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Part 3
А.а 始まり - 05
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「実はですね、このオシボリというものにも、私は慣れてきまして。意外に、癖になるなあ、と」
「はは、そうか」
クリストフも、生真面目に「おしぼり」 で手を拭いている。
「今日は昼食後、また、宿場町を観光できるかもしれない」
「あれ? もう、返事をいただいたんですか?」
「いや、まだだ。それに、その返事は三月の種植えを終えてから、とお願いしている」
なにしろ、三月は、年に三回ある、セシルのものすごく多忙になる繁忙期だ。
さすがに、その時期に、自分の仕事を押しのけて、ギルバートの返事をしてくれなどとは頼めない。
「返事をいただけそうなんですか?」
「さあ」
「おや? 意外に、あっさりとなさっていられるんですね」
「今は、心配しても仕方がないからな」
本当は、ものすごく心配している。だが、期限はまだある。
だから、心配して悩んでも、セシルからの返事は、まだ聞くことができないのは確かなのだ。
ふう、と息をついて、ギルバートがクリストフに向き直る。
「今日は何を食べるべきか」
「ここ数年でも、すでに、この領地の食事処やレストランに、はまってきていますね」
「珍しい食べ物なのに、おいしいだろう?」
「確かに。――ふーむ……、私は個人的には“ほっこり亭”か、“ラ・パスタ”が気に入っているんですが」
「どっちもおいしかったな。じゃあ、残りにも聞いてみよう」
その後すぐに部屋を後にした六人は、ゾロゾロと、宿を後にし、宿屋の女将から渡された“宿場町マップ”を片手に、通りを歩いていく。
ギルバートとクリストフは、何度も宿場町にやって来ているので、ある程度の場所は、把握できるようになった。
残りの四人のうち二人は、今日この頃では、この宿場町にやってくる機会があると、必ず、ギルバートに付き添ってくるので、この宿場町でも、お馴染みにはなりつつある。
残りの二人がコトレアの領地は初めてなので、さっきから、もらった“マップ”を物珍しそうに凝視して、二人とも真剣な様子である。
「――ギルバート様」
「どうした?」
「この――地は、なにか、その……」
あまりに形容し難くて、二人の騎士が言葉に詰まっている。
「摩訶不思議?」
「いえ、そこまでは……」
「いや、別に、そう考えて、恥ずかしがることはない。私も、初めてこの領地を訪れた時は、驚いてばかりだったからな」
「ギルバート様が……?!」
「ちなみに、クリストフも、アンドレアも、ガスも、だ」
「まあ、そうですねえ。この領地は、一般的な常識を、あまりにすっきりとぶち壊してくれる土地でして」
「えっ……?!」
「一般概念も通用しない、固定概念はさっさと捨てるべき、一般常識は当てはまらない。だから、さっさと恥はかき捨てて、この領地の方法に馴染むのが、一番有効ですよ」
そこまで形容のひどい領地だったのか……と、残りの二人の不安を煽るような言い様ではないか。
「はは。そこまでひどくない。むしろ、興味深いものばかりだ。隣国なのに、なんだか――そうだな、異国の土地にでも立ち寄った気分になる」
「はあ……」
「お土産用の店があるんだが、そこには、珍しい、便利な雑貨も揃っている。それらは、ノーウッド王国の王都で出している“なんでも雑貨屋”という小さなお店で売っている商品らしいのだが、それも興味深いものばかりだ」
「はあ……」
「だから、食事を終えて、今日は観光だ」
「はあ……。――よろしいのですか?」
「問題ない」
仕事で護衛としてついてきたのに、他所の土地で観光など――はっきり言って、騎士をしている経験で、初めての経験である。
観光など、そんな行為をするのも初めてで、そんな運営方法も初めて聞くことだ。
「観光、とは、いったい……?」
「この宿場町は、領地外の民を招き入れ、それで領地の収入源としている。だから、領地内の名産物や、珍しいものを売り出し、「観光」 という体制を敷き、要は、町自体を売り出しているというものだ」
「はあ……。――そのような町など、聞いたことがありませんが」
「そうだろうな」
ギルバートだって、コトレアの領地にやって来るまでは、全く知らなかった概念だ。
「ところで、昼食は何を食べますか? 私はねえ、“ほっこり亭”か、“ラ・パスタ”がいいんですがね」
いつもギルバート達に付き添ってくる二人の騎士が、互いに顔を見合わせた。
「私は、個人的に、“ほっこり亭”が好きです」
