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Part 3

Б.в 戦場で - 03

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 対するギルバートは、一歩部屋に入り、セシルの元に近づいていきながら、セシルの前にやって来た。
 そして、そこで、硬直しているかのようだった。

 セシルがきちんと着飾った場面を見たことはある。

 豊穣祭で着飾ったセシルがあまりに美しくて、ついつい、溜息ためいきがこぼれてしまうことだって、何度もあった。

 見惚みとれてしまって、目が離せなくて、更に、セシルに惚れ直してしまったくらいなのだから。

 今夜のセシルは、深いダークグリーンのドレスを着ていて、膨らんだドレスのスカートには、鈍いゴールドの豪奢な刺繍がされていた。

 大きな刺繍があでやかで、それでいて、色合いが落ち着いているから、かもし出す雰囲気が荘厳で、その立ち姿から放たれる存在感が圧倒的だった。

 普段、滅多に髪の毛を上げたことがないセシルは、今夜は、その長い銀髪の髪の毛を、しっかりと結い上げていた。

 そうなると、すっきりといた細身の首元や肩のライン、鎖骨などが、一層、強調されて見えるかのようで、その繊細な細い線が目に飛び込んできてしまい、ギルバートの視線が釘付けになってしまう。

 鈍いガーネットと金のネックレスがドレスの刺繍に負けずに豪奢で、でも、華美なけばけばしい印象も無くて、セシルの深い藍の瞳を、より一層、生えさせていた。

 白い肌に反して、お化粧をした口元があかく染まっていて、まだ言葉も出していないその唇が――妙に煽情的せんじょうてきで、蠱惑的こわくてきで、唇を見ているだけで、ものすごい色香を感じてしまうほどだ。

 今、呼吸が止まっていたはずだ。

 まさか、着飾った女性を見ただけで、一瞬、呼吸だけではなく、目も魂も吸われるほどの美しさを前に、見惚みとれてしまうなんて、そんな経験をするなんて、一体、誰が考えただろうか。

「――――……とても、美しい、ですね……」

 なんてありきたりで、面白みもない賛辞なのだろうか。
 それでも、今のギルバートには、その一言を出すことが、やっとだったのだ。

 息を呑むほどの美しさに、吸い込まれていきそうなほどのあでやかさに、そして、目が釘付けになって、離すこともできない色香に酔ってしまって、もう、完全に言葉を失っていた。

 後ろで控えていたセシルの母親は、手に持っていた扇を口元に持っていき、


「やったわっ!!」


などと、そこでガッツポーズを決め込んでいたなど、誰が知り得ようか。

 今夜のセシルは、もう、非の打ちどころがないほどに、大輪の花が咲き誇ったような、輝かしくうるわしい美女に仕上がっている。

 元々のうるわしい容姿に加わって、ドレスも宝飾も、お化粧も、その全てが、今夜のセシルの美しさを引き立たせるように、最高級のご令嬢に仕上がっているのだ。

 ふふふと、不敵な笑みを隠しながら、まずは、王子殿下のハートをゲットする目的は、達成されたようだった。

「――――息も、魂も吸われ、気が狂ってしまうほどに……うるわしく、美しく、目が釘付けになっています……」

 えっ…………!?

 セシルも、一瞬、今、自分が聞き間違えたのかと、珍しく驚いてしまった。

 吐息を吐き出す度に漏らすような、そんな囁き声で、ギルバートの低く張りのある声音が、グサリと、女心を突き刺すほどに刺激する。

 おまけに……今、ものすごい表現を口に出さなかっただろうか!?

 これ……、この言葉だけで、完全に女性を悩殺しかねない――!

「――あ、あり、がとうございます……」

 すごいインパクトだ。

 滅多に動揺することもないセシルだって、さすがに、今の言葉で、なんだか、ギルバートに悩殺されかかってしまった。

 もう、第三王子殿下、この超絶な美貌を出して、言葉だけで女性を悶絶もんぜつさせるなんて、末恐ろし過ぎ!

 二人が見つめ合ったまま、その先が進まないようなので、ゴホン……と、失礼ながらも、セシルの父親が、一度、咳払いした。

 パっと、ギルバートがセシルの父親を振り返る。

「ギルバート殿下、我々はそろそろ時間ですので、お先に失礼させていただきます。後程、会場にて」
「……そう、ですね。では、後程」

 一応は、冷静さを取り戻したのか。

 ギルバートも、丁寧に、挨拶を返した。

 まだ、使用人である全員は頭を下げているが、ヘルバート伯爵家の三人は、ギルバートに一礼をして、その部屋を後にしていた。

「よろしいですか?」

 スッと、ギルバートが折った腕を差し出してきた。

「はい」

 セシルもギルバートの腕に手を乗せる。

 さあ、これから、いよいよ戦場に向かいます!

 どうか、ヘマをしませんように。
 無事に、一夜を終えますように。


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