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Part 3
А.г 一人きりの時間 - 03
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* * *
「旦那さまったら、一人きりの時間など、らしくありませんわよ」
パーラーで、一人きりになっていたリチャードソンの前に、妻のレイナが姿を出した。
今は……ガックリと気落ちしているので、ただ、一人きりになりたかっただけなのだ。
ふふと、笑いながらレイナがリチャードソンの座っているカウチの前に寄ってきて、向かいの席にゆっくりと腰を下ろす。
「そんなに気落ちなさらないで」
「わかっているよ……」
そして、くすん……と、言えそうな落ち込みようを見て、レイナも微苦笑を禁じ得ない。
なにしろ、リチャードソンが誰よりも大切にしている自慢の一人娘が、結婚を決意してしまった夜だったのだから。
ベタベタと娘にしがみつくような父親ではないが、それでも、誰もよりも大切にしてきた大事な一人娘の結婚話である。
父親として、しょぼくれてしまっている気持ちは、分からなくもない。
その点、レイナが結婚する時には、レイナの亡くなった父親は、ここまでしょぼくれていたようには見えなかった。
その対応だって、「まあ、そういう時期だから、丁度いいね」 だったはず。
レイナには妹がいたから、息子のいない実家では、妹が婿取りをして、爵位を継続させる、というような話で決まっていた。
レイナの実家も伯爵家である。だが、普通で、大きくもなく、小さくもなく、伯爵家の間では中くらいの格だ。
対する、ヘルバート伯爵家は、伯爵家の中でも高位貴族に当たる。
リチャードソンの亡くなった前妻が子爵の出身であったが、リチャードソンの祖父が、子爵家の祖父と仲が良く、交流があって、それで、孫の子供達の縁談が決まったらしいのだ。
ただ、リチャードソンの前妻は、子爵家の爵位を継いだ息子が、かなり年を取ってから授かった一人娘だけに、後継ぎもいなく、それで、退位する際に、子爵家で管理していた領地も、ヘルバート伯爵家に譲渡された形となったのだ。
コトレア領は、元は前妻の実家である、子爵家の領地であったのだ。
リチャードソンもレイナも、お互いに、若くして最愛の相手を失っているから、二人の再婚は、お互いの気持ちを尊重し合えるような、そんな穏やかな結婚だった。
「わたくしは、このようなお話が上がり、とても嬉しく思いますわ」
「……そうだろうね……」
稀に見ぬほどの最良の縁談話に近い……。
「それに、一人娘が嫁いでいくことになりましても、セシルさんに大切なお相手ができると言うだけのお話で、それ以外は、よくよく考えてみますと、今までと、ほとんど状況が変わらないと思いますわ」
「まあ、そうなんだが……」
「ええ、そうですわ。コトレアの領地で、セシルさんに気兼ねなく会うことができますし、隣国のアトレシア大王国にも遊びに来て良い、とおっしゃってくれる殿方など、中々、おりませんわよ」
「まあ、そうなんだが……」
「ええ、そうですわ。ですから、旦那様も、いつまでも、気落ちしてばかりはいられませんわよ。きっと、すぐに忙しくなってしまいますもの」
あのギルバートが臣籍降下を考えていても、現時点では、アトレシア大王国の第三王子殿下という立場だ。
セシルとの結婚を進めるのなら、これから、王族としての婚約だって、きちんと済ませなくてはならなくなってくるだろう。
「ですが、今夜は、セシルさんの結婚のお話が決まった日でもありますから、旦那様は、今夜だけは、ヤケ酒をなさってもよろしいですわよ」
「うむ……」
そこまでのヤケ酒をするつもりはなかったが、まあ、妻の好意は、親切にもらっておくことにするリチャードソンだった。
あまり遅くなり過ぎませんようにね、と最後の一言を残し、妻が立ち去っていく。
また、パーラーには、リチャードソンの一人きりとなってしまった。
ああ、可愛い一人娘は、もう、結婚してしまう年齢になっていたんだな……。