「私も好きですね。ですが、夕食しか食べたことがありませんが、昼食も同じメニューが出るのですか?」
「さあ、それは」
「それなら、“ロトベーカリー”のパンでも、おいしかったです」
「ああ、あれも悪くなかったですね。店の中にも、何個か座れるテーブルはありましたし」
真剣に昼食の話をし出した三人に、初めて領地にやってきた騎士二人は、なんと反応すべきか眉間を少し寄せている。
「――みなさん……。随分、この領地に詳しいのですね」
たかが、使者としての任務でやって来ただけのはずなのに。
「そうですね。アンドレアとガスは、我々ほど店に寄る機会はなかったのですが、豊穣祭でも、それぞれの食事処で屋台や露店を出していましたから、食べる機会はたくさんあったでしょう。ギルバート様と私は、視察を何度かさせていただきましたしね」
「はあ……、そうなのですか……」
それにしても、なにか――こう、もう、この領地に、とても馴染んで見えるのは、気のせいなのだろうか。
「昼は“ラ・パスタ”にしましょう。珍しいレストランなので、残りの二人には、新鮮でしょうからねえ」
「ああ、確かにそうですね」
うんうんと、二人が揃って頷いている。二人にとっても、あまりに新鮮で、衝撃的なものだった。
「それで、夜は“ほっこり亭”で。小腹程度なら、“ロトベーカリー”をスナックにでも」
「わかりました」
それだけ食べても、全く問題ない騎士達である。
これからの予定が決まったので、一行は、まず初めに、観光情報館に行き、観光の手続きを済ます。
だが、観光情報館の前には、たくさんの足場が作られていて、入り口を抜かして、建物自体が、かなりカバーされた状態だったのだ。
それで、大工らしき人達が、上の方で作業をしている。
「ご迷惑をおかけしてすみません。どうぞ、こちらからお入りください。こちらは、きちんと足場で固定してありますので、安全ですから」
「わかりました」
大工の一人が済まなそうに頭を下げて来て、ギルバート達を、ちゃんと入り口用に囲ってある場所に連れて来てくれた。
~*~*~*~* 後書き ~*~*~*~*
2022年も最後になりました。今年はどうでしたか? 忙しさに追われても、ちょっとブレイクタイムなどできたでしょうか?
セシルとギルバートのお話は、来年も頑張っていきます。
皆さん、よいお年をお迎えください
~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*
「はは、そうか」
クリストフも、生真面目に「おしぼり」 で手を拭いている。
「今日は昼食後、また、宿場町を観光できるかもしれない」
「あれ? もう、返事をいただいたんですか?」
「いや、まだだ。それに、その返事は三月の種植えを終えてから、とお願いしている」
なにしろ、三月は、年に三回ある、セシルのものすごく多忙になる繁忙期だ。
さすがに、その時期に、自分の仕事を押しのけて、ギルバートの返事をしてくれなどとは頼めない。
「返事をいただけそうなんですか?」
「さあ」
「おや? 意外に、あっさりとなさっていられるんですね」
「今は、心配しても仕方がないからな」
本当は、ものすごく心配している。だが、期限はまだある。
だから、心配して悩んでも、セシルからの返事は、まだ聞くことができないのは確かなのだ。
ふう、と息をついて、ギルバートがクリストフに向き直る。
「今日は何を食べるべきか」
「ここ数年でも、すでに、この領地の食事処やレストランに、はまってきていますね」
「珍しい食べ物なのに、おいしいだろう?」
「確かに。――ふーむ……、私は個人的には“ほっこり亭”か、“ラ・パスタ”が気に入っているんですが」
「どっちもおいしかったな。じゃあ、残りにも聞いてみよう」
その後すぐに部屋を後にした六人は、ゾロゾロと、宿を後にし、宿屋の女将から渡された“宿場町マップ”を片手に、通りを歩いていく。
ギルバートとクリストフは、何度も宿場町にやって来ているので、ある程度の場所は、把握できるようになった。
残りの四人のうち二人は、今日この頃では、この宿場町にやってくる機会があると、必ず、ギルバートに付き添ってくるので、この宿場町でも、お馴染みにはなりつつある。
残りの二人がコトレアの領地は初めてなので、さっきから、もらった“マップ”を物珍しそうに凝視して、二人とも真剣な様子である。
「――ギルバート様」
「どうした?」
「この――地は、なにか、その……」
あまりに形容し難くて、二人の騎士が言葉に詰まっている。
「摩訶不思議?」
「いえ、そこまでは……」
