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Part 3
А.а 始まり - 09
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そうなると、この時代では、クレープを包む紙がないのだ。いや、紙自体はある。だから、本もあるし、書類もある。
だが、使い捨て出来るほど、簡単に手に入るものでもないし、そんな安価なものでもない。
それで、クレープにかかる費用が、庶民で買える価格を簡単に超えてしまう問題が出てくる。
ここ数年、その問題克服の為、セシルも色々と試してみていたのだ。
その結果、通常のクレープの大きさのままクリームや中身のフルーツなどを作っていては、現状では、価格低下は、到底、無理であると判断され、通常のクレープの半分程度の大きさにして、丸めるのではなく、三角に折って商品化してみることにしたのだ。
サイズが小さくなったので、クリームもフルーツの量も半分で済む。それで、丸めない分、三角なら安定していて、包み紙が必要ないので、お皿に乗せて食べられるという仕組みだ。
だから、露店の前には、3~4個の丸い椅子が置いてある。食べ歩きしながら、という状況はまだ無理であるようだから、今は、“露店の前でちょっと休憩” が売りである。
その計画案を出して、領地から、クレープ屋を出したい人はいないか、と募ったところ、何人かの申請があり、今の店主が最終的に選ばれたのだ。
まだ若い青年で、領地にある食堂の一つの三男坊である。
家を継ぐのは長兄がすることになっていたので、自分はどうしようか、と宿場町の食事処で手伝いをしていた青年だった。
露店を出すことによって、一軒家やレストランのように家を持たなくても、お店が出せる。だから、出店資金も今まで溜めていて貯金と、両親が少し手伝ってくれた資金で、なんとか店を出せれるようになったのだ。
もちろん、一番最初のお客さまは、セシルである。
それから、お店を出すとすぐに、物珍しそうに、領地の領民が毎日のようにやって来て、最初の一カ月は大盛況で大繁盛だった。
その後は、クレープに慣れた領民は、午後のデザートに摘みにきたり、仕事の移動中に摘みにきたりと、お客の足は絶えない。
今では、観光客や、宿場町を拠り所にして通過していく商隊などのお客もボチボチ増えて、商売は順調である。
その稼ぎ資金を元に、今年の十周年の豊穣祭で、露店出しの申請も終えて、その許可も下りたので、若い店主は、大忙しになるであろう十周年の豊穣祭に向けて、今から、手伝いの子供達の訓練に余念がない。
「ああ、おいしいものだな」
「ありがとうございます」
「こう言った、通りでの露店も増えてきたんだな」
「はい。こう言った、通りの露店なら、家や土地を持たなくとも商売は可能です。外で食べ物を出していますので、食堂やレストランよりは、少し衛生基準が厳しくなっているのですが、それを守れば、あまり問題はないのです」
「店を閉める時は、どのようにして?」
「それは、この露店ごと移動します」
「移動? どうやって?」
「この車輪がついていますよね」
それで、カウンター側から前屈みになって、店主が大きな車輪を指さしていく。
「ああ、そうだな」
「この露店自体、この車輪で支えられているので、実は、外装に反して、中はほとんど空洞なのです。それで、椅子を中にしまい、自分でお店を引いて、一日の終わりとなります」
「移動可能?」
「はい、そうです」
「それはすごいっ!?」
「ありがとうございます。露店作りには、領主様からのご提案がございまして、領地の技術師にお願いして、この露店を組み立ててもらったのです」
お店を建てる、ではなくて、お店を組み立てる、と言うところが、セシルの領地のすごさだろう。
「では、家まで、毎日、移動している?」
「いいえ。露店商には、自分達の露店を駐車できる施設があります。1カ月おきに賃借料を払って、停めさせてもらえるのです」
「へえぇ……」
そして、そんな発想も聞いたことがない。
それだと、自分達の露店を家まで引っ張って、また次の日に運んでくる必要が全くなくなる。