しみじみと、そのあまりに短く過ぎ去ってしまった歳月を、今夜、特に感じてしまっていたリチャードソンだった。
「旦那さまったら、一人きりの時間など、らしくありませんわよ」
パーラーで、一人きりになっていたリチャードソンの前に、妻のレイナが姿を出した。
今は……ガックリと気落ちしているので、ただ、一人きりになりたかっただけなのだ。
ふふと、笑いながらレイナがリチャードソンの座っているカウチの前に寄ってきて、向かいの席にゆっくりと腰を下ろす。
「そんなに気落ちなさらないで」
「わかっているよ……」
そして、くすん……と、言えそうな落ち込みようを見て、レイナも微苦笑を禁じ得ない。
なにしろ、リチャードソンが誰よりも大切にしている自慢の一人娘が、結婚を決意してしまった夜だったのだから。
ベタベタと娘にしがみつくような父親ではないが、それでも、誰もよりも大切にしてきた大事な一人娘の結婚話である。
父親として、しょぼくれてしまっている気持ちは、分からなくもない。
その点、レイナが結婚する時には、レイナの亡くなった父親は、ここまでしょぼくれていたようには見えなかった。
その対応だって、「まあ、そういう時期だから、丁度いいね」 だったはず。
レイナには妹がいたから、息子のいない実家では、妹が婿取りをして、爵位を継続させる、というような話で決まっていた。
レイナの実家も伯爵家である。だが、普通で、大きくもなく、小さくもなく、伯爵家の間では中くらいの格だ。
対する、ヘルバート伯爵家は、伯爵家の中でも高位貴族に当たる。
リチャードソンの亡くなった前妻が子爵の出身であったが、リチャードソンの祖父が、子爵家の祖父と仲が良く、交流があって、それで、孫の子供達の縁談が決まったらしいのだ。
ただ、リチャードソンの前妻は、子爵家の爵位を継いだ息子が、かなり年を取ってから授かった一人娘だけに、後継ぎもいなく、それで、退位する際に、子爵家で管理していた領地も、ヘルバート伯爵家に譲渡された形となったのだ。
コトレア領は、元は前妻の実家である、子爵家の領地であったのだ。
リチャードソンもレイナも、お互いに、若くして最愛の相手を失っているから、二人の再婚は、お互いの気持ちを尊重し合えるような、そんな穏やかな結婚だった。
「わたくしは、このようなお話が上がり、とても嬉しく思いますわ」
「……そうだろうね……」
稀に見ぬほどの最良の縁談話に近い……。
「それに、一人娘が嫁いでいくことになりましても、セシルさんに大切なお相手ができると言うだけのお話で、それ以外は、よくよく考えてみますと、今までと、ほとんど状況が変わらないと思いますわ」
「まあ、そうなんだが……」
「ええ、そうですわ。コトレアの領地で、セシルさんに気兼ねなく会うことができますし、隣国のアトレシア大王国にも遊びに来て良い、とおっしゃってくれる殿方など、中々、おりませんわよ」
「まあ、そうなんだが……」
「ええ、そうですわ。ですから、旦那様も、いつまでも、気落ちしてばかりはいられませんわよ。きっと、すぐに忙しくなってしまいますもの」
あのギルバートが臣籍降下を考えていても、現時点では、アトレシア大王国の第三王子殿下という立場だ。
セシルとの結婚を進めるのなら、これから、王族としての婚約だって、きちんと済ませなくてはならなくなってくるだろう。
「ですが、今夜は、セシルさんの結婚のお話が決まった日でもありますから、旦那様は、今夜だけは、ヤケ酒をなさってもよろしいですわよ」
「うむ……」
そこまでのヤケ酒をするつもりはなかったが、まあ、妻の好意は、親切にもらっておくことにするリチャードソンだった。
あまり遅くなり過ぎませんようにね、と最後の一言を残し、妻が立ち去っていく。
また、パーラーには、リチャードソンの一人きりとなってしまった。
ああ、可愛い一人娘は、もう、結婚してしまう年齢になっていたんだな……。
しみじみと、そのあまりに短く過ぎ去ってしまった歳月を、今夜、特に感じてしまっていたリチャードソンだった。
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