奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)

Anastasia

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Part 3

А.б 困ったわ…… - 06

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 まあ、フィロにしてみたら、あれだけ、いつもテキパキと、なんでもやり遂げてしまうセシルを悩ませることができる人間がいたなんて、結構、驚きな話だな、と思っている。

 フィロは、セシルの周囲に知り合いが増えようが、結婚しようが、セシルに仕えるだけだし、フィロの主はセシルだけである。

 セシルを害するような、敵視するような輩は、誰だろうとフィロが許さない。

 ジャン達だって許さないだろうが、フィロの――その度合いがどれくらいのものかということは、ジャン達だろうと知らないだろう。

 相手が貴族だろうと、王族だろうと、フィロにとっては関係ない。
 必要とあらば――フィロが許さないだけなのだ。

 だから、今の所、あのなんでも卒なくこなすセシルが苦情も上げず、決心が鈍っているようで、そこまでできたギルバートは、敵とは見なしていない。

 セシルの気持ちが傾く程度には、ギルバートの人柄や性格、そういったものは、セシルに信用されているだろう証拠だから。

 その点では、あの隣国の王子サマなら、もう、見るからにセシルにベタ惚れしているような雰囲気ではあったし、様子でもあったから、セシルを傷つけるなんて概念さえもないことだろう。

 むしろ、セシルを傷つけるような輩は――フィロ以上に冷酷に、斬り落としてしまいそうだ。

 以前も、セシルが(ちょっとだけ) 傷つけられたくらいで、本気でブチ切れて、もう、凍り付きそうなほどの無表情で、容赦もなく、相手を叩きのめしていたほどだった。

 身がすくむほど、全身の毛が逆立つかのような殺気をみせて。

 あの時に、フィロも、あの王子サマの本気を知った。

 セシル自身も、セシルの立場も責任も尊重しないようなそこらの貴族の愚息ぐそくに嫁ぐよりは、隣国の王子だろうと、ギルバートの方が、(遥に) マシではあると考えていても、全くの不思議はない。

 結婚話をセシルから聞かされた時も、フィロは驚くより先に、その結婚話で、これからのセシルにとってプラスになるのか、マイナスになるのか、あの場で、すでに計算していたなど――セシルだって知らないことだろう。

 今の所、隣国、という点を除けば、あの王子サマは、一応、合格の方である。

 セシル自身を尊重し、その立場と仕事を理解し、セシルを押さえつけず、威張り散らさず、セシルをありのままに自由にさせる為に、臣籍降下しんせきこうかまで決意した王子サマだ。

 本気の覚悟を見せる気は、あるらしい。

 セシルは、(自分では全く気に掛けていないが) どうあがいても貴族の令嬢である。伯爵家のご令嬢、である。

 だから、婚約解消の醜態スキャンダルで、今は傷心して領地で静養している(大ウソの) 理由があるから、今の所、他の貴族の子息からの縁談話が、うるさく、しつこく、上がってきてはいない。

 だが、それも、あと数年もすれば、王宮でも、王都でも、その話が落ち着いて(なにしろ、次の新たな噂が飛び上がっているだろうから)、伯爵家の娘なら――と、他の貴族達が、セシルとの縁談話を推し進めても不思議はない。

 そうなったら、あの侯爵家のバカ息子と一緒で、同じことの繰り返しである。

 まして、またも、ノーウッド王国から(あの無能な国王のせいで) 縁談を押し付けられてしまったら、今度の時は、もう逃げ道がないだろう。

 コトレアの領地は、全く見知りもしない(無能な) 貴族の子息に奪われて、この領地は滅茶滅茶になってしまう。


「セシルが自由に行動していては、家の恥だから」
「貴族の夫人らしくしなさい」


などと、無理難題を押し付けて、セシルの自由を奪ったとしても、


「貴族なんだから、我慢しなさい」


程度で、絶対に、セシルを幸せにできないことなど、目に見えている。

 だから、その点では――あの王子サマは、一応、今のところ合格点ではあるのだ。

 フィロがこんなことを簡単に思いついているのだから、あの勘のいいセシルが気付かないはずはない。

 ギルバートとは知らない仲でもなくなったし、人となりを知るほどには、(ある程度) 親しくなった間柄だ。

 それで、セシルを縛り付けない、そのを約束してくれたギルバートの本気と誠意に、セシルの心が揺らいでいるのだろう

 きっと、この先――ギルバート以上の好条件を提示できる貴族なんていないだろう、と。

 セシルに害をなさないのなら、セシルがギルバートとの結婚を考えようが、フィロには全く問題にもならない。

 フィロの主はセシルだけであり、セシル一人だ。
 セシルの周りに誰かが集まろうが、寄ろうが、フィロの知ったことじゃない。

 フィロが仕えるのは、セシルただ一人。それ以外にはいない。絶対に有り得ない。

 セシルを害せず、セシルを尊重し、大切にするのなら、フィロはセシルの決断に口を挟むつもりはない。

 まあ、この話は残りの四人には話してやる気はないが。

 三月さんがつ繁忙期はんぼうきが過ぎれば、セシルも腹を決めなければならない。それまでには、まだ、二月ふたつきほどの猶予がある。

 セシルは問題ごとをダラダラと先延ばしするような性格をしていない。無駄だから。
 無駄を嫌うセシルなら、たぶん、二月もかからずに結論を出していることだろう。

 フィロはセシルが決めたことに従うだけだ。ついていくだけだ。

 残りの四人は、どうなるんだろう……と、こっそりとセシルの様子を見続けて、毎日、心配していればいいさ。

 その程度の心配ごとを取り除いてやるほど、フィロはお人好しではない。

「でもさ――もし、これも、の話だけど、もし、マスターが結婚の話を断ったら、どうなるんだ?」

「断れるのか? 相手は王子サマなのに?」
「えっ? 断ってもいいの?」

 そして、フィロを抜かした残りの全員は、まだセシルの結婚話で盛り上がったままだ。

 その会話も、左程興味のないフィロには、耳から素通りしていっている。

「普通は、断れないだろ? 王子サマの命令なんだから」
「でも、命令じゃないだろ? 婚姻契約書を持ってきたくらいだから」
「そうそう」

「それに、マスターに命令してくる奴なんて、マスターが耳を貸すはずもないだろ? 完全無視だぜ、きっと」
「それは、有り得る」

 まだ話題が尽きないのか、さっきから残りの四人の会話は進展をみせていない。

「どっちでも、別にいいじゃん」
「なんでだよ」

 不服そうに、全員の尖った視線がフィロに向けられる。

「マスターが結婚したからって、なにかが変わるわけ?」
「変わる……って――。変わるだろ?」

「なにが? 僕は、マスターに仕えるだけだ」
「俺だってそうだ」
「俺だってそうだ」

 全員がしっかりと頷き返してみせる。

「だったら、今と全然変わらないじゃん」
「まあ……そう、だけど……」

 そう、きっぱりと断言されると、言い返すに言い返せない四人だ。

「マスターがアトレシア大王国に行くことになるのなら、一緒についていけばいいだけだ。マスターを護るって決めたのは、誰なのさ」
「俺たちだよ」

「じゃあ、騎士を辞めるわけ?」
「辞めないぜ。もし、騎士を辞めたとしても、目的は変わらないんだから」

「だったら、今と全然変わらないじゃん」
「まあ、そう、だけど……」

 そして、すっぱり、きっぱりのフィロに、言い返すことはできない四人だった。

 残りのメンバーの心配ごとを取り除いてやるほどお人好しではないが、面倒なので、さっさと話題を切り捨てるのは、やはりフィロである。

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