっと、微かにだけ横を向いてしまった。
まさかそんな反応が返ってくるとは思わず、セシルも目を輝かせた。
「あの……?」
「――あまり、見ないでください……」
「いえ……ですが、あの、とても素敵だな、と思ったことは本心でして。とても凛々しくいらっしゃって、貴族のご令嬢方が、ギルバート様に心奪われてしまうお気持ちも、解らないではないな、と――」
「ちょっと、待ってください」
ガシッと、セシルの肩が掴まれた。なのに、ギルバートは未だに横を向いたままだ。
「さすがに……そんな、男を喜ばせるようなことを言われたら、抑えがきかなくなってしまいますので、それはやめてください。このまま、あなたを抱きしめてしまいそうになりますから」
「ギルバート様も、よく、私のことを褒めてくださいますが……?」
クイッと、その顔を戻したギルバートが、真剣な顔つきでセシルを見つめる。
「当然でしょう?」
「いえ、そんなことはなく……」
「当然ですよ。一体、あなたのどこを見て、褒めない男がいるというのです?」
たくさんいます、と説明しようが、それを口に出してはいけない雰囲気だ。
「初めて参加させていただいた豊穣祭で、あなたを一目見た時から、私など、あまりの美しさに、言葉も出なかったほどなのですよ。あの時のあなたは、夜を照らし出すような神々しさがあって、威厳があって、そういった強さが美しく目が離せなかったのに、あなたの容姿は儚げで、それなのに笑顔が艶やかで、もっと目が奪われてしまったのです。はっきり言って、あの姿を見た男なら、絶対に、あなたに恋に落ちているはずです。あなたを褒めない男が、いるはずもないでしょう」
ものすごい勢いで、おまけに威勢で、断言されてしまった。
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