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Part 3
А.а 始まり - 03
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なにかを言いかけた、聞きかけたセシルの口が少しだけ開き、結局、何も出てこないまま、口を閉じてしまう。
「ご家族とは離れ離れになると言っても、国を超えての距離ですし、立場にもなってしまいますので、もし、皆さんがご令嬢を訪ねたい場合は、遠慮なさる必要はございません。こちらでも、護衛を配置いたしますので」
それから――と、ギルバートが真剣な面持ちで続ける。
「ノーウッド王国からの介入がでてきた場合――私も引く気はありませんので、そこら辺の交渉は、宰相にお願いしたいと思います。宰相も、快く、私の要請を引き受けてくださいました」
「――――そ、う……ですか……」
「一応――考え得る条件は、全て考えてみたつもりなのですが……、何か付け足すことはございますか?」
「…………い、え……。今の所、ありません、わ……」
「そうですか。それは良かった……」
ギルバートが、あからさまに、ホッとした顔をする。
だが、セシルの顔は、更に強張っている。
「では、こちらをお納めください」
ギルバートの腰元に置いていた台帳のようなものを取り上げ、テーブル越しで、ギルバートがそれをセシルに渡してきた。
それで、条件反射で、セシルも台帳を受け取ってみる。
皮の台帳を開いてみると、そこには、婚姻契約条項がズラリと提示されている。
ギルバートの出した条件など、全てが全てにおいて、問題も見られない。
セシルの領主、領地問題は問題でもなくなった。
里帰りも許されている。
コトレアの領地が、アトレシア大王国に帰属するのかしないのか、その話し合いは、宰相である第二王子殿下レイフが引き受けてくれるから、セシルは、ただその結果待ちだけで良い。
セシルの付き人は、王国だけではなく、王宮までも出入りが許可され、アトレシア大王国の護衛が、セシルに干渉してくることもない。
それで、窮屈な王宮暮らしや生活に押し込められることもなく、ギルバートは臣籍降下だ。
面倒な王宮での暮らしはなく、ギルバートが新たに居住する邸で、独立して生活ができるらしい。
ギルバートが王国騎士団にいるから、生活の保障もされている。
隣国で一人嫁いでくるセシルが寂しくならないように、家族との面会も許されている。
おまけに、セシルに王国の国政、政治に口を出してこい――など……、好条件が揃いに揃っている。
これだと、あまりの好条件が出そろって、セシルを自由にさせて、セシル自身のその立場も尊重して、全てが全て、セシルが基本となっているような婚姻契約だ。
ギルバートに対しての条件など、一切、入っていないではないか。
台帳の中にある契約書を読みながら、クラクラと、セシルは眩暈がしてきそうだった。
溜息を出しそうで、台帳を見下ろしながら、パタンと、セシルが静かに台帳を閉じていた。
「――――正直なところ……、本当に、困っています……」
「本当ですか?」
「そのように……、喜ばれないで、ください……」
「すみません。ですが、ご令嬢、あなたを手に入れる為には、万全を期して、いえ、それ以上の対応と策を練り、できることは全部してでもしなければ、とても無理だと承知しておりますので」
だから、セシルが、本心から困っている様子を見せて、ギルバートは素直に喜んでいるらしい。
おまけに、セシルには珍しく、その困っている表情が顔に出ていて、態度にも出ているほどだった。
どうやら、ギルバートは、初めて、セシルを動揺させることができたらしい。
「そのように……、喜ばれないで、ください……」
「すみません。つい」
セシルを動揺させることができるなんて、到底、無理な話だろう、と考えていたので、さすがに、この状況は、ギルバートにとっても嬉しいものなのである。
セシルにとっては――本当に困りきったものだった。
「今日は、突然、このように、私の話を押し付けてしまった形になってしまいましたので、今すぐにお返事を頂くつもりはありません」
「……ですが……」
「それに、もうすぐ、最初の繁忙期で、あなたも多忙になられるはずでしょう?」
「ええ、そうですけれど……」
「ですから、その繁忙期が終えてから、あなたのお返事を聞かせてください」
「――――よろ、しいのですか……?」
「はい」
まずは、セシルは、今すぐ、ギルバートに結婚の返事をしないで済むらしい。
「これから、お戻りになられるのですか?」
「はい。今夜は、宿場町で宿を取れたら、と」
「そうですか。こちらで、お部屋を用意いたしますが?」
「いえ、どうかお気になさらないでください。今日は、私の私事で、こちらへ伺わせていただきました。王国の使者ではございませんので、宿場町で宿屋を探すつもりです」
ギルバート達の部屋を用意することは問題ない。きっと、今回も少人数だろうから、それなら、ゲストルームでも世話はできる。
だが、今は――かなり困った状況になってしまって、セシルも、一人で考える時間が欲しいのだ。
それで、今回は、ギルバートの言葉を信じ、これ以上は勧めないことにしたのだ。
「――それでしたら、コーグという宿屋がよろしいかもしれませんわね。上客用、というほどの宿ではありませんけれど、宿の裏には厩がありますので、皆様の馬を繋げておくこともできますから。中央の観光情報館から、奥に少し進んで行った所にある宿なのです」
「そうですか。それは、ありがとうございます。――それでは、私はこれで失礼させていただきます」
「……はい……」
一気に精神的な疲労に襲われてしまっているような気分で、セシルは、ただ、テーブルから呼び鈴を鳴らした。
すぐに執事のオスマンドが現れ、丁寧なお辞儀をする。
「お客様がお帰りになられるそうです」
「かしこまりました」
それでは、と最後の挨拶を済まし、オスマンドに連れられ、ギルバートがその客室を後にしていた。