どんな時でも、どんな場合でも、本当にセシルの発想は無駄がなくて、時間を潰さなくて、効率的を優先しているものだ。
「毎回、この地にやってくる度に、驚かされてばかりだ」
「ありがとうございますっ」
その賞賛は、誰よりも嬉しい言葉だったらしい。まだ若い店主が、満面の笑みを浮かべた。
「これも全部、領主様がなさってくださったことなんです。私は、今まで、調理場や裏方の仕事をしていましたので、接客……は、あまり得意ではありません。ですから、領主様のお邸で、一カ月、接客の徹底講座を受けまして」
「それはすごい」
「それで、どうにか……、このように、お店を出すこともできるようになりました」
「良かったじゃないか」
「はいっ、ありがとうございます」
そして嬉しそうに破顔する青年の顔は、その表情が語る以上に、満足しているようだった。
「世界は不条理で不平等であっても、それでも、平等に機会が与えられ、そして、それを選べる機会を持てることが、人としての在り方だと――」
ああ、そうだった。
セシルの指針である「生き抜いて、生き延びていきましょう」 が徹底されていて、生き抜いた後にはどうなるのか? ――と問えば、「人として生きていける権利」、そう簡単にセシルは答えていた。
「人として生きている価値、生きていける価値」――それを、セシルは領地の民に与えると約束したんだと、セシルは話してくれた。
そして、こんな小さな露店の店主にさえ、その“価値”を見出すことができるのだ。
“幸せの価値”というものを、誰にでも与えることができるのだ。
「ああ、すごいな……」
「ありがとうございます」
「ごちそうになった」
「ありがとうございました。もし、領地にお超しになられることがありましたら、どうぞ、私の店にも、また、お立ち寄りくださいませ」
「ああ、そうだな」
それで、深く、丁寧に頭を下げている店主を残し、ギルバート達がその場を後にしていた。
「いやあ、あなたは、いつでもどこでも、惚れ直していますね」
ポショと、残りの部下達には聞こえないほどの小声で、クリストフがギルバートの耳に口を寄せる。
「当然だ」
だから、ギルバートは、あのセシルに首ったけ、なのだ。
だが、使い捨て出来るほど、簡単に手に入るものでもないし、そんな安価なものでもない。
それで、クレープにかかる費用が、庶民で買える価格を簡単に超えてしまう問題が出てくる。
ここ数年、その問題克服の為、セシルも色々と試してみていたのだ。
その結果、通常のクレープの大きさのままクリームや中身のフルーツなどを作っていては、現状では、価格低下は、到底、無理であると判断され、通常のクレープの半分程度の大きさにして、丸めるのではなく、三角に折って商品化してみることにしたのだ。
サイズが小さくなったので、クリームもフルーツの量も半分で済む。それで、丸めない分、三角なら安定していて、包み紙が必要ないので、お皿に乗せて食べられるという仕組みだ。
だから、露店の前には、3~4個の丸い椅子が置いてある。食べ歩きしながら、という状況はまだ無理であるようだから、今は、“露店の前でちょっと休憩” が売りである。
その計画案を出して、領地から、クレープ屋を出したい人はいないか、と募ったところ、何人かの申請があり、今の店主が最終的に選ばれたのだ。
まだ若い青年で、領地にある食堂の一つの三男坊である。
家を継ぐのは長兄がすることになっていたので、自分はどうしようか、と宿場町の食事処で手伝いをしていた青年だった。
露店を出すことによって、一軒家やレストランのように家を持たなくても、お店が出せる。だから、出店資金も今まで溜めていて貯金と、両親が少し手伝ってくれた資金で、なんとか店を出せれるようになったのだ。
もちろん、一番最初のお客さまは、セシルである。
それから、お店を出すとすぐに、物珍しそうに、領地の領民が毎日のようにやって来て、最初の一カ月は大盛況で大繁盛だった。
その後は、クレープに慣れた領民は、午後のデザートに摘みにきたり、仕事の移動中に摘みにきたりと、お客の足は絶えない。