「いや、別に、そう考えて、恥ずかしがることはない。私も、初めてこの領地を訪れた時は、驚いてばかりだったからな」
「ギルバート様が……?!」
「ちなみに、クリストフも、アンドレアも、ガスも、だ」
「まあ、そうですねえ。この領地は、一般的な常識を、あまりにすっきりとぶち壊してくれる土地でして」
「えっ……?!」
「一般概念も通用しない、固定概念はさっさと捨てるべき、一般常識は当てはまらない。だから、さっさと恥はかき捨てて、この領地の方法に馴染むのが、一番有効ですよ」
そこまで形容のひどい領地だったのか……と、残りの二人の不安を煽るような言い様ではないか。
「はは。そこまでひどくない。むしろ、興味深いものばかりだ。隣国なのに、なんだか――そうだな、異国の土地にでも立ち寄った気分になる」
「はあ……」
「お土産用の店があるんだが、そこには、珍しい、便利な雑貨も揃っている。それらは、ノーウッド王国の王都で出している“なんでも雑貨屋”という小さなお店で売っている商品らしいのだが、それも興味深いものばかりだ」
「はあ……」
「だから、食事を終えて、今日は観光だ」
「はあ……。――よろしいのですか?」
「問題ない」
仕事で護衛としてついてきたのに、他所の土地で観光など――はっきり言って、騎士をしている経験で、初めての経験である。
観光など、そんな行為をするのも初めてで、そんな運営方法も初めて聞くことだ。
「観光、とは、いったい……?」
「この宿場町は、領地外の民を招き入れ、それで領地の収入源としている。だから、領地内の名産物や、珍しいものを売り出し、「観光」 という体制を敷き、要は、町自体を売り出しているというものだ」
「はあ……。――そのような町など、聞いたことがありませんが」
「そうだろうな」
ギルバートだって、コトレアの領地にやって来るまでは、全く知らなかった概念だ。
「ところで、昼食は何を食べますか? 私はねえ、“ほっこり亭”か、“ラ・パスタ”がいいんですがね」
いつもギルバート達に付き添ってくる二人の騎士が、互いに顔を見合わせた。
「私は、個人的に、“ほっこり亭”が好きです」
「私も好きですね。ですが、夕食しか食べたことがありませんが、昼食も同じメニューが出るのですか?」
「さあ、それは」
「それなら、“ロトベーカリー”のパンでも、おいしかったです」
「ああ、あれも悪くなかったですね。店の中にも、何個か座れるテーブルはありましたし」
真剣に昼食の話をし出した三人に、初めて領地にやってきた騎士二人は、なんと反応すべきか眉間を少し寄せている。
「――みなさん……。随分、この領地に詳しいのですね」
たかが、使者としての任務でやって来ただけのはずなのに。
「そうですね。アンドレアとガスは、我々ほど店に寄る機会はなかったのですが、豊穣祭でも、それぞれの食事処で屋台や露店を出していましたから、食べる機会はたくさんあったでしょう。ギルバート様と私は、視察を何度かさせていただきましたしね」
「はあ……、そうなのですか……」
それにしても、なにか――こう、もう、この領地に、とても馴染んで見えるのは、気のせいなのだろうか。
「昼は“ラ・パスタ”にしましょう。珍しいレストランなので、残りの二人には、新鮮でしょうからねえ」
「ああ、確かにそうですね」
うんうんと、二人が揃って頷いている。二人にとっても、あまりに新鮮で、衝撃的なものだった。
「それで、夜は“ほっこり亭”で。小腹程度なら、“ロトベーカリー”をスナックにでも」
「わかりました」
それだけ食べても、全く問題ない騎士達である。
これからの予定が決まったので、一行は、まず初めに、観光情報館に行き、観光の手続きを済ます。
だが、観光情報館の前には、たくさんの足場が作られていて、入り口を抜かして、建物自体が、かなりカバーされた状態だったのだ。
それで、大工らしき人達が、上の方で作業をしている。
「ご迷惑をおかけしてすみません。どうぞ、こちらからお入りください。こちらは、きちんと足場で固定してありますので、安全ですから」
「わかりました」
大工の一人が済まなそうに頭を下げて来て、ギルバート達を、ちゃんと入り口用に囲ってある場所に連れて来てくれた。
~*~*~*~* 後書き ~*~*~*~*
2022年も最後になりました。今年はどうでしたか? 忙しさに追われても、ちょっとブレイクタイムなどできたでしょうか?
セシルとギルバートのお話は、来年も頑張っていきます。
皆さん、よいお年をお迎えください
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