シーンと、静まり返った室内で、一人きりになったセシルは、はあぁ……と、長い息をついていた。
「ご家族とは離れ離れになると言っても、国を超えての距離ですし、立場にもなってしまいますので、もし、皆さんがご令嬢を訪ねたい場合は、遠慮なさる必要はございません。こちらでも、護衛を配置いたしますので」
それから――と、ギルバートが真剣な面持ちで続ける。
「ノーウッド王国からの介入がでてきた場合――私も引く気はありませんので、そこら辺の交渉は、宰相にお願いしたいと思います。宰相も、快く、私の要請を引き受けてくださいました」
「――――そ、う……ですか……」
「一応――考え得る条件は、全て考えてみたつもりなのですが……、何か付け足すことはございますか?」
「…………い、え……。今の所、ありません、わ……」
「そうですか。それは良かった……」
ギルバートが、あからさまに、ホッとした顔をする。
だが、セシルの顔は、更に強張っている。
「では、こちらをお納めください」
ギルバートの腰元に置いていた台帳のようなものを取り上げ、テーブル越しで、ギルバートがそれをセシルに渡してきた。
それで、条件反射で、セシルも台帳を受け取ってみる。
皮の台帳を開いてみると、そこには、婚姻契約条項がズラリと提示されている。
ギルバートの出した条件など、全てが全てにおいて、問題も見られない。
セシルの領主、領地問題は問題でもなくなった。
里帰りも許されている。
コトレアの領地が、アトレシア大王国に帰属するのかしないのか、その話し合いは、宰相である第二王子殿下レイフが引き受けてくれるから、セシルは、ただその結果待ちだけで良い。
セシルの付き人は、王国だけではなく、王宮までも出入りが許可され、アトレシア大王国の護衛が、セシルに干渉してくることもない。
それで、窮屈な王宮暮らしや生活に押し込められることもなく、ギルバートは臣籍降下だ。
面倒な王宮での暮らしはなく、ギルバートが新たに居住する邸で、独立して生活ができるらしい。
ギルバートが王国騎士団にいるから、生活の保障もされている。
隣国で一人嫁いでくるセシルが寂しくならないように、家族との面会も許されている。
おまけに、セシルに王国の国政、政治に口を出してこい――など……、好条件が揃いに揃っている。
これだと、あまりの好条件が出そろって、セシルを自由にさせて、セシル自身のその立場も尊重して、全てが全て、セシルが基本となっているような婚姻契約だ。
ギルバートに対しての条件など、一切、入っていないではないか。
台帳の中にある契約書を読みながら、クラクラと、セシルは眩暈がしてきそうだった。
溜息を出しそうで、台帳を見下ろしながら、パタンと、セシルが静かに台帳を閉じていた。
「――――正直なところ……、本当に、困っています……」
「本当ですか?」
「そのように……、喜ばれないで、ください……」
「すみません。ですが、ご令嬢、あなたを手に入れる為には、万全を期して、いえ、それ以上の対応と策を練り、できることは全部してでもしなければ、とても無理だと承知しておりますので」
だから、セシルが、本心から困っている様子を見せて、ギルバートは素直に喜んでいるらしい。
おまけに、セシルには珍しく、その困っている表情が顔に出ていて、態度にも出ているほどだった。
どうやら、ギルバートは、初めて、セシルを動揺させることができたらしい。
「そのように……、喜ばれないで、ください……」
「すみません。つい」
セシルを動揺させることができるなんて、到底、無理な話だろう、と考えていたので、さすがに、この状況は、ギルバートにとっても嬉しいものなのである。
セシルにとっては――本当に困りきったものだった。
「今日は、突然、このように、私の話を押し付けてしまった形になってしまいましたので、今すぐにお返事を頂くつもりはありません」
「……ですが……」
「それに、もうすぐ、最初の繁忙期で、あなたも多忙になられるはずでしょう?」
「ええ、そうですけれど……」
「ですから、その繁忙期が終えてから、あなたのお返事を聞かせてください」
「――――よろ、しいのですか……?」
「はい」
まずは、セシルは、今すぐ、ギルバートに結婚の返事をしないで済むらしい。
「これから、お戻りになられるのですか?」
「はい。今夜は、宿場町で宿を取れたら、と」
「そうですか。こちらで、お部屋を用意いたしますが?」
「いえ、どうかお気になさらないでください。今日は、私の私事で、こちらへ伺わせていただきました。王国の使者ではございませんので、宿場町で宿屋を探すつもりです」
ギルバート達の部屋を用意することは問題ない。きっと、今回も少人数だろうから、それなら、ゲストルームでも世話はできる。
だが、今は――かなり困った状況になってしまって、セシルも、一人で考える時間が欲しいのだ。
それで、今回は、ギルバートの言葉を信じ、これ以上は勧めないことにしたのだ。
「――それでしたら、コーグという宿屋がよろしいかもしれませんわね。上客用、というほどの宿ではありませんけれど、宿の裏には厩がありますので、皆様の馬を繋げておくこともできますから。中央の観光情報館から、奥に少し進んで行った所にある宿なのです」
「そうですか。それは、ありがとうございます。――それでは、私はこれで失礼させていただきます」
「……はい……」
一気に精神的な疲労に襲われてしまっているような気分で、セシルは、ただ、テーブルから呼び鈴を鳴らした。
すぐに執事のオスマンドが現れ、丁寧なお辞儀をする。
「お客様がお帰りになられるそうです」
「かしこまりました」
それでは、と最後の挨拶を済まし、オスマンドに連れられ、ギルバートがその客室を後にしていた。
シーンと、静まり返った室内で、一人きりになったセシルは、はあぁ……と、長い息をついていた。
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