今では、観光客や、宿場町を拠り所にして通過していく商隊などのお客もボチボチ増えて、商売は順調である。
その稼ぎ資金を元に、今年の十周年の豊穣祭で、露店出しの申請も終えて、その許可も下りたので、若い店主は、大忙しになるであろう十周年の豊穣祭に向けて、今から、手伝いの子供達の訓練に余念がない。
「ああ、おいしいものだな」
「ありがとうございます」
「こう言った、通りでの露店も増えてきたんだな」
「はい。こう言った、通りの露店なら、家や土地を持たなくとも商売は可能です。外で食べ物を出していますので、食堂やレストランよりは、少し衛生基準が厳しくなっているのですが、それを守れば、あまり問題はないのです」
「店を閉める時は、どのようにして?」
「それは、この露店ごと移動します」
「移動? どうやって?」
「この車輪がついていますよね」
それで、カウンター側から前屈みになって、店主が大きな車輪を指さしていく。
「ああ、そうだな」
「この露店自体、この車輪で支えられているので、実は、外装に反して、中はほとんど空洞なのです。それで、椅子を中にしまい、自分でお店を引いて、一日の終わりとなります」
「移動可能?」
「はい、そうです」
「それはすごいっ!?」
「ありがとうございます。露店作りには、領主様からのご提案がございまして、領地の技術師にお願いして、この露店を組み立ててもらったのです」
お店を建てる、ではなくて、お店を組み立てる、と言うところが、セシルの領地のすごさだろう。
「では、家まで、毎日、移動している?」
「いいえ。露店商には、自分達の露店を駐車できる施設があります。1カ月おきに賃借料を払って、停めさせてもらえるのです」
「へえぇ……」
そして、そんな発想も聞いたことがない。
それだと、自分達の露店を家まで引っ張って、また次の日に運んでくる必要が全くなくなる。
どんな時でも、どんな場合でも、本当にセシルの発想は無駄がなくて、時間を潰さなくて、効率的を優先しているものだ。
「毎回、この地にやってくる度に、驚かされてばかりだ」
「ありがとうございますっ」
その賞賛は、誰よりも嬉しい言葉だったらしい。まだ若い店主が、満面の笑みを浮かべた。
「これも全部、領主様がなさってくださったことなんです。私は、今まで、調理場や裏方の仕事をしていましたので、接客……は、あまり得意ではありません。ですから、領主様のお邸で、一カ月、接客の徹底講座を受けまして」
「それはすごい」
「それで、どうにか……、このように、お店を出すこともできるようになりました」
「良かったじゃないか」
「はいっ、ありがとうございます」
そして嬉しそうに破顔する青年の顔は、その表情が語る以上に、満足しているようだった。
「世界は不条理で不平等であっても、それでも、平等に機会が与えられ、そして、それを選べる機会を持てることが、人としての在り方だと――」
ああ、そうだった。
セシルの指針である「生き抜いて、生き延びていきましょう」 が徹底されていて、生き抜いた後にはどうなるのか? ――と問えば、「人として生きていける権利」、そう簡単にセシルは答えていた。
「人として生きている価値、生きていける価値」――それを、セシルは領地の民に与えると約束したんだと、セシルは話してくれた。
そして、こんな小さな露店の店主にさえ、その“価値”を見出すことができるのだ。
“幸せの価値”というものを、誰にでも与えることができるのだ。
「ああ、すごいな……」
「ありがとうございます」
「ごちそうになった」
「ありがとうございました。もし、領地にお超しになられることがありましたら、どうぞ、私の店にも、また、お立ち寄りくださいませ」
「ああ、そうだな」
それで、深く、丁寧に頭を下げている店主を残し、ギルバート達がその場を後にしていた。
「いやあ、あなたは、いつでもどこでも、惚れ直していますね」
ポショと、残りの部下達には聞こえないほどの小声で、クリストフがギルバートの耳に口を寄せる。
「当然だ」
だから、ギルバートは、あのセシルに首ったけ、なのだ。
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