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Part 3
Б.а お受けします - 02
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少しは落ち着いてきたのか、やっと、ギルバートが手紙から顔を上げた。
「ヘルバート伯爵からも、一応、その承諾は得たそうなんだ」
「そうですか。まあ、一人娘でしたし、見ていても明らかなほどに、愛されていたご令嬢でしたからねえ。他国に嫁がせるなんて、さすがに、伯爵も反対なさるかとは思ったのですが」
「でも、大切な一人娘の決断には、きっと口を出していないんだろう? あれだけの愛情を見せている父親でも、ご令嬢が領地を治めている間、一切、口を挟んでいなかったようだし」
「そうですね。あんな子供時代から、「領主名代」 をさせる親もどうかと思いますが、それでも、かのご令嬢ですからねえ。きっと、親ながらに、計り知れない才能を見出していたのかもしれませんし」
「だから、今回も――驚かれたことだろうが、反対はなさらなかったんだと思う」
「そうでしょうね。かのご令嬢は、本当に、皆から愛されていらっしゃいますから」
「それは、私が一番良く知っていることだ」
「えぇえ、そうでしょうね。でも、そうなると、婚儀は年末あたりですか?」
「いや、年を明けてからだろう?」
「ああ――そうでしたね。年末近くになると、ご令嬢は豊穣祭に年度末調整で、多忙ですから無理ですね」
「完全に不可能だろう」
そう、一番初めの時も言われたことである。現実面で、身体的にも、絶対に不可能な状況である。
「まずは、国王陛下に報告を済ませてくる」
「わかりました」
* * *
「――――そうか……。決まったか――」
国王の執務室に顔を出したギルバートの前で、アルデーラも――やはり、安堵していたのだろうか。
ギルバートの決心は固く、本気であったから、アルデーラもギルバートの我儘を許した。
もう――認めたくはないが、セシルのあの能力は、王家にとって、必ず、必要な力となることを認めざるを得ないからだ。
「ああ、そうか。お前の結婚が決まったんだなあ。それはおめでとう、ギルバート」
「ありがとうございます」
「お前も、一安心していることだろう」
「はい……」
「いやあ、本当に良かったではないか」
その喜びは、弟のギルバートに向けられているものなのか、そうでないのか……、ギルバートも疑ってしまいそうになるが、下手に質問をして、墓穴を掘りたくはないギルバートだ。
こんな所で、レイフとの“討論会”などしたくないのだ……。
「ヘルバート伯爵は?」
「ヘルバート伯爵からも承諾を頂きました。ですから、これから、正式な使者を、ヘルバート伯爵の元へ、送らなければならないと思います」
「そうだな」
「ただ――今は、まだ、あまり公にはすべきではないかと……」
「確かに」
セシルは正式にギルバートと婚約しているのでもないから、王家と伯爵家の話し合いで使者を飛ばすことになって、アトレシア大王国側の執務官と祭事官が付き添うことになるはずである。
婚約するに際して、アトレシア大王国側の慣習もあれば、今の段階では、ギルバートが王族であるから、王族の決まり事だってある。
だが、その話し合いの最中に、まだ正式に婚約していないセシルが狙われてしまった場合、アトレシア大王国側でも護衛はできない。問題が起きてしまってから、対処する事態になってしまうだろう。
だから、“長老派”には気付かれぬように、まずは、婚約の話を進めなければならない。
「私がその使者役をしましょう」
「いや、お前はいいから、きちんと仕事しなさい……」
はあ……と、すぐに疲れたような溜息が、アルデーラの口から零れてしまう。
公にはせず、目立たないように行動するなら、宰相であるレイフが動いてしまえば、一番の問題になるではないか。
セシルの領地に行きたくて、行きたくて仕方がないレイフは、事あるごとに、なにか理由付けをして、仕事をさぼろうとする。
「正式な婚約の儀を、なるべく早くに済ませておきたい」
「はい」
ギルバート自身がセシルとの婚約を望んでいるのは確かだ。
早く、正式に自分の婚約者だと、セシルを自分のものだと、そう確かな証拠が欲しい、とも思ってしまう。
だが、それだけの個人的な理由だけではなく、早く、セシルを正式なギルバートの婚約者としてお披露目を済まさなければ、大義名分でも、ギルバート達には、セシルを護る手段がない。
セシルが正式な婚約者なら、王国側から正式な護衛をつけても、全く問題にならないからだ。
「時期的にも申しますと、今から夏までが丁度良い時期なのです。その間なら、ご令嬢も、ある程度、時間が調整できると思われますので。秋まで延ばしてしまっては、豊穣祭、そして、年末調整となり、来年初めでも、たぶん、無理になってしまうでしょう」
「それでは遅すぎる」
「はい」
「レイフ、早めに婚約の儀だけでも済ませるのなら、いつが可能だ?」
「そうですねえ――ノーウッド王国に使者を飛ばしても、往復は、最低でも10日は軽くかかってしまいますね。それから、伯爵令嬢の領地に立ち寄って、そこから、また6日。そこで両方の返答待ちなどとなった場合、軽く、一月は費やしてしまう可能性もある。――ああ、それなら、ヘルバート伯爵か伯爵令嬢のどちらかに、集まってもらうしかないですね」
「そう――なる可能性が、強いと思います……」
婚約は王家側からの準備となるが、一か所に集まってくれなどと、王国の都合で、セシル達にも迷惑をかけてしまいそうだ……。
「ヘルバート伯爵からも、一応、その承諾は得たそうなんだ」
「そうですか。まあ、一人娘でしたし、見ていても明らかなほどに、愛されていたご令嬢でしたからねえ。他国に嫁がせるなんて、さすがに、伯爵も反対なさるかとは思ったのですが」
「でも、大切な一人娘の決断には、きっと口を出していないんだろう? あれだけの愛情を見せている父親でも、ご令嬢が領地を治めている間、一切、口を挟んでいなかったようだし」
「そうですね。あんな子供時代から、「領主名代」 をさせる親もどうかと思いますが、それでも、かのご令嬢ですからねえ。きっと、親ながらに、計り知れない才能を見出していたのかもしれませんし」
「だから、今回も――驚かれたことだろうが、反対はなさらなかったんだと思う」
「そうでしょうね。かのご令嬢は、本当に、皆から愛されていらっしゃいますから」
「それは、私が一番良く知っていることだ」
「えぇえ、そうでしょうね。でも、そうなると、婚儀は年末あたりですか?」
「いや、年を明けてからだろう?」
「ああ――そうでしたね。年末近くになると、ご令嬢は豊穣祭に年度末調整で、多忙ですから無理ですね」
「完全に不可能だろう」
そう、一番初めの時も言われたことである。現実面で、身体的にも、絶対に不可能な状況である。
「まずは、国王陛下に報告を済ませてくる」
「わかりました」
* * *
「――――そうか……。決まったか――」
国王の執務室に顔を出したギルバートの前で、アルデーラも――やはり、安堵していたのだろうか。
ギルバートの決心は固く、本気であったから、アルデーラもギルバートの我儘を許した。
もう――認めたくはないが、セシルのあの能力は、王家にとって、必ず、必要な力となることを認めざるを得ないからだ。
「ああ、そうか。お前の結婚が決まったんだなあ。それはおめでとう、ギルバート」
「ありがとうございます」
「お前も、一安心していることだろう」
「はい……」
「いやあ、本当に良かったではないか」
その喜びは、弟のギルバートに向けられているものなのか、そうでないのか……、ギルバートも疑ってしまいそうになるが、下手に質問をして、墓穴を掘りたくはないギルバートだ。
こんな所で、レイフとの“討論会”などしたくないのだ……。
「ヘルバート伯爵は?」
「ヘルバート伯爵からも承諾を頂きました。ですから、これから、正式な使者を、ヘルバート伯爵の元へ、送らなければならないと思います」
「そうだな」
「ただ――今は、まだ、あまり公にはすべきではないかと……」
「確かに」
セシルは正式にギルバートと婚約しているのでもないから、王家と伯爵家の話し合いで使者を飛ばすことになって、アトレシア大王国側の執務官と祭事官が付き添うことになるはずである。
婚約するに際して、アトレシア大王国側の慣習もあれば、今の段階では、ギルバートが王族であるから、王族の決まり事だってある。
だが、その話し合いの最中に、まだ正式に婚約していないセシルが狙われてしまった場合、アトレシア大王国側でも護衛はできない。問題が起きてしまってから、対処する事態になってしまうだろう。
だから、“長老派”には気付かれぬように、まずは、婚約の話を進めなければならない。
「私がその使者役をしましょう」
「いや、お前はいいから、きちんと仕事しなさい……」
はあ……と、すぐに疲れたような溜息が、アルデーラの口から零れてしまう。
公にはせず、目立たないように行動するなら、宰相であるレイフが動いてしまえば、一番の問題になるではないか。
セシルの領地に行きたくて、行きたくて仕方がないレイフは、事あるごとに、なにか理由付けをして、仕事をさぼろうとする。
「正式な婚約の儀を、なるべく早くに済ませておきたい」
「はい」
ギルバート自身がセシルとの婚約を望んでいるのは確かだ。
早く、正式に自分の婚約者だと、セシルを自分のものだと、そう確かな証拠が欲しい、とも思ってしまう。
だが、それだけの個人的な理由だけではなく、早く、セシルを正式なギルバートの婚約者としてお披露目を済まさなければ、大義名分でも、ギルバート達には、セシルを護る手段がない。
セシルが正式な婚約者なら、王国側から正式な護衛をつけても、全く問題にならないからだ。
「時期的にも申しますと、今から夏までが丁度良い時期なのです。その間なら、ご令嬢も、ある程度、時間が調整できると思われますので。秋まで延ばしてしまっては、豊穣祭、そして、年末調整となり、来年初めでも、たぶん、無理になってしまうでしょう」
「それでは遅すぎる」
「はい」
「レイフ、早めに婚約の儀だけでも済ませるのなら、いつが可能だ?」
「そうですねえ――ノーウッド王国に使者を飛ばしても、往復は、最低でも10日は軽くかかってしまいますね。それから、伯爵令嬢の領地に立ち寄って、そこから、また6日。そこで両方の返答待ちなどとなった場合、軽く、一月は費やしてしまう可能性もある。――ああ、それなら、ヘルバート伯爵か伯爵令嬢のどちらかに、集まってもらうしかないですね」
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